サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. homamiyaさんのレビュー一覧

homamiyaさんのレビュー一覧

投稿者:homamiya

40 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

遠野のわらべうた伝承者阿倍ヤヱさんが語る、わらべうたと子育ての知恵

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

子供に語るちょっとした言葉は実際に使えて便利、また、全体にただようあたたかい雰囲気が癒される1冊。

方言いっぱいのわらべうたは、覚えるのも難しそうで使える気がしないが、
・でんでん太鼓の真似片手を顔の横でくるくる回す「てんこてんこ」
・首がすわった赤ちゃんに首ふりながら「かんぶかんぶ」
などは簡単で可愛らしく、やってみたら赤ちゃんも喜んだし、赤ちゃんと接して手持無沙汰になったら、すぐに「てんこてんこ」「かんぶかんぶ」と手軽にできるのが、ありがたい。
1歳までは、こうやってみせた動作を真似する、とあったが、うちの子(4か月)はまだ真似はしてくれない。

他にもおむつかえの時の声かけで、お尻を乾かしながら足伸ばして膝なでて「よっこよっこよっこ」とか「のびのびのび」と声かけるとか、終わったら「こちょこちょこちょ」と脇をくすぐると笑って喜ぶとか。
ちょっとした声かけの方法を覚えると、会話できない赤ちゃんとのコミュニケーションの助けになる。

いいな、と思ったのは。

『生まれてまもなく目が見え始めると、赤ちゃんは人を探すようになります。
そのとき、正面から顔を見て、声をかけてやる。
そこから、赤ちゃんとの会話が始まります。
まだ言葉は話せないけれど、赤ちゃんだって、会話がしたいのです。』

『赤ちゃんが声を出して人を求めているときは、何をさておいてもそばへ行って、あそんでやってほしい。一日のうに五分か十分そうやってあそんだら、赤ちゃんは満足して、また次の日を待っているんです。』

遠野のことわざ
『童(わらし)ぁ 生まれるずど、その家さ、馬鹿ぁ三人出る』
大の大人が赤ちゃんを相手に、なりふりかまわずうたって遊ぶ様子をあらわしているとか。
微笑ましい。

子守唄について。
抱っこして揺すって寝かせると抱き癖がつくからダメというのは、最近は「抱き癖は気にせず抱っこしてあげて」と言われてるようなので、ちょっと古い考えかもしれない。
遠野に伝わるという下記の子守唄は、唄うのは難しそうだけど、その気持ちが参考になる。
子供がなかなか寝なくてイライラしそうな時に、「そうだ寝なくても宝だからいいじゃないか」と思い出せて助かる。

よいだらさのやぇ(いいじゃないか)
やんさ やめでもよぉ(どんなに忙しくても なにをさておいても)
泣く子ば だましゃやぇ(泣く子はあやしてやれよ)
万の宝よりもなぁ(万の宝よりも)
子は宝だよなぁ(子は宝だよな)


子守唄はについてはどんな唄でも、ゆったり心が落ち着くならよい、とあった。
子守唄はもともと、子守りの気持ちを落ち着かせるもの、自分が落ち着いてうたえばよいと教えてくれた。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本八十日間世界一周

2010/01/26 00:39

これぞ、THE・冒険小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

十五少年漂流記が面白かったので、そういえばウチにはもう1冊、ヴェルヌ作品があったな、と思い出して読んでみた。
これも、面白い!

冒険小説を書かせたら、ヴェルヌは天下一品。
100年以上にわたって愛読されているだけの事はある。

1872年10月2日午後8時45分。
ロンドンの紳士、フィリアス・フォッグ氏が、世界一周の旅に出た。
彼は、緻密な計算をし、列車や船の遅れも計算に入れた上で、80日間で世界を一周できると断言し、実践してみせる事になる。
その実行に全財産を賭ける。もし1秒でも遅れたら全財産を失う羽目になる約束をする。

時刻表を手に、船と電車を乗り継ぎ、旅を続ける氏と、陽気で人の好い従者のパスパルトゥー。
当然、順風満帆な旅になるワケなく、次から次へと予定外の出来事が起こり、大金をはたいてあらゆる対処をするのだが・・・・?
どうなるの、どうなるの!?とページをめくらされる。
これぞ、THE・冒険小説。
ラストの仕掛けも面白い。

主人公フィリアス・フォッグ氏のキャラクターに好感。
寡黙で、機械のように落ち着いていて、正確無比。
一行に襲いかかる事件に、冷静に対処し、船や電車のみならず、馬車とか象とかソリとか、その場その場で考えられるベストな乗り物を手に入れ、旅を進める。
一見、何を考えているかわからず冷血に見えるけれど、実際は寛容で女性や弱いものにやさしく、困っている人を決して見過ごさないジェントルマン。
旅の途中、インドで、理不尽に殺されようとしている婦人を救おうとする。そのロスで、決定的に旅が遅れるとわかっていても。

この本に出てくる、世界各地の情景は、この時代の未刊・既刊の旅行記を版画と共に収録した「世界一周」という雑誌が元になっているらしい。
今よりもっと世界が分かれていたころの、各地の文化や風習を垣間見えるのも楽しい。

最後に、主人公がこの長旅で獲得したものはほとんど何もない、とし、しかし、
「そもそも人は、得られるものがもっと少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか。」
と結んで終わる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本ヨーロッパ退屈日記

2009/03/07 18:11

硬質なワガママというかこだわりが、キラキラと粋にきらめいて面白い

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

若かりし伊丹十三監督の、ヨーロッパ暮らしを綴ったエッセイ。
硬質なワガママというかこだわりが、キラキラと粋にきらめいて面白い。

読み始めは、何かちょっとキザで退屈だなー、と思っていたが、しだいに「フムフム」と真剣になり、キザで潔癖なこだわりが、快感になってくる。

あとがきに
「ヨーロッパ諸国と日本では風俗習慣はもとより「常識」そのものにさまざまな食い違いがある。わたくしは、これをできるだけ事実に即して書きたかった。」とあるように、著者の外国での暮らしでふれた実体験が、話題の根っこにある。
そこに思想とこだわりがのっかって、演技、映画、オシャレ、語学、スポーツカー、音楽、酒、料理などについて、彼のあらゆる美学が語られる。

たとえば、スパゲティの正しい食べ方。
スパゲティは、音を立てて食べるのは絶対のタブー。
音を立てないようにするには、フォークに適度な量の麺を巻き取る事が大切、と、正しい巻き取り方について述べる。
その述は、ヘミングウェイの一節に始まり、どこかユーモラスで厳しく、巻き取り方が緻密に伝授され、さいごはヘミングウェイの一節でまた終わる。

たとえば、カクテルについて。
「カクテルというものは、本当は愉しいものなのにねえ。」
晩餐前、夜早い時間に飲むものとして最適という。
ブランデイは食後の飲み物だし、ビールは満腹になってしまうし、ステーキの前に日本酒でもなかろうし、ウィスキーでもよいが女性同伴の場合はカクテルの法が良いと述べる。
そして、

「わたくしは、彼女の、その日の気分や、好み、アルコール許容度、そして服装の色などをおもんぱかって、これ以外なし、というカクテルをピタリと注文する悦びは、男の愉しみとしてかなりのものと考えるのだが、いかがなものであろうか。」

ステキだ。
こんな男性と飲みに行って、カクテルをピタリと選んでほしい。

以下、カクテルに関する覚え書きと、おつまにの記述が続き、ここで私は耐えられなくなって本を閉じる。

いかん。
猛烈に。
美味しいカクテルが飲みたい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本晏子 第1巻

2009/03/04 00:24

著者の魂をゆさぶった古代中国、斉の国の名宰相の見事な生き方を鮮やかに描いた名作

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

・・・・感動。
人が、こうも見事に生きられるものだろうか?
古代中国、斉の国の名宰相とうたわれた晏嬰の物語である。

あとがきに、
『歴史小説は感動を書くものだといわれる。
そうだとすれば、自分の魂をゆさぶった人物を書くべきであろう。
わたしにとって晏嬰はまさにそのひとりであった。』
と書いてあるが、著者の感じた魂のゆさぶりは、たしかにこの本を通じて受け取れる。
見事な生き方、そしてそれを見事に描写した、傑作、である。

古代中国、春秋時代。
大小さまざまな国が群雄割拠し、国同士の外交あり、戦あり、国の中でも大臣同士の殺し合いやクーデターもしばしば、という慌しい時代に、どんな権力にも暴力にも屈せず、正しくNOを言い続けた清廉な人物で、その芯のとおった清々しさは、すばらしく心地好い読後感を与える。

春秋左氏伝、晏子春秋、史記、といった史料が元になっているようだが、それらの書に、晏嬰の人生がこうも詳細に書いてあるワケではないだろう。その史料に向き合い、感じた感動をあらわせるような生き生きとしたエピソードをつくりあげ、書き上げたトコロがすごい。

名場面をあげればキリがないが、晏嬰が、「君主からもらった褒美を辞退する理由」もその一つ。

過大な欲は身を滅ぼす、という。
富には適切な幅があり、それをこえるとかえって不便・不幸になる。
利の幅を守っていれば災いにかからない、だから辞退する、と言う。

しかし、人の幅とは、境遇や身分で変わるもので、天から定められた絶対の幅を見極められるのは億人に一人だろう、と著者は書き、晏嬰はそれに当たっている、と書く。


前半は、晏嬰の父、晏弱の物語で、これもまた、面白い。
賢く、機知に富み、戦の天才。
この父親が、隣国を攻めて見事傘下に収める逸話、敵との頭脳戦あり、剣を交えた戦い以外の活躍もあり、スペクタクルで痛快。

晏弱は、奇抜な戦法をいったいどこから思いつくのか?という疑問に対して、晏弱の部下が語る。
同じ場所を攻めた前回、晏弱は将軍ではない立場だったが、もし自分が将軍だったらどう攻めるか?と考えていただろう、と。

『ある立場にいる人は、その立場でしかものをみたい。が、意識のなかで立場をかえてみると、おもいがけないものがみえる。それを憶えておき、いつか役立たせるということである。』

たくわえてきた記憶は、その機会がきたとき、時のたすけを得て、知恵にかわっている、その知恵が、晏弱には豊富にそなわっている、ということ。
ははあ、勉強に、なります。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本美味礼讃

2009/02/22 22:51

ほんもののフランス料理を日本にもたらした先駆者。その物語は刺激的。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

辻静雄。
「彼以前は西洋料理だった。彼がほんもののフランス料理をもたらした。」といわれる人物。

新聞記者を辞め、まったくの素人から、調理学校に婿入りし、一流ホテルのコックが「テリーヌ」も知らない時代に、フランス料理を学び、調理学校を充実させそれを日本に広め、第一人者となるまでのサクセス・ストーリー。
何もないところから何かを生み出す先駆者の物語は刺激的だ。

食べること飲むことが大好きな私にとっては、作中に出てくる写実的な料理とワインの描写もひどく魅力的。

飾り気の少ない文体は、すっきりと芯がある。その積み重ねが、辻静雄という1人の人間の人生とその哲学、料理にという芸術に対する意識とか葛藤とかを力強く描いていて、それが心に響く。
2年余の時間、辻静雄本人に対する50回をこえるインタビューがこの本の下地にあると知って、納得。しっかりした土台の上に築かれたもの、という感じがある。

半伝記、半フィクションの形式で、本当にそのものがあったワケではないだろうが、その人生を語る上でわかりやすく象徴的なエピソードが、上手にムダなくちりばめられている。

「フェルナンはね、生きているとき、いつもこういっていたの」
史上最高と言われるフランス料理のシェフ、フェルナン・ポワン。彼の亡きあと、その味を覚えていて、レストランを続け、三ツ星をキープした未亡人、マダム・ポワンの一言。彼女は、辻静雄を息子のように愛し、助けてくれる。
「料理をつくる人間のつとめは、お客さんにつねにささやかなうれしい驚きをさしあげることだって。だからわたしもそうしているの」

調理学校を開校したばかりで運営方針が決まらなかった辻静雄にとって、これが、目標となる。
彼も後年、同じ思いに行き着いたのか、こんな記述がある。
「料理を口にした瞬間に客の顔に広がるちいさな驚きの表情を眺めるよろこびは、それを知らない人間には絶対に理解できないだろうと思った。」

フランス料理を理解するため、ひたすらに食べ続けた。
初めに、
「料理というのはつくり方も大事だが、できあがりの味がすべてなんだ。きみはまずそれを知らなければならない。そして、あらゆる料理のこれがそうだという最終のできあがりの味をきみの舌に徹底的に記憶させるんだ。」
というアドバイスを受けたからだ。

後には、日本料理、中国料理についても同じ。その飽食は、やがて彼の健康を害す。
彼にとっては、食べ続けたのは、楽しみのためではなかった。
『いかに満腹であっても、必要のために食べつづけてこなければならなかったのだ。
こうなるまで食べてこなかったら、フランス料理はもちろん、日本料理についても中国料理についても通りいっぺんのことしか理解することができなかっただろう』

なんというか、壮絶。

晩年のシーン。
「結局、人間にできることは、自分がやってきたことに満足することだけなのだ」
手塩にかけて育てたシェフの裏切り。けれど、どんな見返りも、そのシェフからは結局もらうことはできないと気づく。
誰のためでもなく、自分がそうすべきだと思ってしてきたこと、その過程で起こる事は、飽食による肝臓の故障も含めて、すべて認め、受け入れる。
これが、成すべき事を成し遂げた人の行き着くところなのだろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本象は忘れない

2009/02/01 01:53

円熟した著者晩年の作品 レベル高い

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小説家ミセズ・オリヴァは、ある婦人から、奇妙な依頼をうける。
「私の息子の結婚相手の娘さんの両親は、10数年も前に心中しているのだが、それは父親が母親を殺して自殺したのか?それとも母親が父親を殺して自殺したのか?」
それを突き止めてほしい、という。

困ったオリヴァは友人ポアロを訪れる。
アガサ。クリスティー82歳の時の作品、年代順で言えば、最後に書かれたポアロ作品。
自己顕示欲が強いポアロも歳をとって穏やかになっている。

晩年の作品だけあって、円熟した感じがある。
派手さはなく、ちょっと小粋で、すんなりした展開、ラストに満ちる穏やかな愛。

事件は当時有名なものだった。
立派な夫、愛情こまやかな妻、二人は仲むつまじく、金銭も健康も何のトラブルもない。
だが二人はある日、銃で撃たれた死体となって見つかった。
現場の状況から見て、それは自殺としか言いようがないが、動機もない。
警察もさじをなげて「心中」と片をつけた事件。

果たして真相は本当に心中だったのか?その動機は?
そして依頼者の夫人は何故それを知りたがるのか?


「象は忘れない」

子供たちが小さい頃から聞かされるお話。鼻に縫い針を突き刺された象がそれを何年も忘れず、注ぎにその犯人が通りかかったときに水をぶっかけた、という逸話。
それにちなんで、オリヴァは、昔のことを覚えている人を「象」と呼び、この謎をとくため、オリヴァとポアロは、「象探しの旅」に出る。

この「象」という言葉が、作中、ずっとついてまわり、面白い印象を残す。
勘違いした秘書が、オリヴァはアフリカに猛獣狩りに出かけた、などと勘違いする辺りもおかしみがある。

オリヴァとポアロが様々な人を訪ね、実に巧みに世間話から、事件の話にうつり、その当時のことを聞き出してくる。それが全然真相に近づかないようなどうでもいい話なのだが、最後までいくと、その人たちの話の中に、真実の切れ端がちりばめられていたことが、わかる。

その長々とした会話から、読者を飽きさせる事なく、少しずつ過去を浮かび上がらせる筆の巧みさは、さすが。

心中事件の真相は、深い愛に包まれたものだった。
そのあたたかい余韻にひたりつつ、オリヴァのセリフでラストがしまる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本移動都市

2009/01/19 12:33

宮崎駿のアニメを連想させる冒険活劇

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者名もよく見ないで適当買いした本が「あたり!」だと、とても嬉しい。この本は久々なそんな出会い。

イギリス発の未来SFファンタジー。
宮崎駿のアニメがよく似合いそうな、生き生きと冒険が描かれる映像的な作品。
日本SF大会に参加したSFファンの投票で決定される「星雲賞」受賞作。というから、人気もあるのだろう。確かに面白い。

60分戦争と呼ばれる戦争で荒廃した世界。
人類は、キャタピラのついた移動都市に住み、荒地を移動しては、他の移動都市を襲い、資源を奪う。
反移動都市連盟という一部の人々だけが、土の上に住み、移動都市の民からは「野蛮人」と呼ばれている。

時に、発掘により、古い文明の一部が垣間見える。
CDと呼ばれるキラキラ光る円盤だったり、アメリカの神だったと推測される「ミッキー」「プルート」という像だったり(こういうユーモアも面白い)、ストーカーと呼ばれる、人間の死体から作る兵器だったり・・・。

主人公・トムが居るのは、移動都市ロンドン。
(このように、現代の都市の名前をそのまま引き継いだ移動都市が出てきて、それぞれ、都市の特色が豊かで面白い。小技が効いている)
史学ギルドで下っ端の仕事をやっている最中のふとしたきっかけで、アコガレの人・史学ギルド長ヴァレンタインと知り合う。
そこから、物語が始まる。

ヴァレンタインを殺そうとする少女。
なぜ、立派な人物であるヴァレンタインが少女の恨みをかっているのか?
少女の顔についたいたましい傷のワケ。

少女の襲撃を必死で止めたことから、トムの運命は大きく変わり、生まれて初めてロンドンを出て世界を放浪する旅に出る事になる。

大小さまざま多彩な移動都市。
空にうかぶ飛行都市もあり。
疾駆する都市どうしの争い。狩り。
発達した飛行技術。飛行船や飛行都市での戦闘。
発掘された古代兵器の暴走。
反移動都市連盟のスパイ。芽生える小さな恋。
目をつぶると、いちいちダイナミックな映像が浮かぶようで楽しい作品。

シリーズ4部作の1冊目。2冊目までは翻訳されて文庫が出ているようだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

何やら小難しいけれど面白いミステリー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

パリのどんより冷たい灰色の冬のさなかに起こる殺人事件で、協調される「赤」色が、くっきりと印象に残る。

<帰国は近い。裁きは行われるだろう。心せよ I>

20年も前にスペインでレジスタンスに参加して行方不明となった男からの手紙が、届いた。
そして首なし死体から始まる連続殺人事件。

不気味な手紙、現場に残る小さな謎たち、登場人物たち同士の旧い因縁と現在の関係、不可解な行動。様々な人物による幾通りもの推理。
うっとりするようなミステリーの材料だ。

食前酒「アプリチフ」
不在証明「アリビ」
簡単な生活「ラ・ヴィ・サンプル」

とか、ところどころにフランス語のルビがふられているのが異国情緒を高める。

犯人探しだけでなく、正体を伏せていた人物の過去や、20年前の事件の真相も明らかになったり、と、盛り沢山で嬉しい。

また、こうした推理小説としての愉しみ以外に、この作品には、現象学を学ぶ風変わりな探偵役の青年、矢吹駆と、その哲学が出てくる。
この作品は、連合赤軍事件によって体現されたテロリズムの意味を読み解くために書かれたとか。
「テロルの現象学」という同著者の評論で書かれたことが、ミステリーで表現されているようだ。

まず、現象学とは。
事件に対する論理的な説明ができたとしても、それが正解とは限らない。
論理的な説明は、何通りもできる。
その中から正しい答えを選ぶのは、人間の本質的直感を使えばよい、という。

本質的直感とは、人間が無自覚に日常的に働かせている、対象を認識するための機構。
例えば、円周率なんて知らなくても、「円」と「円じゃないもの」を判別できるのは、判別のための基準 = 「円の本質」をみんな知っているから。
これを、どう殺人事件の推理に当てはめるか?というあたりは、ちょっと無理やりっぽいのだが、「へぇ~」と思う新しさがある。

そして、この作品の殺人事件は、「観念による殺人」であった。
殺人には2つのタイプがあり、金や嫉妬や地位保全などの物質的欲望の充足と、個体の死を延ばそうとする自己保存本能によるもの。よくあるのはこちら。
もう1つが、観念による殺人。
人間よりもっと高い価値のために、神や、正義や、倫理のための殺人。
たとえば、「他の生物を無用に殺さない」という宗教の教えが浸透している男が、たかだか40億の人類のために、その万倍、億倍の生命が失われる事を知り、人類を滅ぼそうとする。これが観念の殺人。
それは善なのか?悪なのか?

最後に行われる、観念の殺人を行った犯人と、駆の、思想の対決。
駆は、犯人の思想に非常に共感はするものの、でも最後のところでそれは間違っている、と反駁する。そのコトバこそが、著者がこの本であらわしたかった思想なのだと思う。
暗く冷たく、でも最後には人を信じようとする、ユニークな思想を持つ駆。彼にまた会いたいという読後感で終わる。
本作はシリーズ第一作らしく、つづきがあるようなので、あとの楽しみができた。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本卵の緒

2008/11/04 13:10

自分の子供にこんなセリフ言ってみたい

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

みずみずしくて、可愛らしい文章がストーリーにぴったり。登場人物のキャラクターがそれぞれ魅力的で、気がつくと好感を持ってしまっている。こういう書き方ができる人は、ふだんから人のよいところを探せて、表現できる人なのだろう。著者は中学の現役国語教諭らしい。こんなあたたかい目で見守られる中学生がうらやましい。

●自分が捨て子だという疑う小5の育生(いくお)は、母親に、捨て子でないと言うなら、その証拠に「へその緒」を見せてくれ、と頼む。
あっけらかんとした母親は、卵の殻を持ってきて、「母さん、育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの」と言う。

明るくて、料理が上手で、息子への愛情を、言葉でも行動でもめいっぱい表現する母親。
自分は捨て子と確信しつつも、母親のあふれんばかりの愛情を一身に受けて、素直で優しくマジメな息子。
魅力いっぱいのこの2人の母子家庭の様子が、みずみずしい文章で描かれて、読む人を笑顔にさせる。

『すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ』
なんて事を、私も自分の息子に言いたい。
母親のこの台詞、すごく好きだ。真実をついている。

『夕暮れでも海でも山でも、とことんきれいな自然と一人じゃないって確信できるものがある時は、ひとりぼっちで歩くといいのよ』
なんて事も言ってみたい。

私はまだ子育てを経験していないけれど、このハナシを読んで、子供を育ててみたい、と思わず一瞬思ってしまった。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本太陽の塔

2008/10/07 13:53

愛すべき若者、というかバカ者の、おもしろ切ない青春小説

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
京大農学部休学中5回生、という身分の愛すべき若者、というか、バカ者が主人公の青春小説。

彼の生活は基本的に、女っ気ナシ。
作中の表現を借りて表現すると、

『あらゆる意味で華がなかったが、そもそも女性とは絶望的に縁がなかった。(略)
しかし、私が女ッ気のなかった生活を悔やんでいるなどと誤解されては困る。自己嫌悪や後悔の念ほど、私と無縁なものはないのだ。かつて私は自由な思索を女性によって乱されるのを恐れたし、自分の周囲に張り巡らされた完全無欠のホモソーシャルな世界で満足していた。類は友を呼ぶというが、私の周囲に集った男たちも女性を必要としない、あるいは女性に必要とされない男たちであって、我々は男だけの妄想と思索によってさらなる高みを目指して日々精進を重ねた。』

ハイで皮肉で自虐的な文章が、楽しい。
どう見ても、本当は彼女が欲しいのに、それを表では認めず、見栄っ張りで頭でっかちなムサ苦しい大学生活。
著者が京大の大学院在籍中の作品であり、サークル、飲み会、下宿、研究室・・・・と、その描写は、実にリアル。
私がいた仙台の大学の理学部での生活を彷彿させる。

主人公はしかし、3回生の時に、同じクラブの後輩「水尾さん」とつきあっていた。
そして、フラれた。
決して未練などない、と書いてあるけど、その行動はどう見ても、未練たらたら。
ストーカーまがいの行動にも「これは研究」と理屈をつけて、正当化しつつ、彼女に恋する新しい男とアホな戦争をして、似た者仲間たちと妄想をくりかえし、反クリスマス同盟なぞ結成して・・・・・

で、結局何が言いたいの?というと、水尾さんへの恋と失恋と再生の物語、なのかしら。

アホな生活を送れば送るほど、ちりばめられる水尾さんの描写が、愛にあふれていて切ない。
水尾さんは回想シーンでしか出てこないのだが、彼の回想する水尾さんは、とにかく愛らしい。それが切ない。

『駅のホームで歩行ロボットの真似をして、ふわふわ不思議なステップを踏む。』
『猫舌なので熱い味噌汁に氷を落とす。』
『きらきらと瞳を輝かせて、何かを面白そうに見つめている。』
『何かを隠すようにふくふくと笑う。』

何がファンタジーなのかというと、主人公の妄想世界が、現実アホ世界と折り重なって、境目がよくわからなくなるドサクサに、主人公は二両編成の叡山列車に乗って、水尾さんの夢の中へまぎれこむ。ごく自然に。
ただそれだけなのに、この淡い夢の世界の印象は、あとまで尾を引いて、心に残る。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本虚空の旅人

2008/10/02 01:14

守り人シリーズ4作目、皇太子チャグムの健全な成長ぶりがたのもしい&今後が楽しみ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

守り人シリーズ4作目。
これまでと趣き変わって、3作目までの主人公・女用心棒バルサは出てこない。
代わりに、14歳になった新ヨゴ皇国・皇太子のチャグムが、隣国サンガルの新王即位式に出かけ、そこで国同士の陰謀そして戦いに巻き込まれる、というハナシ。

シリーズおなじみ、現世界のウラに存在する異世界ナユグも関わってくる。

3作目でちょっとマンネリ化したかなーと思っていたが、どっこい、本作で一気に世界が広がり、いろんな国が登場し、国際的に広がりを見せ、新しい展開に引き込まれる。

これまで、新ヨゴ皇国のほかに、2作目で北の国・カンバルが登場し、国のオリジナリティというか、地理・民俗・国民性などの個性をあざやかに描かれていたが、今回は、南の国に世界が広がる。

海、風、花の色彩の濃い描写が、いかにも南国。
風土だけでなく、王家の成り立ち、それによって王家と民の関わり方もまた全然違う。
そこが、おもしろい。
そして、何よりもワクワクするのは、1作目からなじみの皇太子チャグムの立派な成長ぶり!
王族としての気品、社交性を身につけ、駆け引きもできるようになり、でも大切なモノを失っていない。

国の一大事に、漁民の娘の命など、チリほどに軽い。
隣国サンガル王家の人々も、新ヨゴ皇国の帝であるチャグムの父も、そういう考え。
反して、チャグムは、その小さな命を見捨てることができない。
それは、皇太子としては危ない思想であることも承知している。
周りの人を、さらに大きく言えば自国を、危険な目に遭わせてしまうかもしれない危うさをもっている、それでもチャグムは配下のシュガに約束させる。

陰謀を知りながら、人を見殺しにするようなことを、決して私にさせるな、と。

『政は、人の情けさえも道具として使う。それをシュガは当然のことと思ってきた。
だが、この皇太子の身のうちには、輝く玉のような清いものがあった。』
そう思ってきたシュガもやがて、
「清い、輝く魂を身に秘めたままで、政をおこなえる方がいることを、私は信じます」
と言うようになる。
まっすぐな気性のチャグムと、それを愛しつつも冷静でチャグムを止める事もあるシュガ。よいコンビ。この先が楽しみ。

そしてチャグムは、考える。
異世界ナユグと、現世界サグ。
時々起こる2つの世界の重なり、そして、それを感じる人が稀にいる。
それには何の意味があるのか?
大きな壮大なめぐり・・・・自分をはぐくむ世界は、どうめぐっているのか?
しかし世間の人々は、そんな事には無関心で、日々、人とどう関わるか?国をどう動かすか?陰謀や戦にばかりにとらわれている、と。

今後、このシリーズにおいて、チャグムは、世界の壮大なめぐりを、解き明かすのではないだろうか?と期待される。
日々の政を、清い魂で行っていくうちに、いつか、そんな日が来るんだろう。
その時には、今回はまったく登場のなかった、前作までの主要キャラであるバルサやタンダ、トロガイといった人達も、関わるんだろう、きっと。
楽しみ、である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本ま・く・ら

2008/09/24 02:55

好奇心旺盛で多趣味な噺家の枕はこうなるのか!

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

噺家・柳家小三冶の、18編のまくら集である。

まくらとは、本人のあとがきによると・・・
「噺の枕というのは、落語の本題に入る前のイントロで、こんなにいろんなこと長く喋るものではないのです。短い小噺をひとつふたつ喋っておいて、ポンと本題に入るのが江戸前てぇなもんです。本題に自信がないので独演会などの時にぐずぐずごまかしのためにやり出したのです。」
とあり、これがしかし、本題の落語より面白い、と言われるほどで、とうとう本になった。
私はこの著者の落語を聞いた事はないが、まくらは確かに面白かった。

まず、噺家コトバそのままの文体が、いい。ほどよい茶目っ気と柔らかさ。
『以前は外国へ噺家が行くなんてこたぁもう、今で言えば月の世界、火星の世界へ行くような、そんな感じがしたもんでございました。』
などと始まり、その内容は、多趣味で好奇心旺盛な著者の性格を反映して、さまざまな分野にわたる。
それでそれで!?と聞きたくなってしまう、著者のとる行動、思考の行く先。
そして、どれだけ多分野にわたっても、一本筋が通っていて、何の話をしていても、ブレない価値観をもっている事を感じさせる。

・日本人は豊か豊かと言われるけど、アメリカの失業者は、失業保険で生活しながら、庭もプールもある生活。失業しているワケを聞くと、「今おれに合う仕事がないから」と。「合う仕事が出てきたらバリバリ働く」。日本人は何人が、合う仕事をしていると言い切れる?

・外国のホテルのフロントで、ルームナンバーが英語で通じた!それだけで、「オー世界に国境はない」と大喜び。ちょっと通じる、くだらないことだけど、とても嬉しい。

・10年かけて映画を字幕ナシで見れるよう、英語の勉強を志す。字幕に出てこないものを見逃したくない。アメリカ人が涙する一言で涙し、笑うとき一緒の笑いたい。五十の手習いで、単身アメリカの英語学校へ。

・今の子供に涼しいものはナンだ?と聞くと、クーラー、扇風機と答えるだろう、でも本当に涼しいのは山の中とか川のせせらぎだ。大人が忙しくてそれを教えてあげられない世になっている。

・人の一生は子どもの時に決まる。後から性格を変えるのは無理。生れついた性格で爪弾きされるなら、開き直ろう、爪弾きされる楽しさもある。

このように、一つ一つは、他愛もないエピソードなのだが、著者の口調で読んでいくと、ハマる。
そして、「幸せって何だろう?」という考察もある。
その結論は、大層なものではないが、この語りの流れで読むと、胸にすとんと落ちて、いい気分になれる。

これを読んだら落語が聞いてみたくなり、新宿・末廣亭に行って来た。
柳家小三冶のナマ枕も(噺も)いつか聞きに行ってみたい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本王妃の離婚

2008/09/23 02:39

中世フランスの、痛快法廷サスペンス

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

佐藤賢一作品で、ベスト3に入る傑作。直木賞受賞作でもある。
解説で紹介されている審査員の井上ひさしの感想「おもしろくて、痛快で、おまけに文学的な香気と情感も豊か」がまさにピッタリ。

●時は、中世。フランス王ルイ12世は、醜女と名高い王妃と別れ、広大なブルターニュ公領を持つ未亡人との再婚をねらうため、王妃に対して、離婚裁判を起こす。
この時代、カトリックで離婚は認められていない。
離婚したければ、「結婚の無効取消」をねらうしか、ない。

どうすれば、キリスト教の法にてらして、「無効」とできるのか?

主人公は、裁判を傍聴しに田舎から出てきた弁護士。
この著者の作品によくある、昔はかがやいていたダメ中年。この物語は彼の再生物語、でもある。
かつては、パリ大学で英名をとどろかせた学僧だったが、おちぶれて今や片田舎の弁護士。
これが、ひょんな事から王妃の弁護をすることになり、圧倒的な劣勢から、その冴え渡る知性と現場で磨いた凄腕で、裁判をひっくり返そうとする、法廷サスペンスだ。

「インテリは権力に屈してはならない」と、息巻いていた学生時代のように、敢然と国王とその手下たちに楯突く主人公。
「新しい弁護士は、俺だ」と、傍聴席から立ち上がり、後輩である学生達の喝采を受けて弁護席に立ってからは、まさに痛快。

どうすれば、キリスト教の法にてらした「無効」をはねのけられるのか?

専門知識を駆使し、場の空気をつかむ駆け引き。
そして、教会裁判で使われるラテン語で緻密に検事側を追い詰めつつ、記録には残らないフランス語で、「美人じゃないから、やらなかったなんて、どう考えてもインポ野郎の言い訳じゃねえか」と、傍聴席の民衆を沸かす。傍聴席は爆笑しながら、下品な野次で応えてくれる。
検事側はますますうろたえる。
ここらへん、実にエネルギッシュで面白い。

そして。
キリスト教において、夫婦とは、結婚とは、セックスとは?
若かりし青春の日に、最愛の女を失った主人公の考える、考え続けてきた、男とは?女とは?愛とは・・・?

解説にもあるが、登場する2人の女性の描写がこれまたステキ。
主人公の昔の恋人、ベリンダ。美人でおしゃべりで愛らしく、生命感にあふれている。
かたや、王妃。醜女と呼ばれるが、濃い色の地味な服に頭巾をかぶって、印象は暗いが、孤立無援の中、穏やかにしかし頑なに離婚を認めない、高貴な凛とした強さ、そしてその中にひそむ弱さが、後半には愛らしく描かれ、どちらも魅力的。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

「ローマ人の物語」で最も面白い巻といえばココ!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ローマ人の物語」シリーズ中で最も面白いのは、「ハンニバル戦記」「ユリウス・カエサル(ルビコン以前)(ルビコン以後)」だと思う。そのうち、「ルビコン以後」は、「ユリウス・カエサル」の人生後半部分を描いたもの。

元老院から「国家の敵」と通告されたのに反旗をひるがえし、国法で禁止されている「軍団を連れたままルビコン川を渡りローマ国内に入る」を実行したカエサル。敵対勢力・ポンペイウス率いる元老院派と内戦の末に勝利をかちとり、ローマに凱旋。ローマに平和が戻り、カエサルは独裁者として、長年の目標であった、衰えかけたローマの統治力を強化する改革を次々にすすめる。

この改革の内容を読んでいくと、カエサルは、何と創造的な人であったのか、と驚く。
宗教、政治、食料、安全、生活の向上・・・あらゆる分野で、今後のローマが発展すべく、礎をきずいていゆく。戦えば勝つ、政治改革はやる、1人の人物が、軍事、政治の両面でここまで才能を発揮できるものなのか。
「歴史はときに、突如一人の人物の中に自らを凝縮し、世界はその後、この人の指し示した方向に向かうといったことを好むものである。・・・(略)・・・これら偉人たちの存在は、世界史の謎である」という本書で紹介されているブルクハルトの言葉にまさにふさわしい。

改革の最中に、カエサルは暗殺されてしまうのだが、暗殺したのは、かつて内戦でカエサルと戦い、敗れたが許されてその後もローマで政治にたずさわっていた者たち。
カエサルは、内戦の敗者を決して罰しなかった。それは、カエサルが手紙にも書いたこんな思想から。

「わたしが自由にした人々が再びわたしに剣を向けることになるとしても、そのようなことには心をわずらわせたくない。何ものにもましてわたしが自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから、他の人々も、そうあって当然と思っている」

いやーこんな事を言い、実行できる男には、塩野七生だって惚れてしまう。
他人の考えを尊重する、とは言うは易しく、行うは難い事だ。それが自分の目標の邪魔になったり、ましてや命の危険になっても、であれば、なおさら。

塩野七生のカエサルへの愛情は相変わらずで、思わず惚れてしまいそうになる魅力的なエピソードもたくさん。

8年間ものガリア戦役を共に戦った、子飼い中の子飼いである第十軍団の兵士達が、内戦のさなかに、「給料あげてくれなきゃもう一緒に戦わないぜー」とストライキを起こした時。
カエサルはこれを一言でしずめる。これまで「戦友諸君」と呼んでいた彼らに対して、
「市民諸君」
と呼びかける。
「他の兵士達と戦いに行って、終ったら給料は払うから、安全な場所で待っててくれ」と言われた兵士たちは、立場一転、「連れてってくれ」「カエサルの許で戦わせてくれ」と泣き出す。
うーん、カエサル、かっこいい・・・。


ルビコン以後は、手に汗握る戦闘シーンはルビコン以前のガリア戦記に比べると物足りないが、カエサルが断行する改革で天才の創造を知るのが面白いのと、カエサルとアントニウス、2人のローマ男の愛人となる、エジプトの美しき女王・クレオパトラの存在が物語に華をそえる。
塩野七生は、クレオパトラを、頭はよく機知に富んでただろうが、本当の意味での知性があったかどうか疑わしい、と延べ、アントニウスを篭絡するはいいが現状認識せずに過剰な権力を手にしようとする浅はかな女として描かれている。
クレオパトラの言うがままに、ローマに不利益な行動を繰り返し、国民からも見捨てられるが、愛に生きて、愛する女の胸で死ぬアントニウスが物語としてはいちばんドラマチック。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

「ローマ人の物語」で最も面白い巻といえばココ!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

塩野七生による、ローマの誕生から滅亡までを描いた傑作名著「ローマ人の物語」。
このシリーズの中で最も面白いのは、文庫版で3~5巻の「ハンニバル戦記」と、8~13巻の「ユリウス・カエサル」だと思う。
これらの巻だけを抜き出して読んでもハナシはわかるので、友達に「面白い本ない?」と言われたらこの9冊だけを渡すこともある。

歴史本なのに、小説にも負けないドラマチックなストーリーと、登場する英雄達を実に生き生きと描く著者の筆が、「ハンニバル戦記」と「ユリウス・カエサル」を、盛り上げる。
特に、カエサルを書く著者の筆は、本当に面白い。著者は、きっとカエサルが大好きなんだろうと微笑ましくなるくらい。
カエサル自身の発言、まわりの評価、後世の歴史家のことば、著者自身の考えをおりまぜ、その魅力をあますことなく紹介してくれる。

「ユリウス・カエサル」は、カエサルの若い時からガリア遠征を描く「ルビコン以前」と、ローマの共和制打倒のために内乱をおこす「ルビコン以後」に分かれる。

若い頃は、あまりぱっとしなかったようだ。
30歳を過ぎて、アレクサンダー大王の像を見て、彼が世界を制覇した年齢に達したのに自分は何もやってない、と反省し、ここから、広大になり統治システムがうまく働かなくなったローマ国家を変えるべく、その目的に向かって、ひたすら進む。
政界に進出し、自分も他人も利をこうむるやり方で、着実に出世し、有力者と手を組み、そして8年間にわたる遠征で、ガリアをローマの支配下におくことに成功。
ガリアの各部族との物理的な戦争がある一方でカエサルが倒そうとしている共和制をになう元老院との政治舞台での戦いがあり、ガリア平定後、元老院から最後通告をつきつけられ、ルビコン川を渡って国家に内乱を起こすか、元老院に従い志をあきらめるのか!?というところで「ルビコン以前」はドラマチックに終わる。

リーダーたるものこうあるべき、という理想像のようなカエサル。その言動は、現代の人が読んでも参考になるのでは。

どんなときも自信があり機嫌のよさを失わず、知性と教養にあふれ、ユーモアを忘れず、女にモテて、目的を達成するための合理的な考え方、部下へのいたわり・敗者への寛大さ(それも目的を達成するための手段かもしれないが)・・・・・。著者の書くカエサル像に、魅了され、ルビコン川を渡るときには、自分も一緒に戦いたくなってしまう。

何故カエサルが女にモテたのか?という考察や、借金まみれでも平気だったという彼のお金に対する考え方、なども面白い。

私財をためる事には興味のなかったカエサルだが、公共事業など必要なものには金をおしまなかった。そのために莫大な借金をしても、全く平気。
それは、あまりに多額の借金は、債権者にしてみれば債務者が破滅して取立て不能になっては困るものとなり、債務者を援助してしまうようになる、という人間心理をついた理由から。
事実、カエサルは多額の借金の債権者にさまざまな事で手を貸してもらっている。
金に飢えず、他人の金と自分の金を区別しない、お金に対する絶対的な優越感。
後世の研究者に「カエサルは他人の金で革命をやってのけた」と書かれる様な。
この一事をとってみても、タダ者ではない感じがステキだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

40 件中 1 件~ 15 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。