ブックキュレーター哲学読書室
壊れた脳が歪んだ身体を哲学する
私も制作過程に立ち会った、友人の著した衝撃的な書物を中心に、互いに響きあって一つの星座をなす小品たちを選んでみました。半ば壊れた脳に、哲学すること、それを作品にすることはできるのかという問いのこだまが、哲学の可能的「かたち」を再考させてくれます。【選者:市田良彦(いちだ・よしひこ : 1957-:神戸大学教授)】
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もはや書けなかった男
フランソワ・マトゥロン(著) , 市田 良彦(訳・あとがき)
著者は50歳のときに脳卒中にみまわれ、言葉をすべて失います。本書はそれを取り戻していく過程の記録です。彼は「哲学者」であり、本書を綴ることは、過去に読んだ「哲学」に光を当て直す作業ともなりました。しかし、脳と体は再び緩やかに壊れはじめ、「もはや書けなかった男」は「性器から大便する」男になっていく・・・。
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終わりなき不安夢 夢話1941−1967
ルイ・アルチュセール(著) , 市田 良彦(訳)
マトゥロンはアルチュセールの専門家です。マトゥロンの壊れた脳のなかではしばしば人称代名詞が入れ替わります。彼の記憶の一部は今でも妻が語り聞かせたものです。アルチュセールは手記「二人で行われた一つの殺人」でそんな混同をしばしば意図的に「演出」しました。精神病者であった彼を治療する医者を籠絡するためです。「私/きみ」が「きみ/私」だ。
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フーコー・コレクション 1 狂気・理性
ミシェル・フーコー(著) , 小林 康夫(編) , 石田 英敬(編) , 松浦 寿輝(編)
アルチュセールが『資本論を読む』収録論文を書くにあたり、深く影響されたのがフーコーの狂気論です。それを端的に示す箇所が、マトゥロンの本のなかに、まるで脳卒中とその後遺症を預言するかのように引かれます。すなわち、哲学とは「生存の基本的動作」を学びなおす営みではないのか。フーコーの言う「理性と狂気」が根源的に区分される地点から。
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精神病院のなかで、アルトーはひたすら「器官」(有機体)と「存在」を呪います。「糞の臭うところには存在が臭う」。マトゥロンの本から臭ってくるのは、「糞」と同時にスピノザの「コナトゥス」(=存在に固執する努力)です。「作品の不在」を「作品」にすべし。アルトーには、それが神の裁きと訣別する努力だった?
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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