心に残るあの日の情景――児童書で味わう「夏」の記憶

なっちゃんは8月のお盆に田舎のおじいちゃん、おばあちゃんを訪れ、数々の不思議な体験をします。盆踊り、お墓参り、河童の話、そして不思議な少年――。日本の古き良き夏の情景を背景に、平和への祈りが静かに流れます。後書きで語られる、特攻隊で戦死した作者の親族の話を知ると、もう一度初めから読み返したくなるはず。

日曜日の朝、お父さんたちの寺社めぐりにつき合うことになったぼくは、あるお寺のお堂で一人ぼんやりとします。そして、ふと目の前の風景を前にも見たことがあるような気がして・・・。きっと誰もが体験する、「自分という存在」に気づく瞬間の不思議な感覚を、抑制のきいた言葉とイラストで表して鮮烈な印象を与えます。

おばあちゃんの家で過ごす、ちょっと退屈な夏休み。ぼくとお姉ちゃんは、偶然潜りこんだお屋敷の庭で、緑色の「船」を見つけます。想像することの素晴らしさを感じた子どもたちの、忘れられないひと夏の思い出を描いた珠玉の絵本。夏のむっとするような草いきれ、鮮やかな緑など、情景がいつまでも印象に残ります。

5年生のカズが帰命寺横丁で見た幽霊の少女、あかり。カズは帰命寺横丁の秘密を探り始めますが・・・。謎が謎を呼ぶストーリー展開に、怪談やファンタジーの要素も織り込んだ傑作。作中で語られる「もう一つの物語」も非常に魅力的。作者はジブリ映画『千と千尋の神隠し』の元になった『霧のむこうのふしぎな町』でも有名。

不思議な地蔵様、妖怪狐、白い獣、幻想的な夜祭――。主人公の「わたし」が少年時代に田舎で体験した、12の不思議な出来事。現実と幻想、「こちら側」と「むこう側」の境が曖昧な少年時代の感覚が、抑制のきいた文体で描かれる短編集です。昭和30年代のノスタルジックな田舎の情景が目に浮かぶようです。