雄ヤギさんのレビュー一覧
投稿者:雄ヤギ

大江健三郎自選短篇
2019/07/21 15:21
他にはない短編集
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大江健三郎の短編集。各年代ごとの短編が載っていることに加え、自選であり、かつすべての作品に加筆されていると言う。ほかではみることのできない短編集ではないか。

現代思想の遭難者たち
2018/12/24 13:05
現代思想を面白く
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朝日新聞の4コマ漫画で知られるいしいひさいちが現代思想について描いた漫画。横に解説などもあるため、とてもわかりやすい。

ユリイカ 詩と批評 第50巻第9号 特集*バーチャルYouTuber
2018/07/18 19:49
最近話題のVチューバー
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最近話題のVチューバーについて扱った特集。多くの論者が論考を寄せているが、中でも海猫沢めろんの論考と黒瀬陽平・さやわか・ばるぼらの鼎談が面白かった。

キリストはエボリで止まった
2018/05/28 12:05
南イタリアの現実
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本書は、反ファシズムの容疑で流刑囚となった作者が、流刑先で見た南イタリアの村の様子を描いた作品である。
何年か前に、この作品の舞台となった村に立ち入り禁止命令が出されたというニュースを見たが、70年近くたっても変わらなかったのかと思うと、悲しくなった。作中で、青年将校が、この村における対立は、何世代にもわたるものである、と語る場面があるが、この村の支配者が、山賊になろうが、ファシストになろうが関係なく対立し続けるのだろう。

古代マヤ文明 栄華と衰亡の3000年
2024/05/02 21:10
古代マヤ文明
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これから古代マヤ文明について学ぶ人のための本としては最適なのではないかと思えるほどすばらしい本。科学技術を応用した最新の研究だけでなく、これまでの研究の流れも踏まえている。また、考古学の調査手法について短所と長所も両方解説されていて、とてもよかった。

岡村昭彦を探して ベトナム戦争を報じた国際報道写真家の光と影
2024/01/28 11:11
岡村昭彦を探して
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『南ヴェトナム戦争従軍記』を読んでからこの本を読んで本当によかった。著者は岡村昭彦の姪で、親族ということもあり、岡村について身近な人から話を聞くことが出来ている。そして作り上げられた「岡村神話」などについて、それを受け止めつつも別の見方を提示していて、とてもよかった。

伝奇集
2023/11/26 10:54
伝奇集
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現代文学にも多大な影響を与えているという伝説的な作家ボルヘスの作品集。ボルヘスは長編を書かなかったので、これが主要な作品の一つといえる。
「円環」「図書館」などの主要なモチーフがちりばめられているほか、古典を読むとは何か、などといったことを考えさせられた。

東京日記 他六篇
2023/10/14 20:16
東京日記 他
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関東大震災で被服廠跡へ向かって消えた女弟子を悼む「長春香」や「サラサーテの盤」などの名作が収録されている。どの作品も外れが無いと思えるほどよかった。
不思議な現象が起こったときに、それを不思議がったり、その驚きを他の人と共有して一緒に驚いたりするのだが、原因を科学的に究明するわけではなく、意外なところに注意していたりして、面白かった。

或る年の冬或る年の夏
2023/10/14 19:58
或る年の冬或る年の夏
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戦前に医学部合格を目指す高校生が主人公。貧しい家族のためにも早く医学部に入学したいが浪人してしまい、さらには華々しく左翼活動する友人たちに反発してしまう。文学と政治を巡る関係から友人を批判するが、彼らに比べて引け目も感じてしまう。こうした正しいが受け入れがたい、といった葛藤は今日でも通用する煩悶ではないかと感じた。

伯爵夫人
2023/10/03 17:28
蓮実重彦の初小説
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フランス文学者の蓮実重彦が始めて小説を書いたと聞いて、難解だろうと思ってあまり手が出ずにいたが、読んでみて驚いた。初めて小説を書いた人特有の文章のぎこちなさなども見受けられず、とても読みやすかった。
かといって普通の言葉遣いではなく、「ばふりばふり」「精を放つ」など後まで心のなかに残るような言葉もあった。

戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」
2023/07/23 08:14
笑ってしまうほどの偽書の証明
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『東日流外三郡誌』という文書をめぐるマスコミや学者、行政のノンフィクション。『東日流外‐』があまりにずさんな内容なので、思わず笑ってしまった。
本書の中にはあまりにおおくの偽書としての証拠が上げられており、なぜいまだに正当化する人がいるのか理解に苦しむが、このhontoのサイトでは今でも、『東日流外-』を偽書ではないとするミネルヴァ書房の古田史学の本が売られている。

屍の街・半人間
2023/06/24 21:05
屍の街・半人間
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原爆文学については原民喜、林京子、直接に被爆していないが井伏鱒二と読んできたが、本書に収録されている「屍の街」が一番時間的に近く、1945年の秋に書かれている。避難先の襖の裏を使ってでも書いたという作品は、作家の目を通してこの出来事を記録してやろうという気概に満ちている。「阿鼻叫喚の地獄」という表現に対し、投下直後の街が静かだったと書いていたのが印象的だった。
また、これから原爆症がどうなっていくのか分からないため、公表されていく専門家の情報を積極的に入手し、その矛盾する内容に戸惑ったりして、コロナ禍の現代につながることも感じた。

至福千年
2023/05/28 12:33
至福千年
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時代小説というと、その当時の制度や常識の範囲内で描かれるもので、それからはみ出ると荒唐無稽な小説になってしまうと思っていたが、この小説はそんなことなかった。
幕末の日本を舞台に、隠れキリシタンの勢力同士が衝突するが、その様子はキリシタンというより、妖術使いのようで、そこに俳人や旗本崩れ、勤皇の志士などの人々も登場し、血なまぐさい戦いが繰り広げられる。それでも語りや会話文のテンポのよさが読みやすくしている。

漱石先生
2023/01/28 18:31
漱石先生
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寺田寅彦によって書かれた、師である夏目漱石に関する随筆を集めたもの。漱石が出てくれば、その随筆の主なテーマが異なっていても収録されていて、その厳密さに信頼が持てるような気がした。
後年では見られなくなった、と著者が書いている、夜歩きながら冗談などをいう漱石の一面は、他の弟子でなく著者にしか書けない大事な記録だと思う。

楡家の人びと 第1部
2022/12/30 19:15
楡家の人びと 第一部
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基本的には作者の生まれた家を参考にしつつ、『魔の山』的な時間感覚を問題意識にのせながら大正時代から昭和にかけての時代を描いている。
ドイツで精神医学を学んだ「ドクトル・メジチーネ」楡基一郎を中心とした楡家の人々を描く群像劇。基一郎は医学的には根拠の無い事でも、自信たっぷりに診断してみせ、直してみせる。精神病院だから暗示療法になっているのだろうが、作品の意図としてはそうは描かれていないと思う。基一郎のやりかたを絶対視する人々と、疑問視する人々、家族や書生、使用人、患者を含めた多くの人々が交差していく。