ブックキュレーター書評家 大矢博子
第164回直木賞受賞作家・西條奈加ワールド~史実&シリアス篇~
直木賞受賞作『心淋(うらさび)し川』が場末の長屋を舞台に人の営みを描いた作品だったこともあり、西條奈加は「人情時代小説の人」という印象が強いが、その作品の幅は多岐に渡る。時代小説も市井ものにとどまらず、現代ものもあればファンタジーもある。代名詞ともいえる時代小説はもちろん、現代ものやファンタジーなど、幅広いジャンルの著作から選りすぐりを紹介!
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老中・水野忠邦による天保の改革とそれに振り回される庶民の苦しみを、奉行所の吟味方の目を通して描いた中山義秀文学賞受賞作だ。岡場所の廃絶や芝居小屋の移転、奢侈贅沢の禁止、株仲間の廃止など、天保の改革で出されたお触れをひとつずつ取り上げ、それが庶民に何をもたらしたか、江戸の町をどう変えたかが連作で描かれる。注目すべきは人物造形だ。遠山の金さんでお馴染みの遠山景元や妖怪と言われた鳥居耀蔵など、従来のイメージに沿うように見せながら意外な一面を繰り出して来る。政治家の視点と最下層の庶民の視点を並べて描く。政道も人も善悪の二元論で語らず、折り合う場所を探すことの難しさを伝えてくる。
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流人のありようをリアルに描いたのが『無暁(むぎよう)の鈴(りん)』だ。庶子ゆえに家族に疎まれ寺に入れられた久斎は、とある出来事を機に出奔。名を無暁と変えて江戸の遊郭で用心棒になる。ところが親友の敵討ちで人を殺めてしまい、八丈島へ流されることに。本書で描かれる貧困や病、飢饉や飢餓など庶民を襲うさまざまな理不尽は、現代でも起こり得るものばかりだ。それと戦うために無暁が選んだ道が凄まじい。
ブックキュレーター
書評家 大矢博子1964年、大分県生まれ。書評家、ライター。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』、『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』などがある。小説雑誌で連載を持つほか、CBCラジオにブックナビゲーターとして出演中。読書会の主催や翻訳ミステリの講座、大学での書評ワークショップなど、名古屋を拠点に活動している。2020年4月より朝日新聞書評委員。
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