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YO-SHIさんのレビュー一覧

投稿者:YO-SHI

128 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本別冊図書館戦争 1

2008/05/24 11:02

激甘ストーリーの頂上を極めた作品

14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 図書館戦争シリーズのスピンアウト。著者の良心で、一度幕を引いた以上は良化法関係で本編以上の騒ぎを起こすのは反則、ということで登場人物を中心に別冊シリーズを書くそうだ。

 それでもって、今回はどの登場人物に焦点を当てているかというと、堂上と郁の甘々カップル。なんだ、本編と変わりないじゃないか?とは思わないでもないけど、まぁ別冊の1冊目としては順当な所。個性的な登場人物と人間関係がたくさん仕込まれているから、これからも色々な物語を楽しめることを期待する。

 そして、堂上と郁の物語である。「図書館革命」では、当麻亡命事件の後、時間を早送りにして2人は結婚してしまっているけれど、本書はその早送りの時間の間の出来事。つまり、愛の告白の後、結婚に至るまでの話。
 もう、ベッタベッタの砂糖菓子のような甘さだ。そりゃそうだ、世のたくさんのカップルについて言っても甘~い時期。まして、堂上と郁だ、有川浩が描く「図書館戦争」シリーズだ。激甘ストーリーの頂上を極めたと言えよう。
 著者も「ベタ甘が苦手な人は逃げて」と、あとがきで言っている。(あとがきで言われてもねぇ。もう読んじゃったし。)

 正直に言うと、読んでいてこっちが恥ずかしかった。もちろん、面白かったし、楽しめたし、細かいエピソードも良く練られていました。だからオススメです。勧められなくても「図書館戦争」シリーズを読んだ人なら読まずにいられないでしょうけど。
 でも、本編にはない恥ずかしさが漂います。恋人ができてから結婚に至るまでの女の子様子を見ているなんて、恥ずかしいことだらけで。カワイイ下着を買いに行ったり、初めてのお泊りとか....。まぁ、郁の場合はそれだって普通にはすまないんだけど。本編に比べると、本書はちょっと大人モード。小学生にはキツいかな。

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紙の本

村上春樹ファンには肌になじむ感じの物語

16人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 出版社によると、発売1週間後の昨日(6月4日)現在の発行部数が、BOOK1が51万、BOOK2は45万だそうだ。敢えて指摘するまでもなく空前の売れ行きだ。出版界のみならず経済全体の景気が悪くて社会が沈鬱な現在、明るいニュースの部類にはなるのだろう。良いことには違いない。
 しかし、どういった内容の本か?とか、面白いのか?という情報が皆無に近い中での雪崩のような売れ方に疑問がないわけではない。「売れている本だから買って読んでみたい」というのは自然な感情だが、ある閾値を越えると量的な違いは質的な転換を伴う。1週間で百万部という量は尋常ではない。本書との関連を指摘されるオーウェルの「1984」が描き出した思考停止の状況に思えるが、シニカルな見方すぎるだろうか。

 肝心の本の中身は、少し気になる点はあったが面白かった。2冊で1000ページにもなるし、ゆっくり読もうと思っていたのに、結構なスピードで読みきってしまった。村上春樹ファンには肌になじむ感じの物語だ。かつての作品を思い起こさせる人々や出来事、ふんだんに出てくる音楽、あぁこれはランナーとしての著者の思いだなとか、これは「アンダーグラウンド」を下敷きにしたものだな、などなど。勝手な思い込みができるのも嬉しい。
 そして本書は、ファンではない人にとっても親切な造りだと思う。「親切」というのは「ファン以外には付いて行けない」というほど、いわゆる村上ワールド色が強く出ていない、という意味だ。得体の知れないモノや変わった人々は出てくるが、上々のサスペンスとしても読める。私は、あまりに普通の物語なので、著者の文体に似せた誰かの手になるものなのではないかと思ったほどだ。

 不満がないわけではない。多くの物事が着地しないままになっている。もっと言えば、物語に盛り上がりがない。特に主人公2人のうち一方の視点だけを見れば、「何かが起こりそう」という気配だけで実際には何も起きていない。これで終わりではないのだろう。
 ところで、この物語は、主人公の1人が紡いだ物語と現実が、複雑な入れ子状態になる。実はその入れ子状態はもっと大きく、本書そのものとそれを読む読者までが組み込まれているようだ。なぜなら、著者は主人公の口から、その作品が「物語としてとても面白くできているし、最後までぐいぐいと読者を牽引していく」のなら、疑問符を残したままであることぐらい何だと言うのだ、という意味のことを言わせている。これは著者が私のような読者を予想して、それに向けた言葉に違いないからだ。

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紙の本

世相を斬る切り口は鮮やか。でも主張は微妙にズレている。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者は、新刊再発とりまぜて毎年10冊も本を出し、新聞や雑誌などから事あるごとにコメントを求められるそうだ。本書を読んで、その人気ぶりにも得心がいった。ちょっと変わった視点を提供してくれるし、アカデミックな話題も親しみやすく語れる。本書ではそんな著者が、「格差」「少子化」「学力低下」「愛国」などの興味深いテーマを語るのだ。面白くないはずがない。

 しかし、本書に種々書かれている内容そのものに目を転じると、3割はなるほどそうかと思うが、6割は同意できない、残りの1割は何が言いたいのか分からない。もしかしたら、本書に対して「ココはおかしい」なんて読み方は本当は野暮なのかもしれない。「へぇ~そうなんだ。この人はこんな風に考えるんだぁ」と、読み流せば良いのかもしれない。
 なぜかと言えば、本書は著者のブログの記事を編集者がピックアップして再編集したものだからだ。往々にしてブログの記事は、その時々に思ったことを書くので、首尾一貫したものにはなりにくいのはもちろん、1本1本の記事もそんなに気を配っては書かない人だっているだろう。

 しかしたくさん気になったことがあるので、野暮を承知で一つだけ指摘する。それは論理展開に潜むミスリード。あるテーマを何段階にも展開していくのだが、どうも途中で最初のテーマから微妙にズレるようなのだ。例として「格差社会」についての論理展開を紹介する。
 (1)「格差」とはメディアの論によると「金」のことである。→(2)「金」がないせいでネットカフェで暮らすなどの生活様態を余儀なくされている。→(3)これから導かれる結論は「もっと金を」だ。
 ところで、(4)「格差社会」とは人間の序列化に金以外のものさしがなくなった社会である。(5)「もっと金を」というソリューションは「金の全能性」をさらにかさ上げする。→(6)「金を稼ぐ能力」の差が、乗り越えがたいギャップとしてに顕在化する。となっている。

 そして、格差社会について色々言うのは悪循環を招きのではないか?という主張に続く。「ほぉ、なるほど」と思わないでもない。一つ一つの→のつながりも間違えてはいない。でも、格差問題解消の結論は「もっと金を」とも言えるが、より丁寧に言うと「衣食住に最低限必要な金(そのための職)を」だろう。
 「衣食住に最低限必要な金を」なら、「金の全能性」をかさ上げすることにはならないはずだ。「もっと金を」という言葉の選択が、論理展開を微妙にズラし、結論を歪めてはいないか?著者の作為的な選択かどうかは分からないが、他のテーマでもこういう論理展開が幾つも見られる。もし、作為的だとすれば、たちの悪い言葉遊びだと思うが、どうだろうか?

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紙の本

この本が、もっと広くもっとクローズアップされるようになるのは時間の問題だろう。

13人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 震災と原発事故のために世の中が不安定になっている現在。本書は、すでに各所で話題になっているし、もっと広くもっとクローズアップされるようになるのは時間の問題だろう。

 この本は、前の福島県知事である著者が、自身の汚職事件について無実を訴える手記で、1年半前に出版された。しかしその内容は、今の不安定な現状に直接的にリンクしている。本書が真実ならば、私たちは頼れるものを失ってしまう。いや、もともとそんなものは失って久しいのかもしれない。

 著者によると、この汚職事件は東京地検特捜部の捏造だということなのだ。検察が創造したストーリーに合うように、強引な取り調べによって取った調書を積み重ねたに過ぎないという。本書出版の当時ならば半信半疑の主張だが、村木厚子さんの冤罪事件の後の今では、これが真実なのだろうと思う。

 それは、東京高裁の有罪判決で、認定した賄賂の額はゼロだという、前代未聞の事態からもうかがい知れる。「ゼロ円の賄賂を受け取って有罪?」司法の場では私たちと違った論理があるらしい。

 さて、本書がクローズアップされるだろう、としたのは本書の別の部分による。それは2章に分けて68ページを費やして記されている、国の原発政策との著者の戦いの部分だ。それによると、著者の知事時代の2003年に、東電が持つすべての原子炉が停止している。

 その発端は「原子炉の故障やひび割れを隠すため、東電が点検記録を長年にわたってごまかしていた」という内部告発だった。今、連日報道されている福島第一、第二原発の原子炉でのことなのだ。

 もちろん、今回の事故は地震とそれに伴う津波が原因だ。懸命の復旧活動にウソはないだろう。しかし、定められた点検や対策はキチンと行われていたのか?という疑問は残ってしまう。

 何しろ、著者が危惧し改善を求めた、東電や国の原子力行政の杜撰な体質は、今も何ら変わっていないようなのだ。今の事態は実は防げたのかもしれない、という思いが、胸の内に澱のように溜まっていく。

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紙の本

ヒトの行いは不合理だけれど予想は可能。実験と検証も可能。

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これは、ためになる本を読んだ。著者はデューク大学の行動経済学の教授で、MITのメディアラボにも籍を置いている。不肖私は20数年前に経済学を学んだ者だが、「行動経済学」という研究分野のことを知らなかった。
 古典的な経済学では「人は合理的に行動する」ことを前提に理論が構築されている。しかし、現実を見ると人の意思決定は合理的ではない。必要ではないものを買ってしまうことの何と多いことか。そこで行動経済学は、人は合理的に行動するという前提をなくし、いわば心理学の見地を取り入れ、人の振る舞いを基礎に置いた経済を研究するものだそうだ。

 まずは、本書にあるちょっとした実験を紹介。日本でもハロウィンの行事が認知されるようになってきたが、著者がハロウィンの日に家にきた子どもに仕掛けた実験(イタズラ?)だ。キスチョコを3つ渡してこう言う「この他に、小さいスニッカーズをもらうのと、キスチョコ1個と交換に大きいスニッカーズをもらうのとどっちかいい?」
 小さいスニッカーズは約30g、大きいのは約60g、キスチョコは約4.5gだ。合理的に考えれば、大きいスニッカーズとの交換が得策だ。でも..この子は一旦もらったキスチョコを手放すのが惜しかったのか、小さいスニッカーズを選んだ。「予想どおりに不合理」だ。
 「子どもだから..」という理由付けをしてしまいがちだが、そうではない。比較のためにやった他の実験では子どもたちは、ちゃんと合理的な判断ができた。そして、何よりも同じような実験を大人(MITの学生が被験者になることが多い。頭の出来は保証付きだと言って差支えないだろう)を対象にしても結果は同じく不合理だ。そんな実験の数々が本書の中にはあふれ返っている。

 実を言うと本書で紹介されている実験結果は、読者にとっても「予想どおり」だ。何となく普段の生活で感じている通りのことで「まさかそんな!」というものはなかった。しかし私は、本書が優れて示唆に富む本だと思う。
 それは、私たちが思う「感じ」を本書はキチンと実験で証明し、その理由を分析しているからだ。理由が分かればうまく利用ができる。もっと大切なのは対策ができることだ。世の中には不合理な行動の結果の争いや悲劇も数多くある。著者はその対策にもいくつか言及しているが、実現することを希望する。そして、本書を多くの人にオススメする。

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紙の本

紙の本夢をかなえるゾウ 1

2008/04/30 15:17

面白すぎる自己啓発本の功罪

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 出版社のWEBサイトによると、現時点で100万部突破とのことで、正真正銘のお化け書籍だ。個人的には過去の経験から、バカ売れしている本はハズレが多い、と思ってしまっているので売れれば売れるほど手が出ない。それでも読んでみたのは、本好きな人のブログでも絶賛されていたから。

 そして、........これは面白かった。「興味深い(interesting)」ではなく、「楽しい(amusing)」もっと言えば「バカバカしい(funny)」という意味で。それは、ガネーシャというゾウの頭を持ったインドの神様が話す関西弁に負うところが大きいのだが、吉本の漫才のノリだ、それも最近の若手のではなく、往年のしゃべくり漫才の。著者は、この流れるような関西弁とその雰囲気をどこで習得したのだろうか?

 ところで、本書はいわゆる自己啓発本で、主人公の「僕」のように「変わりたい」「成功したい」と思っている人が、「これを読めば、夢が実現できるかもしれない」と思って読むものだ。私自身もこれを読む時に、そんな期待があったことを否定しない。
 そういう意味での効能を求めるとしたら、本書はどうだろう?恐らく、あまた出ている自己啓発本と変わりないのだろう。今までの本でダメだった人の大部分はこれでもダメ。本書の中で、ガネーシャも「ワシが教えてきたこと、実は、自分の本棚に入ってる本に書いてある...」と言っている。

 いや、もしかしたら今までの本以上に、効能は薄いかも。なぜなら、この本は面白すぎる。ガネーシャが1日に1つずつ出す課題を実行していく、そうすれば成長するし変われる、というのが本書の目指すところだ。例えば、1日目は「靴を磨く」、2日目は「募金する」という具合に。ところが、この本は面白すぎて、多くの人が1日か2日で読了してしまうだろう。読み終わった後、相当の精神力を持って、もう一度最初から教えを1つずつ実行することが求められる。
 著者も、24個の課題を出した後、「もしかしたら、ここまで一気に読んでしまいましたか?」と、聞いてくる。すっかりお見通しだ。

 しかし、全部の課題がそうではないが、胸にストンと落ちるアドバイスは多い。上に書いたように、劇的な成功を望むのは期待しすぎだとしても、面白くてタメになる本を望まれる方は是非一読を。ベストセラーにも読んで良かったと思う本はあるのです。

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紙の本

紙の本ドミノ

2009/11/23 16:57

エンタテイメントに徹したほぼ確実に笑える本。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 鏡の多面体のように作品によって雰囲気がガラリと違う著者。ホラーあり、ミステリーあり、青春小説あり。そして本書はコメディだ。著者は、面白さのツボを心得ているというか、どうすれば読者を引き付けることができるか分かっているようだ。エンタテイメントに徹していて、大人も子どもも理屈抜きで楽しめる。

 表紙をめくって少し面食らう。27人と1匹?の登場人物からのイラスト付き一言が載っている。あまり登場人物が多いと読むのに苦労しそうだから。でも、そんな心配は無用だった。27人のほとんどが、キャラクターの立ったクセのある人々だから、「あれ、これ誰だっけ?」ということにならない。
 こんなに、登場人物が多いのには訳がある。始まりは全く別々のいくつものストーリが同時進行しているからだ。それぞれのストーリーに登場人物が数人いるので、結果的に大人数になっている。そして、このバラバラのストーリーが、ある出来事が別の出来事を引き起こしながら、徐々に1つの場所になだれ込むように集約していく。タイトルとおり「ドミノ」倒し的展開だ。
 事の発端は、52歳の千葉県の主婦、宮本洋子。彼女が不用意にポーチに置いたビニール傘が、風に煽られて飛んで行ったことが、遠く離れた東京駅での大事件につながる。もちろんそんなことは当人は知らない、いや一生わからないままだ。だいたい冒頭の27人にさえ入っていない。

 数多くのクセのある登場人物の中で、私はエリコ姉さんが一番のお気に入りだ。こんな人が職場にいたらドキドキしてしまうだろう。次に愛すべきは額賀部長だ。この人には、笑いのツボを刺激された。これからも頑張って欲しい。

注意:リアリティは少し脇に置いているので、細かいことを気にすると楽しめない。読む時はリラックスして読もう。

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紙の本

サブプライムローン問題が、なぜ世界金融危機にまで発展したのか?

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 2009年3月10日の日経平均株価の終値は7054.98円。バブル崩壊後の最安値を前日に続いて更新した。この株価は、1982年10月以来じつに約26年5カ月ぶりの安値水準だという。これは、2008年9月15日のいわゆるリーマン・ショック、米国の投資銀行のリーマン・ブラザーズの経営破たんに端を発した世界金融危機が、半年が経過しても一向に回復の兆しなく、むしろ悪化していることの現れだと言える。

 本書は、このリーマン・ショックからの世界金融危機の流れを受けて、2008年12月にエコノミストである著者が執筆し、緊急出版という形で出版されたものだ。著者は現状はすでに「危機」などという生易しい状況ではなく、まさに恐慌状態だということで、タイトルを「グローバル恐慌」としたという。
 「危機」を広辞苑で引くと「大変なことになるかもしれないあやうい時や場合。危険な状態」とあるらしい。「大変なことになるかもしれない」ではなく、すでに大変なことになってしまっている、というのが著者の主張だ。
 私はその通りだと思う。たかが用語ひとつの問題ではある、されど政府のどこか安穏とした対応は、「まだ大変なことにはなっていない」と思っているのかもしれないと思わせる。

 テレビニュースや新聞などを少しでも注意して見ている方は、この「恐慌」の原因の一つとして「サブプライムローン」問題があることはご存じだろう。サブプライムローンが信用力の低い個人向けの住宅ローンであり、ローン自体に問題があることも、おそらくは知っているだろう。
 しかし、問題があるにしても米国内のこのローンの焦げ付きが、なぜ世界中の経済を一気に奈落の底にたたき落としたかを説明できるだろうか?本書には、そのことが著者の明快な分析と適切な比喩によって明らかにされている。本書は「どうしてこんなことに..」という、知的な好奇心を満たしてくれる。経済に興味がある方は一読をお勧めする。

 最後に。サブプライムローンの問題の背景には、「借金で購入した不動産を担保にさらに借金」という錬金術まがいの手法がもてはやされたことがある。これは日本のバブル期と全く同じ構図だ。つまり、日本の経験や教訓は今回の事態の防止には、全く生かされなかったわけだ。
 それどころか、80年前の世界恐慌で得たはずの、銀行と証券の分離という教訓も、金融万能の時代に打ち捨ててしまっている。ゴールドマン・サックスもモルガン・スタンレーも、今や商業銀行の顔をしている。「すでに大変なことになっている」というのは、「ここが終着点」という意味ではない。もう一段も二段も大変なことになる可能性は実は非常に大きい。そして、この惨状に対して、私たちにできることはほとんどない。

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紙の本

紙の本アフリカ苦悩する大陸

2009/01/31 17:44

アフリカが抱える深刻な問題と日本

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 平成20年の大晦日の朝日新聞に「ジンバブエ インフレ年2億3100万%」という記事が載った。ジンバブエ政府が10月に発表した、7月の前年同月比の物価上昇率を基に、ジンバブエ国内の市民生活を取材したリポート記事だ。
 「一体どうしてこんなことに?」という疑問は当然だ。ざっと言って1年前に持っていた230万円相当のお金が、今は1円の価値しかなくなってしまったということなのだから。
 その疑問の答えが本書にある。この本には、ジンバブエでは政治家や役人の腐敗がひどいこと、それによって経済・流通が疲弊して物資が乏しいこと、そして政府はお金が必要になったらドンドン刷って造ってしまうということが、明快な文章で書かれている。物資が乏しい所にお金をドンドン刷って投入したらとんでもないインフレになってしまう。

 この本は、英国の経済誌「エコノミスト」の元アフリカ担当編集長が、自ら取材した内容を基に、ジンバブエだけでなく、今のアフリカの多くの国が抱える問題を鋭く指摘したものだ。ジンバブエのムガベ大統領はもちろん、各国の首脳を実名を挙げて糾弾している。著者の主張の核心が、「アフリカが貧しいのは、政府に問題があるからだ。」というものだからだ。
 具体的には、どのような問題が政府にあるのかと言えば、先に書いたような汚職の実際、経済の破たんの他、その原因とも言える民族・部族間の対立、野党に対する暴力的な弾圧、エイズを始めとする疫病に対する無知・無理解などが、章を建てて紹介されている。本書の前半はこのような問題が次々と明らかにされ、読んでいて気が滅入るような内容だ。

 しかし、後半は少し展望が見えてくる。IT技術が社会の風通しを少し良くしたし、問題は多いながら、南アフリカがアフリカ諸国の民主化と脱貧困の先頭ランナーとして走り始めているからだ。
 著者は、アフリカに住む庶民の「豊かになりたいと努力すればなれる」という思いを信頼し、明るい見通しを持っている。その気持ちは、ビールの配送ルートの取材のために、500キロのデコボコ道をトラックに同乗した、4日間の顛末を記した第七章を読めばよく分かる。

 さらに特筆すべきことは、本書の随所で日本に言及されていることだ。実は著者は、日本が一時は軍国主義へと突き進んだにも関わらず、敗戦後に平和と経済成長を成し遂げたことに関心を持ち、貧困からの脱出の答えを探すために日本に来て、ジャーナリストの道を歩み出した人なのだ。
 だから本書でアフリカを見るその目は、日本を見た目なのだ。終章に南アフリカの青年と著者とが日本について語る場面がある。本書の結論に関わるので、敢えてその内容は紹介しないが、私は背筋が伸びる思いがした。アフリカに関心がある人にはもちろん、今まで関心がなかった人にも一読をお薦めする。

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紙の本

紙の本ラブコメ今昔

2008/10/18 16:22

著者にしか書けない自衛官のロマンス

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 軍事オタク、自衛隊オタクの著者の甘~い短編集。収録されている6編全部、自衛官の恋愛を描いている。こんな本は日本中、いや世界中で著者にしか書けない。本書の前に出た「阪急電車」や「別冊図書館戦争1」で、私の耐えうる限界に達していた甘さ加減は、今回は少し控え目だったかも(もちろん「著者としては」だが)。甘いは甘いんだけれど「イイ話」が多くて楽しめた、少しウルウルした。

 ウルウルには訳があるように思う。自衛官は、私たちとは違った価値観や規律の下で生活している。例えば、階級による上下関係が強く上官の命令は絶対だ。一番の違いは、一朝有事があれば任務遂行のために命を賭すことを義務付けられていることだ。このことが、ストーリーに作用しドラマ性を盛り上げている。
 本書で紹介されるところによると、自衛官の結婚式での上官の祝辞の定番に「喧嘩を翌日に持ち越さず、朝は必ず笑顔で..」というのがあるそうだ。この言葉が意味することは、本来は祝宴では口にできないことだ。それを敢えて言うところが更に深刻なのだ。
 それで、自衛官の平均年齢は30台前半だというから、普通に考えれば「恋愛したい」「そろそろ結婚も」という年代だ。彼ら彼女らが危険を背負いながら、一方では普通の若者としての生活や感情も持っている。これはもしかしたら、自衛隊にはギュッと凝縮された恋愛のドラマの下地があるのでは..。

 と、著者が考えたかどうかは定かではない(おそらく違う)が、著者は本書の執筆前に、自衛官たちに取材をしている。収録の短編の多くには、取材に基づくモデルがいる。だから、著者がかなり甘い味付けを施したとしても、本書は自衛官の姿の一端を見せてくれていると言える。
 自衛官の姿の別の一端と言う意味で付け加える。彼ら彼女らは、このように普通の若者たちなのだが、国民の安全と国防のために訓練された精神を持っている。中東へ赴く青年や、領空侵犯を警戒する任務につく青年のエピソードがあるが、そこには強い使命感が伺える。
 これも本書によると、軍事オタクの多くは戦闘機や戦車などの「装備」にこそ興味があり、それに詳しいそうだ。しかし著者は、「装備」以上にそこにいる「人」に興味を持ち、取材をすることで詳しくなったのだろう。やはり、こんな本は世界中で著者にしか書けない。

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紙の本

紙の本失われた町

2011/02/10 17:12

大切な人を失った人々の、哀しくも力強い物語

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私には、すごく面白かった。「私には」とわざわざ付けたのは、これはダメな人には徹底的にダメだろう、と思ったからだ。その理由は、本書の独創性にある。ジャンル的にSF、恋愛小説、サスペンス、ミステリー、ヒューマンドラマ、本書はこれらの境界にあって、何か1つのものだと思うと非常に宙ぶらりんな感じなのだ。

 また、「町が消滅する」という設定はともかく、「消滅耐性」「別体」「余滅」など、独創的な設定と造語が多い。それが、冒頭の「プロローグ、そしてエピローグ」という章に頻出するのだから「ついていけない」と思う人もいるはず。実際、私も面くらってしまった。

 しかし、ここで挫けずに先へ進もう。章題で分かるように、これはエピローグでもある。すべてが終わった後にここに戻ってくる。その時にはちゃんと分かる、もっと感慨深いシーンとなっているはずだ。

 物語の舞台は、日本によく似た別の場所。そこではおおよそ30年に1度、町が消滅する。正確には、その町の人間だけが忽然と消える。どうしてなのか、消えた人たちはどうなるのか、そういったことは分からない。その他大勢の人々は、消えた町のことは禁忌として扱い、自分とは関係ないと思うことで、この不気味な出来事と折り合いをつけている。

 本書の主人公たちは、多くの人が関わりを避けようとする中、「町の消滅」に立ち向かう人たちだ。消滅を予知・対処する「管理局」の桂子、消滅の防止を研究する由佳、消滅した町を見下ろすペンションで働く茜。これ以外にも多くの人が、それぞれの立場で「次の町の消滅」に立ち向かって生きている。

 とは言っても、本書は「町の消滅」の防止の実現を描いたサクセスストリーではない。消滅によって大切な人を失った、残された人々の「喪失」と「回復」を描く。

 人は大声で泣いて悲しむことを経て、「喪失」から立ち直るものだと思う。しかし、ここの人々はある理由から、失った人を悲しむことさえ禁じられている。

 大切な人を失った女性たちの凛とした姿が美しい。その美しさが哀しい。

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紙の本

分かりやすいニュース解説は著者の真骨頂。ただ、もう少しじっくりと聞いてみたい。

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者は、ニュースの分かりやすい解説が評判で、テレビ番組で引っ張りだこだ。この本も帯に「世界のニュースが2時間でわかる!」とあり、「分かりやすさ」「お手軽さ」が特長だ。

 内容は、世界の勢力地図、アメリカの覇権の崩壊とパワーシフト、世界の問題点、日本の問題点、と今の世界を網羅的に説明している。歴史的な流れを踏まえた考察やウラ話的なものも交えてあり、新聞記事より奥行きがある情報が得られる。

 「はじめに」で世界金融危機のことに触れ、「ブッシュ大統領以外の世界の指導者たちは、歴史に学んでいました」と書いているように、ブッシュ政権(あるいはブッシュ元大統領個人)には大変厳しい眼を向ける。今世界が抱えている問題のいくつかは、ブッシュ政権の失策が原因だとも読める。

 その反動もあってか、日米の民主党に対しては肯定的な意見が多い。本書の発行は2009年11月、オバマ政権発足から10ヶ月、鳩山政権からはわずか2ヶ月だ。著者も、新政権には期待を持っていたのだろう。今なら、違うことを書かなくてはならないと思うが。

 「知らないと恥をかく~」というタイトルは、見栄っ張りのビジネスパーソンに効きそうな殺し文句。まぁ、知らなくても恥をかくことはないが、どこかで披露するとちょっと得意になれるような話題が詰まっているので、話のネタを仕入れるつもりで買うのなら、本体価格760円の価値は十分あると思う。

 しかしそれでも「上っ面をなでました」という印象はぬぐえない。いくつもの問題を扱って2時間では、短すぎたのかもしれない。私としては、年金や教育や地方分権など、本書で取り上げた「日本の問題」について、著者の意見をもう少しじっくりと聞いてみたい、と思った。

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紙の本

紙の本茨文字の魔法

2009/06/15 00:03

終盤で突然物語の全体像が..それがドラマの始まり

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 著者のパトリシア・A・マキリップは、米国人の女性で1975年に「妖女サイベルの呼び声 」で、2003年に「影のオンブリア 」での2回、世界幻想文学大賞を受賞している。幻想文学の名手といわれる息の長い作家だ。

 そして本書もとても面白く読めた。舞台は12の邦国を従える王国の宮殿。主人公はその王立図書館で、翻訳の仕事をしている書記のネペンテス(和訳するとウツボカズラ、なんて名前なんだろう!)。彼女は赤ん坊のころ、宮殿のある断崖の縁に捨てられていた孤児だ。彼女が、持ち込まれた茨模様の文字で書かれた本の翻訳を進めることで、物語が進展していく。

 物語全体を覆う雰囲気が幻想的だ。断崖に建つ巨大な宮殿、その地下深くにある迷宮のような石造りの図書館、森に隠された宙に浮かぶ魔術師の学院、そして三千年前に栄えたと言われる伝説の王国。この舞台装置を使って壮大な愛のドラマがつづられる。ネペンテスに恋する魔術師の青年の振る舞いだけが軽くて現代的だが、それも憎めない感じでいいアクセントになっている。

 物語が終盤に差し掛かったあたりで、突然全体像が明らかになる。私は思わず「あっ」と小さく声をあげた。そして、それが明らかになった時点が本当のドラマの始まりなのだ。ファンタジー好きにはオススメ。私はこの作品に出会えて良かったと思う。
 

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紙の本別冊図書館戦争 2

2009/02/22 16:26

ゴールデンカップルの恋と大人の恋と

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「図書館戦争」シリーズの登場人物の誰かを主人公に据えた「別冊」シリーズの第2弾。それで、今回は誰が主人公かと言うと、大方の予想通り「柴崎&手塚」のカップルです。「別冊1」でも特に進展がなかったので、次に誰を書くかとなればこの2人しかないでしょう。

 今回は、ベタ甘ではない。「堂上&郁」の戦闘形バカップルは、ベッドへの「投げっぱなしジャーマン」という変わった愛情表現を見せて、相変わらず甘々なのだが、主人公2人(特に柴崎)は「甘えたら負け」だとばかりに、どこまでもクールだからだ。
 甘いどころか、今回のストーリーはビターだ、ダークだ。激甘の前作の続きで甘いと思って食べてみたら苦い。カカオ90%のチョコレートのようだ。苦くてもチョコだし「好き」って言う人もいる。この話も苦いけれどイイ話になっている。苦さの向こう側でやっとあの2人は、お互いを想う気持ちを確かめ合うことができた。
 そしてダークさで言えば、図書館内乱での郁の査問会の時以上の暗~い展開。第一稿を読んだ著者の旦那さんが「後味があまりににも気持ち悪くて..」とおっしゃったという。確かに、こんな「悪意」はこのシリーズではあまりお目にかからなかった。(その後、旦那さんの感想が生かされたので、これから読む方は「後味」のことは心配しないで読んでも大丈夫。)

 本書にはもう1つ別の物語が収められている。図書特殊部隊の緒方副隊長の恋物語だ。扉前の登場人物紹介にも出ていない、マイナーキャラが主人公として登場。でも、私はこの話がすごく好きだ。それは、求めあったり、ぶつかりあったりしない恋愛の形に心が落ち着くからかもしれない。または、私が緒方と歳が近いせいかもしれない。大人の恋心もイイものだ。
 大人の恋心と言えば、玄田隊長と折口さんの話も読みたい。「別冊」もこれにて幕引きらしいが、有川さん、そんなこと言わずにもう1冊書いてもらえないだろうか?

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紙の本

紙の本流れ行く者 守り人短編集

2008/06/21 14:28

タンダとバルサとジグロ、それぞれの人間模様

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 「守り人」シリーズの外伝の短編集。バルサ13歳、タンダ11歳の時の物語。バルサが故郷のカンバルから養い親のジグロと共に逃げ出してから7年。バルサはトロガイの家にジグロとともに暮らしていて、その麓にタンダが住む村がある。
 バルサとタンダの関係を紐解く、そして本編ではほとんど語られなかったジグロの人となりを垣間見ることができる。

 心に残ったのは「浮き籾」と「流れ行く者」の2編。

 「浮き籾」では、タンダの住む村の暮らしと情景が、目に浮かぶかのように描き出される。村人たちが共同して稲を育て、害虫に立ち向かい、収穫する。人々は工夫して生活を営み、大人は家族と村を守り、子どもには子どもの役割がありそれを果たす。
 「守り人」シリーズの舞台は、その多くが宮廷であったり、街であったりして、農村は物語の背景に押しやられていた。本当は、国の大部分が農村であったはず。この農村が、「守り人」シリーズの終盤では破壊される。それはそこでの暮らしが表す平和が破壊されることでもあったわけだ。

 さらに、ここで描かれているのは幼いバルサとタンダの心の交流だ。なんと言ってもタンダが幼い。11歳ということだが、もっと幼い4,5歳かと思うような振る舞いもする。それに比べると、バルサはたった2つ年上なだけだが既にしっかりしている。
 タンダは薬草師としての才能の片鱗を見せているが、何としても幼い。バルサから見れば「守ってあげる」対象でしかなかったと思う。それが、年を経てタンダを必要とするように発展するのだが、そういった兆しは見当たらない。そこの部分の物語は、知りたいような知りたくないような微妙な気分だ。

 次は、表題作の「流れ行く者」。ジグロはバルサの庇護者として、普通の親とは違った方法で彼女を護る。娘に短槍を持たせて護衛の旅に連れてくるなど、周囲からも護衛士仲間からもなかなか理解されない。しかし、ジグロは自分がいつ死ぬともわからないことも、自分が死ねばバルサは自分で自身を守るしかないことも知っている。
 そしていよいよ危機が迫った時には「自分の命を守ることに、全力をつくせ。」という言葉にすべての思いを乗せるしかないのだ。

 しかし、バルサはジグロに守られるだけの存在ではなかった。重傷を負い、高熱を出して倒れたジグロを救ったのは、バルサの機転と厚い介抱によるものだ。逃亡生活の7年の間に、2人の関係はお互いを必要とするものになっていた。バルサは「闇の守り人」でジグロの思いを改めて受け止めることになるが、そこにはさらに複雑な感情が渦巻いていそうだ。

 本書は、「守り人」シリーズの読者を対象としたものだと思った方が良い。本書だけ読んでも面白いかもしれないが、その面白さ半端なものになってしまうだろう。逆に言えば「守り人」シリーズの読者にはオススメ。読めば、シリーズの世界観や人間関係に何か感じるものが必ずあるはず。

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