トリフィドさんのレビュー一覧
投稿者:トリフィド
紙の本神の目の凱歌 上
2001/06/23 03:51
ふたたびモート星系へ
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名作『神の目の小さな塵』の続編。前作から四半世紀、ふたたび接触を持つモート星系と人類帝国。前作では遠くからかいま見ただけだったモート星系の小惑星文明が今回は相手。虚々実々の駆け引きと熾烈な戦闘が繰り広げられます。
『塵』のファンとしては残念なのですが、どうも作品としての完成度が低いように思いました。生きていない設定に、宙ぶらりんの展開。それと、前作でとても良かったあの古めかしさが感じられなくて、ちょっと残念でした。
まあ、『神の目の小さな塵』ふたたびは期待せぬようにという、原著が出た時にアメリカ人がネットで書いていた書評を見ていたりしたので過大な期待はしていなかったのですけどね。前作のファンの人は一応目を通しておくべし、という感じでしょうか。
さて、本作の下巻の巻末には、付録として50ページ弱の「『神の目の小さな塵』合作ノート」が収録されています。これは作者たちが『塵』を書く上でのさまざまな設定や裏話などを披露したもので、『塵』のファンの人は必読ものです。『塵』のファンは、これを読むためだけにでもこの本を入手すべしと云っても過言ではないくらい。この合作ノートの中に、長すぎるためカットされたプロローグ部分が収録されているのですが、これがなかなか読ませてくれます。
遠慮なく長い、完全版『神の目の小さな塵』をぜひ読んでみたいと思うことしきりなのでした。
紙の本廃墟霊の記憶
2002/07/30 02:02
無気味っぽい廃墟本
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廃墟本のひとつ。意外なところから出ていたので、発見が遅れたな
り(^◇^;)。
十五の全国の廃墟を巡ったフォトエッセイである。よくも悪くも著
者の個性が出ている本で、この方向性は、気に入る人と違和感を感
じる人がいるだろう。写真も意識して狙っていることが伝わってく
る。うむむ、見えたものを見えたままに記録して欲しかった。また
文庫本のサイズにも不満が残る。
10年前に出された本の文庫化だそうで、その後のフォローアップも
されているが、少々ちぐはぐな感じか。もう少し大きなサイズの本
だと良かったのにと不満も残るが、安い本だし、廃墟な人は、一応
チェックされたしである。
2002/07/29 03:24
軽めの伝記
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『指輪物語』の創造主、J・R・R・トールキンの伝記である。
内容は短めで、やさしく、子ども向きといえるでしょうか。あの大
部『指輪物語』を読み切った人にとってはもの足りないのではない
かと思う。そういう人には、先日新装版が出た、カーペンターの
『J・R・R・トールキン 或る伝記』をおすすめしたい。
この本は、本来もっと軽装で、もっと安価に出るべき本だったので
はと思えてならない。手っ取り早くトールキンの人生について知り
たい人には良いだろうか。
2002/07/28 03:07
DeepInside2ちゃんねる
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2ちゃんねるの著名な人々が、2ちゃんねるのさまざまな側面や内情
について語ったコラムをまとめた本。
2ちゃんねるで名前を見ただけの正体不明のモノの正体がわかった
り、断片的な知識しかなかった点に網羅的な情報を得たり、アレは
ソレだったのかとか、あのときはそんなことがあったのかと思った
りなどのご利益はあるが、しかしこの〈死んだテキスト〉は、本来
的に〈生きたテキスト〉の集積であるあのコミュニティの、良くも
悪くもスナップショットでしかない。なるほどなるほどと面白く読
んで、しかし読み終えたらそのまま忘れてしまうような、そんな食
べた気がしない本であった。
こういう性質の本は、本質的に、年次報告書のような感じで毎年な
り半年ごとなり出ると良いのではと思ったりもする。
あ、もちろん2ちゃんねるの利用者におすすめの本だ。非2ちゃんね
る者にはどのように作用する本なのであろうか。
2002/07/27 04:33
ダイジェスト版
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きっと出るのではないかと思っていた、本当は題名を『『指輪物語』
読まずに知る本』にするべきであろうというコンセプトの本(^◇^;)。
この本は、今回いくつも出た読書ガイドブックのひとつである。内
容は、人物紹介、辞典、年表、あらすじと普通だが、なんというか、
身も蓋もないと云うか、ダイジェスト版というか、ゲームの攻略完
全ガイドと云うか、解答集というか、そんな感じだ。
これを読めば、一応『指輪物語』について知ることはできるだろう。
しかしこの本には、あの物語の魂が、感動の中心がスコッと抜け落
ちている。これを読んだだけでことたれりとしないでほしい。
ただ、『指輪物語』に親しんだ人は、この本を、まとめ、サマリー
として一冊手元に置いておくのも良いかもしれない。安いしね。
紙の本ネティズン インターネット、ユースネットの歴史と社会的インパクト
2002/07/26 04:50
NetNewsの歴史、あるいは夢のあと
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インターネットが世に知られるようになった頃に書かれた、夢いっ
ぱいの本。夢いっぱいの部分はすでにアレなのでうっちゃってかま
わないと思うが、いまだにこの本には価値がある。というのは、こ
の本には、USENETの歴史が書かれているのである。
USENETとは、日本では、親しんでいる人にはネットニュースと呼ば
れ、知らない人にはニュースグループと呼ばれているメッセージ交
換システム、コミュニティである。ネットニュースの日本語圏は残
念ながらすでに崩壊して久しく、あまり耳にすることもないが、英
語圏ではまだまだつっ走っている。注意を向ける価値はまだまだあ
るだろう。
USENETの始まりなどについては、他の本でも読むことができる、し
かしこの本で扱っているのは、他では書かれたことのない部分の歴
史である。そのあたりに興味の向きは、この本を手元に置いておく
ことをおすすめする。
ネティズンという言葉も、結局日本では定着することはなかった。
この本の夢いっぱいの記述を読むと、もの淋しいものがある。
2002/07/23 23:44
あのサイト、このサイトの裏側
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膨大なアクセス数を得ている人気の個人サイト裏側を取材した本。
あのサイトはそういう成り立ちなのかとか、そこの主人はこんな人
なのかという興味は満たせるが、しかしそれぞれのサイトは方向性
も支持層も異なるのだ。ひとりの人間が、どれもこれもに興味津々
とはいかないし、それぞれ強烈に個性的なサイトの主に共感できる
わけでもなし。わたしは部分的にしか面白く読めなかった。
この本全体の雰囲気というかスタンスに微妙な違和感を感じたとこ
ろもあった。存在する意味の良くわからない本。それとも、わたし
は対象読者からはずれていたのかしらん(かなりのインターネット
者のつもりだが)。
2002/07/19 04:40
過大な期待と地道な受容
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古くからのインターネット者の著者が、インターネットへの過度の
依存、過剰な期待の狂乱状態に水を差し(^◇^)、まあ落ち着けと云
わんがために書かれた本。ただし書かれてからいささか時間が経過
しているため、現在のインターネットのこととして読むと、戸惑う
かも。
この本が書かれた後、ネットではいろいろなことがあった。インター
ネットの夢を盛んに喧伝していたドットコムなビジネスサイドは壊
滅し、一方で、長期に渡る地道な努力でコツコツと作り上げられた、
本当の価値を持つサイトなども出てきた。人々のネットへの接し方
も成熟して来つつあるが、逆に、明らかにネットを(ほとんど)使っ
たことのない人が、いまだに夢を叫んでいて困った状態になりそう
なところもあったり(e-Japanとか(^◇^;))。そして、特に日本では、
著者が警鐘を鳴らしていることが、インターネット以外 —ケイタ
イだ— のところで問題になっていたりする。
とにかく、その後、変わったところ、変わらないところ、見当はず
れだったところ、色々である。そういう現実を鑑みつつ、この本が
描き出す問題点の数々から、現状を見つめ直してみるのもまた一興
である。
2002/07/05 04:01
クトゥルーな日本人作家たちの作品集
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日本人作家による、クトゥルー神話関係の短篇のアンソロジー。
クトゥルー神話を取り入れた、あるいはそれを仄めかす作品は、国
内でも国外でも、それこそ無数に書かれており、中にはどうしよう
もないような駄作や、とってつけたようにクトゥルー神話を仄めか
すだけの作品も多い。なにしろ安易に使ってしまえるバックグラウ
ンドである。
それらの中でも、このアンソロジーは比較的上質だ。もがき、のた
うち回るかもしれないが、楽しめる。正統派とでも分類される作品
と、異色の部類に入る作品の両方が収められている。クトゥルーな
日本人なら(?)いちおうチェックしておくべき本であろう。
紙の本沈黙の隠者
2002/07/04 01:09
陰惨な世界
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いたずらっぽい仕草の少女の萌え系表紙絵に惹かれて(^◇^#)、軽
い気持ちで何気なく手に取った本なのであるが、中身はなんとまあ
陰惨な物語で、それでいて主人公は可愛くて、なかなか妙なテイ
ストの本であった。
おぼろげに未来を見通す特殊な能力を持った路上の占い師の少女、
天知未来が関わり合うことになるのは、ひどい事件、悲惨な出来事、
不幸の連続、普通の人々の悪意——こういうタイプの本でありがち
なのとは違って、主人公はスーパーヒロインでもなんでもなくて、
惨劇を事前に察知しつつも阻止できないまま、事件に巻き込まれて
行く。
重苦しい読後感に鬱々しつつ表紙絵を見ると、その萌え系のイラス
トのミスマッチに、ひきつった笑顔しかできないという泣き笑いで
ある。主人公は人物設定がしっかりしてあって魅力的、もっと色々
な広がりを期待させる。やっぱり少々短すぎで、もっと深みがほし
いところである。と文句を垂れつつ他の巻に手を出すのだ。
紙の本90年代SF傑作選 上
2002/06/15 12:48
祭りのあと
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90年代の欧米SFの傑作を集めた日本オリジナル編集のアンソロジー。
SF者必読のアンソロジーである『80年代SF傑作選』と同じコンセプ
トによる90年代版である。
『80年代』はインパクトのある傑作ぞろいのすばらしいアンソロジー
であった。当然『90年代』にも同様の成果を期待してしまうが——
しかし『80年代』ふたたびの期待はかなえられなかった。SF自体の
問題なのか、編者の選択の問題なのか、色々な意味で違和感を感じ
ることが多かったアンソロジーである。
上巻で印象に残ったのは次の作品だ。
「サモリオンとジェリービーンズ」—これが巻頭に掲載されている
ことに出端をくじかれた。これは叶わなかった夢の残滓ではないか。
この題材に関しては、この能天気な物語よりも、現実の経緯の方が
よほどSF的。痛い、痛すぎる。SF者として恥ずかしい作品である。
「コロンビヤード」—最近、ヴェルヌやウェルズなどの作品を漁っ
ているので、この作品は個人的には非常にインパクトがあった。こ
れも別の意味で、かなわなかった夢の跡、しかしこういうのはノス
タルジックで良い。廃墟の情景も印象的だ。しみじみとしてしまう。
「フラッシュバック」—痛い! 痛すぎる!!(^◇^;) 日本人はみんな
のたうち回るのではないだろうか。意図したものなのかどうかわか
らないが、今になってこの作品をアンソロジーに収めるというのは、
辛辣極まりない皮肉か? おそらく作者が想定したのとは異なる読者
たちに、作者の意図とはまったく異なる形で訴えかけるあろうこと
に面白いものを感じる。
「バーナス鉱山全景図」—ヴィジョンを提示することを主体とした
作品。しかしわたしは思うのだ。こういうタイプの作品は、今となっ
ては紙に印刷された〈死んだテキスト〉ではなく、PCの画面で、イ
ンタラクティブなフルカラーの動く映像で見たいと。科学技術は進
歩する。
振り返ってみると、「痛い」作品が多かったようである。しかしそ
の痛さは、本来あるべき「SFって辛辣だなあ、すごいなあ」ではな
いところが情けない。90年代、SFはその先端性の追求において現実
のスピードと迫力に負け、物語性において、過去の作品の焼き直し
に終始し、へなへなである。もっとがんばってほしいものだ。
紙の本毒ガス帯
2002/04/18 03:54
チャレンジャー教授ふたたび
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『失われた世界』で強烈な個性を放っていた天才科学者チャレンジャー
教授を主人公とする作品を収めた短篇集。収録されているのは、こ
の本の2/3を占める中篇『毒ガス帯』、『地球の悲鳴』、『分解機』
の3篇である。
表題作『毒ガス帯』は、人類滅亡の危機をめぐるシリアスな物語だ。
ある日、恒星のスペクトル中のフラウンホーファー線にくもりが観
測される。チャレンジャー教授は、地球が有毒のエーテル帯に突入
しつつあることを察知、教授らは、酸素ボンベを抱えて人類の最後
を見とどようとする——動くものもない沈黙の世界で彼らが見たも
のとは——
残りの2篇、チャレンジャー教授が唱えた地球に関するある学説の
証明プロジェクトがろくでもない結末を招く『地球の悲鳴』、ある
発明家がなした恐るべき発明を巡り、チャレンジャー教授がとんで
もないことをやらかす(いいんだろうか(^◇^;))『分解機』は、い
ずれも軽めの番外編的な小品だ。
チャレンジャー教授のファンの人はお見逃しなく。
2002/04/10 22:26
仮想戦記
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侵略SFの原点であるH.G.ウェルズの『宇宙戦争』には、『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』や『スペース・マシン』など、パスティーシュが数多く存在する。本書は、日本人作家による『宇宙戦争』のパスティーシュ、軍事シミュレーション小説の続編だ。
火星のテクノロジーを手にした人類が、その後どのような歴史を辿るのかという発想に基づいた仮想戦記である。予想される火星からの第2次侵攻、列強の対立、さまざまな波乱を含みつつも、歴史の歯車は動いて行く。オーソン・ウェルズのラジオドラマや、ジョージ・パルの映画など、『宇宙戦争』に関係するさまざまな事物にも触れて、遊び心にも溢れている。
しかし、残念ながら、良くも悪くもシミュレーション小説の枠組を出ていないと云わざるを得ない。火星のテクノロジーが、軍事面だけでなく社会に与えた(はずの)インパクトについて全く考察されていないなど、SF的興味の点から不満が残るのである。人間ドラマとしての出来もいまひとつだ。まあ、こういう小説に、そういうことを期待してはいけないのかもしれないが。
軍事シミュレーションを受けつける『宇宙戦争』のファンの人は、いちおう手にとっておくと良いかもしれない。
紙の本インド王妃の遺産
2002/03/22 05:25
むきだしの民族感情
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読み始めてとても驚いたのが、むきだしの民族感情が渦巻いていること。ゲルマン民族は世界一! ラテン民族がもっとも優秀! アングロサクソンの優越性!! などなど。今現在、こんなものを書いたら、頭がどうかしたのではと思われるだろう。この小説が書かれたのは1879年。フランスが普仏戦争の敗北の結果、アルザス・ロレーヌの割譲を余儀なくされた直後。当時の民族感情と云うものがむきだしに表れていて、興味深く感じると同時に恐ろしくもなった。
さて物語は、インド王妃の莫大な遺産を、フランス人とドイツ人の科学者が相続することになったところから始まる。その遺産を使って、人々との幸福のため、近代科学の粋を集めた理想都市〈フランス市〉を建設するフランス人科学者と、鉄鋼製品生産拠点〈鋼鉄都市〉を築き、鉄を精練して大砲を作り、各国に売りさばく死の商人となったドイツ人科学者。理想主義者として描かれるフランス人科学者サラザン博士と、どう見ても異常者のドイツ人科学者シュルツ教授。ヴェルヌ大暴走である。
理想都市として描かれる〈フランス市〉は、しかし困ったことに、あまり快適そうには見えないのだ。まだまだ純朴だった理想主義が微笑ましいというところか。反対に、〈鋼鉄都市〉の造形がすばらしい。ある種、悪の秘密基地の原型である。このガジェットの活躍をもっと見たいと思ってしまったりした。
物語は、〈フランス市〉に憎悪を燃やすシュルツによる〈フランス市〉の破壊の企てと、それを阻止せんとする主人公マルセルのせめぎ合いを軸に進む。その結末は本を読んでもらうとして、とにもかくにも、悪役の勢力の方が魅力的な物語であることよ。
紙の本天使墜落 上
2002/03/14 23:12
環境保護の狂気と自画自賛の内輪受け
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科学技術が敵対視される世界。目的を見失った病的な環境保護が、なによりも背筋を寒くさせてくれる。科学に、つまり現実の観測に立脚しない決めつけや狂信が幅をきかせると、虚言者や異常者が世界を支配することになる。迷信に沈んだ狂気の世界である。
現実の世界を見渡してみても、例えば、ゴミのリサイクルに関して、もはや「ゴミの分別中毒」とでも呼ぶしかないような無目的な環境保護ごっこが幅をきかせているのを散見する。そう云うのを見るにつけ、これは決して絵空事ではないと、空恐ろしいものがある。
しかし、しかしだ。この閉塞状況を打ち破る希望を担うのががSFファンだと云うのには、まったく共感できないし、自画自賛にしか見えない。連中にそんな力はない。そんなことができることを指向するような人種ではないと、長いSF人生で見てきたSF者たちを思い起こしてわたしは思うのだ(^◇^;)。もちろんプロフェッショナルたちもSFファン界にはいるが、そういう人たちの集合は、SFファンという集合とは、ちょっと(いや、かなり)ずれていると思う。
そのあたり逃避的。根拠のない自画自賛。白けました。