マイノリティの僕が選ぶ、矛盾や葛藤を包み込んでくれる５冊

自分のセクシュアリティに気付いた中学2年のころ。「知られてはならぬ恋愛なれどまた少し知られてみたい恋愛」という一首に衝撃を受けた。同性の先輩への恋心を自覚して戸惑っていた僕の気持ちそのものだ、と思った。どんな愛も、許されていい。僕を「短歌」の世界へと導いた、生涯忘れられない一冊。

歌人にしか書けない小説だと思う。「音楽」のように心地よい韻律。ことばに過剰な「意味」を持たせないことによってうまれる、ぐらぐらとした世界。東直子の魅力は、散文においても決して揺らがない。現実に疲れ、傷ついた僕たちの心を、タバサはきっと癒やしてくれる。包んでくれる。愛してくれる。

『短歌研究』の編集長として、寺山修司という奇才を世に出した著者による、ミステリを超えたミステリ。「日本三大奇書」にも数えられるが、この本の最大の魅力は、詩歌界の中心人物ならではの圧倒的美意識と豊穣なことばたちだ。これほどまでに美しい「動機」による殺人を、僕はほかに知らない。

BL漫画なのに、そこにあるのはファンタジーではなくリアリティ。思いがけなく同性に惹かれてしまうときの戸惑いや葛藤に、説得力がある。ちなみに僕のいまの恋人もストレート男性。お互いに、日々迷い、戸惑いながら、小さな幸せを重ねている。恋をするのに、理由も動機もない。この作品は、そんな当たり前のことを教えてくれる。

善と悪。上品と下品。高尚と堕落。愛情と憎悪。女と男。相反するものたちは、さまざまな「車軸」のはたらきによってかろうじてバランスを保っている。僕たちが生きる社会の、そんな「三位一体」の現実を描こうとしたのが本作だ。インモラルな「現実」の危うさと美しさを感じてもらえたなら、著者として本望です。