ブックキュレーター哲学読書室
植民地の群衆から第三世界の民衆へ
ソーシャル・メディア誕生の前後で、集まることの政治性は変化したのだろうか。「暴徒」や「群衆」としてフレームアップされるのはどのような人びとなのか。19世紀半ばのイギリスの植民地統治から20世紀半ばの冷戦と植民地解放闘争の時代に遡って考えてみたい。【選者:吉田裕(よしだ・ゆたか:1980-:カリブ文学/文化研究)】
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ル・ボンの影響力は軽視できない。ポーやボードレール、エンゲルスが19世紀半ばに対峙した群衆という現象を、擬似心理学ともいえる形式で論じ、版を重ねた。ただ、指導者の力にすべてを求め、群衆の非理性的な側面を強調するあまり、民衆蔑視に陥ってしまう。統治者目線を内面化せずに批判的に読むことが求められる。
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コンラッドはイギリス帝国主義の修辞を複雑な文学形式に落とし込むことにかけては群を抜く。兆候的に反復される、「(主人公の)ジムはわれわれの一員である」という一節は、包摂と排除の言説が男性同士の絆に支えられていることをあらわにする。その外側には、植民地統治の過程で鎮圧された群衆が見え隠れする。
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私の肌の砦のなかで
ジョージ・ラミング(著) , 吉田 裕(訳)
植民地教育は自らが奴隷であったことさえ忘れさせる。イギリス最古の植民地バルバドスを舞台とするこの小説は、母国イギリスに拝跪する植民地エリートが、なぜわれわれ=黒人を(自ら)軽蔑するのかを辛辣に問う。詩的な文体で綴られる、肌の色へのゆらぎと期待。英語圏カリブ文学の始まりを告げる記念碑的作品。
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精神の非植民地化 アフリカ文学における言語の政治学 増補新版
グギ・ワ・ジオンゴ(著) , 宮本 正興(訳) , 楠瀬 佳子(訳)
英帝国主義にあらがう闘争への武力による弾圧(マウマウ戦争)を、ケニアのグギは生涯を賭けて描く。独立後、支配の傷が癒えない中で魯迅や金芝河といった東アジアの文学者を見出す。彼らの練り上げた帝国日本を撃つ思想をグギが知り、「民衆」に出会い直す様は、第三世界同士の連帯のひとつの理想形とも言える。
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持たざる者たちの文学史 帝国と群衆の近代
吉田 裕(著)
1980年代以降、サバルタンやマルチチュードといった「抑圧された人びと」、「〈帝国〉にあらがう人びと」を名指す言葉が登場した。本書はそれらの達成をふまえ、植民地統治から植民地解放闘争の時代に、無名の人びとをいかに名指すかということが、作家や思想家にとって書くという実践の核心にあることを分析する。
ブックキュレーター
哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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