ブックキュレーター哲学読書室
アーレントとマルクスから「労働と全体主義」を考える
近年、アーレントが各方面から注目を浴びているのは、現代社会が再び「全体主義」化しつつあるからであろう。「労働と資本主義」(マルクス)のみならず「労働と全体主義」(アーレント)の結びつきを解き明かすことこそが、混迷する現代の政治経済を読み解く鍵である。【選者:百木漠(ももき・ばく:1982-:日本学術振興会特別研究員)】
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『全体主義の起源』発表後、アーレントはマルクス研究に没頭したと言われている。その成果は七年後、『人間の条件』へと結実するが、その過程でアーレントが見出したのが「労働と全体主義」の親和性であった。〈労働する動物〉と化した「大衆」が全体主義の支持者/担い手になったというアーレントの洞察は今日にも響く。
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トランプ米国大統領の誕生後、ジョージ・オーウェルの『1984』と合わせて、この大著が米国でベストセラー入りしたことは、「全体主義の再来」への懸念が高まっていることを示していよう。反ユダヤ主義(第一部)と帝国主義(第二部)という二つの要素が如何にして全体主義(第三部)に結実していったのかを歴史的に描く。
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「労働と全体主義」の親和性を考えるうえで多くの示唆を与えてくれるナチス研究書。ナチスは勤勉な「労働者」をドイツ国民(民族)の模範的あり方として示すことで、理想的な「帝国」の実現を目指そうとした。ナチスが「政治の美学化」の実践によっていかに人々を魅了したのかを明快な歴史叙述とともに描き出す。
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近年、日本のアーレント研究をリードする著者による優れたアーレント研究書。ここ数十年のアーレント研究動向を的確にまとめた第一章からして圧巻。濃密な記述によって初期から中期へと至るアーレントの思想形成史をつぶさに学ぶことができる。〈労働する動物〉と全体主義の関係についても詳細な分析を行っている。
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マルクスの生涯と思想を分かりやすく読み解いた入門書。後期マルクスが素朴な革命主義者から長期的な改良闘争論者(革命的改良主義)へ転じていった過程が描かれる第三章が特に興味深い。最新の知見にもとづいて、マルクスのアソシエーション構想や物質代謝論、共同体論など多彩な論点が展開されるのも読みどころのひとつ。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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