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港の人 編集者 井上有紀ブックキュレーター港の人 編集者 井上有紀

何かが起きても起きなくても、日々はドラマ。記録を超えて感動を伝える日記たち。

日々の暮らしも自分の内面も、無数の色が混じり合い、しかも、くるくると変化して一瞬も止まらない。人の心は矛盾だらけで、その矛盾がそのままに記されるとき、日記は輝いてくるのかもしれません。生きていくことのしんどさや悲しみさえもが愛おしくなるような、美しい日記を読んでみませんか。

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  • 夫と別れて、新しい恋人と暮らし始める。その心の揺れが写真とことばで表される。三角関係ではあるけれど、読む者を覗き見的な気持ちにさせずに、人生の一段深い場所へ、そして、愛の一段高い場所へと連れていってくれる稀有な記録。写真とことばという自身の表現にたいする率直さ。それが、この著者の才能だと思う。

  • 頭がよくて野球が大好き、新しい俳句の世界を作り上げた子規は、生来身体が弱く34歳で亡くなった。晩年は結核からくるカリエスで寝返りもうてず、激しい痛みに苦しむ壮絶な闘病だった。自殺も試みる。でも、この日記から伝わってくるのは熱い「生」の姿。身体は動かないのに、精神は爆発している唯一無二の闘病日記。

  • あまりにも潔く自分をさらけ出す。捨て身で立ち向かってきて、読む人を容赦なく揺さぶってくる。こんなに揺さぶられてしまうのは、誰もが自分の内面という嵐をかかえて生きているからではないだろうか。自分の人生をかけてその嵐をはっきりと見せてくれるこの著者は、やはり一種の天才なのかもしれない。

  • 日記と名づけられているが、坂口安吾の死後に書かれている。この本が長く読まれているのは、安吾の狂気や悪行や奇行が凄まじいからでも夫婦愛が尊いからでもなく、書き手の内面の奥行きゆえだと思う。「彼のいい面は書けなかった。でも善行というのは個性がなくて書きにくい」とさえ言う妻の、なんと魅力的なことか。

  • 著者は少々風変わりな「本の読める店」を営む店主。千ページ以上にわたって、本だけでなく映画や仕事のこと、書店や散歩などが書かれ、人がふとページから目を上げて現実と本の世界のはざまをさまよう、その瞬間のようなものをとらえる。これまでのあまたの読書日記とは違う、今の東京、今の本、今の読者のポートレイト。

港の人 編集者 井上有紀

ブックキュレーター

港の人 編集者 井上有紀

鎌倉の由比ガ浜にある出版社「港の人」勤務の編集者。手がけた本は、『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』(マーシャ・ブラウン)、『きのこ文学名作選』(飯沢耕太郎編)、『胞子文学名作選』(田中美穂編)、『世界 ポエマ・ナイヴネ』(チェスワフ・ミウォシュ)、『90度のまなざし』(合田佐和子)など。海を見ながら自転車で通勤する時間が、毎日のいちばんの贅沢です。本棚の隅っこにあるような本もふくめて、一冊一冊大切に紹介します。ホームページhttps://www.minatonohito.jp

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