ブックキュレーター著作家・評論家 本橋信宏
食と性。文学と音楽。ごった煮の東京を知る最良の5冊
戦中から終戦直後、さらに金ぴかの80年代を経て21世紀の東京へ。選んだ5冊は時空を超えて東京を活写する。食と性、文学と音楽。ごった煮の東京を知る最良の5書を読まれよ。
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常磐線中心主義
五十嵐 泰正(責任編集) , 開沼 博(責任編集)
東京のもうひとつの姿。ノンフィクション社会学が描く都市-地方論の新地平。日陰の路線だった常磐線に着目した異色の東京論。執筆陣は気鋭の若手学者ぞろいで、読み応えたっぷり。東京論を語るとき、西日本との関係性ばかりに目がいくが、東京はむしろ東北/北関東と密接に関係している。常磐線を理解することは東京の真の姿を知ることでもある。正直、この本が出たとき、やられた!と思った。著者の一人、五十嵐泰正筑波大学大学院人文社会系准教授は、都市学を研究する新進の学者。北の玄関口上野をもっともよく知る人物であり、硬軟どちらでも語れる今後要注目の研究家である。
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“最後の文士”高見順が遺した戦中日記。昭和二十年悲劇の東京がここに。高見順が書き残した膨大な日記のなかから、昭和二十年の一年間を抜粋収録した。「書け、病のごとく書け」と、自らを追いつめるほどに創作の意味を問い続けた高見順によるリアルな戦中日記。戦時下、高見順は悩みながらも創作に向かう。炎と煙に見舞われる死の東京を達観したかのような筆致で、日記に綴る。最後の文士と呼ばれた高見順は鎌倉に住み、しばしば新橋駅に向かった。日比谷公園にB29が墜落し、日本の戦闘機と比べてあまりも巨大な機体に驚く。浅草松屋前にはトタン板をかぶせられた25歳の女性の遺体。名前と年齢が書かれた木片が悲しい。70数年前、たしかに東京は戦場だった。
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80年代青春期。ベストセラー作家になる前の橘玲は、いったい何をしていたのか。「この世界の真実は社会の底辺にある」と信じ、ドストエフスキーに陶酔した大学時代。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない 残酷すぎる真実』等、人気作家橘玲になるまでの半生を描いた書。午前中の太陽のようになんのてらいもなく光り輝いていた80年代の東京。だがそこに生きる著者は苦悩と格闘の日々だった。悩める若者の新バイブルが誕生した。
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減りつづける街の中華食堂を記録するため、男たちが立ち上がった!著者の一人、北尾トロは『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『猟師になりたい!』『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』等々、極私的ノンフィクションとも言える異色作を連発する売れっ子。もう一人の著者下関マグロは、散歩の達人であり、スパゲティナポリタンについてわが国でもっとも博学の書き手である。さらに『薔薇族』二代目編集長・竜超、イラスト清野とおるの濃いメンバーが加わった異色のネオB級グルメ本。それほどうまいわけでもなく、フランチャイズ店のように安いわけでもない中華料理屋だが、カレーやオムライスもメニューにある(笑)。そんな街の大衆中華食堂の発生と日本独自の料理に至る過程が、現場の人間によって語られる。これは戦後食文化の貴重な研究書である。
ブックキュレーター
著作家・評論家 本橋信宏ノンフィクション作家。アンダーグラウンドの世界、記録されざる人々を活字に残す。となりのトトロのモデルとされる八国山の近くで生まれ育つ。現在は都内暮らし。散歩と読書が趣味。座右の書は江戸川乱歩「探偵小説四十年」。月に書籍代は20万以上費やす。重さに耐えられるように二重にした書店の紙袋で運ぶ。これも身過ぎ世過ぎのもとになっている出版社と書店への自分なりの恩返しと思っている。
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