ブックキュレーター哲学読書室
全体性に抗い、穴を穿つために。
「個と全体」は哲学の重要なテーマであり、政治的な「全体主義」に対しては様々な研究があります。個人の行動履歴がデータベース全体の一部になるような現状にも、どこか息苦しさを感じないでしょうか。全体性に穴を開け、風通しを良くしてくれるような著作を選びました。【選者:中村大介(なかむらだいすけ:1976-:豊橋技術科学大学准教授)】
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構造と生成 2 論理学と学知の理論について
ジャン・カヴァイエス(著) , 近藤 和敬(訳)
対ナチス・レジスタンスのさなかに命を落とした数理哲学者カヴァイエスの遺作。〈概念から概念へ、理論から理論へ〉絶えず進む数学の運動は、全体性に抗う力を垣間見させてくれます。その力を「概念の哲学」という形で捉えた本書は、エピステモロジー(フランス科学認識論)の系譜で重要な位置を占めています。
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フーコーの穴 統計学と統治の現在
重田 園江(著)
エピステモロジーを思想的起点の一つとするミシェル・フーコーは、人口集団全体に働きかける調整や統治を近代の権力の形態とみなし、「生政治」と呼びました。医療や犯罪捜査等を扱った本書は、「フーコーの現代的展開」として特筆すべき仕事であり、生政治的な全体性のもつ気詰まり感に文字通り「穴」を開けてくれます。
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構造主義とその周辺の戦後フランス哲学の隠れた参照点、それが17世紀の哲学者スピノザです。「幾何学的秩序」で書かれたこの著作は、「一つの実体から全てが産み出される」ようなその見かけに反して、〈外〉にさらされることで論証が進んでいくスリルに満ちています。「感情」を扱う第三部から入るのがお勧めです。
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テロルの現象学 観念批判論序説 新版
笠井 潔(著)
連合赤軍事件の衝撃を受けて、その問題を考え抜いた著作。粛清などの総体的テロリズムを呼び込んでしまう「党派観念」に至る観念の道筋に対して、その道筋に対抗するような別の観念や力を突き付けます。新種のテロや暴力が頻発する現在、もう一度立ち返るべき著作だと思います。
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数理と哲学 カヴァイエスとエピステモロジーの系譜
中村 大介(著)
カヴァイエスを軸にエピステモロジーの諸相を扱った論文集。第I部で彼の哲学的歩みを取り出した上で、第II部で数学のエピステモロジーの潮流を検討し、第III部では技術哲学を主に論じています。「重ね合わせ」という概念を提唱すると共に、エピステモロジーの方法を拡張する探偵小説論を補論として収めました。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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