ブックキュレーター楽工社 営業部 長至巳
第二次世界大戦史の本を読み比べてみる
ずしりと重たい「教養書」としての大戦史を5冊ご紹介いたします。悲惨の極みのような歴史ではありますが、書き記された幾多の惨禍が突きつけてくる宿題は、(70年以上さかのぼる出来事なのに)現代人にも我がことみたいに思い当たるものばかり。つまり、それぞれが「昔の誰か」ではなく「わたし」と「あなた」の未来との対話でもあるのです。
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2020年新書大賞1位。ドイツの「世界観戦争」とソ連の「大祖国戦争」の衝突は、眼を背けてしまいたくなるほど酸鼻な殲滅戦へと突き進んでゆきます。そこで何が起きたのか?何故そうなってしまったのか?未曾有の戦争を「《人類の体験》として理解し、考察する」という著者の抑制的な筆致が、深々と胸をえぐります。
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失敗の本質 日本軍の組織論的研究
戸部 良一(ほか著)
敗戦四十年めを前に上梓され、ほどなく発売四十年めに差し掛かろうとする現在でもなお、この本の「組織としての日本軍の遺産を批判的に継承もしくは拒絶すること」というテーマは、切迫したリアリティを提示し続けます。「環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなかった」とは、何と耳に痛い!
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なぜ連合国が勝ったのか?
リチャード・オウヴァリー(著)
最初の読後感は、「読み手の琴線に触れるポイントを多彩に揃えている」ということでした。書店の歴史書や軍事コーナーに足しげく通う方々はもちろんのこと、地政学、政治経済、実践的テクノロジーの開発競争、情報戦、戦時の倫理など、様々な領域にアンテナを持つ読者に学びをもたらしてくれる、ボリュームたっぷりの一冊。
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昭和の歴史 新装版 7 太平洋戦争
木坂 順一郎(著)
表題通り、こちらは「日本が巻きこんだ・巻きこまれた」戦争にフォーカスしています。改めて上記三冊と併行して読み返してみると、この国の組織と個人の暴走ぶり、融通の効かなさに寒々しくもなります。ちなみに著者の木坂順一郎氏は大学時代の一般教養の先生であり、滑舌のよい講義の声が今でも聴こえてくるかのようです。
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ちょっとだけ脱線して、小説を一篇。学生時代、僕は大江健三郎の初期・中期作品をたくさん読み耽っていました。「戦争」と「戦後」は切実な主題であり、この本や『遅れてきた青年』の山村の光景は、既視感のある戦時シーンの如くに変容して、稀に夢のなかでも追体験できるものでした。そこは戦場でも被災地でもないけれど。
ブックキュレーター
楽工社 営業部 長至巳1963年生まれ。出版と書店に関わる仕事を始めて四半世紀を超えました。ちょっと長い無職期間を抜け出し昨春(2017年)より業界復帰、現在は飲食に関わる翻訳書の出版社に勤めております。出身が茨城県で、大学が京都市で、地方出張も多い仕事のおかげで、日本の中で未踏の都道府県は宮崎県のみになりました。好きな作家・山田風太郎。別名で『1985』という小説を上梓したことがあります。あの『1Q84』より10年前に。
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