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紙の本
日航機墜落事故を舞台に新聞社内の人間模様を描く傑作
2006/08/13 22:12
13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレビでもドラマ化された横山秀夫の作品である。日航ジャンボ機墜落事故を背景に群馬県の地方新聞社の記者を主人公としたストーリーである。
横山自身が地方紙記者出身で、この事故の取材経験を持っていることから、テーマとしては長らく温存されてきたものである。予想通り、事故の取材、紙面づくりだけではなく、それまでの人間模様が反映される複数のストーリーが並列して走る。
新聞社の編集局の中では、主人公の悠木が日航事故の全権デスクに抜擢された。新聞社としては航空路がない群馬県で航空機事故が発生し、当惑気味であり、回避したかった雰囲気がよく分かる。犠牲者にも群馬県関係者はほんの僅かであった。
私にはこの新聞社内部の人間関係が抜群に面白かった。訳の分からないことをのたまい、どうしてこれが社長なのと聞いてみたくなる元編集局長の社長、その腰巾着の編集局次長、一方で社長と張り合う専務とその一派、調停屋と呼ばれ、実力の片鱗も見せない編集局長、記者上がりのはずだが組織の政治地図に染まってしまった社会部長など、多士済々である。役者は揃っている。
まさかこれだけでこの新聞社が動いている訳ではなかろうが、半分はこんなものだろうと想像がつく。かえって、このような規模の地方紙の方が新聞作りに関しては、自分が作っているという実感があるし、達成感もあるようだ。この他にも広告を扱う部署、総務部門、読者の反応などがダイレクトで返ってくる。
主人公の全権デスクが社会部長に食ってかかり、相手を罵る場面などは迫力がある。これは、サラリーマン社会では首か左遷を覚悟しないとできない芸当である。また部署間の争いもつかみ合い寸前まで行ってしまうが、これもあまり見ることができない。つかみ合いや罵倒の是非はともかく、職務に真剣に取り組んでいる証拠である。これらは20年前の出来事なので、この頃までの社会の活力を象徴しているような気がする。
バブル後遺症で不景気が続いているという台詞は、もう言い古されてきたが、この間に産業界は再編成の荒波を受けて肝腎の活力を削がれてしまったのではないだろうか。何となく漂う無気力感、責任感の喪失、箍の外れた業界モラル。
私は本書を読んで、ある種の懐かしさを感じ、活力のある職場、産業界のあり方を見直す契機になった。本書に描かれているのは、わずか20年前の事件ではあるが、遠い昔のことのように感じさせる。新聞社勤めの経験がある横山ならではの傑作であろう。
紙の本
世代交代
2008/05/10 08:03
11人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
クライマーズ・ハイ 横山秀夫 文春文庫
クライマーズ・ハイとは、登山者が登山中に気分が高揚していくことだと思います。
記述のスタイルが古い。21年前のことです。阪神18年ぶりのリーグ優勝、グリコ森永事件、週休二日制の未実施、電話ボックス、中曽根首相、福田赳夫元首相、小渕元首相、モーレツ社員、仕事の犠牲になる家族。「アサッテの人」諏訪哲史著とは大違いの書き方です。読みながら、もう50代後半以上世代の時代は終わったと感じます。私たち好みの記述手法です。
サラリーマン社会においては、仕事場で評判の良い人は家族関係が壊れている、家族を大切にする人は仕事がパッとしない。両立は無理なことです。
御巣鷹山の航空機墜落事故をきっかけにしているものの中身は地方新聞社の内輪話です。現代の若い作家、女性作家とは明らかに書き方が違います。2時間ドラマを意識して書いてあるようです。今の時代にそぐわない作品です。日航機墜落を素材としてありますが、別にそれが素材でなくともいい。
インターネット、携帯電話の到来とともに人間と人間が直接面と向かって感情をぶつけあう時代は終わりました。
なんだかんだと書きましたが、424ページで、胸がグッときて目頭がジンとにじみました。こどもをもったことのある人にはわかる、こどもとのむつかしい関係です。
クライマーズ・ハイとは、新米記者の神沢君のことです。彼は古い世代の生き残りです。
紙の本
読み終えた瞬間こそ、クライマーズ・ハイの境地
2006/06/23 22:03
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よし - この投稿者のレビュー一覧を見る
1985年新聞記者悠木は、友人安西と谷川岳登山を約束するが、おりしも日航ジャンボ機墜落という世界最大の航空機の悲劇に遭遇することになる。このスクープに忙殺されることに。一緒に登れなかったことを悔やむが、安西も谷川岳には行くことなく病院に運ばれていた。時はたち念願の谷川岳登山の果てに見たものは…。
もっとこの墜落という衝撃の中で日航関係者や被害者のことを書いているのかと思いました。
予想に反して、事故のことは舞台が新聞社だけに淡々と書かれていますが、新聞社ゆえのことです。この事故への怒りや、見てきたものにしかわからない現場の雰囲気が伝わってきます。
また横山さんの持ち味、「組織の中の個人の葛藤」がこの新聞社の中で、いかんなく描かれています。新聞は売れればいいのか?新聞社のモラルとは?スクープとは?真実とは?次から次にと読者に投げかけられてきます。
日本中が悲劇に哀しみ、生存者に涙し、日本航空への怒りが渦巻いた、暑い、熱い1週間の新聞社の内部をノンフィクションと間違うぐらいに熱く語られています。
そして、横糸がジャンボ機墜落なら、縦糸は友人安西の死。
「なぜ山に登るのか」「下りるために上るのさ」
この会話が最後まで投げかけられています。そう意味ではれっきとしたミステリー小説。
それぞれの人物が過去を持ち、過去を乗り越えるため、山を越えていく。人生には山を越えるときがある。
そして、上り切ったら、まさにクライマーズ・ハイ。極限状態を通り越して陶酔の境地になるという。そして次の高みへ。
主人公の行いについて、賛否が分かれると思います。
「組織の中でどうなのか」
わたしはそれでも主人公の一途といっていいわがままを支持します。過去から未来へ前を向くための手段だったのです。
お薦めします。違う側面から日航ジャンボ機墜落を扱ったこの小説。読みきったときまさにクライマーズ・ハイの境地。まれに見る傑作です。
紙の本
下りるから登る
2021/06/06 16:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書はあまりにも有名な本。新聞で紹介されていたので読んでみたくなり購入。
「下りるから登る」この言葉の意味するところは読み終わって読者個々が必ず考える事。人生を送る人々個々には必ずと言って負の荷をおって生きている。その荷を引きずりながらも与えられた仕事・事件の報道に寸暇を惜しみながら向き合う主人公。その組織にいる過去の栄光にすがり年を重ね出世し今は社内派閥の頭目に使いまわされている元事件や達。でも事件の犠牲者たちの気持ちになりながら報道を貫き通そうとする面々。次の展開は?と考えながらも一気呵成に読んだ。新聞社と言う特殊な組織を描いているかと思うのは間違い。組織にいればぶち当たらないとは言えない場面が続く。解説の「人はなにをよすがに生きるのか」心に響く言葉。日航墜落事故。生存者がヘリに吊り上げられる映像を自分はどこで見たのだろうか思い出さされる。事故を忘れてはならない。
紙の本
航空史上最悪の事故
2020/08/13 11:40
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MR1110 - この投稿者のレビュー一覧を見る
当時小学生だった私にとって人生初の衝撃的なニュースだったかもしれない。確か同年代の女の子が助かった記憶がある。そのニュースを題材にした報道記者目線の小説。携帯電話もない頃の凄まじい執念の取材。何度読んでも引き込まれます。
紙の本
クライミングがしたくなる
2018/09/20 21:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:てっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
先輩に勧められて読んだ本です。ドキドキワクワク最後まで楽しく読むことができました。読み終わったあと、山に登りたくなりました。
紙の本
どうしようもない祭
2017/08/22 07:31
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投稿者:まんだかず - この投稿者のレビュー一覧を見る
大事件や大災害といったものはマスコミにとって
祭のようなものだ。
関係者だけが勝手な使命感に盛り上がって、傍から見れば冷笑そのものである。
作者は地方新聞の出身だけあって、
その辺の祭をよく描写しているのだと思う。
しかも、祭といえど関係者の担ぐお神輿の息はバラバラ。
地方新聞が大手新聞社にスクープをとられる口惜しさや社内の内部抗争まで
大事件を利用しようとする幹部たちの腹黒さと友人の突然の入院など、
主人公の北関東新聞社・日航全権デスクの悠木は翻弄される。
読者はすでに日航123便の墜落について知っているので、
そうだよ行け!そうじゃないよ!とついつい悠木を応援したくなる。
紙の本
ほぼ、一気に読めた。
2016/09/23 17:19
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投稿者:オカメ八目 - この投稿者のレビュー一覧を見る
結構分厚い文庫本ですが、文章の流れにスピード感があって、その勢いに乗って、まるでラフティングでもするかの様に読めました。 そして何より、御巣鷹山への墜落事故当時の時代の空気感を、本の中より感じました。 もちろん、かなりの部分がフィクションですが、それとノンフィクションとが絶妙に絡み合って、兎に角「読ませ」ます。
紙の本
横山作品の代表作!力作です!
2016/01/24 09:03
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品は、御巣鷹山で起こったJALの航空機事故を題材にした小説です。筆者が新聞記者時代に遭遇したこの大事故の取材経験をもとに小説に仕上げているのでそれぞれの場面の描写やその当時の社会が実に生き生きと描かれています。思わず、この作品に引き込まれ、一気に読み終えてしまいます。この作品は、横山作品の代表作といえるでしょう。
紙の本
この方の作品が好きで、読みました。
2014/10/13 01:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:shingo - この投稿者のレビュー一覧を見る
この方の作品が好きで、読みました。
ノンフィクションが苦手なので、今まで避けていたのですが、考えすぎでした。
説明が細かくて読みにくい感じもありますが、それに負けない楽しさです。