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  3. くろねこさんのレビュー一覧

くろねこさんのレビュー一覧

投稿者:くろねこ

85 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本死の谷から来た女

2002/06/24 01:01

シンデレラ・ストーリーの裏にあるもの

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

四国の実家でやっていた鉱山の事故の後、1人、生き残って東京に出てきた恵。
サウナの洗身メイトをやって地道に暮らす彼女にふってわいたような
シンデレラ・ストーリー。
莫大な資産を持つ、天涯孤独な老人相庭の養女?
ただ、娘らしく接するだけで、80億の資産が転がり込んでくるなんて。
恵でなくても、夢のような申し出にぼーっとなりながらも、
うますぎる話に不安になるものですね。
そんな恵を後押ししたのが、恋人の俵。
結婚を約束した恋人が、大金持になるなんて、めったにない幸運ですものね。

不安になりながらも、次々に見せられる相庭の地位の証拠に、疑っている
自分の方がどうかしていると思わされていきます。
それとは別に、恵自身にも何か秘密がありそうな気配。
いったい、誰が、なんのために、誰を騙そうとしているのか。
そして、彼らが訪れたちょうどその時、恵の故郷で起こった殺人事件は、
何かそれと関わりがあるのか?

不安。希望。恐れ。疑惑。
胸に渦巻く様々な感情に翻弄される恵。
でも、それでも、80億の財産に抗うのは、並大抵のことじゃないですよね。
それも、杞憂に違いないと思いながらのわずかな不安なんですから。
自分を騙しても、誰にも得にならないとなればなおさらのこと。

だから、ばかげた不安なんて一蹴して、幸せになるはずだったのに。
過去の影に怯える女には、そういう幸せも、許されないのでしょうか。
いいえ、そんなはずはありません。
恵が、強く、それを乗り越えることができさえすれば。
そして、彼女には、それができるはず。
だって、彼女は1人ではないのですから。
温かく見守る人が、いるのですから。
だから、「死の谷」は、彼女を2度と脅かしたりはしないでしょう。

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紙の本蒲生邸事件

2002/05/26 14:09

SFの設定で語られる青春ミステリの傑作

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

大学の受験に失敗し、予備校の試験を受けるために、上京した孝史。
折りしも、それは2月25日。
翌朝未明にはかの2.26事件が起こるというその日。
彼の泊まったホテルで火災が起きます。
絶対絶命、逃げ場を失った彼を救ったのは「時間旅行者」。
そして、一命を取りとめた孝志がいたのは、なんと、2.26事件の、
その渦中の中。

なんて、まぁ、奇抜な設定。
宮部みゆきさんの作品でなければ、手を出しそうにもない作品でした。
実際、宮部さんの作品であるのに、ここまで手を出さずにいたのは、
ちょっと、「引いて」しまっていたからですし。
でも、それが、もったいなくなるような面白さ。

それにしても、2.26事件といえば、私にとっては、単なる歴史上の出来事。
それをきっかけに、日本が大きく進路を変えたことは知ってはいても、
それが、ほんの60年ぐらい前の出来事で、当時を知っている方が、
充分存命である時代の出来事だということ、それが、なんとなく不思議な感じでした。
それは、でも、18歳の受験生である孝史にとっても同じこと。
その詳しい内容なんて、知りもしないのですし。

そんな時代にいきなり、心の準備もなく飛び込んでしまった孝史。
彼を助けた男の、「その時代での」名前は平田。
その甥ということにして、平田の勤める蒲生邸に匿われることになった孝史。

蒲生邸の当主は、陸軍の退役した大将。
主人筋にその存在がばれては困るはずなのに、体調が少しよくなると、
あちこちかぎまわるのに余念のない孝史。
無理もないですよね。
そんな戦前の時代に来たって言われても、いきなり、信じきれるわけがありません。
ようやっと、自分の置かれた時代に得心がいった時の心中は…。
とにかく、一刻も早く元の、自分の属する時代に帰りたいですよね。

なのに、何を考えているのか、すぐにはそれを許してくれない平田。
のらり、くらり。
この孝史って、時代的な知識は足りないものの、本能的なものなのでしょうか、
驚くべき冴えを見せてくれたりするんですよね。
それは、その後の事件の展開においても発揮されます。
そう、恐ろしい事件に巻き込まれるのです。
大将の自決という。
「自決」と誰もが思った事件。

それにしても、人の生業というのは、時代が変わっても、
そう変わるものでもないのですね。
大将の事件も、もちろん、軍国主義へ向う流れの中にはありますが、
そこに、その根底にあるのは、どんな時代にも人間と人間の中にあるもの。
家族への思い。
妬み。
憎しみ。
欲望。

そして、そんな非常事態においても、孝史に芽生える淡い恋心。
それゆえ、大将の息子である貴之に、必要以上に感じる反発の理由に、
なかなか孝史は気付かないようですが(笑)

この蒲生家のかかりつけの医師である葛城医師。
なんとも飄々としていて、それでいて鋭い。
とても魅力的なキャラクターでした。
彼を探偵役にした連作短編など書いもらえると嬉しいかも。

大胆で奇抜な設定なのに、昭和初期を舞台にしたミステリと、
SFチックなところが見事に溶け合っていてなんの違和感もない。
それどころか、2つの要素が合わさっているからこその面白さ。
孝史の成長物語にもなっている素晴らしい作品。
こういう作品に出会える時こそ、本読みの幸せ。

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紙の本十三番目の人格 Isola

2002/06/30 08:14

人の心の弱さと悲しさ。それを乗り越える強さを彼女が持っていてほしい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

香里は、人の感情を読み取る能力を持っている。
それを活かして阪神大震災の被災者の心のケアをするボランティアを
していた彼女は、多重人格障害と思われる少女と出会う。

人の心が見えてしまうというのは、便利なこともあるでしょうが、むしろ、
重荷になることが多いのではないでしょうか。
由香里にとっても、それは、ある意味、背負わされた十字架のようなものでした。
それを、その重荷を少しでも軽くするために、その力をボランティアとして
活かす道を選んだのです。

そして出会った千尋という少女。
人の心を読むことができる由香里だけが、彼女の中に、複数の人格が同居している
ことに気付きます。
次第に打解けるにつれ、その症状を把握して行く由香里。
決して、1人の力ではできないことです。
力になってくれるのは、主に、千尋の通う学校の臨床心理士野村浩子。
少女を引き取って育てている親戚が当てにならない以上、頼れるのは、
ほとんど彼女だけと言ってもいい状態です。

そう、多重人格障害の、多くの原因の例にもれず、千尋の場合も、
家庭に大きな問題を抱えていたのです。
苛酷な状況から自分の心を守るために、別の人格を生み出してしまう。
その、それぞれの人格の、名前に隠されたもの。
切実な、訴えかけるような思い。

調査を進める由香里が目にするのは、恐ろしい事実。
千尋の中にある、恐ろしい13番目の人格の磯良。
その、悪意、あるいは敵意そのものとも言うべき存在が、肉体を離れて
動き出してしまう。
そして、その存在が近付いてきたときに、それを感じてしまう恐ろしさ。

けれども、もっと恐ろしかったのは、その磯良の正体。
どこから彼女が生れてきたのかということ。
ああ…

そして、そのことが、どこに、どんな影響を及ぼしたかということ。
じんわりと、じっくりと背筋が寒くなってきます。
このときほど、由香里は、自分の能力をなかったことにしたいと思ったことは
なかったのではないでしょう。
彼女は、それと、向き合う勇気を取り戻すことができるのだろうか…。

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紙の本朱色の研究

2002/06/24 01:03

禍々しい朱の色が読んだ事件?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夕焼けって、不思議。
見る時の気分によって、果てしなく美しいものにも、
途方もなく禍々しいものにも見えてしまう。
あの、赤。
どこまでも真っ赤な赤。
美しいと感じる時ですら、それは、心を和ませる
美しさではなく、何か、胸騒ぎのようなものを
あるいは息苦しいような何かを感じさせる美しさ。

その「赤」が、「朱色」が、事件の引金になったとしても、
なんら不思議ではないような感じ。

夕焼けのお告げのせいで事件に巻き込まれることになった、
大学の助教授の火村。
大学で犯罪社会学を教えながら、フィールドワークと称して
警察の捜査に関わって事件を解決する探偵。
心に深い傷を負って、どこか不安定な名探偵。
捜査の過程で関係者と話していても、なんだか、
アンバランスなところがあって、気に掛かります。
もっとも、推理作家で、事件の際には助手をつとめる
友人の有栖川有栖は、ちょっと心配性なのでは?
って印象はぬぐえないですけど。
とは言え、この2人の掛け合いは、なんともお見事。
ワトソン役にしては、一面、保護者めいた役割を
自認しているところが、ちょっとユニーク。

今回の事件、冒頭、朱美が火村に捜査を依頼するところから始まって、
終始、夕焼けの赤に彩られた印象があります。
火村・有栖川コンビが、謎の電話で事件に引き入れられるのは早朝、
関係者が集まって、事件の話をするのも、夜のことなのに。
それだけ、夕焼けの赤が、心に強く残っているということでしょうね。

現在、2年前、5年前。
3つの事件をつなぐ糸は?
赤い色で結ばれた3つの事件。

こういう雰囲気の作品って、すごく好きです。
もっとも、犯人の動機が、いまひとつ、ぴんとこないものでは
ありましたけど…。
でも、探偵火村の今後を、ぜひ、読んでみたいものです。

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紙の本死国

2002/06/24 00:25

死者を呼ぶ逆さうちが、恐怖を呼ぶ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

四国八十八ヶ所を、死者の年齢の数だけ逆に巡ることで死者を甦らせる
ことができるとする逆打ち。
死んだ者を思う気持ちの深さが、そんな伝説を生んだのでしょうが、
悲しいですね。
ましてや、親が、死んだ子を思って、ひたすら霊場を反対に巡る姿。
悲しく、そして鬼気迫るものがあります。

そうはいっても、通常、本当に、我が子が黄泉の国から戻ってくると
信じてそうする人間はいないでしょう。
先に逝った我が子をあきらめきれない思いを断ち切るための儀式として、
そういう伝説が存在するのではないでしょうか。

けれど、それが、「本当に」死の国の扉を開いてしまったとしたら…。

幼くしてこの世を去った莎代里。
その母親の妄執が、彼女を、この世に呼び戻したのです。
そして、それは、矢狗村の伝説をもこの世に実現させ…。

20年ぶりに故郷である矢狗村に帰った比奈子は、初恋の人文也との
再会の喜びもつかのま、そんな恐ろしい伝説に巻き込まれるのです。
「親友」であった莎代里の死の知らせだけでもショックだというのに。

この世、この「生者」の世界にあって、「死者」は、異質なものであり、
それゆえに、生者にとっては超常現象と見える力を持ってしまう。
それは、やはり、お互いにとって不幸なことでしょう。
だから、死者は、この世に留まるべきではないのでしょう。
この世から、そこにある己の肉体から魂が離れ、
別の世界に行くことが死であるとするなら、
すでに死を迎えたものが、この世に留まってはいけないのでしょう。
たとえ、それほど、この世にやり残したことや、心残りがあったとしても。

けれど、年齢の故でなく、自らになんの責めもなく、命を断ち切られた者の
口惜しさ、この世への未練を、誰に責めることができるでしょう。
残して行く者、この先に待っていたであろう輝かしい未来。
それをあきらめろなんて、なんて残酷なこと。
でも、だからこそ、その無念さをこの世に受け入れてしまっては、
この世は、負のエネルギーに満ち溢れてしまうではないかという
矛盾した感情。

文也をはさんだ比奈子と莎代里の2つの想い。
莎代里は、もう、新しく恋をすることのない身。
それだけに、文也をこの手にという想いは、哀しくも激しい。
比奈子。
傷心を抱えて戻った故郷で、心安らげる初恋の人との再会。
やっとたどりついた故郷を手放したくなんかない。

どちらが強く心を打つかというと、莎代里なのです。
分かっています。
莎代里は死んでいて、そこにいいてはいけない存在。
でも…、!
あの日、はかなく消えた夢を、今、この手にと思うことが、
どうして許されないのか。

どうか、莎代里が、あるべき世界で幸せになりますようにと
願わずにはいられません。

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紙の本グリーン・レクイエム

2002/05/29 07:48

ショパンのノクターンにのせておくる1つの恋の物語

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

長い髪の美しい少女明日香。
彼女に恋した信彦。
でも、明日香には不思議な力があって、それを人に知られるわけにはいかない。
知られたら、平穏では暮していられないから。
なのに、2人の恋は、ほんの小さな石を静かな水面に落としてしまう。
それは、悲劇の始まり。
明日香を守ろうとする信彦。
明らかになって行く明日香の正体。
誰も、何も悪くない。悪くないのに…。

読み終って、ショパンのノクターンを聴きました。
目を閉じて、心の中、いろんな印象が去来するのにまかせて。

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紙の本監禁

2002/05/27 23:21

少女を誘拐監禁した犯人を追う両親

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

セラピストを装って、ミーガンを誘拐・監禁したアーロン。
それも、何から何まで計画的に。
そして、行方不明になったミーガンを探す人たちの前に、善意の人間として現れ、
恐ろしい罠を仕掛ける。
彼が、幸せな少年時代を過ごしたとは言い難いことは分かります。
でも、だからと言って、なぜ、ミーガンを?
狂信者。
でも、狂信者にも、狂信者の論理がある以上、理由があってミーガンを選んだはず。

アーロンが恐ろしいのは、相手の弱いところを巧みに突き、自分に都合のいい
行動をさせる術を持っていること。
狂信者。
だけれども、その頭脳の働きは、常人をはるかに超えているように見えます。
だからこそ、恐ろしい。

わけも分からないまま捕らわれの身になったミーガン。
アーロンのアジトである頑丈な建物の中に、監禁されます。
絶望。
どうやっても、逃げ出せそうにない。
なのに、ミーガンは、そこから、立ち直るのです。
自らを「クレイジー・ミーガン」なんて称してはいますが、なんて強い。
その精神力は、賞賛に値します。
たとえ、万に1つの可能性でもあきらめない。
勇気を出して、状況を読み、行動を起こす。
最後の瞬間まであきらめないでいることは、きっと、思っている以上に難しいはず。

ミーガンを求める人々は、アーロンの正体に疑問を抱いた瞬間に、彼の罠に
はまっていきます。
そう、みんな。

そんな中、ミーガンの両親、ティトと、ベットが、力を合わせて娘を探すうちに、
なくしていた心の触れ合いを、ゆっくり、ゆっくり取り戻して行く様子は、
殺伐とした物語の中のささやかなオアシスのようにも見えました。

やがて、アーロンの過去、隠された動機が明らかになっていく展開は、
驚きの連続でした。
その伏線の張り方にも。

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紙の本陰陽師

2002/05/24 03:10

晴明と博雅のコンビが絶妙

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

晴明と博雅のコンビは、実にいい雰囲気。
晴明が謎をかけるようなことを言い、博雅が煙にまかれてすねる感じ。
その癖、お互いがお互いを、ものすごく好きで、大事に思っている。

晴明に持ち掛けられる様々な不思議に関する依頼。
それを解決に出向く時、その隣りには博雅が。
その時の2人の掛け合い。

−「ゆこう」
−「ゆこう」
−そういうことになった

このリズムがすごく好き。
私の好みにぴったりくるのです。

また、博雅は、確かに、ある意味単純なところもあって、分かりやすい。
でも、それでいて、決して、晴明に心酔したとしても、彼に流されることはない。
武を重んじながら風流を解し、特に笛の名手である漢。
いい漢だな、博雅は。
晴明がつぶやくのもよく分かります。
自らは、あやかしの者たちとばかり接していると、こういった、
博雅のような男はきっと、大いなる癒しにもなるのでしょう。

さらに、博雅は、晴明のように考えての結果でなく、理屈でなく、
直感で真実に切り込む力を持っているのです。
その何気ない言葉が、時に、晴明の思考に新たな方向性を与え、
ことを解決に導くことさえある。
時に、その人のよさを周囲に利用されたとしても、
おおむね、誰からも愛される男。
これって、ポアロに対するヘイスティングスの位置みたいですね。

この巻からも、映画に取り入れられたエピソードがあるようで、
読んでいて、「おお、これは」と思うところがあるのも、
なんとなく嬉しいところ。

それにしても、夢枕獏、これを書くのに、ものすごい資料に
目を通したのでしょうね。
出典となっている古典の多さには舌を巻きます。
その中から、私でも知っている有名なエピソードを含め、
様々に作品に取り込んでいる。

「魔」というものの多くは、人の心の外ではなく、
内に存在しているのかもしれないですね。

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紙の本放課後

2002/05/22 21:24

女子高で殺害された教師。なぜ?ミステリであると同時に、切ない青春もの。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

校内の更衣室で青酸を飲んで死んでいた生活指導の教師。
自殺なんてしそうにない教師なのに、現場は密室。
続いて起る事件。
否応なしに巻き込まれた<私>。

ミステリーなのだけれど、むしろ、青春もの。
東野氏の、こういう世界の描き方は、本当にうまい。

数学の教師であり、アーチェリー部の顧問でもある<私>。
アーチェリーという競技は、何かストイックな印象があります。
矢を番え、ぴんと弓を張ってまっすぐ的を見据える姿勢。
そんなアーチェリー部の部員たち。様々なタイプの
優等生タイプや、おとなしい子。
リーダーであるケイの凛々しい姿が、すごく素敵。

部活動以外で<私>に近付いてくる陽子。
家庭に事情を抱えた彼女の複雑な思いを、受け止めるのは
とても大変だけれど、でも、1人で抱えるには
陽子の荷物は重くて、見ていて切なくなってしまうほど。

密室の作られ方。第二の事件の舞台。
まさに、学校ならではの事件。
2人のターゲットの間にある共通点とは?

青春時代の少女たちが持つ危うさ。
それこそが、全ての始まり。
そして…。

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紙の本ターン

2002/07/01 20:40

くるりんに取り残されたヒロインの行方は?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

時の流れから取り残されて、自分だけが同じ1日を延々と繰り返すことに
なったとしたら?
しかも、正常な時を過ごす人は、どんどん先に行ってしまうから、
この世界には、ただ自分1人だけ。
自分以外の生き物の気配すらない。
ある日突然、そんな世界に放り込まれたとしたら?
孤独と絶望。
やりきれない思い。

何をしても、何を作っても、持ち時間は24時間。
ごご3時15分には、前の日の状態に戻ってしまうなんて。
そんな状況で、何をする気になれるというのでしょう。
自暴自棄になって、生きる気力だってなくしちゃいます。
自ら命を絶つことだって考えるでしょう。
究極の最後の手段。
でも、それでも、また元に戻っていることに気付いたら?
それを考えたら、怖くて試して見る気になんてなれないんです。
だって、それで失敗したら、永遠に時の牢獄に閉じ込められてしまったことを
認めるしかないのですから。

そこへ、奇跡のようにつながった「本来の」世界からの1本の電話。
その電話の主が、そんな突拍子もない話を信じてくれる保証なんてなくても、
それにすがる以外に道はないんです。

そして、明かになっていく驚くべき事実。
それは運命なのか?
約束の人と、そんな形で出会ってしまったのか?

真実の想いは、すべての障害を越えて蜘蛛の糸のように2人を結んだのでしょうか?
信じても、いい、のかな…。

何より大事なのは、希望を持って前に進もうとすることだから。

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紙の本空飛ぶ馬

2002/06/30 08:58

円紫師匠と女子大生「私」のシリーズ1作目

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

・織部の霊
「私」と円紫師匠の出会いが「夢解き」だったとは知りませんでした。
女子大生と大学教授と噺家の対談なんて、なかなかしゃれた企画ですね。
その中でひょいと飛び出た不思議な夢の話。
まるでつかみどころのない話のようなのに、円紫師匠にかかると、見事に
説明がついてしまうのが不思議。
しかも、それでいて、淡々としているのが円紫さんの魅力の1つ。
長年の謎が解決して、教授もさぞかしすっきりしたことでしょう。
それにしても、人間の育った環境とか血筋って、大きな意味を持つのですね。

・砂糖合戦
怖いですね。人間の考えることって。
喫茶店での女子大生とおぼしき3人組の謎の行動。
「私」が見た「マクベス」との関わり合いは?
マクベスについて、よく言われるのは、マクベス夫人が悪いということ。
でも、私には、彼女がどうしても悪人には思えなくて。
夫が、王になりたがっていて、そのチャンスを逃したら後悔するのが分かっていたから、
その背中を後押しし、それによって、罪に濡れた血で自らを追い詰めてしまう。
当の夫はあてにならない。
とても、弱くて悲しい人。
あの、不気味な3人の魔女なんかとは大違い。
人の弱みにつけ込んで、相手に陰惨なイメージを植え付けてしまうなんて。
あの悲劇は、魔女達のせいと言っても過言ではないかも。

・胡桃の中の鳥
仲良し2人娘のドライブ。
そのさなかに出会った不思議なできごと。
やっぱり、活躍するのは円紫師匠。
とにもかくにも、一安心。

・赤頭巾
人の心の中の醜悪さを、こんなふうに突き付けられると、なかなかつらい。
円紫さんが、「私」に真相を話すことをためらう気持ち、よく分かります。
おしゃべりなほくろおばさんなんて、事実に比べたら、まったく、可愛いモノです。
童話の赤頭巾にも、隠喩があるとは聞きますが、それがタイトルにきている意味が、
いやというほど分かってしまいました。

・空飛ぶ馬
こういう話を聞くと、本当にほっとします。
あの、赤頭巾の後では、なおさらのこと。
私のご近所の酒屋さんのロマンスが生きています。
保育園のクリスマス・パーティで、園児たちに贈られた木馬。
その木馬が、その夜、数時間だけ姿を消した?
そこにある、人間の優しさ、温かさ。
いやな奴もいるけれど、こういうことがあると、やっぱり、世の中、
まだ捨てたものじゃないと思えるのですよね。
お2人に幸あれ!

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紙の本散歩道

2002/06/24 00:23

ブラックなばかりがショートショートではない

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

赤川氏が、公認ファンクラブの会報に書き下ろしていた
ショートショートを1冊にまとめたもの。
ショートショートって、なんとなく、ブラックな味わいを
思い浮かべてしまうのですが、そればっかりが
ショートショートではないんですよね。

特に、第一部の「ラブストーリーはショートショートで」は、
いかにも赤川氏らしい、ほんわかした、温かい恋愛模様が
綴られていて、心がほっこり暖かくなる感じ。
冒頭の「指揮者に恋した少女」こそ、ちょっと切なくて
悲しくなってしまいましたが、その後は、もう、
赤川節全開といった感じ。

第二部の「OLもビジネスマンもミステリー」は、
一転、ぞっとする物語も混じっています。
働くって、理不尽なこともいっぱいあって、
やってられないよなぁ、ってことも多いのを、
会社員経験のある氏はよく知っているのでしょうね。
でも、それでも、暖かい作品も入っているのが、
赤川氏ならではですね。

第三部「あなたの日常にある“人生の鍵”」
これも、ちょっとぞくっとする作品が多いかも…。
でも、ショート・ミステリになっている
「熱すぎたおしぼり」での、ウェイトレスの機転は素敵。
そして、「消えた」の不思議な味わいも捨て難い。

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紙の本孤島パズル

2002/06/20 23:29

宝探しゲームは一転連続殺人に…

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宝捜しのために、同じサークルのメンバー有馬麻里亜の祖父の別荘のある
嘉敷島を訪れたのは、探偵にして、大学7年生(笑)の江神と、
有栖川有栖の3人。
そこにいるのは、彼等のほかに、マリアの親戚を中心に11人。
宝探しのキーは、島のあちこちに立てられたモアイ像。
(なんでモアイなのかな〜?(^^;)

そこで始まったのは、宝探しゲームではなく、連続殺人…。
しかも、外部との連絡用の無線は壊され、迎えの船が来るまでは、
どこにも行けない。
凶器と思われるライフルは行方不明。
典型的なクローズドサークル。
私の好きなタイプです。

島に閉じ込められた人間は、怯えて、混乱して当り前。
犯人は、自分たちの中にいる。
そして、まだ、事件が続く恐れが多分にあるのです。
どこまで続くか知っているのは、犯人だけ。

アリスと江神は、やはり、自分たちが当事者でないせいか、
やはり客観的。
特に、事件に挑む江神の冷静さ、明晰さはさすが。
別荘の主に、事件を皆で検討する際の司会に指名されるのも納得。
やはり、探偵役、ワトソン役、ともに魅力的でないと、
事件の謎が魅力的でも、続けて読みたい気になれないですし。
そういう意味でも、この作品は当り。
論理で事件を追及する面白さ。
でも、自転車やボートの動きを具体的に想像するのは、
ちょっと私には苦手なので、作中の説明を追うだけでしたけど。

江神、アリス、マリア。
3人の掛け合いが楽しいです。
そして、冒頭だけしか出ていませんが、推理研の面々も。
ドクター園部のキャラも、すごく魅力的。
ジグソーパズル好きなので、パズルをするシーンがあるのも
なんだか登場人物に親しみを覚えました。

事件の真相は、悲しいものでした。
人の欲望というのは、悲しいものです。

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紙の本謀略の首 織田信長推理帳

2002/05/21 07:06

悲劇の天才武将織田信長。彼が、暗号に挑み、間諜を暴き出す!

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歴史人物の中で1番好きなのがこの織田信長。
その信長が、身近に送り込まれた間諜を暴き、暗号の謎を解く!
となれば、夢中にならずにはいられません。

フィクションでありながら、私の中にある信長公の姿に、
なんと一致していることか!

当時の水軍にすらなかった鉄の船を作るという発想を持ち、鉄だけで
無理ならば、木の船を鉄で覆うというふうに柔軟に発想を転換できる。
それでこそ、信長!

間諜を暴き出すには、外部からの情報のほかに、状況を見極め、部下をよく
観察することが必要です。信長には、それだけのものがある。

比叡山焼き討ちや、桶狭間の合戦によって、冷酷で衝動的に思われがちな
信長の「正しい」姿がそこにある気がします。
実体は、部下を信じ過ぎるほどに信じる、頭の切れる天才の姿が。

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紙の本不安な童話

2002/07/05 22:43

生まれ変わり?心の中から生まれる知らないはずの記憶の意味は?

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「あなたは母の生まれ変わりです」
そんなことを突然言われたら?
しかも、悪いことに、その人の言う根拠に、
一々、もっともな点があったら?
おまけに、その前世というのが、25年も前に
変死した女流画家高槻倫子だなんて。

転生というものが、本当にあるのかどうか、
私には、分かりません。
ただ、ありえないとは言い切れないとは思っています。
万由子だって、とりたてて、そういうことを
真剣に考えたことなんて、そうなかったはず。
でも、どう考えても接点なんてなかったはずの
倫子に関わる<記憶>が、自分の中にあるとしたら?
自らの根源に関わる問題。
だって、自分がもし、「倫子」だとしたら、
万由子は、いったい、どこに行ってしまうのでしょう。

上司である大学教授とともに、その件に関わり始めた途端、
彼女の周りで起る奇怪な事件。
この泰山先生のキャラが、なんとも悠然としていて素敵。

万由子は、いわゆる「見える」力を持っています。
そして、高槻倫子も…

倫子の息子秒のたっての頼みで、倫子の遺した絵を、
遺言どおりの相手に届ける彼女たち。
その絵に倫子が込めた思いって…
そこに思いを馳せるのは、あまりにも痛い。
絵を受け取った英之進や、十和田女子など、
彼女を大切に思う人は、たくさんいたというのに。
愛情の表し方、受け取り方を知らない倫子は、
本当に悲しい存在。

画家としては天才でありながら、エキセントリックな倫子。
その、エキセントリックなところが、
彼女を死を招いたのか?
まるで、過去から倫子が蘇ってくるかのように
万由子の中で大きくなっていく倫子の存在。

やがて、事件は幕を下ろします。
表面上は。
そう、真実は、深く、深く、眠ったまま。

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