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  3. 森山和道さんのレビュー一覧

森山和道さんのレビュー一覧

投稿者:森山和道

14 件中 1 件~ 14 件を表示

紙の本

紙の本タイム・シップ 上

2001/05/05 04:26

ハードSF作家が書いた冒険SF

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ハードSF作家として知られるバクスターが、H・G・ウェルズの古典「タイムマシン」の続編として書いた小説。面白いわ、これ。バクスターが多分小さい頃に読んだであろう原風景的なSFシーンがそのまんま生の素材として随所に織り込まれながら、なおかつバクスターらしいテーマを追求し続けて生まれた小説、といったところ。バクスターの宇宙観、世界観といったものも<ジーリーシリーズ>よりも遙かに分かりやすい形──ある意味「生」のまんま──で、提出されている。

 バクスターはハードSF系の人だが、本作は一見、バロウズの冒険小説風の物語展開で、すらすらすいすいと読める。多分、誰でも読める。

 以前「SFマガジン」誌上で、柴野拓美氏がバクスターに「ジーリーシリーズは『レンズマン』だね」と言ったら、バクスターが「そういう風に読んでくれると嬉しい」と答えたというエピソードが披露されていた。僕はそれを読んで「あっ、そうか」と思ったのだが、この本を一読すれば、バクスターが元来、昔ながらのSFマインドを基底に持っている作家だと誰もが納得するのではなかろうか。昔ながらのSFマインドとは、SFの持つ冒険小説としての側面と思索小説としての側面、両者を大事にする心、といった意味だと考えて頂きたい。

 昔「タイムマシン」を読んだとき、ビルがだんだん上に伸びていったあと今度は横へ繋がりはじめた、という時間旅行の風景描写があった。そのシーンが妙に心に残っていたのだが、その辺も再現されていて思わずノスタルジアに浸ってしまった。

 要するに「買い」ということです。

初出:http://www.moriyama.com/SF.98.3.htm#sf.98.3.01

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紙の本

「太陽系形成論」から「汎惑星系形成論」へ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 太陽系とは、そして地球とは、そもそもどのように誕生したのだろうか。

 本書は、惑星形成論の現在の成果をコンパクトにまとめた本である。まず一般的な惑星系形成の話から始まり、そこから太陽系の形成論の現在、観測によって明らかになった実際の惑星系、意外なその姿、さらにそこから発展する惑星系形成理論の展開がまとめられている。その他、月形成の話、そして「地球」がどのくらい銀河系に存在しうるかなどなど、結構盛りだくさん。また太陽系形成論の発展の歴史も面白かった。文体が硬いのが気になるが(特に前半)、気軽に読める形式でまとまったのは嬉しい。月形成についてはページのはしに、パラパラマンガの形でシミュレーション結果がまとめられている。これはナイスアイデア。やっぱり動きがあるものは「動く」形で表現されないと分からないのだ。

 現在の太陽系形成論にもまだいくつか難点がある。ダストから微惑星への形成過程や、ガス惑星形成の時間、原始惑星ができたあとの惑星形成過程とその後の円軌道への移行などなどのことだ。本書はその辺のどこがどう問題なのかということも淡々とではあるがちゃんと描かれているところが面白い。科学書一般に言える話だが、どこからどこまでが分かっていることなのか、そしてどこからは分からないことなのかということをきっちり描いてくれる本がやっぱり面白いのだ。そういう意味では、もうちょっと分かってないところや問題点を強調してくれると、個人的にはなお面白かったかも。

 観測からの問題提起も面白いところである。理論の人たちは太陽系以外の惑星系も何となく太陽系みたいなものだろうと思っていたのだが、実際に発見されたのは恒星のすぐ近くを回る巨大なガス惑星とか大離心率を持った惑星系とか、「異形」の惑星系ばかりだったのだ。しかも、どうやらこれは特殊ケースではないらしい。だがその一方で、太陽系形成の「標準モデル」も間違ってはいないようだ。いったいどこがおかしいのか?

 どうやら形成過程を考える上での仮定にある種の「思いこみ」があったらしい。惑星は中心星からの位置を変えずに成長するわけでもないし、必ずしも安定した状態で恒星の周りをぐるぐる回っているわけでもないらしいことが逆に分かってきた。こうして繰り返される再検証仮定を経て、太陽系形成論はより一般的なものに、そしてよりダイナミックで面白いものになりつつあるように見える。著者らの表現によれば「太陽系形成論」は「汎惑星系形成論」へと脱皮しようとしているのだ。

 後半はジャイアント・インパクトのシミュレーションを中心とした月形成の話になる。そこはあちこちで紹介されているので省略するが、月がないと地球の自転軸が安定せず、その結果、安定した気候が保証されない、という話は何度読んでも面白い。月がなかったら地球に現在のような生態系はなかった可能性が高いのだ。天文の世界から見る生命観は独特である。

 というわけで、基本的にはお買い得な本だと言えるだろう。パラパラマンガを見るだけでも楽しいし(笑)。

 なお<ネットサイエンス・インタビュー・メール>で行った、著者の一人・井田茂氏へのインタビュー録がhttp://www.moriyama.com/netscience/Ida_Shigeru/index.htmlにあるので、興味がある方は参照して欲しい。

初出
http://www.moriyama.com/1999/sciencebook.99.12.htm#sci.99.12.24

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紙の本

紙の本ちほう・の・じだい

2001/05/05 04:07

何気ないプロの技が光る

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 梶尾真治は、筆力の人である。プロットは、それほどあっと言うようなものではない──むしろ平凡、どこかで聞いたことのある物語が多い。いわゆる1アイデアストーリーだ。それを、筆力で読ませてしまう人なのだ。要するに、読ませる技を心得ている人なのである。語り口は何気ない──が、この「何気なさ」がくせ者なのである。ついついページを繰らされてしまうのだ。ああ、他に読まないといけない本があるのに、なんて思いながらも、ついつい読んでしまう。

 本書には、そんな物語が11篇集められた短編集。内容は、まさに「バラエティーに富んでいる」としか言いようがない。いわゆるハードSF以外は、全て収められている。まさにアイデア一発ものから、じんとさせる小編、爆笑ギャグ、他作家のパロディーまで。著者が思う存分筆を振るった成果を味わえる。

 一押しは、と言われるとやっぱり「時の果の色彩」になっちゃうかな。表題作「ちほう・の・じだい」、本領大発揮(?)の「絶唱の瞬間」や「金魚のひさご」も捨てがたいが。うーむ、どれも捨てがたい。どれも良いよ(笑)。

 しかし、この構成力は、いったいどこから出てくるのだろうか。何気ないプロの技だ。

初出:http://www.moriyama.com/SF.97.9.htm#sf.97.9.03

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紙の本

紙の本ザ・マミー 上

2001/05/05 03:59

ハーレクイン・ロマンス的なお話

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 エジプトの王、ラムセス2世。彼のミイラが発見されたところから物語は始まる。実はラムセスは不死の人間だった!というわけで、かつてのエジプトの大王が蘇る。生まれながらの大王である彼は髪はふさふさ、筋骨たくましく、お目々きらきら、という風貌で女性を一目で虜にしてしまう、要するにハーレクイン・ロマンスなどの表紙そのまんまの男。実際、ストーリーもほとんどソープオペラかメロドラマ。ラムセスと、ヒロインの考古学者の娘は恋に落ちる。そしてエジプトに出かけたラムセスが、博物館の身元不明のミイラの中にかつての恋人クレオパトラの姿を発見して…。

 もちろん、もっと普通の登場人物もいっぱい出てきて色々とやるわけだが、おおざっぱに言えばこういう話である。身も蓋もないが、本当にこういう話なのだ。アン・ライスが本当に書きたいのは要するに、素晴らしく超自然的にパワフルな良い男と、これまた超自然的な絶世の美女、この世のものならぬ美しい存在が、死すべき定めの人の世界を歩き回る絵なのだろう。もちろん、こういう存在を通して、この世の人間模様、内面などを描く、というのもあるのだろうが、それよりも何より実際に描き出したいのは、そういうことなのだろうと思う。だから、そういう絵に引かれる人は思わず病みつきになってしまうのだ。

 とくにこの「マミー」は「生きることとは?」みたいな重いテーマは特に感じられない。むろんところどころには覗いてはいるが、どちからかというと、やはり「ハーレクイン・ロマンス」といった感じだ。

 なお、本作はジェームズ・キャメロンによって映画化されることが決定しているという。本書は、実はもともと映画の脚本として書かれたそうな。で、それが一度流れてしまったのだが、また日の目を見ることになったのは「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の成功が大きかったらしい。ラムセスとクレオパトラ、いかにも絵になりそうだしなー。ちなみに、著者本人はアントニオ・バンデラスが大のお気に入りらしい。しかも、その映画を期に、本書の続編も書かれるかもしれない、という。

 <ヴァンパイア・クロニクルズ>のレスタト(映画ではトム・クルーズがやってた奴ね)同様の外見の主人公、ラムセス。アン・ライスはこういう人がお好みなんだろうなー、きっと。身体は不死、しかし中身は苦悩もすれば欲もある、ただの人間…。まいどお馴染みとはいえ、やはり魅力的で、使い勝手のあるキャラクター設定ではある。

初出:http://www.moriyama.com/SF.97.2.htm#sf.97.2.03

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紙の本

紙の本ヴィーナス・シティ

2001/05/05 03:53

作者の先見の明に感嘆

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 SFマガジンに連載後、単行本化され、93年に第14回日本SF大賞を受賞した作品。この度文庫化されたので購読した(連載時、私はひろき真冬氏のイラストしか見てなかった。今読むとイラストから受けるイメージはかなり合っていたと思う。なお、本書にはイラストは全くない。これは残念)。

 VR技術が発達し、日本は電子ネットワークによって世界中に影響力を持つようになっている近未来。コンピュータ内の情報世界に構築されたヴァーチャル都市「ヴィーナス・シティ」が主要舞台。

 軽快なテンポで物語は語られ、様々なガジェットが登場する。その中には「端末喫茶」など、今読むと作者の先見の明に驚かされるものもあり、かなりリアルに感じられる。特にこの文章を読んでいる人(ネットワークに接続している人々)にはかなりリアルに感じられると思う。いくつかのSFガジェットには納得できないモノもあるが、ツボをうまく押さえている。

 敢えて難を言えば、前半の軽快さの分、後半ちょっと進行がだれて感じる。最初はかなりもの珍しく感じる「ヴィーナス・シティ」世界に慣れてくることもあるのだろうが、構成そのものも、後半は少し練りが足りない気がした。また、雑誌連載時のままの原稿をほぼそのまま掲載したものらしく、雑誌連載に特有の「説明的描写の繰り返し」が散見される。できれば書き直して欲しかった。

 しかし、非常に楽しく読めたSFだった。次作にさらに期待する。

初出:http://www.moriyama.com/SF.95.12.htm#sf.95.12.05

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紙の本

環境問題は長期戦である

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 地球が温暖化して地球環境が破綻すると信じている人がいるが、それは間違いである。確かに生態系には影響が出るだろうが、別に地球環境は破綻などしない。破綻するのは人間が構築してしまった経済社会である。

 という視点をまず強調する本書は、地球温暖化問題を取り巻く現状と、その拠り所となっている気候モデルの実際、そしてなぜ今対策が必要かということを述べた本。次世代気候モデル開発の話などもふれられている。全体的に「地球が暖まって何が悪いの? 実のところ何がどうなの?」といった素朴な問いに対して、気象学の立場から素直に応えられている形になっており、実に面白い。

 このシリーズの常として、巻末には座談会が付属。松井孝典、石弘之、著者の3人。それぞれの立場から忌憚ない意見が述べられていて、これまた面白い。

 地球温暖化にどの程度人為的な影響があるのか、それはまだ実証されていないので分からない。気象というのは実にややこしく、分からないことが多いのだ。

 たとえばかつては温暖化すると台風が増えると言われていたが、最近の研究によるとそうでもないことが分かったという。こんな状況なのである。だが一方で、実証されてからでは手遅れになる。だから取りあえず気象モデルを信じて何か対策を打ちましょう、というのが現在の実態である。

 仮に地球が温暖化したらどうなるか。温暖化といっても地球全体が温暖化するわけではない。主に極地方の気温が上昇する。その結果氷河が溶けて海面は上昇するが、いっぽう、温帯域は広がる。長期的に見た場合、ヒトという種にとっては生きやすい世界になるかもしれない。

 だが人間が作り上げた経済社会は、温暖化に伴う変化に過剰に応答する可能性が高い。平たく言えば崩壊しかねない。だから何とか現状を守りましょう、と言っているのが現在の温暖化問題であるということを自覚しておかないと、地球温暖化の何を議論するにしろ、議論の本質がかみ合わないことになる。

 自由主義経済あるいは近代文明は、欲望の追求と解放を是として今までやってきた。それはもはやどうしようもない。賽は投げられている。そこをどう押さえ込むのか。まさか我慢を国が強要するわけにもいくまい(たとえば本書によれば、環境政策のみに注目すれば、ナチスは非常に良い政策をしいたと考えられるのだそうである。今のドイツにもその影響は残っているのだという)。我慢だと国民が感じないような形で、成長を抑えていくしかない。だがそんなことに耐えられるのか。

 とにかく化石燃料を燃やしてエネルギーを使えば温暖化は進行するのである。現在、日本をはじめ先進国はCO2など温室効果ガスの放出を如何に抑えるかということに躍起になっているように見えるかもしれないが、景気が良くなれば温暖化は進むのだ。じゃあ不景気のままでいいじゃないかというわけにはいかないのが、温暖化にもっとも影響を受ける経済社会なのである。だから話はややこしく、堂々巡りになりがちなのだ。問題は複雑で(ある意味単純とも言えるが)、いまのところ解決の糸口はほとんど見えない。

 著者は長期戦だと思ってのんびりやればいい、と語っている。やれることからやり、あまり効果が出ないようでも続けてやれ、ということだろう。

初出
http://www.moriyama.com/1999/sciencebook.99.12.htm#sci.99.12.22

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紙の本

なぜ我々は生物多様性に関心を払わなければならないか

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 まずエルドリッジは<生物多様性>に関する問いを掲げる。以下の4つだ。

1.生物多様性とは何か
2.生物多様性の価値と人間生活に対する意味、さらになぜ我々は生物多様性に関心を払わなければならないか
3.正確には何が生物多様性を脅かしているのか
4.第六の大量絶滅に対して我々に何ができるか

 本書はこの4つの問いそのものと、それぞれの答えに関する著者の考えを広めるための本である。

 まず冒頭、そして本書の最後まで登場するのがアフリカ・ボツワナの北部にあるオカヴァンゴ大湿原と呼ばれる三角州地帯である。ブッシュマンという名で知られるサン族が住むこの地はは古代人類の化石が多数発見されている場所であると同時に、人類による乱開発と(人間活動というよりは自然な)気候変動によって絶えず擾乱され、生態系が危機にさらされている地域でもある。つまりオカヴァンゴは、我々の過去・現在・未来の象徴的な場所であり、現在我々が直面している世界の縮図でもあるとエルドリッジはいう。

 話はシロアリをはじめとしたオカヴァンゴの生態系を支える生物相や状況の紹介にはじまり、生物多様性や進化の概念そのものの解説へと移っていく。この辺にはエルドリッジがグールドと唱えている「断続平衡」の考え方が「ときには意図して、しかしときにはほとんどひとりでに顔をだしている(訳者あとがき)」。 たとえば、こうだ。


現在の古生物学者は、生態系──およびその生態系に含まれる種の個体群──が驚くほど本質的に安定であることを理解している。(中略)何百万年もの間、これらの種は明確な進化的変化を、(まったくないわけではないが)ほとんど行っていない。しかしこのような安定した群集の中で、次の安定的な生態系まで生き残ることができるものは、平均するとわずか二〇パーセントしかない。境界期において生態系が突然に崩壊し、大部分の種が失われ、新しい異なる種が登場して絶滅した種の場所を占めるというのが、ここでの鍵である。急激かつ深刻な変化の後にさらに崩壊が続くことがなければ、生態系と種の両者は比較的不活発な長期の安定状態に落ち着く。(中略)進化は、それに先立つ絶滅に大いに依存しているように見える。前に存在していた種と生態系が大崩壊したとき初めて、新しい種や新しい適応が現れるようである。(P.102)


 本書は基本的にこういう思想のもとで書かれた多様性保全を訴える本である。結局のところ結論はいつもどおりで、持続的利用のためにどうバランスをつけるかということなのだが、その例にパナマ運河を持ってきて説明しているところがちょっと面白い。

 最後に以下の6つの提言がまとめられている。

 1.問題を認識しなければならない。
 2.人口を安定化させなければならない。
 3.経済学の教科書を書き直し、持続性の概念を微調整しなければならない。
 4.既存の専門知識を保全のために活用しなければならない。
 5.人間の経済的必要と、生態系および種の継続的かつ健全な生存とのバランスを取らなくてはならない。
 6.政治的な意思と行動計画を展開しなくてはならない。

 これだけでは何がなんだか分からないが、その辺は本文を。

 巻末には付録として<1600年以降の絶滅動物>リスト、<不可欠な微生物、菌類、動物、植物>リストがついている。現在の見積もりでは、人類は毎日40,000種以上の種を利用するのだそうである。そのうち1%のリストである。思いもかけない生物の名前が並んでいる。

初出
http://www.moriyama.com/1999/sciencebook.99.12.htm#sci.99.12.20

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紙の本

紙の本ミクロ・パーク

2001/05/05 04:38

ハードSF+ハリウッド映画調の子ども大活躍物語

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 非常に単純にいうと、超小型のロボットにダイレクトに神経接続して操縦する技術を生み出した会社の社長の息子たちが、その技術を盗もうとする悪い奴をボコボコにやっつける話だ。マイクロマシン+神経接続による直接操縦のアイデアを生かしつつ、ホーガン節を利かせながらハリウッド映画調の子ども大活躍ストーリーに仕立てました、って感じのストーリー。トイストーリー+グーニーズってところかな。実際、スピルバークあたりが映画化してくれたら楽しい映画になりそうだけど。

 エンターテイメントとしてはこんなもんじゃないかな。ただ、こういう話は小説よりも映画のほうがずっと楽しいよねぇ。

 作家には向き不向きがある。一時期のポリティカル・フィクションばっかり書いていたころのホーガンより、こっちのほうがずっと良いことは間違いない。ただ、ハードSF的な面にはやや不満。神経接続の手法が『仮想空間計画』で描かれていたものの使い回しであるのは取りあえず許せるとして、ミクロサイズの不思議な世界をもうちょっとちゃんと描写して欲しかった。ホーガンならできるはずだ。

 またマイクロマシンを実際に成立させるための技術的ウソも、きっちり展開して欲しいところだった。アメリカではMEMSと呼ばれるこの技術、いくつか大きな問題がある。たとえば耐久性だ。あまりに小さいために、摩耗であっという間に部品がダメになってしまうのである。また超小型ロボットを作るならば、アクチュエーターをそのまま構造材にしたりといった工夫も必要になる。そのへんをもっと丁寧に描き出して欲しかった。また金子隆一氏の解説内容も、ちょっと古いような気がする。

初出:http://www.moriyama.com/2000/SF.00.4.htm#sf.00.4.01

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紙の本

ブレインマッピングの成果をベースに心の働きの不思議を脳に追う

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 幸せそうに笑っている人を見ると、こちらまで何となく幸せな気分になってくる。なぜだろうか?

 見ている側の脳の、幸福を感じる部分が反応するからだ。しかも感情表現は感情そのものをも生み出すことが分かっている。つまり笑っていると幸せな気分になれるわけだ。「笑う門には福来る」は脳科学から見ても当たっているのである。

 本書の内容はベストセラーとなった『脳のなかの幽霊』(角川書店)と共通している。つまり近年のブレインマッピングの成果をベースに、心の働きの不思議を脳に追う本だ。

 右脳と左脳の連絡がとぎれたために片腕が勝手に動く症例「エイリアン・ハンド」。猥雑な言葉を口走らずにはいられないジル・ド・ラ・トゥレット症候群。大脳辺縁系と新皮質との連絡が絶たれると物事を感じることができなくなり、評価ができなくなる。自分が死んだと思いこむコタール妄想。五感が混ざり合ってしまう共感覚などなど多彩な症例もやはり登場する。

 こちらはカラーで図版も多い。だがラマチャンドランのようにキャラ立ちした「主人公」がいないところが違うところだ。だがそれでも、じゅうぶん面白い本である。間にちょいちょいと入っている脳研究者からのコラムも面白い。

 この本でも幻覚は大きく取り上げられている。自分を虐待した父親の姿につきまとわれていた女性の話は特に面白い。彼女の脳を計測した結果、非常に面白い反応が見られた。彼女の前に電球をつける。そしてその前に人が座っているところを思い描いてもらう。すると、電球を示す反応が消えたのである。つまり幻覚が電球を遮ったのだ。幻覚はありありと、まるで実物のように感じられるというのは本当だったのだ。

 現在では、幻覚は主に新皮質の働きで作られ、大脳辺縁系は影響を受けないらしいことが分かっているという。その結果、子どもがしばしば口にする「空想上の友達」は、子どもにとっては実在するのだが、感情面にはあまり影響が出ないことが説明できるという。

 いっぽう、フラッシュバックはこれとは違う。フラッシュバックは激しい恐怖などを伴うことが多い。これは、フラッシュバックは幻覚ではなく、既に意味づけされた記憶であるからだという。

 なるほど。分かったような分からないような話だが、いちおう納得はできる。今後、より細かい話が分かってくると、より面白くなりそうだ。

 著者が最後に意識の座として注目して取り上げているのは前頭葉、特に前頭眼窩皮質。辺縁系から生まれる衝動を抑圧し、長期の計画を実行するために不可欠と考えられる部位だ。だが、衝動はそもそも行動の原動力である。何を選択し、何を抑圧するのか、それは具体的にどのような形で機能しているのか。今後の研究を待ちたい。

初出:
http://www.moriyama.com/1999/sciencebook.99.12.htm#sci.99.12.26

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紙の本

紙の本第81Q戦争

2001/05/05 04:11

SFとしか言いようのない物語

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 新刊案内のペラに「超人気アニメ『エヴァンゲリオン』の原点 人類補完機構シリーズ」とあったので、ひょっとすると、帯にまでそんな事が書かれているんじゃないか、と怯えていたのだが、幸いにしてそれはなかった。ふう。安心安心、ひと安心。しかし、昔「宇宙の戦士」に「ガンダムの原点」とかいう帯をつけて売ろうとした会社だからなあ(実際に効果があったかどうかは知らない)。まだ安心はできん。売らんかな、は分かる。しかし早川書房よ、あまりに節操のないことはやめなさい。みっともない。よりによってコードウェイナー・スミスの本に…。

 「SFはすべて特別である。誰もが気に入るSFというものはない」というフレデリック・ポールの序文から始まる本書は、しかし、かなりの人にオススメできる一冊である。スミスの小説からは、まさに、SF以外からは感じられない感覚が惹起される。SFなのだ、本当に。これがSFでなくて何がSFなのか、というSFだ。

 かなりセンチに言えば、スミスは──、
 広漠荒涼とした地に咲く、ただ一輪の花──その花について物語る、語り部だ。

 花について、何を語る?
 それは滅びゆく悲しみ? 儚い希望? 淡い夢? 狂気の哄笑?

 生きること。生き続けていくこと。その悲しみ。人の心を超えた、冷たさ。時の流れ。宇宙の深淵。超絶。

 こういうと甘ったるい小説みたいだが、実際にはスミスの作風は甘くはない。素気ない描写。どこか突き放した文体。皮肉な視点。物語の終わりは時として唐突。徹底的な過去形で歴史を語り続ける。

 それでいて、心に残響を残さずにはいられない文章、物語。凄絶でいて、静謐なピアノソナタのような物語。

 この読後感を出せる作家、語り部としての才能──が、余すところ無く満ちている本書。収録された短編は、一部が<人類補完機構>もの、そしてそれ以外、となっているのだが、どれが<人類補完機構>であるか、そうでないか、その境界は目次ではっきりと分けられているよりも、ずっとあやふやだ。特に区別する必要もないと思う。

 スミスを読んだことのない人のために、以下に本書収録の小説のいくつかの冒頭部分を引用する(読みたくない人は読まないで)。

 ことは戦争に帰着した。 「第81Q戦争」

 月日はめぐり過ぎた。地球は生き続けた。打ちのめされ嘖まれる人類が、膨大な過去の輝かしい廃虚を這い抜けている、そのさなかにも。 「マーク・エルフ」

 なによりも、めざめるにつれ、まず求めたのは家族の姿だった。 「昼下がりの女王」

 「あんた想像ができるか、酸性の霧を通して、人間の雨が降ってくるところを?」 「人びとがふった日」

 こんな感じ。全部で14の短編が収録されている。
 もし未読なら、既刊の「鼠と龍のゲーム」「ノーストリリア」「シェイヨルいう名の星」と合わせて読んで、スミスの宇宙に浸って頂きたい。

初出:http://www.moriyama.com/SF.97.3.htm#sf.97.3.01

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紙の本

紙の本キリンヤガ

2001/05/05 04:31

哀しい狂信者の物語

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 テラフォーミングされた小惑星・キリンヤガに、滅んだ民族キクユ族のユートピアを創ろうとした男の物語。連作短編集形式で繰り返し繰り返し同じテーマが奏でられ、やがてクライマックスへとなだれ落ちる。

 これは、哀しい狂信者の物語である。静止した状態のユートピアがあり得ると信じ、失われた生活様式、慣習と伝統を取り戻そうとした男の。変わってしまってはそれはもはや、彼が考える「キクユ族のユートピア」ではない。だからありとあらゆる変化をもたらす可能性のあるものとの接触は、避けなければならない。もし接触を始めたら一つ一つ伝統が失われ、「もはやキクユ族ではなくなってしまう」。だからキリンヤガに留まりたければキクユ族として生き、キクユ族らしく振る舞わなければならない。キリンヤガに住むのはキクユ族だけなのだから。

 だが変わらぬものなどない。人間は林檎をかじらなくても知恵をもち、好奇心を持っている。智恵を持って世界を変えようとする。飛ぼうとする。外を覗こうとする。だがそれを許してしまっては「キクユ族のユートピア」は崩壊してしまうし、もともとキクユ族はそんなことはしない。そんなことをするのはヨーロッパ人だ。キリンヤガにはキクユ族しかいない。だからそういう者は排除するか、服従させなければならない。

 結果、ユートピアはディストピアとなった。だがこれこそは「キクユ族のユートピア」なのだ。けれども、ユートピアという概念そのものももともとはキクユ族にはなく、実は借り物なのである。

 と、こういう話である。

 「幸福」という概念そのものも生まれたのは200年前くらいのことらしい。世の中には幸福という概念がない人々もかなりいるのである。なにが幸福か分からないように、何が楽園なのかもわかりはしない。完璧な世界は完璧な故に閉じている。だがそこには成長はない。キリンヤガが文字通りインパクトによって彼の考えたキリンヤガでなくなることは、運命だった。

 と、「いろいろなことを考えさせられました」と書きたいところなのだが、どちらかというと著者のあざとさが目に付いた作品だった。もっとも象徴的な作品はやはり『空にふれた少女』。

初出:http://www.moriyama.com/1999/SF.99.6.htm#sf.99.6.02

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紙の本

紙の本天使の囀り

2001/05/05 04:22

飽きないテンポと構成で書かれた、優れたエンターテイメント

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 文句なしに誰にでもおすすめできる一冊。

 ホスピス医・北条早苗の恋人は、南米アマゾン調査から帰国した後、まったく人格が変わった末に、自殺してしまった。「天使の囀り」が聞こえる、という奇妙な言葉を残して…。その他の隊員たちも、次々と不可解な方法で自殺していく。早苗が探り当てたその真相の果ては──。

 飽きないテンポと構成で書かれた、優れたエンターテイメントである。
 一応ミステリ仕立てのホラーの形を取っているが、ネタそのものの見当は冒頭30ページでついてしまう。だがそんなことにお構いなく、ぐいぐい読ませるだけの筆力と文体と物語の構成力を著者は持っている。

 現実以外のものを描くためには、まず現実をしっかり描き込まなければならない。そして、ほんのちょっとだけ「外す」。そのことが良く分かっているんだなあ。

 本書はまた、膨大な知識を背景にして描かれている小説でもある。エンターテイメント性を失わせないまま、それを巧みに組み合わせて見せる手腕は驚くべきものだ。衒学的な楽しみを求める読者にも、純粋に語りの面白さを求める読者にも、文句なしにおすすめできる一冊である。

http://www.moriyama.com/

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紙の本

人類は常に“神”に挑戦し続ける

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1971年1月から半年間連載された。いまになって読み直すと、当時の未来ビジョンがよくわかる。正確に言えば、当時、驀進するかに見えた生物学による未来ビジョンが、現在の未来のイメージを作り出したのだということが非常によく分かる本となっている。もともとが新聞記事だけに、それぞれのエピソードはコンパクトにまとまっていて読みやすい。

<目次>
 脳をあやつる男
 男?女
 天才をつくる
 ベッドフォードは復活するか
 首だけの生命
 人工子宮
 試験管ベビー
 ジキルとハイド
 細胞を切る光のメス
 借物人間と部品人間
 繁殖への警鐘
 記憶交換
 誕生の魔術
 神経を育てる
 生命合成
 不老長寿
 遺伝の手品
 幸福薬
 ニオイの利用
 攻撃性
 造化の指揮官
 盗まれた心臓
 X病原体
 ピンポイント脳手術
 人間の未来……?
 ≪物≫の再利用
 夢がない!
 人間の越権?

 シンポジウム<人類の未来と科学>
   久野収・小松左京・都留重人・渡辺格・河合武

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紙の本

目次その2

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(鈴木クニエさんが入力したものを森山和道が代理投稿)

    〜整数〜
素数
 素数か合成数か/素数狩り/素数分布の法則
完全数と友愛数
 完全数のきびしい掟/数の世界の友情の絆
メルセンヌ数.誤解と記録
整数論の基本定理
 数nの約数の個数はいくつか/数nの約数の和は何に等しいか/
nを超えない,nと互いに素な自然数はいくつあるか
余りの算数と合同式の理論
 剰余類への分類/合同式とその性質
不定方程式
 1次不定方程式の解法/2次不定方程式
フェルマの大定理
 謎の主張/無限降下法/n=4の場合の証明/n=3の場合の証明.オイラーの突破口/大定理と代数的数の理論/ついに証明さ
れる!
エピソード
 双子素数/666/フェルマ数/万年カレンダーの公式/リーグ戦の対戦表の作り方/要素の長さが整数値である図形/フェル
マの小定理/フェルマの大定理,n=3のときの証明の考え方/フェルマの大定理の最終的な征服

 〜実数〜
有理数
 単位分数の和に分けられる分数/六十進分数と十二進分数/有理数の概念/小数/無限小数と循環小数
無理数
 《おろかな》数の歴史/有理数による無理数の近似/有理数+無理数
連分数
 正則連分数/連分数の値の求め方/連分数の作り方/近似分数/一般的な連分数
ユークリッドの互除法
フェイディアスの数と黄金分割
超越数
 円の魔法に打ち勝つ/無数の軍勢
円周率π
自然対数の底e
エピソード
 ピタゴラス派の発見の跡を追って/有理数か無理数か/連分数と暦/πのはじめの数字の覚え方/ふしぎによくできた式/素
数とπ/金貸しの問題/eが無理数であることの証明/みごとな結びつき

 〜複素数〜
新しい数はなぜ必要か
 3次方程式の解が還元不能な場合/実数+虚数=複素数
複素数の諸性質
 加法,減法,乗法/互いに共役な複素数/複素数の除法
複素数の幾何
 2つの数直線と複素数平面/ベクトルとしての複素数/複素数の偏角/複素数の極形式
複素数の累乗と累乗根
エピソード
 2次方程式についてちょっと/ド・モアブルの公式と三角法/オイラーの公式の導き方

 〜方程式と不等式〜
算数から代数へ
 秘密は明らかになった/数の代わり−−文字/恒等式
新米の魔法使いへの助言,方程式の解き方
 《方程式を解くこと》の意味/方程式を簡単にする方法/《誰かがなくし,誰かが見つける》/代数的な《暗礁》
2次方程式
 ヴィエトの公式/2次方程式の判別式/ヴィエトの定理/一般形の方程式
3次方程式
 単純化することから始めよう/カルダーノの公式/方程式を解こう/3次方程式と複素数
4次方程式
高次方程式
 べき根による可解性/可解な方程式/代数学の基本定理/実数係数を持つ多項式の根
連立方程式
 連立1次方程式/連立方程式解法の一般的原理
不等式の解法
エピソード
 猿の群れの問題/バビロニアの粘土板からの問題/どうすれば最大面積の土地を囲めるか/入試問題から/2次方程式に帰着
される方程式/代数方程式とガロア群

 〜場合の数〜
組み合わせ論的問題の《特徴》
総順列
 カルテットに関する問題の解法/同じものを含む総順列
選び出し順列
 0の階乗はあるのでしょうか/重複順列/パスポートの問題の解き方
組合せ
 ロット・ミリオンの問題/重複組合せ
ニュートンの二項定理
 二項係数と組合せ/パスカルの三角形
組合せ論にかかわる問題
 平面を直線で分割する問題/空間を平面で分割する問題/一般的階乗とカタラン数
グラフ
 ケーニヒスベルクの橋の問題/同型なグラフと平面グラフ/ゲームのグラフ/旅をするセールスマンと鉄道/有向グラフ
エピソード
 数の合成と分割/三角形のふるい/メランコリーと魔法陣/きのこと知り合い/求人と求職/4色問題

名言
覚え書き
訳者補注
人名索引
事項索引
第2巻,第3巻の主な内容

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