ブックキュレータージャーナリスト 内田洋子
物語を仕上げるのは、読む<私>だ。作品の中に飛び込み、本の奥まで味わい尽くす。
音楽も絵も彫刻も舞踊も、本と同様に一編の物語である。伏線を見つけ、暗闇に目を凝らし、見つけ、頂点を極めて、さあどう締めくくる。作品の仕上げをするのは、鑑賞する私たちだ。
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もうひとつのモンテレッジォの物語
内田洋子(著),モンテレッジォの子供たち(著)
本書は、「旅する本屋」の故郷、モンテレッジォ村の取材で著者が出会った人々や子供達の姿を描き出すエッセイと、村の子供達が自分の村の歴史を調べて作った絵本『かごの中の本』のイタリア語からの全訳がカップリングされた一冊。本を愛する人々のDNAが脈々と受け継がれていることを実感できる。
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近所に小学三年生の男の子がいて、いつもいろいろなことを教えてもらっている。新聞にもテレビにも出ていない、小さな世界の大切な最新情報。大人には見えないことばかり。少年の8歳の誕生日に、『星の王子さま』を贈った。倉橋由美子訳は特別だ。<大きくなってからもぜひ読んでみてください>と、カードに書いた。
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翻訳家自身の書き下ろしに12人の作家の12作を加えた、誕生日をテーマにした短編集。誕生日は、毎年一度、皆に必ず訪れる記念日だ。1ダースの記念日を集めた1冊は12種の異なる味わいの人生を詰めて、クッキー箱のよう。サクリと軽やかなパイ。噛むととろり、リキュールで酔わせたり、ビターなチョコは舌に残る。同じテーマでの競演は、贅沢なバースデイ・プレゼント。
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ヴェネツィア行きの電車の中で、若い女性が本を読んでいる。ときどきページから顔を上げては、ほーうっ、と、深いため息を吐いている。じっとその様子を見ていた私に気が付いて、彼女は分厚い本を持ち上げて表紙とタイトルを見せた。原題は、READING PICTURES (絵を読む)。「すごいんです」と、見せてもらった第1章に、<物語と絵 ありふれた鑑賞者>とあった。<よい物語とはもちろんすべて絵と思想からなる。それらがよく混ざりあうほど、問題はうまく解決する>。添えられた絵画は、ゴッホの<サント・マリーの小船>である。海岸に打ち並ぶ数叟の舟。重い空。冬なのだろうか。先を読まないわけにはいかないでしょう?
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19世紀末のニューヨーク生まれの画家、エドワード・ホッパーの作品から17点を選び、17人の現代作家がそれぞれの物語を書き下ろしている。絵画は、未知の世界を覗く窓だ。柔らかな線と温かな中間色のホッパーの絵の中に、17人が飛び込んで見聞きしてきたことを教えてくれる。鑑る人が作品を仕上げる、か。絵の中の人物が、窓から外へ投げる視線。それを観る画家の目。物語を仕上げに、美術展を読むように楽しむ。
ブックキュレーター
ジャーナリスト 内田洋子1959年神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。通信社ウーノ・アソシエイツ代表。2011年『ジーノの家 イタリア10景』(文春文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。著書に『ミラノの太陽、シチリアの月』(小学館文庫)、『イタリアの引き出し』(CCCメディアハウス)、『カテリーナの旅支度 イタリア 二十の追想』(集英社文庫)、『皿の中に、イタリア』(講談社文庫)、『どうしようもないのに、好き イタリア 15の恋愛物語』(集英社文庫)、『イタリアのしっぽ』(集英社文庫)、『イタリア発イタリア着』(朝日文庫)、『ロベルトからの手紙』(文春文庫)、『ボローニャの吐息』(小学館)、『十二章のイタリア』(東京創元社)、『対岸のヴェネツィア』(集英社)、『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)など。翻訳に『パパの電話を待ちながら』(ジャンニ・ロダーリ著 講談社文庫)など。
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