まだ見ぬ世界に連れ出してくれる5冊

「異文化は経験によって異文化でなくなり、私の一部になる」。パンダの飼育体験、四川省出身の夫や義父母との賑やかすぎる同居、転校生の疎外感、うまくいかないアルバイト、音声ガイドなど35篇。ひとつひとつの「未知」に触れ、理解しようと格闘する姿が躍動感のある文章で綴られている。とんでもない引き出しの数だ。

校正の鉛筆書きが入ったゲラを見るのが怖かった。それらの文字に親しみを抱くようになったのは、校正者である牟田さんの真摯な向き合い方を知ってから。間違いがなくて当たり前。胃がきりきり痛むような確認の連続。本を一冊仕上げるために陰で支えてくれている人の声を、積み重ねてきた経験を、知ることができて幸せだ。

人生に行き詰まったり、新たに何かを始めようとしている人たちが、引き寄せられるように小さな図書室を訪れる。「何をお探し？」と声を掛ける司書の小町さん。彼女の言葉に背中を押され、おすすめの本を手にして帰る。ほんの些細なきっかけで人は変わることができる。出口は見つかる。落ち込んでいた時期に読んでいた一冊。

哲学って難しそう。そもそも何なんだ。ページをめくると、そこにあるのは、やわらかな言葉で綴られた日常だった。見落としてきたものを著者がひとつずつ拾い上げていく。「どうして？」と問い、誰かと、または自分自身と対話する。街角の奇妙なポスターの前で「なんだこれは」と立ち止まることだって哲学だったのだ。

スピリチュアルが当然の正義として浸透する日本を描いた連作小説。見えない力や存在を崇め、畏れる人々。現代と太古が入り混じるような、ぐにゃぐにゃの世界なのに「ありえない！」とは言い切れない。現実がこの小説にじわりじわりと近付いているような底知れぬ恐怖。やみくもに信仰する滑稽さ。唯一無二の世界観です。