seimeiさんのレビュー一覧
投稿者:seimei
紙の本ブギーポップは笑わない
2001/06/09 10:00
サイブリッド小説の行き先
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「ぼくは自動的なんだよ」そういって、少女からブギーポップは現れた。
ミステリ、SF、学園もの、恋愛、二重人格、少年たち、少女たち、食人鬼、5つの時間軸、世界の危機、“炎の魔女”と呼ばれる少女、エコーズ、進化、自殺願望、クローニング、高校生、無意識、夢、叶うはずのない願い、誰も永遠には生きられない、残酷、奇妙、悲哀、ファンタジックで不思議な話、様々な人、5つの物語と、ひとつの事件、そして“ブギーポップ”(不気味な泡)。これら、全てを取り込んだサイブリッド小説。新たな感性、新たな構成、新たな可能性、様々な泡の集合体であるこの物語が、“何処に向かうのか”わたしたちは、見届けることができる。
紙の本ヴィーナスの命題
2001/05/30 20:57
保留ボタン
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傑作青春ミステリ。主要な語り手は科学部部長の乃木由也、同副部長益子巧くん、園芸部部長公文覚。乃木由也の中学時代からの不倶戴天の敵であった黛武彦が、ある日校舎の中で死体となって発見される。第一発見者の生徒会副会長 高槻護の証言によって自殺と断定されるが…美少女タレント柳瀬さとみ、“天才”牧永悠宇太、科学部の“巫女”蓑田しのぶ、際立った煌きを持つキャラたちが、今を生き、謎に挑む。窓、観測者、覚の家族の物語、呪いの発動、大きな物語、死を起点とする物語、保留ボタン、解、ひとりひとりに物語があることを自覚している登場人物、だからこそ芝居がかった天才たちの物語でも在る。重なり、ぼく、入れ替わり、未来になにを描く?主人公。そして、物語へ。この著者の才気、そら恐ろしいものがあります。『ここはグリーンウッド』を思わせる学園、キャラの雰囲気に天から降り立ち挿入される文の数々。思いっきりやっつけられましょう!真木武志に!
紙の本闇よ、我が手を取りたまえ
2001/05/20 17:19
暗黒のご近所物語
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ボストンを舞台にした幼馴染の男女探偵パトリック&アンジーシリーズ第二弾。去年出た物では1・2を争う、まさに傑作。アイリッシュ・マフィアに息子の命を脅迫された精神科医の依頼を受けたふたりは、街に巣くうものと対決することとなる。このシリーズは幼い頃から住んできたものたちの知る街そのもののベースが物語に対するものとして非常に強いのが特徴です。端的に云うと今回は暗黒のご近所物語ともよべるかも。前回の主人公ふたりの過去の超克から街の過去をひっくるんだ超克へ物語は深化したと思います。ラストの疾走感も前作と比べて格段の進歩で震えがくるほどのエンターテイナーぶり。すごいものを読んだ、満足感でいっぱい。
紙の本ハイペリオン 上
2001/03/07 17:48
『学者の物語』
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ジョン・キーツの物語詩『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』を下敷きにしたSF叙事詩。スペースオペラ、サイバーパンク、宗教、神、神話、ハードボイルド、秘境探検、時間、機械、戦闘、恒星間戦争、怪物、詩、進化、《聖樹船》《終末の地球》《スキマー》《EMV》《FORCE》《森霊修道会》《最後の贖罪教会》《苦痛の神》《群狼船団》《ヘブンズ・ゲイト》《転移システム》《雲門》宇宙、未来… 全てが物語る“SF”そのものの物語。
『ハイペリオン』では、七人の巡礼の内の六人の物語が、オムニバスの物語として語られていきます。
第一章 「司祭の物語」
カトリック教会神父ルナール・ホイトが、考古学者であり、文化人類学者であり、聖テイヤール信奉者であるポール・デュレ神父の記録を日記形式で語っていく。秘境探検物の雰囲気を持った物語。デュレ神父はハイペリオンの謎の民族ビクラ族を探しに奥地へと向かう。そこでであったビクラ族の恐るべき生態。章の最後の圧倒的なイメージ、十字架、神父、雷鳴、恐るべき…物語。
第二章 「兵士の物語」
導入部の巧さが光る作品。仮想戦術シミュレーションでの仮想戦場の舞台は1415年、ヘンリー5世率いるイングランド軍に長弓兵として参加していたカッサードはフランス軍の騎兵と戦っていた。そこである女と出会い、愛し合う。その後もシミュレーションの中で出会うふたり。カッサードが、戦いの果てにハイペリオンで見たものとは… この物語での“兵士”として、戦いまくります。宇宙船での戦い、シュライクとの格闘など、様々な戦闘シーンが楽しめます。
第三章 「詩人の物語」
今は無き、地球に生まれ、400年の流転の生を生きる詩人の物語。黄昏の地球から始まる、絢爛豪華、雑多、ポップ、レトロ、サイバー、虚飾、汚物、詩が彩る物語。
第四章 「学者の物語」
M・ワイントラウブの娘レイチェルは、ハイペリオンの〈時間の墓標〉の調査に行き、時間遡行症にかかり、どんどん、若返っていく。毎日の記憶を失い、幼くなっていく娘、それを見守る父と母。
何という…物語なのでしょう。親、子、夫婦、父、娘、愛、絆、笑顔、言葉、その運命… 悲しみとか、感動とかを超えた、とにかく、泣ける話です。わたしにとって大切な物語の仲間入りです。「アルジャーノンに花束を」「リプレイ」路線の話が好きな方は、是非。
第五章 「探偵の物語」
女探偵、M・レイミアのもとに現れた美形の依頼人。
「ある殺人について調べて欲しい」
「殺されたのは?」
「…僕だ」
物語の核心のひとつである〈テクノコア〉にかかわってくる物語。依頼人はサイブリッド。人間の遺伝子ストックから象った肉体を持ち、〈テクノコア〉のメガデータスフィア・データブレーンに浮かんだ意識をもつAIだった。要するに、彼にとって殺されるとは、意識が中断され、バックアップに欠損が出たことを言う。かくして捜査をすることとなったM・レイミア。サイバーパンク・ハードボイルド・ラブストーリー。
第六章 「領事の物語」
元ハイペリオン領事が語る、量子船に乗っているため、年のとりかたの違う、宇宙船乗りと、島の娘の恋物語。年をとる女、年をとらない男、不思議な逢瀬と、政治、環境、惑星、その結末。そして、領事の運命。
最高の…物語です。特に、『ハイペリオン』第四章「学者の物語」は、たくさんの人に読んで欲しいです。まあ、これだけというのは、よくないかもしれないけど。
2001/08/24 10:29
支配する種族
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“魔王”と呼ばれる作家がいるとすれば、小林恭二が当てはまるとわたしは思う。そんな“魔王”の新作は猿楽町を舞台にしたサーガである。歴史が生み出すヒエラルキーの闘争を神話的な支配者によるうねりとして描いてみせた。語り手である“わたし”を愛した女神たち、第一話、圧倒的な性の力、生み出す力を持つ女、第二話、霊的な美しさを持ち、それを広める女を出逢いから滅びまで描き、第三話からは、わたしの正体をめぐる回帰と蹂躪に仕立て上げる。それぞれのパートには、SS、ネプチューンメンと支配する種族を提示し、権力闘争が描かれる。そして、生み出される“王”とは。
紙の本厄落とし
2001/08/24 10:27
瀬川ことびという毒を
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「厄落とし」故郷に住む親友からの年明けの電話「正月早々に墓堀りすることになったんよ」、このことから恭子に親友のご先祖が取りつく。特典は美肌効果、恐怖つき。
「テディMYラブ」何かと凝る妻が凝り出したのはテディベア造り、そこから始まる夫とクマの家庭内のはーどぼいるどな惨劇。武器はチタンのゴルフクラブ。
「初心者のための能楽観賞」好きな子から誘われた能楽定例公演。公演は「杜若」、そして二回目は「猩々」彼女の説明を受け、気持ちよく睡眠に入ると隣に誰かがいるような奇妙な感覚が、そして夢には猩々が。蚊に好かれると婿殿になれるらしい。
「形見分け」母が知人から貰ってきた形見の品々、江戸題材のレポートにいいかもと思いながら、着物や三面鏡の前に立つとそこには…。
「戦慄の湯けむり旅情」若い女性4人組が目指すは秘湯の露天風呂。漫才をしながら着いたのは冥土温泉に三途旅館。そしてモチロン惨劇が…。
最高! 各編の主人公と親友との、部下との、恋人未満の女の子との押しの強い母、元気な妹とのやりとりが、軽くて楽しく、傍から見たらお馬鹿な気のおけない者同士のやりとりが頷きながら読める。そのすっとぼけた語り口から、恐怖も生活だという落ちへの繋がり、演出効果も巧い。とにかく健康に良いすっとぼけた毒のあるホラーだ。この作品にある一文、毒も少量ならば薬になるのと同じ論理。夏の暑さに瀬川ことびという毒を、ホラーを。
2001/06/12 21:34
送られたものと遺されたもの
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生きることは送ることであり、遺すものなのかもしれない。「Calling you」ひとりぼっちなわたしには携帯がない。心の中で理想の携帯の手触りを想像し楽しんでいた。そんな矢先、その携帯にくるはずのない着信メロディーが流れ出す。
人の心に真摯に向き合おうとして相手の望む対応が出来ないと嘲られる、そんな世界。臆病になる。人と通い合わせられなくなる。そんな少女が出会ったもうひとつの孤独な寂しい魂からのSOS。
孤独はひとりひとり持つものは異なるかもしれないけれど、似た寂しさ、共有できる人がいる、そんな救いもある世界なんだよ。寂しさは優しさに変えて未来の自分に遺せるかもしれない。そして過去の自分に未来に在る希望を少しでも送れるかもしれない。
時々混線する人の心の時間軸は、柔らかなふたつの心と出会う機会を与えてくれる。傷が優しさと出逢いを生んでくれる。「傷-KIZ/KIDS」大人と世界に傷つけられその痛みを制御できないオレが出会ったアサトは人の傷を自分の体に移すことが出来る能力を持っていた。
無垢な魂と出会い、彼の痛みを、自分の得た痛みをこの世界で…送られた傷、彼と共有した傷、遺された優しさ、一緒に見る穏やかな希望。きっと救いは在る。
「華歌」列車事故で恋人を亡くした私が絶望する病院生活の中で見つけた希望は、蕾の中で生まれた歌う華の少女だった。故郷、歌、生みも死も、母たちの遺した優しさの中にあった絶望から生まれた希望。出会えばいい、失ったものと得てきたものを。送られたものと遺されたものを、そして人を。
紙の本メイン・ディッシュ
2001/06/09 10:07
読書の『メイン・ディッシュ』にいかがですか
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さてさて、今回ご紹介するのは、お料理、劇団、連作短編とわたし好みの題材がいっぱい詰まった作品です。張り切ってイキマショー。
劇団「紅神楽」の看板女優紅林ユリエこと愛称ねこさんの部屋には、もう一匹の猫が同居しています。2本足の猫、ミケさんこと三津池修。ミケさんは料理の魔術師といえるほどの腕前で、美味しそうな描写の数々といったら、じゅるる〜。
このふたりと、劇団「紅神楽」の代表である劇作家小杉隆一-感情移入が激しい人で、原稿に向かう時は、「我が師チェスタトンよ、我に純粋推理の叡智を与えたまえ」とノタモウテ、作者になりきった時は、凄まじい勢いで書き出す人である。これが江戸川乱歩、横溝正史のうちはいいんですが、伝説の遅筆作家井上ひさしにがノリウツルト劇団員は顔が蒼くなります(笑)。そんなこんなで、独特の推理劇を作ることで劇団を引っ張っていくが、後に作家になります−いかれて好きな人物なので、つい長くなってしまいました。
この三人が中心となって、事件を引っ掻き回し解決します。そしてこの話と交互に、ある大学生たちのグループの話が挿入されていきます。彼らの内のひとりとミケさんが出会う話が出てきて、ふたつの話が絡み合う時、謎ができます。彼らとミケさんの繋がりとは?
小杉師匠が自分の創った天才料理人をめぐる夫婦の物語の脚本のラストのどんでん返しに納得いかない話にミケさんが彼の作る料理に言及し、様々な人を魅了する料理の謎に迫っていく話「ストレンジ テイスト」、仲間5人から500円ずつ受け取って絶妙のカレーを作る男の死と、彼のつくるカレーの秘密、仲間だった女の子の失踪に迫る
「アリバイ レシピ」…。
その他にも楽しい話が満載です。劇団の成長と行末、小杉師匠のいかれっぷり、ミケさんの創り出す料理と謎解き、主人公のねこさんの語り口、どれをとっても素晴らしいです。楽しい物語でした。
『花の下にて…』に出てくる工藤さんのビアバーの描写がちょこっと出てくるのもファンには嬉しいサービスですね。
皆さんの読書の『メイン・ディッシュ』にいかがですか
紙の本花の下にて春死なむ
2001/06/09 10:05
酒とつまみとミステリと
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三軒茶屋駅近辺にある香菜里屋に、客が持ち込む事件を、マスター工藤哲也が解き明かす連作短編集です。
孤独死した老俳人の住む窓辺の桜は、なぜ季節外れの花をつけたのか。老俳人の過去から導き出される人生とは。駅においてある本棚のなかにある山本周五郎の文庫に必ず挟んである家族写真は、どんな思いが隠されているのか? 回転寿司屋で鮪ばかり7皿も食べる客、これにはどんな意味があるのか? 俳句、家族写真、多摩川、写真展、老い、交流、都市伝説、赤い手、正岡子規、といった題材と謎を巧みに配した作品集は絶品です。
度数を変えたビールが4種類あり、マスターが、今日はいいものが入っているんですと言って出す、実に魅力的なつまみ(美味しそうな描写です)、そして客が語る謎、人の気持ちにするりと入り、謎を見事に解き明かすマスター。文も構成も人も、文句無し!! 人の生と死、苦さ、悲哀が心にぐっと来る実にいい短編集です。
紙の本静寂の叫び 上
2001/06/09 09:58
卓越したプロット
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聾学校の生徒と教員を乗せたスクールバスが、カンザス州を走行中に3人の脱獄囚に乗っ取られる。リーダー格のハンディの命令により、彼らは廃屋となった食肉加工場に、生徒たちを人質にしてたてこもる。FBI危機管理チームの人質開放交渉担当者ポターとハンディの駆け引きがはじまる一方で、人質のひとりである教育実習生のメラニーの反撃がはじまろうとしていた。
卓越したプロットで、勝利が8割方決まった作品でしたが、それに加え、人物造形の素晴らしさ、息を呑む展開と一級品のサスペンスと仕上がっています。人質開放交渉の技術的側面の新鮮さ、犯人との心理戦、聾者独自の言語である手話、その文化、FBIと州警察の駆け引き、“ストックホルム症候群”、情報戦、メラニーの心の内面である“音楽室”、聾者の聖人であるドゥ・レペをポターに照らし合わせ支えにするメラニー、メラニーを“協力者”として位置づけ、彼女を知ろうとするポターとの交流、ハンディと会話することにより、彼との同化を図り、その目的、内面を知っていこうとするポター、といった心理面、廃屋となった食肉加工場と一面に広がる小麦畑、聾者の声にならぬ叫びといった映像を喚起させる力、全てにおいて、超弩級サスペンス!! どうぞお読みになってください。
紙の本ホット・ロック 改版
2001/06/09 09:51
何故かこの面々が集まると
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刑期を終え、出所をしてきた盗みの天才プランナー、ドートマンダー。彼のもとに大きな仕事が舞い込む。アフリカのタラブウォ国の国連大使の依頼で、コロシアムに展示されている大エメラルドを盗み出すというものであった。報酬は15万ドル。4人の仲間を巧みに使い、犯罪アイディアを練るが…。
面白いですよう。ニヤニヤしながら読み勧められる作品です。次から次へと犯罪のアイディアを繰り出すドートマンダーをはじめ、「うまい話があるんだ」と、ドートマンダーに盗みの話を持ち掛け、能天気だが、人集めくらいしか能力がないケルプ、クルマ狂いのマーチ、といったレギュラー、錠前師のチェフウィック、伊達男のグリーンウッド、人の身上調査書作成に何よりも喜びを感じる国連大使アイコー少佐といったゲストたちのいかにも曲者といった個性と、ちょっとずれた会話。何より面白いのが、どんどんダイナミックになっていき、痛快な犯罪のアイディアです。ネタばれになるのでここでは書きませんが、最高ですよう。
それぞれ能力があるのに、何故かこの面々が集まると不運になる。これってすごく良く分かります(笑)。わたしと友達たちも…。
そうそう、これを言い忘れてはいけませんね。『ルパン三世』をこよなく愛する人には是非!!
紙の本ローウェル城の密室
2001/06/09 09:41
遊び心ゆえの傑作
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ストーリーはこんな風に始まります。
主人公? 丹崎恵と笹岡保理はある森へ迷い込む。そこで見たものは、殺された猫がぶら下がった枝、枝、枝。猫好きにはとても哀しいはじまりでした。猫たちのご冥福を祈りつつ…ページをすすめると…。
彼らの前に現れるものはある洋館と、そこに落ちている『ローウェル城の密室』という少女漫画。そして、奇妙なご老人。
ふたりに、ご老人は二次元生物の研究に参加してもらうとホザキハジメマス。そして、「二次元生物の生態例じゃ」とふたりに見せたものは、少女漫画のずらりと並んだ本棚。二次元生物の生態(目の占める割合が、顔の3分の1とか、足が胴体部の2倍以上とか)を延々と語りはじめます。
そして、ご老人は、二次元生物の研究のために、二次元世界に行ってクレイと、「三次元物体二次元変換器」でふたりを少女漫画の世界へ送り込みます。
少女漫画の世界で、恵はメグ・マーシャルというローウェル城の第一王子に見初められる靴屋の娘に、保理は第二王子ホーリーにそれぞれなりきります。
ソシテ舞台はローウェル城に。そこで登場人物も増えてきます。女ったらしの第一王子レイク、全身がオレンジ色に輝く美少女、聖なる炎の番人の一族で、メグのおつき、リーレ。他にも、まあ、あとはどうでもいいか…。そして、そのうち密室殺人事件が起こります。
そこで登場するのは、城にある探偵局の局長、名前は《星の真理を受け継ぐ金の瞳の君》リルル・ラーラ・シスイ・シャーム・ド・ヨゲール・ラルスワード(ブラジル人みたいに長くて素敵でどうでも良くなる名前)通称《星の君》のお嬢さんとワトソン役の副局長爺バヌル伯。お嬢さん、ワトソン役の爺に飛びゲリをかます、めい探偵です。探偵とワトソン役の素晴らしい関係の一例です。
ミステリ的にも、ファンタジー的にもそんなスゴイ作品ではありませんけど、トリックや、キャラクタアにも遊び心と若さがあふれる、読んでいてとても楽しい作品でした。
紙の本ニアアンダーセブン 1 (角川コミックス・エース・エクストラ)
2001/06/08 22:43
へなちょこ、サイコー
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傑作傑作。笑った笑った。宇宙人のいる日常になじんだ近未来? の世界、舞台となる街は宇宙船が落っこちて出来たクレーター周辺区というところ、そこにある風呂屋に下宿中の貧乏予備校生まゆ子と同居人の最下層クラスの「アンダーセブン」ランクの宇宙人ニア、ふたりの漫才が、ちゃぶ台、風呂屋の燃料開発が趣味のおっちゃんや、かき氷、コソビニ(間違いではない)経営のインド人、お仏壇、雀卓、3秒ルールといったものを転がしながら貧乏生活を支えあっています。宇宙人という設定がありながらナゼカ貧しくて慎ましくても豊かだった時代のような舞台にしているギャップ、そしてまゆ子とニアのやりとりがトテモ魅力的。ニアがへなちょこ宇宙船を造ろうとして部屋で爆発、その修繕をニアの仕入れてきた宇宙人服を着て修繕しているシーンのへなちょこぶりなんてサイコーだ。貧乏ってへなちょこ、宇宙人もへなちょこ、そんでもってサイコー。
紙の本最終兵器彼女 4
2001/05/20 17:45
刹那の恋へ
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クラスメートに戻ったちせとしゅうじ、想いは残り、戦火は進む。あつしは自衛隊へ、アケミはしゅうじへの想いを、ちせとテツは戦場の中の日常を束の間見出し、刹那の恋へ…『ガンパレード・マーチ』もだけど見えない敵の戦争は策謀も見えないし、一方的な主人公たちの終末感と戦場からもたらされる肉体的な死と精神的な狂いを見るものに味合わせる。ちせの死への麻痺とそこから見える人の瞬間的な剥き出しの残酷さの描写がどんどん痛くなってくる。失われていくまわりの風景の、街の、人の、心のありようが切ない物語ですね。今回の単行本の表紙はすごくいいです。
紙の本NATURAL 10
2001/05/20 17:43
人としてのかたちのひとつ
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ミゲールへの行為に何かに自分を刻み付けたかったのかと自問するファビアンはふたりきり出会うことを提案する。ミゲールは都大会突入。リコとの関係、光の当て方、ファビアンと一度出会っていた記憶、堂本や西門と正面から向き合うことで自分と闘っていたことに気づき…JRの言葉「ただすきなんだよ」の意味、「自分の中の大きな壁を越えようとするときに人を巻き込んでしまう」アリーシャの言葉から想起されるファビアンの行動。そしてふたりだけで出会うことをミゲールは決意する。ただあること、この物語はまさにタイトル通り、人としてのかたちのひとつを示してくれる。次巻でいよいよ完結か。本当に素晴らしい作品で僕自身にいつも影響を与え続けてくれる作品でもあります。自分というものを問い掛けたくなる。こんな作品に今後も出会えるかな。次巻が待ち遠しいです。