よんひゃんさんのレビュー一覧
投稿者:よんひゃん
紙の本レダ 1
2001/08/14 05:45
色あせない物語
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レダという名の不可思議な女性に翻弄されながら、少しずつおとなになっていく少年。未来都市を舞台にしたSFなのだが、それ以上に、ビルドゥングス・ロマンとしての性格が色濃い小説。
出版されてからすでに10年以上たつが、今読んでも、まったく色あせていない。10代のころにぜひ読みたい、読ませたい本。栗本薫、初期の名作である。
紙の本ウィスパーズ 上
2001/04/02 08:23
ハッピーエンドかな
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うーん、なにを書いてもネタバレになってしまいそうだなぁ。とにかく、ものすごく楽しめたのは確か。おすすめです。
ホラー、サイコサスペンス、ラブロマンス、などなど、たくさんの要素を盛り込みつつ、それらがとけあってスピード感のあるストーリーを形作っているのはみごと。クーンツなんだから、最後はハッピーエンドだろう、と思って安心して読めるし。ホラーは好きだけど、あまり救いのないのはごめんこうむりたい、というわたしみたいな人にはクーンツはまさにぴったりだろう。
しかし、ハッピーエンドとはいっても、それはあくまでも主人公から見た場合で、敵役からすれば、これ以上ひどい話はないかもしれない。人格を破壊されて、あげくに他人を攻撃するようになった人間は、加害者か被害者か? そんなことを言ったら、警察いらない、という話になってしまうけれど。
紙の本ガンスリンガー
2002/07/21 14:06
巨大な影
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壮大な叙事詩の幕開け。というのはわかっているのだが、この1冊に限っていえば、あまりに時代がかった訳文が気になって、もうひとつ物語世界に入り込めなかった。おそらく、原文の雰囲気をとどめようとしてのことだと思うのだが、いままで読んできたキングの小説とは、あまりに異質である。
中世ヨーロッパを思わせるような世界が舞台だが、現代文明の残滓のようなものがそこかしこにあって、頭の中でうまく映像が結ばない。
しかし、『不眠症』『アトランティスのこころ』『ローズマダー』など、ほかのさまざまな作品に本シリーズがおとしている影を考えると、その巨大さを理解せずしてなにごとか語るのも、かなり無理があるかも。ということで、今後の展開に期待して星4つ。
2002/05/13 07:01
誤解されやすい
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届いたその日に、一気に読んだ。いやいやいや、おもしろーい。大笑い。
著者の分析はおおむねあたっていると思う。というか、現実に夫を捨てる形で離婚し、現在「家庭を第2の職場として」働いているわたしの実感にぴったりである。だが、「結婚生活は女性にとってデメリットばかり」とか、「夫をリストラ」というキーワードだけが一人歩きすると、誤解を受けやすい内容だなぁ、と思った。
書いてあることはそれほど過激ではない。わりとうまくいっている家庭は、かなりこれに近い形で実行しているのではないだろうか。問題は、わたしも含めて、それを無意識に行っているという点で、はっきりと言葉にしてつきつけた、という功績は大きいと思う。
2001/01/20 13:47
断片の魅力
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40ページほど読んだところで、これは「カス」つかんだかな、といういやな予感がした。幸いなことに「カス」というほどひどくはなかった。全体におもしろい断片はたくさんあるのだが、このことについてもうちょっと考えたいな、と思ったとたんに別の話になってしまう。あとがきでご本人も「自分の関心のおもむくままに綴った結果が本書」と言っているが、いろいろ食い散らかしているものの、うわっつらをなでただけ、という印象である。
たくさんのケースを並べているが、最後に持ってくる結論が「○○と思える」式で、根拠の部分が薄く、唐突な感じを受ける。文章に「自分では文章がうまいと思っている素人」っぽい臭みがあるのも、評価を下げているかも。
まあ、あまりけなしてばかりもなんなので、興味深い断片を少し引用してみる。
わたしたちの心の内部と周囲の世界とは決して対立した存在ではない。互いに溶けあっているくせに、対峙しているかのように見えているだけである。(P25)
さきほどわたしは、被害者意識は常に「敵」を求めてやまない、と述べた。敵ないし悪玉を想定することで物事は一気に単純明快となり、被害を受けている「ワタシ」は正当化され、しかも労わられ特別扱いされる存在と化す。人によっては、被害者意識によってはじめてアイデンティティーに目覚めることが可能となる。(P70)
世の中には実にたくさんの言葉がある筈なのに、まさに「ぴったり」といった言葉はなかなかみつかるものではない。そうなると、せめて「いくぶんピントは外れるのだけど、まあ似たような」言葉を流用して我慢するしかない。いつも我慢していると精神的に耐えきれなくなるので、人間とはふしぎなモノで次第に適応していく。つまり、既成の言葉に感じ方や思考のほうを微妙に迎合させていくのである。(P110)
しかし、少なくとも精神科医として様々な不幸に置かれている人びとを見てきた経験からは、「面倒だから現状のままがいちばん気が楽。不幸なりに、この不幸はもはや馴れ親しんだ不幸であり、未知の状況と新たに向き合うことの精神的負担に比べたらよほどマシ」といった発想は、思った以上に世の習いといえそうなのである。(P121)
別に精神科医じゃなくても、ちょっと鋭い人ならこのくらいの洞察は持っているかもしれないが。
それにしても、自分が扱っている患者を見て「自分にもこういうところがあるなあ」とたびたび感じるとしたら、精神科医というのは憂鬱な職業である。
2002/05/13 06:56
脳内の敵
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対談なのだから、文章とは違って、あまり厳密な内容を求めてはいけないのかもしれないが、批判している相手が、「フェミニスト」とか「最近の学校現場」という感じで、曖昧模糊としていている。『男という不安』でもそういう傾向を感じたから、対談という形式だけの問題ではないのかもしれない。民主主義にしろ、人権思想にしろ、戦後50年もたてば、極端な形の亜流が生まれてきても当然な話で、そういう部分をとりあげて批判しても、あまり意味がないような気がする。
2001/01/20 16:32
扉を開けると
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世界中でベストセラーになっているという話は前から聞いていたのだが、やはりそれだけのことはあって、一気に読めた。
ふつうの、というより、まわりに軽んじられている子どもが、ある日目の前に開いた異世界の扉を開けると、そこには、彼の存在を待ち望んでいる人々がいた。ファンタジーの黄金律。お決まりといえばお決まりなんだけど、わたしはこのパターンがけっこう好きだ。「ナルニア国物語」のシリーズも、子どものころの愛読書だった。「果てしない物語」もそうだな。
そしてそこには必ず善と悪の戦いがある。冒険、勇気、友情。おさえるべきところは、きっちりおさえて。
やはり、子どもには「物語」が必要だと思う。少し疲れたおとなにも。
2004/02/20 10:44
琥珀をめぐる葛藤
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いやー、七宝が「宿り蛹」という妖怪に取り憑かれて、イタズラの限りを尽くすところは、読んでいて思わず吹いてしまった。犬夜叉がタケコプターならぬ竹トンボをくっつけられて、飛んでいってしまうところが、個人的にはツボでした。
まあそれは脇筋で、この巻のテーマは琥珀をめぐる葛藤だろう。目的は手段を正当化するか、なんつっちゃうと、あまりにも古典的かつおおざっぱすぎるかな。
紙の本変わる韓国、変わらない韓国 グローバル時代の民族誌に向けて
2004/02/11 23:40
適度な距離感と広い視野
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著者も後書きで述べているが、確かにこの本はタイトルをつけるのがむずかしいかもしれない。叙述はさまざまな分野にわたっているし、耳に入りやすい新たなパラダイムが提示されるわけでもない。
韓国を論じた書というと、へんなところに力が入っていて読んでいて辟易させられることも多いのだが、この本は対象への適度な距離感と広い視野が感じられ、なるほどと思わされる部分が多かった。内容は軽くはないが、文章は平易で読みやすい。
とくに第5章にある「中央アジアの高麗人」というトピックがおもしろかった。
「九割以上が祖国の言葉を失い、ロシア的な生活様式に慣れ親しんできた彼らにとって「本来の」言語と文化と誇りを取り戻させようとする韓国人の姿勢は、非常識なお節介にしか写らない場合も多い。ロシアの音楽や文化に親しんでいる彼らは、韓国の文化的求心力の実ははるか圏外に生きている。現地の複雑な状況を理解するまでもなく、ただ「ひとつ」になろうとする声高な呼びかけは、むなしく響くしかないのである。
(同書149ページ)」
韓国に生まれ育った韓国人だけが「正当」で「本来」の「中心的な」韓国人であり、他国の文化を身に着けている在外同胞は「中途半端」で「周縁的」で「一段劣った」存在だとする本国の韓国人の勘違いを、在日同胞は内面化しすぎていないだろうか。とくに韓国語ができないという面において、その傾向は顕著だと思う。そのような文化的正統に対する考えが、韓国文化の一面を語っているのは確かだが、自己中心的で迷惑なものであることには違いあるまい。
また、第6章の犬食にまつわるタブーを論じた部分は、日本ではあまり知られていない事柄も多く、興味深かった。
紙の本母の発達
2002/07/21 13:42
言葉の奔流
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解説を斎藤美奈子が書いてるから、というわけではないが、やはりこれは、女性であることが大きなテーマになっている作品だと思う。母と娘の葛藤とはいっても、子育て云々ではない。育てることを否定した母の話なのだから。
などと、理屈っぽく解説しようと思うと、いろんな読み方ができるが、とりあえずは言葉の奔流に身をゆだねるのがよい。不思議な快感。
紙の本ダーク・バイオレッツ 1
2002/06/12 10:25
充実した読後感
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これがデビュー作ということだが、作品の完成度は高く、よくできた映画を見たあとのような、充実した読後感であった。
祖母の若いころの秘密に触れた少女が示す反応が、人間としての含羞を感じさせるもので、なにやらほっとするような気がした。それも含めて、主人公ふたりが、おとなっぽすぎるように思えたが、幼いころから人とは違う能力を隠してきたふたりな のだから、このくらい老成するのは当然かもしれない。
話の筋立てのおもしろさに加え、思春期の少女たちの心のたゆたいがよく描かれているのにも、好感を持った。
2002/05/18 21:45
11歳
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11歳の少年が主人公のキングの作品といえば、『スタンド バイ ミー』が思い浮かぶが、これもまた、かの名作に負けず劣らず、少年の描写がみずみずしい。幼い恋にほのぼのすると同時に、身勝手で不機嫌な母親の内心を見抜きながらも、母を愛することをやめられない少年の心が痛かった。
紙の本わたしのグランパ
2002/05/18 18:50
うますぎる
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うーん、うまい、うますぎる。例によって主人公の少女とか、その友人とか、読者が感情移入する側の女の子は必ず美少女だったり、登場人物はどれもステロタイプで、全編いかにもお約束どおりの展開なんだけども。こう来るな、とわかっていても、しっかり作者の術中にはまってしまう無駄のないストーリー展開はさすが。難解なところはかけらもないが、それでいて弛緩のない美しい文体。真似しようと思ってもできない。
紙の本日本経済「暗黙」の共謀者
2002/05/15 06:55
証明できないシナリオ
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相変わらず、わかりやすくおもしろいが、今回は著者の主張するシナリオが、若干弱い気がする。そもそも現実にある事象から、こういう動機に違いない、と推測している話で、探偵が謎解きすると犯人が「参りました」とばかりにぺらぺらと裏づけになる自白をしちゃうのと違って、証明のしようがないからである。
だが、構造改革の分析、日本経済がどちらの方向に行こうとしているのか、という分析は、十分説得力がある。経済には疎いので、インフレターゲット論で、それほど簡単にデフレ退治ができるかはわからないのだが、能力主義、あるいは成果主義は、名前だけのもので、ほんとうは権力者のためにある、とか、結局はアメリカが一人勝ち、とか。
最後に「幸せな負け組になろう」と締めくくられているが、それを社会全体で実現したのが、オランダなどで成功したワークシェアリングなのであろう。