ブックキュレーター書評家 大矢博子
第164回直木賞受賞作家・西條奈加ワールド~現代&近未来篇~
直木賞受賞作『心淋(うらさび)し川』が場末の長屋を舞台に人の営みを描いた作品だったこともあり、西條奈加は「人情時代小説の人」という印象が強いが、その作品の幅は多岐に渡る。時代小説も市井ものにとどまらず、現代ものもあればファンタジーもある。代名詞ともいえる時代小説はもちろん、現代ものやファンタジーなど、幅広いジャンルの著作から選りすぐりを紹介!
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秋葉原にある交番を舞台に繰り広げられる警官のバディものだ。ある日、交番勤務の巡査が足だけの幽霊を連れてきたことから、彼女の死の理由を探し始める。なんともスットンキョーな設定だが、後半あたりから物語はどんどんシリアスに。メイド喫茶やフィギュア盗難など、秋葉原ならではの事件も読みどころだ。
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「お蔦さんの神楽坂日記」シリーズは、元芸者で気風のいい祖母と料理が得意な中学生の孫息子が学校や町内の事件を解決するミステリ。謎解きもさることながら、家族やご近所のつながりが魅力だ。江戸だろうが東京だろうが、西條奈加は人情を書かせるとやはり上手い。
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未来の日本の中に〈江戸国〉が存在するという奇想SF。いわば現代人が江戸にタイムスリップしたような展開だが、最後まで読むと、なぜ近未来の話にしたのか膝を打つこと間違いなしだ。また、作中で〈江戸国〉に鬼赤痢という致死率100%の感染症が流行するくだりは、今読むと刊行当時とは違ったリアリティを感じる。西條奈加は この作品で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、翌年、第二弾『金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚』を刊行。この二作で目を引いたのは〈江戸国〉の日常の描写だ。近未来だということを忘れさせるほど、時代小説そのものだったのである。この作家の書く時代小説を読んでみたいと思わされた。
ブックキュレーター
書評家 大矢博子1964年、大分県生まれ。書評家、ライター。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』、『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』などがある。小説雑誌で連載を持つほか、CBCラジオにブックナビゲーターとして出演中。読書会の主催や翻訳ミステリの講座、大学での書評ワークショップなど、名古屋を拠点に活動している。2020年4月より朝日新聞書評委員。
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