ブックキュレーター田口卓臣(西洋哲学研究者)
戦争を知らない私たちにできることは何だろう?そう自問しながら選んだリスト
日本はかつて、アジアや太平洋でどのように戦争に突き進んでいったのか?―その戦争の現実を知ることのできない私たちにも、それがどのように語られ、どのように受け止められてきたのかを知ることはできる。文学作品を中心に、手に入れやすい文庫本を主に選んだ。
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堀田 善衞(著)
中国人知識人の日記という形を通して南京事件を描いた小説。陳英諦は、日兵によって身重の妻を輪姦され、子供を惨殺され、従姉妹を薬漬けにされる。周囲から裏切り者が続出する中、彼はひとつの選択を迫られる。初版1955年。当時の日本で可能だった自由な想像力の翼が、現在の日本ではもがれているように見える。
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戦艦大和ノ最期
吉田満(著)
戦艦大和の撃沈を見届けた著者による不朽の名作。雲霞のごとく襲い来る米軍戦闘機。その圧倒的な波状攻撃になす術もない大和。3000人の乗組員がほぼ全滅した極限状況を描きながら、この小説は戦意高揚にもお涙頂戴にも流れない。冷徹なぺシミスムに貫かれた漢文調の名文からは、凛とした清潔感がほとばしる。
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沖縄戦、ベトナム戦争、そして本土復帰後も続く米軍兵暴行事件を題材にした短篇集。大城立裕は、昔も今も戦争と隣り合わせの沖縄を描くことで、「戦後××年」という言葉の欺瞞を炙りだす。だが、彼の目線は沖縄から日本本土の欺瞞を暴くだけで終わらない。その厳しい自己内省が極点に達した表題作は、手法的にも強烈な実験作品である。
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敗戦後の軍人家庭の暮らしを私小説風に描いた短篇集。戦犯容疑で占領法廷に立たされ、公職追放の屈辱にあった海軍司令の父。軍人としてのプライドにしがみついたまま、世間にも家庭にも居場所を見つけられずに死んでいく彼の悲しみは、経済成長にひた走る戦後日本のあちこちに見られた悲しみではないだろうか。
ブックキュレーター
田口卓臣(西洋哲学研究者)1973年横浜生まれ。宇都宮大学国際学部准教授。17~18世紀西洋の哲学、科学、文学を中心に研究を続けてきた。現在は、20世紀以降の西洋哲学や日本近代文学にも関心を寄せている。主著として、『ディドロ 限界の思考―小説に関する試論』(風間書房、渋沢クローデル賞特別賞)、『怪物的思考―近代思想の転覆者ディドロ』(講談社)、『脱原発の哲学』(人文書院、佐藤嘉幸との共著)。訳書として、ドニ・ディドロ『運命論者ジャックとその主人』(白水社、王寺賢太との共訳)などがある。
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