ゆたやんさんのレビュー一覧
投稿者:ゆたやん
紙の本ストーカー
2001/07/26 04:04
かわいそうなタイトルをもった作品だなあ...
9人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本を素晴らしいといったら、あなたって犯罪研究家か何か? って外れた返事が返って来てしまう。可愛そうなタイトルを持つ作品だ。この作品は。変質者列伝を集めた同名の作品があったりするもんだから、ますます可愛そう。
この作品は、ロシアが世界に誇るSFの傑作だって言うのに。映画だって出来てて、素晴らしい評価を得てるのに…。
凄く面白い作品だ。これは。感じる違和感は半端ではない。文化の違いなんだろうか? 違和感の所以は、異質の知性の所産の作品と接しているのだという確信だ。静謐で雑多で深遠で簡潔。相反する説明をしないと説明しきれないだろう。この作品は不可解だ。
本当、こんな名前さえ持ってなければ、勘違いされないで済むのにね。かわいそうな作品。
でも、それを乗り越えてこの作品に出会えたあなたは、この作品をまるで独占するかのように愛することが出来るだろう。
そう、まるで<ストーカー>のように。
紙の本魔群の通過
2002/07/09 21:40
その日、ドイツに魔の風が吹いた
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
その日、私はドイツのデュッセルドルフにいた。デュッセルドルフは日本人がいっぱいいる町で、お米屋さんに日本の古本が置いていたりする。結構安いんだ。当時はユーロ切り替え前で1マルク60円くらいだったかな。で、文庫の本体価格100円を1マルク計算という明朗会計で本を売っていた。ドイツで日本の新刊本は日本の倍位するから、ネット書店が大流行りしているって時代に、そのお米屋さんはひたすらそのルールを守って商売していて、固定客も少なからずついているようだった。
その日、私は山田風太郎の魔群の通過を数マルクで手に入れた。他に宮部みゆきさんの本も買っただろうか。何はともあれ、すごく安い価格で数冊買いこんで帰ってきた。早速読んだ。
その夜、ドイツの闇を天狗が走り抜けた。衝撃だった。なんて面白いんだ。
忍法帖の面白さや、ヤマトフの逃亡のような妖人たちの跋扈する小説が面白いのは知っていた。
この天狗党の小説は突き詰めれば青春恋愛小説である。純愛を書いた小説である。
山田風太郎らしからぬように思えた、そして、山田風太郎でなければ書けないような気もした。
眠れずに翌朝出勤して、顔色が悪いと言われた。
ネットを立ち上げて、日本のニュースを斜めよみした。
そして知った。山田風太郎が死んだことを。
驚いた。寂しかった。
ドイツには出張できていたのだが、職場にはネットがあったが、長期滞在用に使っていたアパートにはネットが無かった。新聞も日本語テレビも無かった。だから知らなかったのだ。
多分、知らなくてよかったのだ。本を読む前に知っていたら、感動が涙の向こうになったに違いない。泣きながら読むなんて、小説に対して失礼だ。
山田風太郎という類まれなる魔の書き手は、妖しげでせつなくて美しい何かを残したんだ。ドイツでふとせつなくなった。何故かしら、初めてホームシックめいたものを感じた日でもあった。
紙の本虚数
2001/06/22 02:01
本当にこの人が「ソラリス」を書いたのか??????????驚愕の作品。そして心地よい爆笑。
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本を手に取ったのは、『ソラリスの陽のもとに』の作者レムの作品だったからだ。
数ページ読んで、まずは違和感。なんだこれは????? 同姓同名の別人ではないか?と帯を見直し、再度読む。
んんんーーーーーー??????
筒井康孝じゃないよな??? 百歩譲って神林長平でもないよな???? なんだこれは????? 俺の知ってるレムじゃない!!!! と、凄まじい拒否反応を起こしつつも、何故か本を閉じることが出来ず読みつづけて、いつしか、顔にははがす事の出来ない笑いが取り付いていた。
バカである。愚かという意味ではなく、バカなのだ。この本は。
くすくす笑うのではなく、泣きながら大笑いしながらひひひけけけと声を出し、脳みそがいじられて痒くなるくらいにぶっ飛んで読むのが正しいくらいにバカな作品だ。これは。
笑わせようと狙った部分もあれば、狙ってないかもしれないが面白すぎて笑うしかない話もある。知性とは爆笑しながらでも成立するんだなと妙な納得すら覚えてしまう。
まあ、まずは文中に出てくる<未来史>の年表を斜めにでも読んでみたらいい。それでこの本は離せなくなる。で、知力を限りに読みつづけ、あまりの笑いに心地よい疲労感を感じるだろう。
そして、この本はあの『ソラリス』を書いたレムの著作なのだと最後に思い出そう。これで最高のSFフルコース料理の完食でござい。
いやー。いい本だ。これは(笑)
紙の本七胴落とし
2001/07/05 03:14
フィリップ・K・ディックをニューロマンサー化して....などと表現するのは陳腐だろうな
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
神林長平の作品を読んだのはこの作品が最初だった。
実は、表紙で買ったのだ。当時の表紙は今と違い、人間の顔が二つに分かれ一つと化すという不思議なイラストで、その不気味さに期待を込めて買ったのだ。衝動買いと言う奴だ。
で、読んだときに思ったのは、なんて読みづらくて、ああ、ディックに似てるな…というものだった。ディックといっても、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」といったほうの作品ではなくて、ヴァリスや暗闇のスキャナーといった作品に似た感触がそこにあった。そして同時にウイリアムギブソンの「ニューロマンサー」が頭に浮かんだ。そしてなんだこれは…と唖然とした。
小説ってこんなことを描けるんだ。描いていいんだ。
舌がざらつく嫌な感じがした。そのくらいこの小説は現実ばなれしたリアルさをもっていた。味覚が文字を持てばこの作品になるんじゃないだろうか…。
扱うテーマは少年時代の妄想である。しかし、妄想は現実の力をもっている。ここまで書けばタダのホラーだ。しかしここから神林長平が書くのは、それの言語的な解析だ。種明かしはなし。全てはそれが現実であると言うことを説得するための魔術。
おそるべき文章力。
この作品は魔書だ。読み、そして言葉という<魔>に魅入られるがいい。
紙の本タウ・ゼロ
2001/06/22 01:46
いまだに感じられる新鮮さ疾走するイメージの鮮烈さ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
暴走するスターシップ。限りなく相対速度が光速に近づき、外界は遠い過去へ去り、宇宙のあらゆる物質を自らの推進剤として消化しながらそれは進む。そして、宇宙自体そのものが<過去の存在>と化してしまうほど、遠い時空へ到達したとき、乗員たちは何を行い、何を選択したのか。
この小説を最初に読んだとき、その設定の明解さと、スケールの巨大さに…ひたすら呆れた(笑) まあ、宇宙レベルのホラもここまで極めればもはや立派というしかない。で、スケールだけ見ればその後あまたの宇宙レベルのハナシは幾多あらわれたにせよ、この小説がいまだにその精彩を失うことが無いのは、スケールの巨大さに比して簡潔でまとまった小気味よい物語展開があるからだろう。
例えば<ヒーチー人>シリーズも最後はほとんど似たような展開を迎えるのだが、それに至るに読ませられる小説の長さといったら、このタウゼロの数倍になる(長いなりに面白いところはいっぱいあるにしても)。よくまあ、この長さにこんだけのことをわかりやすく書き込んだものだと、これもまた呆れる。
呆れてばっかりではいけないのだとおもうが、事実、呆れる。人間、何か偉大なものに直面したとき、まず呆れるというか呆然とするというか、そんな感じになるだろう。タウゼロはそうだった。
うん。偉大な作品なんだろう。これは。
わくわくする作品なのだ。本当に。
紙の本1809 ナポレオン暗殺
2002/04/20 01:16
けだるい悪意だ...梅雨時に読むならこの本だ
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
悪意が吸いこまれていく。けだるい。虚無感。
映像化し得ない映像感。そして絶対に僕らじゃわから無さそうなディテールを抱え込んだ複線の山・山・山!
でも、決して難解ではない。
なんだろう、この作品は!
カオスのヨーロッパ。ナポレオンがかきまわして作り上げた大ヨーロッパのそのまた中心ウイーンで繰り広げられる陰謀。
その理由は<退屈>....けだるく隠微で大きな陰謀。
あまりの現実感。
この本を読めば、19世紀初頭の欧州をリアルに漂うことが出きる。
漂い、たどり着くのは何か? あなた自身が見つけるのは闇。そして、限りなくけだるい悪意。
紙の本ゼウスガーデン衰亡史
2002/04/20 01:02
え、....ローマ帝国衰亡史のパクリじゃないの!
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題名からして、内容からして、かの有名なローマ帝国衰亡史を彷彿とさせるこの作品。でも作者はローマ帝国衰亡史を読んでないのだという!
うそだー(笑)と叫ぶのが正しい反応だ。
ギボンの洒脱な雰囲気も、こてこてのノリも全部ゼウスガーデン衰亡史は、さらにパワーアップして書いているじゃないか。うそに決まってる。絶対読んでるに違いない!!!!などと叫んで少しは気を晴らそう。
名作に出会った「疲労」を癒すために。体力の要る作品だよ。はらわたにずんとくるユートピア=ディストピアが重厚に展開される。
感動を得るにはこの厚みが必要なんだ。
現代は最低の時代だ。しかし、最低の人々こそが天上の高みを知る。ゼウスガーデンに住む(棲む?)神々たちのごとく、最低の快楽を味わうための禁じられた鍵となるこの書物。
まずは手にとって見たらいかがだろう?
紙の本サル学の現在
2001/07/17 03:04
この本のあつさは武器になる
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…ふざけた書評タイトルが立花さんに聞こえたらペンの切っ先で突き殺されそうだ…(笑)と考えながら書評を書き出してしまった。いやはや、でも、本当に厚いんだ。この本。これで殴ったら、そこそこの威力はあるな…(笑)死にはしないかもしれないが。
さて、これ以上冗談続けると本当に怒られそうなので本題へ。この本はサルについて書いた本である。サル学…猿楽ではなくて、サル、哺乳類のサルについて現在知られていることをひたすらレポートした力作である。
まあ、…圧倒される。量の凄さと、中身の濃さに圧倒される。そして、霊長類としてのサルをひたすら研究することで、読み手の我々が感じるのは、帰納的な結論が導き出すであろう…人間の姿だ。
しかし、単にサルの行動学として読んでも面白いだろう。そろそろ一般知識と化してきた感もあるがハヌマンラングールの説明など単に読んでも面白い。説明に気後れも遠慮も無く、充分に武装した文章は明快であり簡明である。
さて、この本の厚さは武器になるといった。もう一度書こう。この本の<熱さ>はあなたの知性の武器になる。
読むに値する知識だ。私はこの分厚い版で買いこんだが、どうやら文庫にもなったらしい。文庫は厚さで勝負は出来ないだろうが、大丈夫、あなたの武器はこの本の文章の中にちりばめられた知性にあるのだから。
2001/05/20 11:08
平易にして秀逸優れた歴史書がもたらす熱さは小説をもしのぐ
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世界に覇を唱えた帝国はあまたあるが、その中で最も巨大でありなおかつ世界の歴史に影響を与えたのはこの書でとりあげられたモンゴル帝国であろう。この書はそのモンゴル帝国の興亡を比較的平易な説明の元、独特の視点、歴史観で書き綴ったものである。
簡単に言って、「とても面白い」。
中途半端な小説を読むくらいなら、これを読むほうがはるかに面白い。日本人にも良く知られた「チンギスハン」「クビライハン」はもちろん、信じがたいほど有能な皇帝「モンケ」という人物へのスポットライトの当て方や、「フラグ」、「バトウ」といった衛星国家建国者達、そしてモンゴル帝国最後の輝き「カイシャン」の紹介の仕方。どれをとっても、絶品といえる。
そして、読み終わったときに掴むであろうモンゴル帝国の歴史的価値・存在意義…この本があなたに与えるのは「心の熱さ」だ。人間が成し得ることの出来る「なにか」を考え直すいい機会をこの本は提供するだろう。
この本は、買いだ。そして、何度も読むべきだ。価値はある。価値だけでない、何かもある。
2002/07/06 00:47
不思議と読み返してしまう小説がある
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最初はピンと来なかったのだ。実は某○●◎●オフに売ろうと思っていた(笑)さもなくば楽天市場でオークションにでも出そうかなって。…ごめんなさい^^;
しかし、不思議と何度か読み返していた。数作の短編の中のいくつかを夜更けに読みつつ、朝に枕代わりに潰れた文庫を発見する(わー。またごめんなさい!(笑))…ということを繰り返し結論が出た。この本、気に入ってしまったぞ…と。
主人公は一休である。しかし、<あの>クリクリ坊主の一休ではもちろん無い。誠実に苛烈な禅僧としての若者一休が主人公である。
一休といえば風狂人にして大悟、生臭にして大徳。正邪混交にして純粋。歴史の中に屹立するカオスである。とりあげられたこと多数。マンガだけでも無数にあるんではないか。
著者はその一休に闇を抱かせた。抱いた闇は一休の中で温度を上げてときめく何かと化した。
一休が闇を語るとき、この作品は闇にこそ咲く花の艶やかさをあなたの中に伝える。
紙の本紅顔
2001/07/14 01:34
陳円円の息遣いさえ感じる...
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この作品はを読み終えたとき、まるですぐ傍に傾城の美姫が<ほ>と吐く息遣いを感じたように思えた。それほどまでに、この作品が描く陳円円は生きていた。その一点だけで、<紅顔>は不朽の作品になった。
さて、紅顔は<漢民族近世最大の裏切り者>呉三桂と、その彼の人生を踏み誤らせた美少女である陳円円を描いた作品である。魅力的な脇役、中華歴史上<最強>の摂政<賢明>ドルゴンがその二人に陰を添える。
うーん。なんという描きかたか。第一、裏切り者呉三桂が素晴らしく格好いいぞ。
考えてみればこの人物、日本人にとってあまり身近ではない。歴史の教科書での表現も曖昧で誤解を招く。
[呉三桂の裏切りによって、清のドルゴンの軍勢が、李自成の軍隊を破って侵入。清は明を滅ぼし中国を統一した。呉三桂はその後、反乱を起こした。反乱は鎮圧されました。]
といった内容だ。
さて、これを読んだあなたは、呉三桂は反乱で負けて死んだと考えるだろう。
違うのだ。呉三桂は反乱で死んだのではない。反乱に負けたのは彼の後継者なのだ。つまり彼は清に敗北などしていない…。
そして、彼が中国史上に悪名を残す裏切りをしたときの年齢。30歳を少し超した程度のその若さ。その若造が<中国の歴史を動かした>という現実。
ぐらりと揺らぐ視点。呉三桂とは何物なのだ?評価を間違っていたのではないのか?
そして、中華史上に屹立する怪物宰相ドルゴンが彼を認めていたという事実。裏切りから死ぬまでの30年、清最大の軍閥を率いつづけたというその実力。
作者は、その呉三桂の<焦り>を描く。映画<ラストエンペラー>で坂本龍一が作ったサウンドトラックが何故か頭の中で流れた。焦り、人生に対する飽くなき焦り…。驚くほど魅力的な男性像がそこにある。
紅顔はその驚きをもあなたに伝えてくれる。男性には陳円円の息遣いを。女性には呉三桂の焦りに満ちた双眸を。
現代人にも通じる魅力的な人物像がそこにある。しかし、現代にはそのような人物は見当たらないかもしれない。
皮膚感覚で歴史を感じる。この作品を読めば、世界を感じることが出来る。
紙の本戦争を演じた神々たち
2001/07/05 03:37
異形の未来を見たければこの作家の作品を読め
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コードウエイナースミスやティプトリージュニアといった作家たちに共通するのは、説明無き異形の未来世界が絢爛に展開し、その世界での道徳ルール政治経済愛情感…が類稀なまでに美しく彫刻された文章で表現されていることだ。
大原まり子が描くのはまさにその作風の作品だ。
展開されるは異形の未来。わくわくするような展開のなかにうごめく素敵なまでに奇天烈な存在たち。未来視たちや銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ、アルカイックステイツ…一連の作品で培われた彼女の小説世界が、この戦争を演じた神々たちでどっかーーんとまとめて炸裂している。
関係無いけど、ジョージルーカスにこの作品読ませたら、絶対にスターウオーズの映画表現が変わるね(笑)
鏤められた連作は全部面白い。順番どう読んでも大丈夫だから、立ち読みするのも結構かもしれない。でも、読むのに夢中になって本屋のおっちゃんのハタキ攻撃のモトとなるのがオチだと思うから、お勧めできない。
きちんと買って、寝る間も惜しんで何度も読んで、疲れて眠って枕代わりに頭の下にしいてしまい、異形のエイリアン達が夢の中で大戦争演じるのを見てしまうのが正しいやり方だ。
枕にしてしまえば、あなたの頭の形がきれいな表紙についちゃうから、古本屋にも売れなくり、これでめでたく一生ものの愛読書になるわけだ。スバラシイ!
紙の本神狩り
2001/07/05 02:55
山田正紀を有名にした作品
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山田正紀という人は多分小説がうますぎるのだろう。どんどん新たなジャンルを開拓し、その新たなジャンルで一定の地位を築いたかと思うと、別のジャンルに飛び立っていってしまう。
山田正紀はSF作家である。
…といって、今、山田正紀のSF作品はなかなか読むことが出来ない。何故なら山田正紀は既にSF作品を越えた作品を量産しているからだ。いやはや。十数年越しのSF作家山田正紀のファンとしては痛し痒し...
さて、<神狩り>。これは鮮烈な作品だった。山田正紀のSF作品として、おそらく代表作となるであろうと当時既に言われてしまった(これって名誉なんだろうかね(笑))作品である。それだけの価値はあり、レベルは高い。
何と言っても神を追いつめるのがテーマの作品である。妖しく不安定なヒロイン、そのヒロインにからむ男たち、魅力的な敵、そして火星…。
いや、白状しよう。今読んだら<古い!!!!!>と感じると思うな。そりゃ古い作品だもの。でも、読める。まちがいなく面白く読める。山田正紀の若い時代の最高の文章がここにある。
さて、山田正紀の現在の代表作は多分これではないんだろう。から発表当時に言われたことは外れたわけだ。でも、山田正紀を読むとしてもっとも適切な本という意味での代表作であるのなら、いまだにこの作品が最高ではないのか。
山田正紀はまるで<蝶たちの時間>の主人公のようにいろいろなジャンルを渡り歩いていく。でもその所以たる精神は変わらない。
その精神が生み出した珠玉の作品だと思う。
紙の本百億の昼と千億の夜
2001/06/17 19:28
20世紀SF古典の中の古典
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いわずと知れた…と書きたいところだが、最近はなかなか知っている人が少なくなってきた…20世紀の日本SFで古典といえば絶対にこの作品があがってくるそんな名作である。
ま、マンガもある。萩尾望都だ。これも絶品だが、別の人が書評書いているだろうから割愛する。ただ。そうだなあ…もし小説が良くわからなかったら、マンガ版を読んでおくことをお勧めする。キャラクタの関係はよくわかるし、それは萩尾望都だから当然面白いので小説にもとっつきやすくなる。
光瀬竜という人の作品は難解といわれるが、とっつきにくいというだけで実はわかりやすい作品だと思う。この百億…なんてその代表格だ。
相手にしている設定はすさまじいまでに大きい。なんたって、宇宙の始まり以前からの<存在>の理由を求めて阿修羅王、仏陀、プラトン、ユダ、イエスキリスト、大天使ミカエル…といった、そりゃもうなんかすごいキャラクタたちがときに争いときに味方となり、宇宙を時空を何百億年のオーダーで旅するという設定なのだから。
これに匹敵するスケールの大きさを求めて、世界中のSFを見渡してもなかなか存在しない。「幼年期の終わり」「タウ・ゼロ」といった由緒正しき宇宙SFにようやく見つけるだけだ。
この作品は、私が出会った20年前に、既に<日本を代表する古典SF>という評価だったのだ。この凄み。去年出版された小説といっても通用する内容なのに…。
何度復刊されたことか。表紙だって既に何世代を経たことか。おそらく、21世紀も読みつがれていく名作なのだろう。正統なカルト人気を誇る日本を代表する古典SFは、見つけたら買いだ。
まあ、BK1の人は怒るかもしれないが、図書館で見つけたらすぐ借りよう。手垢で擦り切れた百億…ってのもなかなかのものだ。あ、言っておくが、古本屋で安いものを見つけるのは至難の技だ。神田でもなかなか入らないし、入ったら高い。図書館で見つけれなければ、無理を言ってでも、BK1で取り寄せよう(笑)。
紙の本日曜日には宇宙人とお茶を
2001/06/17 19:03
このジャンルの古典なんだろうなあ...(笑)
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いや、面白いんだな。でもまあ、読んだからといって自慢にはならない。ひたすらくだらない、でもかわいい? そんな作品だ。
<マッドサイエンティスト少女>が主人公である。まあ、<魔法少女>の類の亜種と思えばいいんだが、その少女がほのぼのと、時には町を滅亡へと追い込み、時には日本を滅ぼし、時には宇宙を再創造してしまう…。大バカ本である。この時代はこんな小説が多かったな!!! (そういえば同時代の<ダーティペア>も毛色は違うが結果的に同じことをする女の子が出てきている)。
書評タイトルの<このジャンル…>…要はこうした<大バカ本>の一連の歴史の中でこの作品は、筒井康隆、かんべむさしの次ぐらいのところに位置する古典なのだ。
今でも通用するバカ設定は多い。
<永遠の命を持った塩ジャケとめんたいこ>
この一行を読むだけでも十分な価値がある。買いだな。私は15年位前には買っているので、皆さんは取り寄せてでも買うべきだな。
絶対に貸してなんかやらない(^.^)。頼まれたって、<べー>だ!