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lukeさんのレビュー一覧

投稿者:luke

198 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本スペース

2004/07/30 17:25

スペースから何を読みとるのか

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本を閉じてフーッとため息。最近、こんな感じの読後感を味わったような…そうそう「イニシエーション・ラブ」だっけ。あれも恋愛小説なのかミステリーなのか、読み手次第の分類って感じだったけれど、よく似ているなっと。でも、まさしくミステリーです。壮大な罠が仕掛けられたミステリーです。また「2文字」で鳥肌が立ってしまったぞ。

 本書は先に刊行された「ななつのこ」、「魔法飛行」に続く3作目と言うことで、作者も「はじめの言葉」で出来るなら1作目から順番に読んでいただきたいとお願いしています。もちろん単体でも読めると断っていますが。そうなんですよね、これはストーリー的にと云う事じゃなく感動の度合いに大きく影響しているからで、本当は絶対に読んで欲しいと思っている筈です。「カーテン」の重さはポアロの足跡を見続けてきたから味わえる舞台、だからこそクリスティは最後の最後に出して来たわけで、「逃亡者」は片腕のない男を捜し続ける苦難の旅を見てきたからこそ成り立つ物語なのです。始まりと終わりの間のスペースは必要な空間なのですね。

 主人公、駒子が持ち込む謎を天体好きの青年瀬尾が解くストーリーの中でそれぞれが置かれているスペースを読者に知らしめたのが本書とも言えます。本書では「スペース」と「バックスペース」と名付けられた2つのストーリーから成り立っています。「スペース」では駒子が友達に出したと言う手紙のコピーから手紙と織り込まれた謎を解くお話です。「バックスペース」は手紙に記された実写番、つまり手紙にされる前の元ストーリーです。多くは語れませんが、鮮やか過ぎる「スペース」での名推理は曲者だった。ボクはすっかり術中にはまってしまいました。だからこそ感動のラストを迎えられたわけですけど。

 「スペース」は実に多くの意味で使われています。 場所としてのスペース 宇宙のスペース 空間としてのスペース 手紙の行間、などなど。しかし、ストーリーを貫いているのは、親と子、兄弟姉妹、友達、そして恋愛に置いてのそれぞれの位置とその距離を表しています。お互いを尊重し認め、良い関係を保つ為には必要な位置と間隔があるのだと問うています。その上、この位置も距離も必ずしも一定ではなく、その時の状況で変わって行くものだと。全くその通りですね。それが簡単に出来ないから悩み苦しむのです。そんな回答の1つも用意されています。
 ホットドックにはソーセージじゃないけれど、本書に必要だったのは何もトリックの為に用意したわけじゃなく、テーマにこそ必要だったように、さり気なく書かれたストーリーは緻密で一分の隙もな構成されています。10年以上掛かった続編、そりゃ掛かりますって。オマケにもう一つスペース。運転席に後ろ、社員寮の後ろにもスペースが、文字通りバックスペースですけど。ラスト 「正しい場所にいるか」と自問、「ここより他に居場所はない」と自答して締めくくられます。期待を裏切らない「スペース」に惚れ直しましたね。ホントは加納朋子にと言いたいところですが、作家と読者のスペースを侵してしまうので我慢しておきます。

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紙の本

紙の本半落ち

2004/07/04 20:16

誰もが持っている「半落ち」

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「半落ち」横山秀夫。警察用語で逮捕後の取り調べで全てを供述する事を「落ちる」と言い、全てを語らない供述を「半落ち」と言います。

 W県警中央署の本部教養課次席の梶警部はアルツハイマー症の妻を殺害する。妻に懇願されての嘱託殺人であった。W県警本部捜査第一課強行犯指導官 志木警視は梶の取り調べを命ぜられる。全てをありのまま話す梶ではあったが、殺害してから自首するまでの空白の2日間については沈黙を守るのであった。空白の2日間は警察と新聞社、警察と検察、検察と裁判官、と様々な確執を生みつつ偽りの自供として裁判を通過してしまう。空白の2日間に何があったのか? 物語は感動のラストへ怒濤のように雪崩れ込むのだ。

 「陰の季節」で警察内部の一般社会とは違った職場関係や人間関係に新鮮な驚きを持って触れましたが、「半落ち」ではそれに加えてマスコミ、検察、弁護士、裁判所と司法界の全てが事件を軸に語られ、絶妙な緊迫感を常に維持しながら2日間の謎に様々な角度から解明の手が差し伸べられました。その一つ一つの章が見事に完結し次の章へバトンを渡していく展開は見事と言うしかないでしょう。人は何の為に生きるのか、生きて行かれるのか、大きな命題が示されます。関わり合う人々の生活の中に大きな伏線があり、それらがラストの感動へ導いてくれます。誰もが向き合わなくてはならない現実がそこにあり、どのように向き合って行けばいいのか複数の答えが明示されますが、正解は示されません。いや、正解なんてないのでしょう。

 話から外れますが、ボクは3年前から臓器提供意思表示カードを所持しています。崇高な想いがあるわけじゃありませんし、子供が心臓病を患っているからでもありません。簡単に言えばリサイクルが好きなんです。医学の進歩とか、医学と倫理とか、人間の尊厳とか、いろいろ考えない訳じゃないのですが使えるのなら使った方が良いのだろうと思うのです。一番良いのは、カードを持った事で「死」に一時でも真面目に向き合えると言う事です。常にそればかり考えている訳じゃありませんが、自分のやりたい事、やらなければいけない事が、心の声で聞けるのです。

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紙の本

紙の本トキオ

2004/07/25 01:48

時に揺れる愛の蜃気楼

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「秘密」以来の感動、また素晴らしい本に出会いました。不治の病で病床につく17歳の息子の前で夫婦は涙します。…危篤状態になった時に夫は妻に話しておきたい事があると申し出ます。そして、20数年前に自分は息子と出会ったと語り始めるのでした。

 夫は高校に入学する時に養子である事を知ります。以来、自分は実の親に捨てられた人間だと自堕落な生活にのめり込んで行くのでした。卒業後、養父母の元を去り自活を始めますが定職に就かず転職を繰り返している23歳の時に、自分の息子だと名乗る若者が突然現れ一緒に過ごすようになるのです。恋人に去られ、また事件に巻き込まれながら自分の過去を見つめ直すように息子に仕掛けられ親子の旅は始まるのでした。旅の先に待っているものは…。感動のラストまで息もつかせずに展開する東野ストーリーだ。

 何とも偶然というか…、先に読んだ真保裕一の「発火点」では父親が殺されたトラウマから抜け出せなかった若者が大人に成長する過程を描いていましたが、「トキオ」では生み捨てられた主人公が時を越えて来た息子の助けられながら、自分の過去を見つめ直し大人に変わって行くという、そっくりな展開でした。「トキオ」では細かな心理描写などはありませんが登場人物のさり気ない会話や行動から心の中までしっかり語ってくれています。恋人が突然消えてしまうミステリアスな事件を軸に話は展開しているのですが、そこには過去を見つめ直す作業や恋愛の機微とか青年から大人になるスパイスがたっぷり振り込まれています。

 最近、また新聞紙上を幼児虐待の記事が目に付くようになりました。幼い子供に虐待をする人間の精神構造はどんなのだろう?と誰もが疑問に思う事ですね。人間のなせる技じゃないと憤りを覚えるでしょう。多くの要因があるのでしょうが、一つ言えるのは子供を育てる資格のある大人に成りきっていないのではないでしょうか。資格といっても子供を持つ事に大層なものが必要な訳じゃないのですが、ひとつ大事な資格は無償の愛を与えられるかですね。愛に限らず、もらう事が当たり前、もらわなければ損、出来るだけ沢山欲しい…と、もらう事が権利であり、それが愛情と錯覚しているのでは。与えられる事に慣れてしまい、与えられる事しか知らないのは悲しい事なのだ。

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紙の本

紙の本償い

2004/07/16 15:48

感動のラストの爽快感!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

心に傷を負い生きるすべを無くした元脳外科医はホームレスとなり東京近郊の街へとたどり着きます。かって学生の頃に幼児誘拐を未然に防いだその地で連続殺人事件が起こっています。再会したかっての被害者であった幼児は中学生になっていました。・・・・こんな背景で物語は進行していくのです。

 人は一人では生きて行かれないし、生きていくという事は他人と関わりを持つということです。関わりは意識、無意識に関わらず無限の方向がそこにあり、良くも悪くもその結果に責任を持つなんて不可能であり、それを罪と問うことなど誰も出来ない筈です。我々の前にはいつも選択しなければならない道がいくつもあり、選択しては前に進んで行くしかないわけです。どんな基準でそれを選んでいくか、どの道が正しいのか、誰にもわからない。道標の先にあるのは彷徨。彷徨の先にあるのは道標。

 誰もが抱えている心の罪と罰。それでも生きていかなければ、だからこそ生きていかなければと深くて重い命題を抱えてミステリアスな連続殺人事件は起こります。最近のミステリーにも幾度と無く取り上げられている被害者の人権問題や心の傷と併せて読み応え十分、ミステリーたっぷりの「償い」は感動のラストまで飽きることなく引きずり込んでくれました。女性作家の場合だと男性の描き方にしっくり来ないところが間々あるものですが、そんな違和感もなく登場人物は生きた台詞で魅了します。重量級の題材を投げかけられつつも、ラストの感動と爽快感はまさに感動ものです。

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紙の本

紙の本犯人に告ぐ 1

2004/09/08 00:02

何の、誰の為に立ち上がるのか!

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 心に染みる余韻が気持ち良い。絵に描いたように、高倉健や渡哲也(ホントは長髪なんだけどね)がピッタリはまるような、理不尽な処遇にもめげず与えられた職務を全うし、失敗は己がかぶり賞賛を望まず、その責任感ゆえ心に悔恨の念を持ち続け、不平も言わずにひたむきに生きているひとりの刑事がその信念を賭け闘った記録が本書である。良いじゃないか、現実には居ないなんて言うなよ。男が惚れる男の生き方、男の美学なんだな。

 左遷された捜査指揮官が左遷地での検挙率の高さが目にとまり6年後の今、当時の上司で現在の県警本部長に再び連続幼児殺害事件の指揮を執るため呼び戻されてきた。行き詰まった捜査打開のため、テレビのニュース番組を利用しての公開捜査を命ぜられる。またもや捨て石のような扱いの予感を感じながらもその任を受け事件に立ち向かう。堪えて、耐えて、我慢を重ね、無念の被害者のため、悲しみにくれている被害者の家族のため最後に立ち上がる、これぞ傷だらけのヒーローだ。帯にある「犯人よ、今夜は震えて眠れ」の決め台詞、このクライマックスに身震いしたのは犯人ばかりじゃない、ぼくらだって…。
 
 追う警察側のストーリーに犯人側の思惑や心理描写はない。しかし、それを補って余る程、犯人の存在感を感じるのは追う側を緻密に描ききっているから相対的に浮き出て来ているのではないか。階級組織の警察は簡単な上下関係じゃない。上官の命令こそ絶対、背けば左へ右へ飛ばされる、詰め腹だって当たり前、警察署どうしの縄張り争いに手柄の取り合い、捜査の障害や陰謀は内部に溢れている。限りない制約の中で思い通りの捜査なんか出来ないけれど、やらなければならない時がある。全てを投げ打っても闘わなければならない時が。「これは、自分の捜査だ」と言い切った時、それまでバラバラだった捜査陣があたかも進軍ラッパで軍隊が整然と敵陣へ向かうように、捜査態勢が1つにまとまった瞬間でもあった。う〜ん、たまらない。こうじゃなくちゃ!

 どんな言葉を持ってきて良いのか悩んでしまうくらい凄いです。これほどまでとは思わなかった。確かに絶賛。読んでいて、設定や、言い回しや、展開やら、考えずともつい頭をよぎってしまい、気持をそがれてしまう事って少なくありませんが、まったく余計なことを考えずに没頭出来ます。登場人物のキャラクターも申し分ないですね。台詞も良いです。生きている台詞です。無駄が何処にもありません。その上、単なる捕り物劇に終わっていない。犯罪被害者に加害者、そして追う者さえにも残してしまう重い傷跡にもしっかり触れている。中身は濃い。胸が締め付けられるようなラストに感涙。もっと読み続けていたかった。

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紙の本

紙の本イン・ザ・プール

2004/08/20 15:13

とにかく面白い!だけど面白いだけじゃない

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神経科医伊良部一郎と患者の奏でる協奏曲が現代ならではの病理をやさしく癒してくれる。患者とのやりとりを軽妙で絶妙な語り口で巧妙に表す様は職人芸のように隙がない。思わずフフッとしたり、ワハハッと声が出そうになるのを押さえたり、愉快、愉快で読んでいる内に患者の深刻な病もいつの間にか回復している。これは解決法と言って良いのか、解消法と言うべきか…。

 私鉄沿線の伊良部総合病院、そこの地下に神経科がある。ドアをノックすると「いらっしゃーい」と妙に甲高い声で迎えられる。中にはいると一人用のソファーにズッポリ座り込んだ色白の太り気味の医者が医学博士、伊良部一郎で傍らで週刊誌を読んでいるセクシーな看護婦がマユミちゃん。この先生、注射フェチのようで直ぐ患者に注射をさせ、それを覗いて興奮しているのだ。どうも、まともな診察が受けられないと誰もが思うのだが、何の因果かいつの間にか病を克服出来るようになってしまう。そんな病例が5篇収録されている短編集。

 まあ、ここまで大胆にキャラクターを作り上げてしまうと、かえって現実的に見えてくるから不思議だ。よくある能ある鷹は爪を隠す式の、馬鹿な振りして滅茶苦茶な事をして、本当は考え抜いた最良の方法を取っている…なんて事は無いのです。本当に滅茶苦茶、計算無しです。患者は唖然としつつも憎めないキャラクターとお色気看護婦の効果もあってか、通院する羽目に。反面教師とまでは行かないまでも、伊良部一郎の言動や行動によって患者自ら病を克服していってしまう。思い当たる症例は他人事じゃないぞと、我が身を振り返ったりしてしまいますが、読んでいる内にこちらも癒されているような気になって来ました。薬ですね、この本。とにかく、楽しい、面白い本なので、この面白さが分からなかった方は伊良部先生に診ていただいたらよろしいかと…。

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紙の本

紙の本蒲生邸事件

2004/07/16 18:05

壮大なドラマに希望が…

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 宮部みゆき「蒲生邸事件」です。のめり込むように読み切ってしまいました。タイムトラベルですからジャンルはSFになるのでしょうけど、そんな枠を越えた感動の一編に出会ってしまいました。

 地方から大学受験に失敗し、今度は予備校受験の為ホテルへ泊まりに来た尾崎孝史は火災に遭遇します。煙に巻かれ、非常階段の扉も開かず逃げ道を失い危機一髪のところで一人の中年男に救われます。しかし、助け出された所は50年前の二.二六事件勃発時の東京、陸軍蒲生大将邸。タイムトリップをする中年男の正体は、蒲生邸で起きる殺人事件の真相は、元の世界に戻れるのか…歴史の流れの中で尾崎孝史が得たものは…。

 …と、あらすじを書いてしまうとSF推理小説のようですが、そんな枠なんて越えてしまう文学的ですらある作品です。勿論、筋立ても面白いしタイムスリップした過去からどの様に戻れるのかという最大の問題だけでも引っ張られてしまうのですが、タイムスリップした先が歴史的事実である二.二六事件の真っ直中で殺人事件に出会ってしまうのですから、もう目が離せません。蒲生邸の住み込み女中の「ふき」との出会いは恋愛小説でもあり、ラストの現在での約束の再会は感動さえ覚えます。壮大な歴史ドラマを体感したような錯覚に陥るでしょう。そして、その中で歴史の流れの中で過去とは? 未来とは? と大きなテーマが検証されます。タイムトラベルと言えば誰もが頭をよぎる「変えたい自分の過去」は果たして希望の未来へと続くのか。解答がちゃんと用意されています。読み終えたとき誰もが大きな希望を肌で感じる事でしょう。 第一級のミステリーだ!

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紙の本

紙の本400年の遺言 死の庭園の死

2004/07/04 18:19

緻密に且つ壮大な本格ミステリー

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 「400年の遺言」柄刀一。これほど緻密に壮大なスケールで描かれたミステリーがあっただろうか…なんて何処かの過大広告みたいな事を書いてしまいましたが、まさに久々に見る本格ミステリーの醍醐味が全て挿入された完璧な作品と言っても良いでしょう。素晴らしい。

 400年の歴史を持つ京都の龍遠寺。神社仏閣の巡回保安員の蔭山は親友で京都府警本部捜査第一課の係長、高階警部の妻、枝織と訪れた龍遠寺の庭園で首にロープを巻かれた住職の子供と庭師の倒れている姿を発見する。子供は命をとりとめたが庭師は死亡するが今際の際に庭師から「この子を、頼むと」最期の言葉を託される。実はこの庭園で庭師の息子が4年前に殺害されていたのだ。同じ頃、歴史事物保全財団の職員が、一人は失踪、一人は殺害される事件が起きた。歴史ある古都の寺の庭園に隠された秘密とは、殺人事件とどのようにつながるのか。感動のラストまで壮大で緻密な本格ミステリーは今、始まるのだ。

 謎に包まれた庭園ではありますが、京都の寺社ならではの枯山水や白砂を引き滝に川に山と龍遠寺の庭園は知る人ぞ知る有名な庭園なのです。ただ、置き石が北斗七星も表しているかのように配置されたり座敷の柱も北斗七星をもじっていたり、そしてそれらが何かを秘めているような謎として有るため学術的にも注目されていたりします。この辺の書き込みがしっかり書かれているので400年の歴史が重厚に迫って来るようなのでしょう。そして現在の殺人事件が絡み合うわけだから面白くないわけがないじゃないですか。それに、蔭山が出会う事件は密室殺人ですし、歴史事物保全財団職員の事件も首輪につながれた犬のように監視の中で行われた殺人事件で事件の謎でさえ不可思議なのに絡んでくる寺社の庭園の謎まであるのだから、めくるページは止まらないわけです。ふと、出会った本に逸品を見る事がありますが、ホントに久しぶりに本格ミステリーの醍醐味が味わえました。オーバーな表現や気取った台詞などなく語り口が平坦でいながら軽くなく、正当派的な文章は読みやすく物語を損なうことなく表現されています。構成に少し凝った所もありますが、それはそれでこの作品らしさとも言えそうです。こういう本ほど多くを語れないのが残念です。

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紙の本

紙の本ダーク

2004/06/30 17:35

女はたくましく、強く、愛しく生きる。…そして哀しく

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 第39回江戸川乱歩賞受賞作「顔に降りかかる雨」で村野ミロは成瀬時男と1億円と共に消えた親友を追った。…ラストの空港でミロは成瀬を司直の手に渡し父親の跡を継ぎ新宿で探偵家業を始めたのだった。まさにハードボイルド、村野ミロ。…それから6年の月日が経ち「ダーク DARK」の幕は開く。

 桐野夏生「ダーク DARK」。一億円と共に消えた親友宇佐川正子の母親からミロに今老人ホームに入所したという転居通知が届く。手紙に久しぶりに会いたいとありミロは千葉のホームへ向かい、そこで成瀬が獄中自殺した事知る。自らの手で司直へ渡したミロではあったが成瀬の出所を待つ事だけが生き甲斐のようになっていた。成瀬の自殺は父、村野善三も知っていた事を知り、隠していた怒りとそのわけを聞くために隠居元の北海道へ向かう。そこで自分と同じ年の眼の見えない久恵と云う女と暮らしている父と会う。ミロは怒りのたけをぶつけるのだが、突然発作を起こした父を見殺しにしてしまうのだ。ミロはそこを飛び出し死に場所を求めて逃げ出すのだが、父親村善の朋友で元暴力団幹部の鄭、新宿時代のおかまの友部、そして父親の愛人久恵の3人がミロを追う。博多、韓国、大阪、東京と息もつかせぬ物語はハードでヘビーでダークに展開して行くだ。

 冒頭に挙げた「顔に降りかかる雨」、2作目の「天使に見捨てられた夜」、村善の「水の眠り 灰の夢」そして「ローズガーデン」と活躍してきた村野ミロ、村野善三の最終章(たぶん)になるのであろう「ダーク DARK」は云うまでもなくハードボイルドだった。ミロを追う3人の存在感が溢れるキャラクターが何と云っても良い。この不気味さが有ると無いとじゃ大違いだろう。そして同じく存在感たっぷりに描かれたミロが愛する韓国人徐鎮浩がまた良い。生い立ちがかなりのページを費やして書かれているが、これも有ると無いとじゃ大違いで韓国の世情を知らしめるのにも一役買っている。大きな舞台となる韓国釜山、海雲台、ソウルもまた良い。新宿、池袋とじゃ大違いだ。「良いと」「大違い」だらけなのだから面白くないわけがないのだ。「OUT」で見せた女の強さはここでも生きている。幾ら腕力で勝っている男でも到底太刀打ちできない強靱な神経は何処から来るのだろうか。こうなって欲しいと想うミロ像は所詮男から見たミロ像、それを覆しても余りあるその部分こそ感動を呼んでいるエキスではないだろうか。強さは弱さ故であり、もがき苦しむ中から生まれた強さだからこその重量感を持つのだ。文中「生んだら女の勝ちだよ。男だって女から生まれてくるじゃないか、そうだろ」と。確かにその通りだ。

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紙の本

紙の本凍える牙

2004/07/16 17:53

迫力の追跡シーン

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 深夜のファミリーレストランで人が炎上。捜査本部が設置され第三機動捜査隊女性刑事音道貴子が招集された。捜査中に人が獣に咬殺される事件が発生。炎上事件とのつながりが推測され、音道は所轄刑事と追い始めるのだ。過去に傷を持つ女性刑事と家庭に問題を抱えるベテラン所轄刑事のコンビは互いに反発をしながらも謎に迫る。暴かれていく謎の行く先にあるのは…。

 これまで短編小説でしかお目にかかれなかった乃南アサですが、いよいよ本格的に取り組もうかと選んだ最初の一冊目が「凍える牙」でした。想像したとおり期待は裏切られなかったものの、期待が大きすぎたせいか今ひとつ物足りなさも残りましたが十分に満足しています。謎が解明されて行く捜査過程と女性捜査官が過去を断ち切って一人前の刑事として育っていく過程が大きな柱になっています。それが交差し終盤に並びますが、それを象徴するのが深夜の高速道路を走る追われる獣と女性刑事のバイクでしょう。このシーンこそ乃南アサが一番書きたかった所じゃないだろうか。中央高速から首都高速、湾岸線そして幕張の海岸までのシーンは目の前の映像が広がるようです。追いつめる公園の木立の中でバイクが転倒、立ち止まる獣、双方の見つめ合う眼が互いの中に見たものとは何だったのでしょうか。115回直木賞受賞作。

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紙の本

紙の本流星ワゴン

2004/06/30 15:35

振り返るな、未来はあなたの手の中にあるのだ。

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 さて、お目当ての「流星ワゴン」、読み始めたら止まらない。寝る前に数ページ読んでベットに入ってからまた読み始めたら…寝てしまった。(^_^;) トイレに起きてチラッとページをめくったら、止まらなくなって、とうとう読み切ってしまいました。AM3:00。(^_^)v  うむぅう、確かこの感じは東野圭吾の「秘密」を読み終えた時にもあったような。やられましたよ、負けました、脱帽です、もうすっかり虜です。

 一人っ子の中学1年生は中学受験に失敗し地元の公立中学へ行くが、受験勉強で疎遠になったかっての友達からイジメに遭う。その為、不登校になり家庭内暴力とエスカレートしていた。妻は家を空けるようになり、深夜の帰宅、朝帰りと家庭を顧みず言葉すら交わす事が少なくなってきたところへ離婚を申し出す。そんなおり、リストラにあった上に危篤状態で反目し合っていた父親を見舞った帰りに駅のベンチで「もう、疲れた。死んでも良い」と思い込み始めた夫の前に1台のワゴン車が止まる。助手席には小学生の男の子、運転席にはその父親らしき人物が。ドアが開き引き寄せられるように乗り込むと車は動き出した…。

 ワゴン車はその家庭の崩壊の発端とも云うべき過去の時間へ夫を連れて行く。後悔しなくてはならなくなった、その時へ。そこで反目し合っていた自分と同じ歳の父親と会い、2人3脚の過去への旅は始まった。…過去へ遡って崩壊を招くべき兆しの地点へ連れ戻されるものの、未来を替える事は出来ないと云う制約の中で、どうしたら家庭崩壊を防ぐ事が出来るのか、後悔の念をどの様に昇華させられるのか、夫は苦しみながら立ち向かいます。それと反目し合っている親子関係とワゴン車の親子の話が並行して語られます。
どうしてもハッピーエンドを期待してしまいますから、過去をどの様にいじれば良いのか注目してしまいます。徐々に受験勉強中の息子の知らざる胸中や行動の一端がわかり、妻の隠された行動が暴かれ、救いようのない事実に直面する事になります。その時、どんな行動をしていれば現状を招かないで済むのか読者が一番知りたいところには答が見えませんでした。期待しても変えられない現実の壁は厚すぎました。
 例のごとく最後に光明のかけらが提示されます。受け入られるかはその人次第。現状、現実に不満や後悔の有る方、取り戻せないと思って居る方、過去に入ってその出発点を変えても現実は変わりませんよ。そうじゃなく、今をありのまま受け入れて、そこからもう一度出発する勇気こそが新たな未来を作る事が出来る小さなかけらなんです。そのかけらを手にするのは私たち次第です。

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紙の本

紙の本エイジ

2004/08/23 07:57

自分で乗り越える勇気を

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満たされる事なんて無いと思えるくらい、次々と湧き出てくる欲求にぼくらはどの様にして向き合っているのだろうか。努力で報われるものもあれば、遙か手の届かないものもある。自分の能力を見極めれて諦めとうまく折り合っても、次にはそのストレスの解消という問題が控えている。大人なら何とか出来る(難しいけど)ものも、中学生となると簡単じゃないのだな。

 中学2年生、高橋エイジは高校教師の父親と専業主婦の母親、高校生の姉の4人家族。バスケット部に属していたが膝の故障で休部中。成績は良い方だが今思うように成果が出ていない。クラスに好きな子が居る。友達の幅も広い。ごく普通の中学生だが通り魔事件を境に様々な問題と直面する事になる。恋にスポーツに友情…なんて青春謳歌と簡単には行かない。問題の殆どが突き詰めれば人間関係という言葉に行き着いてしまう。社会人になってもそれは変わらないけど。ただ、中学生には中学生のルールがあるからややっこしい。イジメより告げ口の方が悪、同情より見ぬ振りが友情、優等生より劣等生、ネクラよりネアカ、真面目より不良、などなど。障害は自分の中に、それは自ら乗り越えなくてはならないハードルだった。

 中学生といえども善し悪しは別にして自分なりの考えを持っている。でも上手く言葉に置き換えられない年齢は「察しろよ」と足りない言動や行動で訴えるしか方法がないようだ。汲み取ってくれと叫んでいる。そうなんだよな。わかってはいるけど、大人は言葉で求めてしまう。先生や親には言わないのがルールなのに。表面は何事もなく過ぎ去った時代のように見えるけど悩み、闘い、折り合い、何とか乗り越えて来た。エイジもその友達も。プライドを持って乗り越えたAGEだった。勇気が心に響く。

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紙の本

紙の本冷たい校舎の時は止まる 下

2004/08/18 21:05

冷たい校舎の下には熱い情熱が…

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 上中下と3巻からなる「冷たい校舎の時は止まる」ですが、全く長さを感じさせず読み応えのある作品でした。上巻、中巻と連続して読んだものの下巻が無くて手にはいるまで待ち遠しい事といったら…。とりあえず、上巻でも読んで、それによって以下を読もうなんてしない方が良いと思います。揃えてから読んだ方がストレスが無くて良いはずです。1日だって待ちきれないから。

 雪の降る日に登校した8人の高校生の男女。全員が揃った時、校舎の扉は全て閉ざされ脱出不可能に。遡ること数ヶ月前の学園祭で一人の生徒が屋上から飛び降り自殺をしたのだが、閉じこめられた8人はその自殺者の名前が思い出せなくなっていた。8人以外誰も居ない校舎、不思議な現象の中、ひとり、またひとりと消えて行った…。亡くなってしまった級友の名前を思い出せない、誰だったのか? この謎はすごいです。話し合う中、どうもその級友がこの中に居ると思われて来るので、尚更謎は深まり目が離せなくなります。

 テンポが良いこともさることながら嫌味のない文章で途中気持をそがれることもなく一気に読まさせてくれます。読み終えればそれと思い当たるものの、伏線すら巧みに張られていますから先が見えて来ないのは別な意味で気持の良いものです。謎が深いと、それにばかり目が行ってしまうので謎解きゲームの様相を呈して来そうになりますが、そこはしっかり登場人物の心の動きも目を配らないと。そこにこそ、本書を支えている全てが隠されています。怪奇な現象の中は謎と恐怖に彩られるも、実は恋や友情に満ちあふれている青春の一時がたっぷり詰まっていました。目の前の霧が晴れるような爽快な読後感。

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紙の本

紙の本鳥人計画

2004/07/25 03:14

飛べ!より高く!より遠く!

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 冬季スポーツの花形、ジャンプ。ただ飛べば良いってものじゃない事ぐらいわかりますが、想像以上に厳しいジャンプです。ジャンプチームが合宿している最中に殺人が起きます。警察が介入、合宿所にあてられているホテルでの捜査が始まります。…犯人に「自首しろ」と手紙が届きます。のちに警察に同様の犯人を名指しした密告状が。調査の結果、犯人は逮捕されますが動機を語ろうとしません。警察は動機調べに……。

 犯人は中盤でわかりますが、動機が掴めません。犯人探しと言うより動機探しのミステリー…と、新趣向かなと思いつつも、何故かその謎に目が離せないのですから、さすがですね。ジャンプに関しての知識も得られて勉強になりますよ。刻々と動機の核心に迫りつつラストへ向かいます。しかし、さすが東野圭吾、これだけひっくり返されるとは思わなかったです。

 スポーツと科学、オリンピックと評価、いろいろ話したいなと思うのですが、今回は止めておきます。そういう事も語らずにはいられなくなるようなミステリーでもありますので、十分堪能した上に、これ以上語れば作者の思う壺って事ですものね。

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紙の本

紙の本文通

2004/07/16 18:50

1通のメールにネットワークの未来が

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 吉村達也を読んだ事が有る方はおわかりでしょうが、文章が固まることなく行数が非常に多いのが特徴です。とてもテンポ良く読めて良いと思いますが、その分、ページ数は多くとも実質的な文字数が少ないので長編と言っても4、5時間有れば読み終わる事が出来ます。暇な休日なら2冊くらいは楽勝です。

 さて、「文通」は女子高校生が何気なく投稿した文通雑誌の読者から4通の手紙が来た事から物語は始まります。4通の内3通の手紙の内容がどうも異常に見え恐怖を感じ始めます。一番信頼出来た1通の大学生と文通を始めますが・・・。全てが同一人物からのものと分かってきます。誰が、何のために。と、言うわけでこの設定だけで引きずり込まれちゃいますよね。ミステリーの大事な要素は「?」を何処まで引っ張って行かれるか、「?」をどれだけ増やしていけるか、そうして、いかに合理的(ボクはいつも垣根を低くしていますが)に解決するかですね。強弱の違いはあれど吉村達也の作品にはいつもこれがあると思っています。

 文通なんて今じゃホントに死語になってしまいました。まあ、インターネットも持ち出すまでもなくコミュニケーションの手段は格段と増えましたものね。でも、姿の見えない相手との交際はメールだってあり得るわけで事件すら起こっています。とても優れたコミュニケーションの手段なのに一部の者のために信頼性が薄れてしまうのは惜しいことです。ネットワークを生かすも殺すも全て参加している者の責任ですね。

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