月乃春水さんのレビュー一覧
投稿者:月乃春水
紙の本おとなの叱り方
2008/03/20 16:28
究極の愛情表現「叱る」ことについてアッコさんが熱く語る。マニュアルではない、おとなの生き方指南に納得。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
芸能生活40周年を迎えた和田アキ子さん。芸能界での「叱りキャラ」が定着しています。
新聞や芸能誌の見出しにあるように、吠えも殴りもしないけれど、言いたいことは言う。「人はどうか知らないけれど、和田アキ子はこう思うよ」というスタンスで書かれた、マニュアルではないおとなの叱り方、延いては生き方についての本です。
十七歳まで大阪で"ミナミのアコ"と呼ばれ、肩で風切って歩いてた、芸能界に入っていなかったらたぶんいまごろ、暴力バーをやっていたという不良に、「叱り方」をテーマに本を書けという依頼が来て、その本が売れているなんて、世の中おかしくなってる。
アッコさんは言います。
叱るのは、冗談やヒマつぶしじゃできない。愛情がなければできないこと。
相手のことを真剣に考えていないと叱れない。究極の愛情表現です。
アッコさんに叱る愛情を教えてくれたのは、芸能界の大先輩、女優の故 山岡久乃さん。
デビュー当時、ドラマの現場に遅刻したときに、ものすごい剣幕で怒鳴り、
そのとき、私のためを思って言ってくれているのがよくわかった、こんな私を「叱ってくれた」と思ったのだそうです。
以来、一度の遅刻もしていないとか。
ところがいまは、だれかを叱って恨まれたくない、関係をギクシャクさせたくない、逆ギレされたくない。だれにも文句をつけず、叱らず、ただ黙って見守る「いい人」になりたがっている人が多い。そんな「いい人」もひと皮むけば「どうでもいい人」。人に対する愛情が薄い人のように思える。
だれも叱らないならわたしが叱る。
礼儀、マナー、社会の約束事を守れない、人として品性、誠実さに欠けるヤツには「おまえ、それは違うだろッ!」のひと言が言えるおとなでありたいと、
自分から大きな声で挨拶をすること、きちんとした身だしなみの大切さをはじめ、親のエゴで子どもを育てちゃいけない、と熱く語っています。
人とつきあってきたことがいまの私をつくってくれた、人がわたしの財産というアッコさん、
40年間走り続けてきて、気がつくと、芸能界でも自分より年上の人が少なくなり、スタッフも大半が年下ばかりになった、だれにも叱ってもらえなくなる立場や年齢になったいま、いちばん気をつけなければならないのが、いい気になって、うぬぼれて、自分を見失ってしまうこと。
だからこそ、つねに自分で自分を叱れる人間でありたいと思っているそうです。
エピローグには、大好きだという茨木のり子さんの詩、『自分の感受性くらい』が紹介されています。
自分の無力さを他人や世の中のせいにしそうになったとき、いつもこの詩に叱られ、勇気づけられているのだそうです。
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
この言葉を座右の銘に、やっぱりこれからも、"叱るおとな"をやっていこう、というアッコさんの、ますますの活躍を期待し、応援したくなりました。
2008/01/02 16:18
小学校低学年の保護者の必読書。充実の「ブックトーク」がたのしめます。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
Z会小学生コースの保護者向け情報誌『zigzag time』に現在も連載中の「親と子の本棚」が単行本になったもの。岩波書店の「子育て応援シリーズ」の一冊です。
内容は小学1、2、3年生向きの本の紹介であるのには違いないのだけれど、「ブックガイド」とは少々趣きが異なります。
新刊ないし新刊に近い児童書一冊と、そのほか二冊の三冊を紹介しながら、何か一つのテーマを語る─落語の「三題噺」のようなブックトーク。
月刊誌の連載なので、ゆるやかに季節感を意識し、子どもの本を素材に歳時記を編むように書かれています(「はじめに」より)。
タイトルは「春、新しい気もち」「夏のあいさつ」「豆のいのち」「子ども時代の光と影」「幸福の約束」「目をさませ、子どもたち」「胸の奥で願っていること」など、必ずしも「季節」にとらわれ過ぎず、子どもの気持ちに寄り添う姿勢が感じられます。それが宮川流のブックトークといえそうです。
ページの下、三分の一ほどに紹介されている本の表紙とデータが記載されています。
内容からの引用、著者のそれ以外の本が「断然おすすめ」と書かれていたりして、ひとつひとつ見逃せません。
ブックトークのなかには「なるほど」ということばが何度も出てきます。
宮川先生も一緒に「読んでいる」んですね。
「読んでみました」という読者(主に保護者)からの報告(投稿)とそれに対する宮川先生のコメントも挿入されています。
また、「おすすめ読書術」として紹介されているのは
■本を返す前に■「名作」を読む意味■大人もいっしょに読む■読み聞かせは、とりあえず棒読みで■音読と黙読
「読書の相談室」では■自分で本を読まないのですが?■子どもが選ぶと、いつも同じジャンルの本ばかりなのですが?■読ませたい本と、子どもが読みたがる本がちがうのですが?■マンガも読書に入りますか?■読書感想文、どうしたらいいですか?
小学生ともなると、絵本を親子で読んでいたときとは違う反応を当然ながらするので、どうしていいものやら悩むときがあります。相談室での質問内容は、多くの保護者の方々も同様に思われているのではないでしょうか?
これは大いに参考になります。
さらに童話作家のあまんきみこさんとの対談「それぞれの人生で本の世界を味わおう」、児童文学翻訳家の福本友美子さんとの対談「本をとおして世界を知る 興味を広げる」もあります。
このようにかなり充実の内容となっていて、手元に置いてたびたび読み返し、参考にしたい。読んでいない本は全部読みたくなる(子どもよりも先に親が)。そんな一冊です。
本好きな小学生の保護者の方には必読書。ぜひおすすめします。
紙の本がっこう百科
2007/03/25 18:31
小学校の生活って?新一年生の親ごさんに、入学祝にぜひ。6年間使える生活・学びのアドバイス
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
小学校の生活、学びのアドバイスが五十音順に308項目。現役の教員9人によって書かれたこの本は学校での生活を充実させ、楽しくするため事典です。
「いろんな友だち」「学校のモノたち」「先生という人たち」「学校と教育の問題」「学校ぐらし」「からだのこと」「さあ、お勉強」と、ジャンル別にも分かれています。
項目ひとつひとつにイラストがついていて、ひと目でわかるように工夫されています。
子どもが小学校へ入学する。初めてのことなら、親も子もドキドキ。
いま、学校はどうなってるの?ゆとり教育の見直し?生活科って?総合学習って?宿題は親がみてあげないといけないのかしら、やっぱり…
「?」だらけ。子どもより親のほうが心配事が多いかもしれません。
通う学校により多少の違いがあるでしょうが、この本でいまどきの学校事情がよくわかります。
学校現場の本音、生々しい実態。子どもたちの様子にはおもわず吹き出してしてしまったところもありました。おもしろい…(たとえば「赤白帽」に出てくる子、思い出の一年生など。)
ご丁寧なことに「学校への電話の仕方」「連絡帳の書き方」もあります。先生、学校側の事情もわかるので、保護者の気をつけなければいけない点が明確になります。
九九を楽に覚えるには、鉄棒がうまくなるには、時計の読み方など、学習の手助けをするのにとても役に立つガイドもあります。
おもわずおおっ!と声をあげてしまう、深い内容もちりばめられています。
わたしが唸ったのは、
・かたづけ子どもは「かたづける」ことより「散らかす」ことにその使命があります。(「かたづけ」)
・消すときに紙がクシャッとなると。すべてがイヤになる。だから力を入れないと消えない消しゴムはダメ。(「消しゴムも大事」)
・春休みは何より、旧学年のしがらみを忘れて遊ぶこと!(「春休みにやっておくといいこと」)
・計算力は基礎学力などではない。(中略)別に、早くやる必要はない。(百ます計算)・先生も子どもも人間、生きている人間。今、学校にいちばん必要なのは、時間と心のゆとりである。(「先生は忙しくなったか」)
編著者の岡崎勝氏によるまえがきにはこう始まります。
『「子どもが幸せな国なら、そこではきっと大人たちも幸せだろう」。ボクはそう確信している。子どもは現在と未来を生きることができる「人類の希望」なのだ。だから学校は、子どもに希望を保障しうるところにならねばならない。』
このことばに代表されるように、この本全体を通して、子どもたちへ、そして親たちへのあたたかいエールを感じました。
帯の袖(内側)部分にはメッセージを記入できる欄があります。
「楽しい6年間でありますように」と書かれています。ご入学のお祝いにも最適です。
紙の本おっぱいとごはん
2007/03/01 05:28
なあんだ、あせらなくてもいいのね!おっぱいとごはん(離乳食)の真実、育児の現実がよ〜くわかります。あたたかい母と子のイラスト、四コママンガも必見!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
赤ちゃんがはじめて出会う「ごはん」はお母さんのおっぱい。
「赤ちゃんがおっぱいを飲んでくれない」「おっぱいが張りすぎて、つまって痛い」などおっぱいについての悩みはつきません。
月齢が進んでくると今度は離乳食。どうしたらいいの?
電話相談ボランティア団体「よこはま母乳110番」に寄せられたたくさんの質問をもとに、おっぱいとごはん(離乳食)について、とても詳しく書かれているのがこの本です。
生きものとしての人間をみつめながら、赤ちゃんとお母さんのための楽しい「おっぱいライフ」について考えています。
育児マニュアルにない、ほんとうに大切なことがわかります。
書かれている内容は
・おっぱいライフを始めよう(食生活や生活習慣は妊娠中でなくても大切!)
・母乳育児ってどういうこと?(赤ちゃんとお母さんの楽しい時間を大切に!)
・母乳育児を続けるコツ(仕事をしていても、出が悪くても大丈夫)
・卒乳児期は人それぞれちがう(好きなだけおっぱい育児を楽しもう)
・離乳食はいつから始めるの?(月齢で決めなくても大丈夫)
・母乳っ子とミルクっ子の離乳食のちがい(何をどうやってすすめるの?)
・食卓とレシピの工夫(ふだんのごはんを離乳食に!)
・おっぱいとごはんにいちちばん必要なこと(大切なのはお母さんと赤ちゃんのつながり)
さらに困ったときのQ&A、もっと知りたい母乳・離乳食情報、相談窓口、サイト一覧もあります。
世間一般にはあまり知られていない母乳育児ゆえの疑問、質問。家族や専門家からいろいろなことを言われ、責められ、どうしていいかわからない。
この本の中に知りたかったことの答えや赤ちゃん、お母さんの両方が心地よくなるためのヒントが、きっとあります。
同時に「おっぱいとごはん」に関して、パートナーやまわりの人とも一方的ではない話ができるようになるかもしれません。
おっぱいは「乳汁栄養」のことだけをさすのではない、泣いたらおっぱいがもらえるという安心、そのことで得られるお母さんとの信頼関係が大切。
せっかく築いてきた母子の信頼関係を「離乳食をすすめなくてはいけない」という理由だけで簡単に断ち切ってしまっていいのか、どんなに泣かれても我慢して食事の習慣を身につけなくてはならないのか?それはちがうことを、育児の現実が教えてくれる。
…そんなことばには、ほんとうに励まされます。
離乳食のカラフルなレシピ集とにらめっこして悪戦苦闘するよりも、この本で多くのお母さんたちの疑問を通じて、おっぱいとごはんの真実を知る。
そうすることで、世間一般に言われていることや、あふれる情報を鵜呑みにし、周りの意見に振り回されることなく、目の前にいる赤ちゃんの様子をじっくり見て、どうするか決めていく。母親として、一番大切な目、考える力や決断力が養われるような気がします。各ページには赤ちゃんや授乳中のお母さんのイラストがあります。
こちらも著者の竹中恭子さんによるもの。
(竹中さんは「よこはま母乳110番」発起人、開設以来14年間相談員であり、『まりもちゃんのアトピーライフ』 などの著書があります。)
とてもあたたかくて素敵なんです。
四コマまんがも見逃せません。ドキッとしたりブンブンと首をふって頷いたりしてしまいます。
子育て真っ最中のお母さんだけではなく、妊娠中の方、もしかしたらお母さんよりも孫を心配したくなるおばあちゃんにもおすすめの一冊です。
2007/02/04 07:29
連載開始から45年、単行本発売から40年。チッチがサリーに出会った頃のときめきが集まった、うれしいセレクション。年表がなつかしさをそそります
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「小さな恋のものがたり」は連載開始から45年になるのだそうです。
単行本発売から40周年。記念企画として出版された愛蔵版がこの本です。
上製本(いわゆるハードカバー、文芸書のような体裁)で、第1集から6集の中から作者のみつはしちかこさん自身が選んだものが収録されています。
チッチが初めてサリーに出会った頃のチッチのときめきが集まっているのです。
帯にあるこの文にグッときてしまいました。
あなたは
初恋の頃を
おぼえて
いますか?
わたしが「小さな恋のものがたり」と出逢ったのは小学5年のとき。
新潟の叔父のところにお嫁に来た叔母(わたしよりひとまわり上)からもらったのです。
確か第2集から8集だったでしょうか(残念ながら手元には残っていない…)。叔母が独身時代に愛読していたものでした。
当時読んでいた(「りぼん」や「ちゃお」など)ものとはちがうタイプのマンガ。
だけどおもしろい…
何回も繰り返し読んだ記憶があります。
4コマを基本に、チッチのモノローグ、詩がところどころに挿入されています。
高校くらいから恋をして詩を書いていたのは(そんなときもあったねぇ…)
この「小さな恋」の影響が少なからずあるのかもしれない…といま、気づきました。
この本で久しぶりに読み返してみて、あぁおぼえてる、おぼえてる、となつかしく思うとともに感じたことがいくつかありました。
チッチって意外と大胆だったのね、サリーってばほんとに鈍感だけど、男子ってのはみんなそう。女子が「わかるでしょ」って思うことはこれっぽっちもわからない。全然ちがうふうにとらえていたりする。「察してよ」と女子は要求してしまうけれど、それはどだい無理な話!女子と男子はちがうのだ…
当時はそんなこと、全くわからなかったけれど。
わたしも年を重ねたということでしょうか。
コンプレックスのかたまりで人と比べては落ちこみ、だけどほんのちょっとしたことでうれしくなって立ち直り、好きな人のことが気になって勉強なんて手につかない…
どれも女子ならば身におぼえのあることばかりなのではないでしょうか。
チッチはわたし自身。
そのように感じる人はたくさんいる。
だからこそ、「小さな恋」は長く愛されてきたのでしょう。
ちなみにわたしに「小さな恋」をくれた叔母はなんだかチッチに似ています。
そして叔父はサリーによく似ているんです。
巻末には「小さな恋のものがたり」の年表がみつはしちかこさんの年表とともに掲載されています。発売された集のあらすじが一行ずつ書かれているのがうれしい。
たとえば第5集は「サリーに思いを寄せるスミレさんが登場。サリーがチッチのおでこに初キス。」という具合。
これがなつかしさをそそり、全集読み返したくなってしまうかもしれません。
紙の本これはなみだ?
2012/02/26 13:33
写真×ことば×デザイン どれも寡黙ながら光る、ふしぎな魅力。かがくのとも絵本
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1984年かがくのとも、2010年かがくのとも絵本として刊行になった写真絵本です。
葉っぱの上に落ちたしずく。水たまりのようになっています。
そこへ一匹のあり。
ページをめくるたび、ありの数が増えています。
どんな味?
長新太さんのひとことが重なっていきます。
ありが水にたくさんあつまって、どんどん減っていく。
それもページをめくるたびにわかります。
いいえ、これは
おいしい、
あまい、
あたたかい、
…なんでしょう?
最後に答えがわかるのですが、
それは水を飲みつくしたありたちが去っていったあとなんです。
読み終えてから表紙を見ると、最初から答えは示されていた
ということもわかります。
ちいさなありが大きく拡大されて、つやつやぴかぴか光っています。
写真だから静止しているはずなのに、動きまでみえるよう。
そして、葉の模様ともいえない筋が、とてもきれいなことにも気づきます。
人間の作り出すどんなデザインも、自然の模倣でしかない。
そんな気もしてきます。
杉浦範茂さんの本文レイアウトも効いています。
何回でもページをめくりたくなる。
ふしぎな魅力を持った絵本です。
紙の本おやおやおやつ
2012/02/10 07:57
おやつが大集合して大演芸まつり。細部までたのしめる、おいしい絵本
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
江戸風味・曲芸風の「えほんのぼうけん」シリーズの一冊。
黒、柿色、萌黄色の3色の幕が開き、たくさんのおやつが登場します。
おやおや おやつの
じかんじゃないの
きょうの おやつは
はてさて
なんで ござりましょう
出てくるのは
ホットケーキ、ようかん、チョコレート、せんべい、かりんとう、ドーナツ、かきごおり、あまなっとう、プリン、みたらしだんご、わたがし、クッキー、デコレーションケーキ。
口上はことばあそびのようになっていて、声に出すと心地いい。
文字の囲みもそれぞれ色や模様がついていたりして、工夫されています。
舞台装置もとても凝っていて、見ていてまったく飽きません。
黒子のこんぺいとう(イガイガが少なく、かわいらしい姿です)もかなり重要な役割です。
圧巻なのは最後の場面。観客も含めて大賑わい。おやつのなかまの大集合。
まるで大演芸まつりのようです。
「しゅつえん」したおやつたちの名前も、これまたうまい!
ひとつひとつ、細かい部分まで残らずたのしめます。
読んだあとにはまちがいなく、おやつが食べたくなる絵本です。
紙の本素敵な漢字
2012/02/07 05:53
ひとつひとつに意味がある漢字の魅力。五味太郎テイストとともに家族みんなでたのしめる一冊
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
43個の漢字と漢字を使ったことばと共に紹介しています。
「すてきなひらがな」「ステキナカタカナ」に続くシリーズで、『日常使っている文字、言語の魅力をなんとかお伝えしたいと思い』制作されたものだそうです。
音読み・訓読み、そして英語まで併記されています。
特にことばについては
足並み feet+to line up
というように、ひとつひとつの漢字に意味があり、それが組み合わさって単語になっていることがわかります。
単語に添えられたイラストは、まさに五味太郎さんテイスト。
とても雄弁です。
そして圧巻なのは毛筆によるページいっぱいの文字!書道家五味太郎誕生!?
『書きながら、その魅力のちょっと真のところに触れたように感じた』とのことですが、ぜひ現物を拝見してみたいと思いました。
付録として季節・時間帯・色・動物・数の単位の漢字、さらに『素敵な漢字は、まだまだ、まだまだ、たくさんあります』と、その一覧(もちろん全部ではないのですが)があり、この本で紹介された文字は赤文字になっています。
漢字を習い始めた小学生はもちろん、おとなも、そして日本語に興味のある外国人も大いにたのしめる一冊です。
勉強になる、というとまじめっぽいのですが、それだけでない使い方もありそう。
たとえば、気分転換には本を読むのがもってこいですが、ストーリーものは入らない、というときもあります。
そんなときにこの本をめくったらおもしろそうですね。
これは居間に置いておきたい本です。
紙の本マザーズ
2012/01/03 19:06
「小説」だからこそ描ける、母たちのリアルな感情。感想を共有したい、最高傑作。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「母」である三人の女性を描いた、これまでにない小説です。
帯に書かれているのは
母であることの幸福と
凄まじい孤独。
傷つけ、傷つきながら、
懸命に子どもを抱きしめる、
三人の若い母親たち─。
金原ひとみがそのすべてを注いだ最高傑作!
…まさにそのとおりの傑作です。
子育て、母であることの現実、葛藤、悩みを超えて「痛み」にすらなっている実態を真正面から描いています。
登場するのは三人の母たち。
作家のユカは家を出た夫と週末婚を続け、クスリに手を出しながらあやういバランスを保つ。
主婦の涼子は満たされない思いを抱え、密室育児に疲れ果て、子どもを虐待するようになる。
モデルの五月は不倫をしている。夫に心を残しながら、恋人の子を妊娠。
一人称で、ユカ、涼子、五月と順番に繰り返し語られる形式で物語は進みます。
同じ認可外保育園に子どもを預けている三人が関わり合うようになり、自分の目で見た相手を語る。
読者は三人の様子を多角的に知るようになります。
同じなのは「母」であることだけなのに(バックグラウンドも考え方もちがう)、
読み進めるうちに三人の気持や行動が身につまされ、胸に迫ってきました。
それぞれが抱える葛藤が、自分の葛藤になってしまう。
苦しくて、なんども息を吐き、読んでいる途中に放心。
中盤からはぐいぐい引き込まれ、読み切ってまた放心。
ここまで強く迫ってくるのはなぜなのか…
小さい子を育てて暮らしていると、三人のように自分の行動や感情をここまで言語化はできない、というのが現実のような気がします。
どこかひっかかり、もやもやする思いがあっても、日々の慌ただしさ、嵐のように過ぎ去っていく時間にまぎれてしまう。
たとえばノンフィクションとして他者がインタビューしたり、アンケートをとったりしても、ここに描かれているような、母が抱えている感情までは出てこないのではないでしょうか。
日記でもルポルタージュでもなく、「小説」だからこそ描くことのできた「母」たちのリアル。
ユカも涼子も五月も、わたしではない。けれど、皆、わたし。
子育ては大変でつらいもの、怖いもの、ということを伝えたいわけではない。
子どもを産み、成長していく子どもと共にいて、自分のからだも感情も、夫との関係も大きく変わっていく。
それを丁寧に、多面的に描いている、それが『マザーズ』です。
よくぞ書いてくれた、と拍手し、感謝したい。
子どもを持つことはあたりまえのようで、実はそうではない。
ものすごく大きなことで、愛も危うさも紙一重のところにある…などということも、あらためて感じました。
ところで、わたしは出産を経た女性にこそ、読書の効用があると思っています。
同じ本を読んで感想を共有する「産後読書会」をfacebook上で行っています。
この『マザーズ』についても、感想を書き込み、シェアできるグループを作りました。
(facebookアカウントをお持ちの方はどなたでも参加できます)
いろいろな人の感想を知ることで、この傑作をさらに深く味わっています。
俳優の本木雅弘さんは「家庭を持って、ものすごく不自由になった自分がいるのと同時に、結婚して親になってみないと分からない感情も発見できた、これは必要な矛盾だと思って納得しています」と語っています。
(毎日新聞2012年1月1日付)
ぜひ、彼のように感じている男性が『マザーズ』を読んでどのような感想を持つのか知りたい気がします。
ふたつの対談『小説トリッパー』(2011 WINTER)金原ひとみ×窪美澄「可視化された"母"の孤独」、『文學界』(2012年1月号)金原ひとみ×綿矢りさ「小説の怖さと神々しさと」では、この作品が書かれた背景や感想・反応を知ることができ、とても興味深く拝見しました。
紙の本パパ・カレー
2011/05/23 18:19
パパが作るパパ・カレーは豪快!とっておきの材料は…?おもわず作って食べたくなっちゃうレシピ絵本
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
パパがつくる「パパ・カレー」。材料と作り方がリアルに描かれている絵本です。
作っているパパの手元が大きく描かれます。
牛肉は大きく豪華に角切り。ごろんごろん。野菜はさくさく、ざっくざっく、こっとん、こっとん。
いためるパチパチッ ジューという音からは、いいにおいが漂ってくるみたい。
それぞれ別々にいためた材料は、いったんお皿にとりおいて。
いっぺんににて、ぐつぐつぐつぐつ。
そうして、最後の仕上げに入れる、つぶしたくだものは…?
これを読んだら、わが家の三兄弟、「それは絶対入れないで!」と口々に言いました。
ふふふ、いっちょ試しにやってみようじゃあないの!
普段のカレーは豚肉派なのですが、奮発して買ってきました、牛肉!大きく角切りにして…野菜も同じように切って。
最後にくだものも入れました。(もちろん、そのことはナイショです…!)
ほんのり甘いかおりが残ります。味にはコクが出ておいしい!
牛肉もステーキ用で筋を切るための切り込みが入っているものだったので、とってもやわらか~い。
なかなかに好評でした。また作ってみよう。
だけど、くだもののことは、これからもずーっと秘密にしておきます。
まさにかくし味。
<ブログ> 産後の読書案内
紙の本かわうそ3きょうだい
2011/01/16 19:48
かわうそ3きょうだい、いきものが動く「音」だけで表現された絵本。余韻が素敵。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
かわうそ3きょうだいのおはなし。
最初の一文以外はすべて擬声語で描かれています。いきものが「生きている」証の音です。
ニュニュー ポコッ ペコッとあらわれたかわうそ3きょうだい。
川にもぐって泳ぎ、岸に上がって斜面を上がり、下り、また川へ。
そして魚の群れに出会います。
かわうそたちは魚をつかまえて…。
動物の世界って、人間から見れば擬声語のみの世界です(人間にはわからない会話はありそうですが…)。
かわうそたちが動く音。生きている音。パワーを感じる音です。
これを表現するのは簡単そうで、むずかしい。長年動物園の飼育係をしてきたあべ弘士さんだからこそ、聞きとり、あらわせる音でしょう。
かわうそはそれぞれ大きさが違います。だから大中小で音もちがう。
まるでわが家の3兄弟のようです。
余談ですが、うちのすぐ近くは線路で、たまに臨時列車が来る場合、姿が見える前に音でわかります。車両が違うから、線路を通る音がちがうんです。
人もしかり。家族は足音でだれだかわかります。
そんな話を先日、子どもたちとしたばかりなので、この絵本のかわうその動きの音が一匹ずつちがっているのは、なるほど、納得。
特に三男は絵本に引き込まれていました。
秋の夜に、かわうその生きている音が響く。そして、最後の魚たちのヒソヒソ声。
とても余韻の残る絵本です。
<ブログ> 産後の読書案内
紙の本おめでとう、1歳。 0→1 1歳になるママから、1歳になるあなたへ
2010/12/05 06:12
0→1(ゼロワン)。特別な365日を振り返り、祝う、母親と父親のための絵本
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
いくつになっても誕生日は特別な1日。けれどもいちばん感慨深いのは0歳から1歳になるときではないでしょうか。とりわけ親にとっては。
子どもが生まれて1歳になる。ママも1歳になる。
1歳になるママから、1歳になるあなたへ語りかける絵本です。書き込みもできるようになっています。
最初に大きな数字が書かれています。
0→1。これを「ゼロワン」と読むのがとてもいい。
3150g あなたが生まれたときの重み。
9195g 1歳になったあなたの重み。
からはじまって、
あなたが生まれたときの頭の先から足の先まで。
あなたが生まれた日に目を開けた長さ。
生まれたばかりのあなたが1日のうちに眠る時間。
あなたが一生の間に声をあげて泣く回数。
あなたが一生かけてわたしの腕に抱かれる時間。
成長の度合をあらわしていたり、0歳だからこそ多いことだったり。
数字が語る「0→1」はなかなか興味深く、奥深いものがあります。
今日は、あなたのはじめての誕生日。
親子3人で1本のローソクを立てたケーキを前に、ママが思い出をちょっとずつ、ゆっくりお話していくところからはじまります。
あなたのてのひらに指を差し出したとき。
はじめてあなたを外に連れ出した日。
あなたとはじめてわたしたちの家に帰ってきた日。
はじめてうちのお風呂に入った日。
あなたとはじめて公園に行った日。
あなたがはじめてこっちを向いて笑った日。
あなたがやっと、じょうずにおっぱいをすえた日。
はじめてのごはん。
あなたをはじめて大きな声でしかってしまった。
あなたがあなたの力で、ママのそばに。
あなたをはじめて保育園にあずけた日。
あなたがはじめて熱を出した日。
はじめての1歩。
ママが驚きと不安と喜びを語っていきます。
書き込みできる内容は
あなたの名前
あなたの名前の由来
はじめて家に来たときの様子
パパとママの部屋の様子
あなたとよく行った場所
あなたの好きなおもちゃ
あなたとの笑顔の思いで
あなたがよく着ていた服
写真を貼ったりしてもおもしろいかも。
とてもよかったのは、あとがき「いっぱいの愛を込めて」。
人が一生のうちでいちばん急速に大きくなるのは、0歳から1歳。
そして、はじめてその事実を実感するのは、
けっして、自分自身が0歳から1歳になったときではなく、
それを間近で見たときなんだと思う。
それはきっとわたしだけではなく、
子の最初の誕生日を迎えたすべての親が気づくよろこびで、
わたしは、そのよろこびをも
子と過ごした時間と、それを支えてくれた周りの人から教わっった。(P86)
ほんとうにそのとおり!
わたしは子どもの誕生日当日にはお産の経過を思い出しつつ、今の子どもの様子を密着取材のように、写真を撮って過ごしました。
洗濯物のかごの中に入り込んで遊んだり、おっぱいを飲みながら眠りにつく姿だったり、治りかけの水ぼうそうのあとがある顔だったり。
同じ1年、365日でも
ゼロからイチの365日はきっと特別で、どんな不安もいらだちも逆境も、吹き飛ばせる力を、ほんとうは持っている。」(「はじめに」)
そうなんですよね。渦中にいるときは、わからないかもしれないけれど。それは実感できます。
これは、子どもの成長を喜び、祝うだけではなく、自信をなくしたり、自分を責めたりするときもあるママたちに「もっと堂々と自分を愛せる、そのちいさなきっかけになりますように。」と、作者の松本えつをさんが願い、つくられた本です。
「がんばったあなた&妊娠・出産をしたお友だちへの贈り物に」と帯に書かれています。まさに最適!
1歳の誕生日祝いにするなら、当日ではなくちょっと早めがいいですね。
事前に振り返ることができれば、記念日を迎える感動はもっと大きくなりそうです。
子育てをしていくなかで、不安やとまどいを感じたり、悩んだりしない人はいない。自分だけじゃない、ってことを知るだけでもすこし安心できます。
まずはこの激動の1年間を振り返ってみる。
子どもの成長を祝うのと同時に、親になった自分自身をねぎらう。
そして、次へ進むパワーを得る。
そんなきっかけをくれる絵本です。
父親になって1年のパパ、パートナーともわかちあいたい。
カバー見返しには土屋アンナさんの感動と感謝のメッセージもあります。
<ブログ> 産後の読書案内
2010/10/18 15:04
空を見て、深呼吸したくなる。美しく、静かな写真とのハーモニーが素敵なアンソロジー。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まど・みちおさんの詩と4人の写真家・美術家のコラボレーション。
詩と写真が一体化している、とても素敵な一冊です。
写真は奈良美智、川内倫子、長野陽一、梶井照陰。
収録作品は
チョウチョウ
けしゴム
ことり
アリ
根
どうしてだろうと
ぞうさん
ノミ
おならは えらい
どうぶつたち
人ではない!
カ
いちばんぼし
ねむり
れんしゅう
臨終
リンゴ
いわずに おれなくなる
深い夜
ぼくが ここに
冬至
どうして いつも
さかな
するめ
「アリ」では蟻の写真が使われていますが、必ずしも写真と詩が対応しているわけではありません(「チョウチョウ」も「リンゴ」もちがっています)。
「そのもの」ではなくても、詩の世界がどんどん広がっていくような、とても素敵な写真が選ばれています。
前後の見返しに余白のない写真が使われているのがとてもいい。印象に残ります。
セレクトされた詩については、まどさんの代表的なものが多いように思いますが、特筆すべきは2010年新春に放映されたNHKスペシャル「ふしぎがり~まど・みちお 百歳の詩~」のなかで紹介された2000年の作品「れんゅう」が、単行本では初所収されていること。
この詩ひとつにとどまらず、前後の詩の流れもぜひ、感じたいところです。
さらに全体でひとつの大きな世界がつくられています。
本のタイトル『うちゅうの目』というのは秀逸です。
たくさんの詩を作られているまどさん。
詩集や全集、アンソロジー、それぞれの魅力がありますが、この本は、美しく静かな写真とのハーモニーが特徴です。
おもわず空を見て、深呼吸したくなります。
深く、味わっていただきたいと思います。
<ブログ> 産後の読書案内(本のことあれこれ)
紙の本おでんおんせんにいく
2010/09/24 07:08
いろいろなおでんが「温泉ランド」に大集合。どんな湯があるのかな…?おとなも子どももたのしめる、奥の深い傑作です!
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
さつまあげさん(おとうさん)、たまごさん(おかあさん)、ばくだくん(ひとりむすこ)の家族がおんせんランドに行って出会う、たくさんの人(?)たち。
読んでいるだけで、なんだかほくほくにあたたまるおはなし。
ことば遊びもたのしい傑作です!
連休におんせんランドにでも行こう、と提案したさつまあげさん。たまごさんも賛成、ばくだんくんは大喜び。
「どうやっていくの?」「おでんしゃにのっていくんだ」
丁寧語の「お」というより、これはおでんの世界では必須語(?)としての「お」ですね。予約は「おでんわ」で。
おんせんランド行きのおでんしゃは他にも家族連れがいます。がんもどきの家族、ちくわの家族。
到着して「ねりの間」に案内されると、さっそくお風呂に向かいます。
たくさんあるお風呂、これがまたすごいんです。
「おしるこの湯」「チーズフォンデュの湯」「クリームシチューの湯」…まだまだあります。それはまきものさんとこのおしゃべり3兄弟が説明してくれますよ(これがまたおもしろい!笑いのツボがたくさん!)
来ているのは、ほんとうにたくさんの人(?)たち。
おもち、しゅんぎく、あられのこどもたち、じゃがいも、カリフラワーに見えるブロッコリー、にんじん、マッシュルーム、コーン、ごぼまき、いかまき、えびまき、とうふの家族、バゲット、なると、そしてなぜか象まで(理由は見てのおたのしみ)!
最後にとても混んでいる「おでんの湯」に行くと…いたいた!おなじみおでんに入っているあの人(?)たち。
ちょっとしたハプニングも、協力しあって一件落着。あたたかい笑い声が響きわたります。
それにしても、よくできたおはなしです。
登場人物(つまりは食べ物ですが)の特徴をよくとらえています。たくさんの種類の「湯」も、それに見合った(または見合わない)組み合わせ。笑いながらも感心してしまうこと、しきりです。
見開きページすべてに描かれたた長谷川義史さんの絵(カラーも白黒もあり)もまた、素晴らしい!本文に書かれていないところまで描かれていて、おもしろさが増しています。
カバーの袖に書かれた、中川ひろたかさんの「みなさんへ」の文章がとてもいいので紹介します。
『みなさんのまわりには、いろんな人がいますね。
みんなちがう顔をして、みんなちがう声をしている。
よーく見ると、歩き方やわらい方だって、みんなちがいます。
でも、それでいいのです。いろいろだからおもしろい。おでんもそう。
いろいろあるから、楽しいの。いろいろあるから、うれしいの。
いろんなおでんのおはなしです。おたのしみに。
おはなしをかいた 中川ひろたかより』
ほんとうに、おでんの具は、いろいろだからうれしいんですよね。人間の世界も同様。
おでんといえば、リリー・フランキーさんのこれまた傑作『おでんくん』がありますが、この作品は、言ってみれば「別腹」のおいしさ。
食わず嫌いはもったいない。ぜひ、読んでみてください。
子どものみならず、おとなもたのしめます。
さて、今晩はおでんにしてみますか!
本についてのよもやま話。 <ブログ> 本のことあれこれ
紙の本かちかち山
2010/07/05 06:21
まるで掛け軸のような、昔の雰囲気が伝わる絵。昔話が伝えるものがストレートに響いてくる、上質な「いまむかしえほん」シリーズの一冊。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
岩波書店の「いまむかしえほん」シリーズは、おなじみの昔話がたいへんいい味つけで提供されていて、気に入っています。
この『かちかち山』は、わたしにとっていちばん印象深い昔話のような気がします。子どもの頃に絵本が家にあり、何度も読んだからでしょう。
数年前に森繁久彌さん朗読の昔話のCD『21世紀の孫たちへ』を手に入れ、子どもたちと繰り返し聞いていますが(特に小5の長男はよく聞きたがります)、この中でも特に印象的なのは『かちかち山』なのです。
おじいさんが畑でまめまきをするときに「ひとつぶのまめ、せんつぶになーれ」と唱えるのですが、これが森繁節なのですからたまらない。
この絵本でもそのシーンがあり、うれしくなりました。
おじいさんが一生懸命作業しているのをたぬきが切り株に腰かけてからかいます。くやしい思いをしたおじいさんは、たぬきをつかまえて家に連れて帰り、しばりあげ、おばあさんに託してまた畑へ。その後の展開はご存知のとおり。
この絵本ではたぬきがおばあさんに化けておじいさんを迎えます。その後の残酷さといったら…たぬきがうさぎから成敗されるのは当然!
横開きのページが縦切にレイアウトされています。文字の左隣りに絵があり、文字と絵が交互に配置され、見開きで2つのシーンがある、というわけ。文字と絵の配分は、シーンによっていろいろです。
墨で描かれた絵はまるで掛け軸のようです。
背景のくすみがかった日本的な色、そこに描かれた畑や草などの模様がとてもいい。効果音のような役割を果たしています。
たぬきやうさぎも、擬人化されすぎておらず、動物らしさがあるのは、やはりあべ弘士さんだからこそ描けるものでしょう。あっぱれな出来栄えです。
せっかく昔話を読むのだったら、このシリーズのような、昔の雰囲気が充分に伝わってくる、そして昔話が伝えるものがストレートに響いてくる、上質な絵本を選びたいものです。
本についてのよもやま話。 <ブログ> 本のことあれこれ