ブックキュレーター哲学読書室
世界の終わりにおいて人間には何ができるのか?
原発事故、気候変動、そしてパンデミック――いまや世界の終わりは、私たちが日々経験しているものではないでしょうか。そうであれば、世界の終わりにおいてなお人間にできることとは何でしょうか。その手がかりをフランスの人格主義に探してみましょう。【選者:伊藤潤一郎(いとう・じゅんいちろう:1989-:日本学術振興会特別研究員PD)】
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世界の終わりの後で 黙示録的理性批判
ミカエル・フッセル(著) , 西山雄二(訳) , 伊藤潤一郎(訳) , 伊藤美恵子(訳) , 横田祐美子(訳)
私たちはすでに世界の終わりが生じてしまった世界、すなわち世界の終わりの後を生きている。こう述べるフッセルは、人間の主体性を宿命へと譲り渡す破局論に抗って、世界の終わりの後でさえ「世界をつくる」ことができるという人間の能力に信頼を寄せます。終わりを始まりに変えるこの能力こそ、本書のよみどころです。
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現在フッセルは、人格主義を掲げる『エスプリ』誌の編集顧問を務めています。この雑誌を創刊したムーニエは、世界恐慌に続く1930年代の危機の時代において人間には何が可能かと問い、「ルネサンスをやり直す」というスローガンのもと人間主義的革命を宣言したのでした。本書はムーニエの生涯と思想への最良の入門書です。
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人格とアナーキー
エマニュエル・ムーニエ(著) , 山崎 庸一郎(訳) , 佐藤 昭夫(訳)
ムーニエの死後に編纂された論文集で、人格主義と共産主義やアナーキズムの関係についての論考が収められています。ムーニエをはじめ、本書に序文を寄せているジャン・ラクロワら『エスプリ』の初期メンバーはしばしば「破局論者」だと言われますが、本書で語られる「召命」の思想はその所以を物語っているでしょう。
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ポール・リクールの哲学 行動の存在論
オリヴィエ・モンジャン(著) , 久米 博(訳)
ムーニエの死後の人格主義は紆余曲折を経て、リクールを精神的支柱のひとりとするようになります。1988年に『エスプリ』の編集長の座に就いたモンジャンによる本書は、悪を前にして責任ある人間とともに善が始まるという見通しを示し、ムーニエ以来の人格主義の問題意識とリクール哲学の関係が垣間見えるものとなっています。
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フクシマの後で 破局・技術・民主主義
ジャン=リュック・ナンシー(著) , 渡名喜 庸哲(訳)
原発事故という破局を引き起こした一般的等価性に対抗できるのは、非等価な特異性へと言葉や注意を差し向けることだとナンシーは言います。人格主義は若き日のナンシーにも影響を与えていますが、破局が容易に生じる世界において人間には何が可能かという人格主義の問いが本書にも流れているのではないでしょうか。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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