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葉桜の季節に君を想うということ みんなのレビュー
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高い評価の役に立ったレビュー
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2003/07/25 23:34
この本を読んだ友人から、「あれはないだろ」というメールが入った。「あれはない」と私は返信した。何を言っているか、それは読んでのお楽しみ
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直、長いタイトルに呆れた。むしろ、タイトルだけだったら手にしなかったに違いない。それでも手にした理由は、美しいブックデザインが印象的なシリーズの一冊だから。
主人公は俺 成瀬将虎、都立青山高校の学生芹澤清より七つ年上で、職業は色々。六本木でガードマン、パソコン教室の講師、テレビドラマのエキストラなどをこなしながら、合間を見てはシロガネーズが通うフィットネスクラブに出入りし、素晴らしい女性との出会いを夢見ている。そう、夢は魂が震えるような恋愛をすること。だから、そんな女性を求めて、テレクラ、出会い系サイト、合コン、ソープと、そちらも忙しい。
家は、都立三田高校出身の妹 綾乃との二人暮し。綾乃は高校卒業後、丸の内でOLを経験したこともあるが、現在は無職。友だちと海外旅行をしたり、夜の街を歩き回ったりと青春を謳歌している。俺の愛車は、ミニ。ただし、さっさと綾乃が使ってしまい、自分で運転する機会は思ったほど多くない。そんな俺が、運命の女 麻宮さくらとであったのは、平成14年8月2日、営団地下鉄広尾駅だった。
フィットネスクラブでは、キヨシが熱を上げている久高愛子の姿が見えず、純情な高校生は心配の色を隠せない。見舞いに行った二人を迎えたのは、白金台に建つお屋敷だった。愛子の祖父が、つい最近亡くなって、その後始末に追われていたという。そして、或る日愛子から電話が。俺が20歳の時探偵事務所で調査員をやっていたことをキヨシから聞いたという。彼女の祖父は、轢き逃げに遭っていたと言う。
話は、愛子の祖父が金を貢いだマルチ商法、保険金殺人の話に、将虎とさくらの愛などが絡んで、驚愕の結末になる。なんと言っても主人公がいい。単なる正義漢でもなければ、乱暴者でもない。変に老成もしていなければ、気の利かない馬鹿でもない。たまには嘘もつくし、女も買うというか援助金を払ったりするのが、なんとも男の愚かさを感じさせていい。ただ、物事を頼まれたからと言って、それだけでズルズルと巻き込まれていくのでもなくて、冷静に判断をする。おなかが六つに割れている。妹に欲情しない。自分を通しながら、親のことを気遣う。でも仁義は守る。あんまり、お金に拘らないけれど、貯金はたいしてない。妙なオタクではない。この普通さがいい。
それにしても驚きの結末だ。それは、作者が読者に仕掛ける罠のせいである。大きなものが、一つ。中位のものが一つ。後者は、上手いなあと思う。現実に企業舎弟などが使っている手に少しアレンジを加えて、ひねったもので、納得できる。問題は前者。ミステリに慣れない人は、感心するだろうなあ、とは思う。でも、その仕掛けは無い方が、小説としての完成度は上だった気がする。まったく必要がないのだ。勿論、そのために伏線が丁寧に張られている。でも、これはトリックのためのトリックではないか。勿体無いなあと思う。
巻末は、このシリーズ共通の作家論、インタビュー、著作リスト。柳川貴之の「コードを越える者 歌野晶午論」は、途中で、どうでも良くなってしまった。何で、こんなヘ理屈を振り回すかなあ、ここには、読者も歌野もいない、自分の想いを、自分だけの言葉で語る、人の理解を拒絶した言葉の羅列。しかし、それは歌野とのインタビューを読んで、実はこの作家にもあることに気付く。それは、この小説のトリックにも言えることだ。
解説、あとがきを「それがエッセイであるなら、不要」と切り捨てるのは、凄いなあと思う。だから、インタビューも、対談の体をなしていない。自分で自作について語っているだけ。ある意味、傲慢といっていい。しかし、それは自信に裏づけされたものである。問題は、それを読者が認めるか、だ。以前、『生存者、一名』を読んで、不満を覚えたことを思い出した。
低い評価の役に立ったレビュー
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2003/12/26 01:21
失敗例としては充分に興味深いが……
投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
『世界の終わり、あるいは始まり』に続き、真面目な社会派ものと思わせた枠組みに無茶なトリックをぶち込んで悪い冗談すれすれの小説にしてしまう不敵な趣向。これは『世界の終わり〜』ではぎりぎり成功していたけれど、今回は企画倒れ的で残念ながら失敗していると思う。物語レベルの真相暴露と読者に対するメタ・レベルの真相暴露とが別個に仕掛けられていて必ずしも噛み合っていないため、終盤の謎解きがどうにも釈然としないものになっているし、この話法を採った物語的な必然性も見出せない(殊能将之『ハサミ男』の釈然としない感じもこれと似ている)。短篇で済む着想を長篇のかたちに引っ張って、結果として制約付きの面白味に欠ける物語を長々と読まされることになったという印象も拭えない。
この作品の趣向に感心する読者もいるのだろうとは思う。どうしてこれが成功していないように見えるのかを考えるうえでは典型的なサンプルとして充分に興味深いテキストだし、読後つい他人と感想を確認し合いたくなってしまうという意味でも妙に気になる作品ではある。
収穫の季節にミステリを想うということ。
2003/10/13 18:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:3307 - この投稿者のレビュー一覧を見る
真剣に取り組んでいる証拠に、俺の腹筋は六つに割れている。
ベンチプレスは80キロは軽い。たった80キロと笑うやつは、
自分の体重以上のバーベルを持ち上げるのがどれほど困難か、
一度試してみてから文句を言いやがれ。
(——P016)
成瀬将虎。ガードマン。PC教室講師。探偵。「何でもやってやろう屋」。
あたりはしんとしている。雲はあんなに動いているのに、
木立の葉が風に騒ぐことはない。鳥や虫の声も絶えてない。
(——P008)
しゃれこうべの眼窩からバラバラとこぼれ落ちる、10銭玉、
50銭玉、1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、百円玉——。
男はしゃれこうべを放り出し、四つん這いで振り返る。
雲が切れて丸い月が覗く。白い月が男の顔を照らす。
(——P036)
繰り返されるイメージ。たれ込める不安、欲得の世界。
湿気を吹き飛ばすのはキャラクター。
細部まで研ぎ澄ませた分だけ、本書はネタバレに弱い。
歩いてきた道にそって、そして目の前にも、
無数に仕組まれた「装置」。伏線は時限爆弾。
「解決編」で無事に「装置」が、いっせいに炸裂すると、
爆風は世界を一気にひっくり返す。
こんな瞬間を目撃させてくれるなら、たとえミステリに
どんな欠点があろうとも、私は何度でもイエスと言いたい。
秋。収穫の季節。ぞくぞくと質の高いミステリが出版される今。
本書は、私にとって2003年で一番驚いたミステリ。
どうしても、「まっさら」な気持ちで、味わいたい一冊。
この本を読んだ友人から、「あれはないだろ」というメールが入った。「あれはない」と私は返信した。何を言っているか、それは読んでのお楽しみ
2003/07/25 23:34
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直、長いタイトルに呆れた。むしろ、タイトルだけだったら手にしなかったに違いない。それでも手にした理由は、美しいブックデザインが印象的なシリーズの一冊だから。
主人公は俺 成瀬将虎、都立青山高校の学生芹澤清より七つ年上で、職業は色々。六本木でガードマン、パソコン教室の講師、テレビドラマのエキストラなどをこなしながら、合間を見てはシロガネーズが通うフィットネスクラブに出入りし、素晴らしい女性との出会いを夢見ている。そう、夢は魂が震えるような恋愛をすること。だから、そんな女性を求めて、テレクラ、出会い系サイト、合コン、ソープと、そちらも忙しい。
家は、都立三田高校出身の妹 綾乃との二人暮し。綾乃は高校卒業後、丸の内でOLを経験したこともあるが、現在は無職。友だちと海外旅行をしたり、夜の街を歩き回ったりと青春を謳歌している。俺の愛車は、ミニ。ただし、さっさと綾乃が使ってしまい、自分で運転する機会は思ったほど多くない。そんな俺が、運命の女 麻宮さくらとであったのは、平成14年8月2日、営団地下鉄広尾駅だった。
フィットネスクラブでは、キヨシが熱を上げている久高愛子の姿が見えず、純情な高校生は心配の色を隠せない。見舞いに行った二人を迎えたのは、白金台に建つお屋敷だった。愛子の祖父が、つい最近亡くなって、その後始末に追われていたという。そして、或る日愛子から電話が。俺が20歳の時探偵事務所で調査員をやっていたことをキヨシから聞いたという。彼女の祖父は、轢き逃げに遭っていたと言う。
話は、愛子の祖父が金を貢いだマルチ商法、保険金殺人の話に、将虎とさくらの愛などが絡んで、驚愕の結末になる。なんと言っても主人公がいい。単なる正義漢でもなければ、乱暴者でもない。変に老成もしていなければ、気の利かない馬鹿でもない。たまには嘘もつくし、女も買うというか援助金を払ったりするのが、なんとも男の愚かさを感じさせていい。ただ、物事を頼まれたからと言って、それだけでズルズルと巻き込まれていくのでもなくて、冷静に判断をする。おなかが六つに割れている。妹に欲情しない。自分を通しながら、親のことを気遣う。でも仁義は守る。あんまり、お金に拘らないけれど、貯金はたいしてない。妙なオタクではない。この普通さがいい。
それにしても驚きの結末だ。それは、作者が読者に仕掛ける罠のせいである。大きなものが、一つ。中位のものが一つ。後者は、上手いなあと思う。現実に企業舎弟などが使っている手に少しアレンジを加えて、ひねったもので、納得できる。問題は前者。ミステリに慣れない人は、感心するだろうなあ、とは思う。でも、その仕掛けは無い方が、小説としての完成度は上だった気がする。まったく必要がないのだ。勿論、そのために伏線が丁寧に張られている。でも、これはトリックのためのトリックではないか。勿体無いなあと思う。
巻末は、このシリーズ共通の作家論、インタビュー、著作リスト。柳川貴之の「コードを越える者 歌野晶午論」は、途中で、どうでも良くなってしまった。何で、こんなヘ理屈を振り回すかなあ、ここには、読者も歌野もいない、自分の想いを、自分だけの言葉で語る、人の理解を拒絶した言葉の羅列。しかし、それは歌野とのインタビューを読んで、実はこの作家にもあることに気付く。それは、この小説のトリックにも言えることだ。
解説、あとがきを「それがエッセイであるなら、不要」と切り捨てるのは、凄いなあと思う。だから、インタビューも、対談の体をなしていない。自分で自作について語っているだけ。ある意味、傲慢といっていい。しかし、それは自信に裏づけされたものである。問題は、それを読者が認めるか、だ。以前、『生存者、一名』を読んで、不満を覚えたことを思い出した。
ハードボイルドは心だ
2004/06/30 15:26
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投稿者:luke - この投稿者のレビュー一覧を見る
いきなりセックス場面から始まる本書はハードボイルドの香りを漂わせています。電車に飛び込む女を助けると、後には恋愛話に。知人からある金持ちの事故死の真相を探って欲しいという依頼を受けると、そこには催眠商法やら保険金殺人は浮かび上がったり。何となく頼りない上、思慮も足りない、ただむやみに突き進んでいくだけのミニクーパーに乗っている定職もない主人公が、願望なのかハードボイルドばりの格好良さを無理して追求しているようで、何となく歯車が噛み合わない流れが気に掛かるのですが、こりゃ飛んでもない伏線でした。種明かしをしたら本書は読む価値のないものになってしまいますので、多くを語れないので残念ですが後半にたたみ掛けるように、どんでん返しが押し寄せてきて息を付く間もなく最後には大津波が押し寄せてきます。ボクなど何度となく前を読み返してしまいました。事件とかは驚くに当たらないモノですが、まさに時代先取り、これからミステリーの幅は大きく広がる事でしょう。今こうして読み終えてみると、この長ったらしい時代ががった題名の持つ意味の深さに驚かされます。この手の本の評価は大きく分かれる筈で、全てのミステリーファンを満足させるものでは有りませんが、「本」ならではのトリックには落胆はしないと思います。ボクはこういうの好きですね!
「最後の1ページまで目をはなすな!」です。
2003/04/26 20:39
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投稿者:あーみん - この投稿者のレビュー一覧を見る
まるでオムニバスのように、ストーリーは断片的に語られます。バラバラなピースが、話の進展と共に徐々に寄せ集められて一つの絵になるような展開。
よくある展開ですが、ピース同士がどうくっついていくのか、全然予想できないんですよね。
種明かしは結構いきなり、でも不自然ではなくとてもあざやかで、読者は呆然となること必至。種が割れるだけでなく、これまで読み流していた数々の伏線に気付く事にもなります。
小説って文字の芸術だよなぁ。読者の想像をかき立てるだけじゃなく、それを鮮やかに裏切ってもくれる。私はこれを読んで、アガサクリスティの「アクロイド殺人事件」を思い出しました。
絶対、秀逸。読んでソンはないです。
葉桜カップルにエールを送りたくなります。
だまされたい人に。
2005/02/24 23:14
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投稿者:ざれこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本、面白そうとずっと思ってたんだが、どこの書評サイトみてもあまりストーリーがわからないので、
あーみんなストーリーかけないんだな、ネタが割れるんだなと思いつつ、
でも「とにかく読んで騙されてみて」的スタンスの書評を読むにつけ、
だんだん悔しくなってきた私。「畜生、読んだからってえらそうに。」
しかし、です。読み終わった私はにやりと笑ってこう書くのでした。
「とにかく読んで騙されてみてね。」
っつうか、単に仲間に入りたかったのです。
言いたいけど言えない、と、もだえる人たちの仲間に。
「なんでも屋」の成瀬将虎が主人公、彼は自殺を助けた麻宮さくらと恋が芽生え、しかし謎の悪徳商法が絡む謎の死を探ることになります。
探偵をしていてやくざの内偵に入り込んだ頃のことや、そういう過去も交互に出てきつつ、そして事件の真相は?
過去と現在が交差する凝った構成、スピード感ある文体、皮肉や笑いも洒落ていて、登場人物もなかなか魅力的、何も考えなくてもぐんぐん読ませます。
何度もこういう系統の推理もので騙されている私は、かわいくない読み方をしました。
これまで騙されたパターンは全部これにあてはめてみて、検討しつつ読んだわけです。でもそれでも騙された。あー悔しい。
でもねえ、明らかに読者を騙そうとしてるよねー。という箇所が数箇所あって、
ちょっと気に入らないです。でも最後の「補填」で、そこの解説もしっかりされていて、
騙されるほうが悪いのよ、的スタンス。(絶対最初に読まないようにしましょう。)
だから余計に悔しいんだけど。
それから、このエピソードは物語の流れ的にいるのかなあ、ってのもありました。
ちょっと腑に落ちない感じもするから、あっさりこてんぱんに騙される、という快感はちょっと減りましたが、十分にやりとさせられる内容でした。
私みたいに疑心暗鬼に読むのもよし、なーんも考えずに読むのもよし、
とにかく楽しみましょう。
人間の先入観の怖さ、そしてなんていうかなあ、
所詮私たちは自分の立場でしか世の中を眺められないのだなあ、なんて
そんなことを思い、反省したりもしました。
瞬間芸のトリック
2004/04/29 19:56
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投稿者:くれい爺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
基本的にミステリーを評価するとき、魅力的な犯罪、緊迫感のある展開、意外で鮮やかな結末、ということを意識している。
その三つがすべてそろっている作品というのは名作に違いないが、ミステリーの種類によって特徴があることもしかたがなく、ハードボイルドは結末の意外性は乏しくなるし、本格は展開に緊迫感が薄れる傾向にあるようだ。
特に叙述トリックは読者を騙す書き方をしなければならないため、その傾向が強くなるのではと思う。
そういうところからと見ると私は叙述トリックというのはお笑いの瞬間芸に似ているように思うのだ。
結末の意外性やその鮮やかさが見事であるほど、瞬間芸で大笑いするように驚かされるのだが、その後に残るものが少ないというか…
この作品も結末は見事だし、そこへのトリックも描ききっているとは思うが、瞬間芸の域は出ていない。
パズル型ミステリーである。複雑で咀嚼できないのが多いこのジャンル中で、これだけ簡素なトリックの大技は見事
2004/02/05 10:49
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
久々にトリック一本勝負の快感ミステリーに出会いました。
人生の重みなどいささかも感じることなく、明日は明日の風が吹くとばかりに、定職も持たず、女遊びだけは一人前の若者風の冗舌口調がつづく。
この作者の『世界の終わり、あるいは始まり』を読んだことがある。息子が殺人を犯したかもしれないと思った若い父親が登場し、子が殺人を犯したことに対する親としての責任を痛感したり罪悪感にさいなまれるわけではない。マスコミに殺人犯の親として晒し者にされること、妻がノイローゼになること、会社を首になること、この町には住んでいられないこと、遺族の仕返しなどなど、彼はまさに自己中心的に惑乱する話なのだが、最後までおもしろいとは思わなかった。
そういう先入観があったものだから、この作品も「またか」との思いで、しかし、ラストのドンデンガエシに価値があるとの評判につられて読み進むことになった。
蓬莱倶楽部という霊感商法の新興宗教まがいの団体、これに騙され、財産を奪われ、挙句の果ては生命保険をつけて殺される人たちがいる。主人公はこの凶悪犯罪者集団と対決し無手勝流の暴挙で悪戦苦闘するのだ。 軽妙な語り口でリアル感はない。ストーリーそのものに面白みはない。社会性の視点などさらさらない。
途中過程はどうでもいい、ラストの背負い投げの大技が決まるかどうかの大博打、これがこの作品の命である。この大技みごとに決まった。騙されることに快感を覚えるのがパズル型ミステリーの極致であるとするならお見事である。このジャンルのミステリーに使われる伏線は最近の傾向としてはあまりにも複雑にすぎて、読者が特に高齢の読者が、咀嚼できないものが多いのだが、これはきめ細かいというより骨太の一本筋の通った伏線で実に巧みである。巧みだとするのは複雑な伏線は奸智に長けたミステリーファンに見破られやすいのだが、この簡素な伏線にはおそらくだれしもがシャッポを脱ぐことになるからだ。この独創性を買いたい。さらに結末はさわやかに終わる。軽妙なミステリーはこうでなくてはならない。
ただし、ネタが割れると、読み返すのがばかばかしくなるのは単純なトリックの価値だけで読ませる作品の宿命であろう。
書評集「よっちゃんの書斎」はこちらです
巧みに仕組まれた結末を秘めたミステリの評価は?
2003/07/22 12:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山本 新衛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
巧みに仕組まれた結末を秘めたミステリである。帯の「最後の1ページまで目をはなすな」は、まさに当を得た言葉。しかし、この仕組まれた結末と構成を事前に知っていたら、この長いお話を最後まで読み通したかというと、いささか自信がない。▼冒頭からけだるいセックスシーンで始まる。もうすでにここから作者の仕掛けは始まっている。▼主人公・成瀬雅虎が通うフィットネスクラブのアイドルである愛子ちゃんの姿がこのごろ見えないと思ったら、どうも長期休暇をしているらしい。見舞いにいくと、おじいさんが死んだという。しかも悪徳霊感商法がらみでひき逃げされたらしいのだ。雅虎は愛子ちゃんの依頼を受け、真相の究明に乗り出す。▼このようにして物語は始まり、素人探偵・雅虎の大活躍がはじまり、ついにその全貌が明らかになる。霊感商法のあこぎな手口、非情な殺人、巧妙な事務所への潜入など、迫力あるシーンが連続し、読みごたえは十分である。▼それはいいのだが、この作品は、こうした基本的ストーリーそのものが脇役になってしまほどの強烈な仕掛けが最後に待っている。すべてがリセットされてしまうのだ。▼この仕掛けを、「やられた」と快哉を叫ぶのか、「なんだインチキ」と罵倒するのか。この作品の評価はすべてここにかかっている。▼巻末に著者インタビューが収録されていて、「本格の華はトリックだと思います。ずっとわからない謎が、最後にトリックが明かされたときにびっくりして鳥肌が立つようなものが、読んでいて楽しいし、快感なんです」と言っている。さてその審判は?
失敗例としては充分に興味深いが……
2003/12/26 01:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
『世界の終わり、あるいは始まり』に続き、真面目な社会派ものと思わせた枠組みに無茶なトリックをぶち込んで悪い冗談すれすれの小説にしてしまう不敵な趣向。これは『世界の終わり〜』ではぎりぎり成功していたけれど、今回は企画倒れ的で残念ながら失敗していると思う。物語レベルの真相暴露と読者に対するメタ・レベルの真相暴露とが別個に仕掛けられていて必ずしも噛み合っていないため、終盤の謎解きがどうにも釈然としないものになっているし、この話法を採った物語的な必然性も見出せない(殊能将之『ハサミ男』の釈然としない感じもこれと似ている)。短篇で済む着想を長篇のかたちに引っ張って、結果として制約付きの面白味に欠ける物語を長々と読まされることになったという印象も拭えない。
この作品の趣向に感心する読者もいるのだろうとは思う。どうしてこれが成功していないように見えるのかを考えるうえでは典型的なサンプルとして充分に興味深いテキストだし、読後つい他人と感想を確認し合いたくなってしまうという意味でも妙に気になる作品ではある。
これはありかなしかそれが問題だ
2003/04/24 13:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:藍桐 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格ミステリーといわれればまぁ本格ミステリーかなぁというのが最初の感想。
最初からキャラクターが今ひとつつかめなくて、ぼやけた状態でかなりの分量を読み続けて、最後のシーンで「あぁなるほど、そういうことがしたかったからかぁ」と納得はしたものの、ミステリー小説としてこの手法ってあり?というのが私の読後の率直な疑問。身のまわりにありがちな題材を使っていたりと、物語のテンポとかはかなりいい感じだっただけに、最後のオチがこりすぎているというか狙いすぎているというか、反則な感じがするところが私としては減点。本格ミステリーはもっと事件そのもののトリックがメインになっていてほしかった。ただし、内容は決してつまらなくないし話が進んでいくテンポもいいので広義のミステリーとしては面白いのかも。