- 出版社:文芸春秋
- サイズ:16cm/262p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-16-767102-6
旅行者の朝食 (文春文庫)
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- 税込価格:520円(14pt)
- 発行年月:2004.10
- 発送可能日:1~3日
- 本
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ユーザーレビュー- 「旅行者の朝食」
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2008/02/07 21:16
極上の異文化エッセイ
投稿者:mikimaru(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
語学で身を立てようと思っていた時期がある…と書くとかっこよいが、単に外国や異文化へのあこがれをいだいていた時期が長かっただけだ。だがそんな関係で、本としてわざわざ手にとることはまれでも、米原さんのように有名な通訳者は、語学雑誌などで文章をよく目にする機会があった。
最近になってこの本を手にしたのは、文庫本でありかさばらないこと、そして著者のように渡航の多い人が朝食に関するエッセイを書いたのならさぞかしおもしろいだろうと勘違いをしてしまったことによる。あとから思えば嬉しい誤算で、これは朝食エッセイではなかった。食べものという広くゆるいくくりになった異文化体験であり、著者の半生だ。
子供のころにチェコスロヴァキアで食べていたトルコ蜜飴から、ロシアのハルヴァに話が飛び、さまざまな国や地方の菓子(ヌガーやポルボロン)に世界が広がって、ついには日本の牛皮〔ぎゅうひ、または求肥)や落雁まで話がまとまってしまう「トルコ蜜飴の版図」は圧巻だ。
挿絵の見た目はネイティブ・アフリカンのちびくろサンボがホットケーキを食べるおなじみの話。わたしは疑問をいだかずに読んでいた気がする。だがトラがいるのはアジア大陸でホットケーキを食べるのはアメリカの風習、いったいどこの話だと言われると、なるほどと思う。
わたしがもっとも楽しく読んだのはP.249「叔父の遺言」だ。体調が思わしくなく、食事も思うようにとれない叔父さんが、姪(著者)に食べ物の話をする。一族に共通する食い道楽をふまえてそれをユーモラスに書く米原さんだが、わたしはその叔父さんの気持ちがよくわかる。食べるために生きていると思うほど食い意地がはっているわたしは、実際にこの本を読んだとき、病院で絶食の直後だった。どんな状況でも、持ちこむ本は料理や食べるものだ。それは別につらいことではなかった。
さて、最後にこの本のタイトルのことだが:
「旅行者の朝食」という単語を耳にするだけで、なぜロシア人たちが笑うのか…。それはぜひ読んでいただきたい。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2005/07/23 22:11
ロシアの知識人の系譜
投稿者:まさぴゃん(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読んで以来、彼女の全作品を読破中。今まで知らなかった自分恥ずかしいほど素晴らしい。最高傑作は、やはり嘘つき〜ではあると思うが、『オリガ・モリソヴナの反語法』も、素晴らしい物語だった。なんでもっと早く知りえなかったのだろう?。読者好きの自分としては恥ずかしいのやら悲しいやら。その幅広い知識の豊かさに感服。しかも分かりやすい平易な文章は、僕の理想とするところの文章力だ。しかし、物語から入ったが、実はエッセイストとして有名な方だ。しかし、その基本は、どの文章でも変わらない。彼女の素晴らしさの特徴を僕が挙げるとすれば3つ
①ヨーロッパ的なもの
②ロシアのインテリゲンツィアの伝統
③コミュニストの子である自意識の強さと表現への強い衝動
こう要約できる。
とりわけ、エッセイには、②の側面が強く出る。彼女が職業としては、在プラハ・ソビエト学校を経て、東京外語大ロシア語学科卒業、東京大学大学院露語露文学修士課程終了し、ロシア語通訳協会の初代事務局長そして会長も勤めた、ロシア語同時通訳の大家です。彼女の核は、ゴルバチョフ元ソ連書記長による冷戦終了、ソ連解体の最前線の報道は彼女の力に大きいという、日本におけるロシア語の大家であるということを抜きには語れません。米原麻里さんは、まだまだ荒削りなものの、明らかにヨーロッパの知識人の幅広い感受性を持っています。なによりも、
①複雑な民族を抱えるヨーロッパ大陸の生活世界での感受性(言語の発音にこだわってその人の文化的な出自を想像してしまう部分など)や②ソビエト・ロシアでのコミュニストの理念が吹き荒れた歴史上最大級の人類に実験に対する感受性などなど、ヨーロッパ生活世界に住む人々には等身大で実感の視線や嗅覚や世界最先進資本主義地域であるヨーロッパでの知識人が持つ、さまざまな歴史的ヘリテージがまざまざと文章を読んでいて感じられます。
それを一言で要約すると、いわゆるロシアのインテリゲインツィア(知識人)の系譜に連なると思えるのです。レーニン、ゴーリキ、ドストエフスキー、トロツキー、バクーニン、ネチャーエフ、ラブロフ、プレハーノフなどなど。
ヨーロッパやアメリカ、中国などのアジアの情報は、かなり日本には入ってきます。しかし、ロシアの等身大の情報は、なかなか出会えません。そういう意味で、とてもセンスオブワンダーを感じます。
こうした臭いを感じさせる彼女は、僕の中では、イタリアなら塩野七生で、ロシアなら米原万里を読め、という感じになっています。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/01/07 08:22
ロシアの小咄、おもしろうてやがて哀しき
投稿者:風紋(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
米原万里の本は、なかみを読まないでも買って損をしない。
本書は、飲食に関してあちこちに書き散らした雑文をまとめたものだ。豊富な海外体験(ロシア、東欧)、博引旁証(調べ魔)にはいつものことながら感心させられる。その独特の切り口、語り口は一見シニックだが、暖かい。
表題ともなっている「旅行者の朝食」は、ロシア人が好む小咄だ。
ある小咄に登場する「旅行者の朝食」という言葉に、ロシア人はクックッと笑うが、理由がわからない。ある時、別の小咄を聞いて疑問が氷解した。「旅行者の朝食」という非常にまずい缶詰があるらしい(ソ連がまだ健在な頃のこと)。
彼女は「ちょっと感動した。まずくて売れ行きが最悪な缶詰を生産し続けるという厖大な無駄と愚行を中止するか、缶詰の中身を改良して美味しくするために努力するよりも、その生産販売を放置したまま、それを皮肉ったり揶揄する小咄を作る方に努力を惜しまない、ロシア人の才能とエネルギーの恐ろしく非生産的な、しかしだからこそひどく文学的な方向性に感嘆を禁じ得ないのだ」
こんな小咄もある。
旅先の森で大きな熊に襲われた旅行者が絶体絶命の場面で天に祈る。
「この恐ろしいけだものに敬虔なキリスト教徒の魂を授けたまえ」
すると、あら不思議。熊は両前足を合わせ、祈りはじめたのだ。
「天にまします我らが父よ・・・・美味しい朝食を恵んで下さいましてありがとうございます」
旅行者の願うように熊はキリスト教徒の魂を授かり、敬虔に祈りをささげるのだが、その祈りの内容たるや、旅行者にとって不都合きわまるものなのであった。権力に下の宗教を揶揄して、痛烈きわまりない。
全文読まないと妙味が十分に伝わらない。本屋で立ち読みしてもよいから、pp.36-37をぜひ一読していただきたい。







