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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
そこが未来なのかどうかも分からないが、どさくさ紛れに連れ込まれたのか、彷徨の果てに辿り着いたのか奇妙な「未来都市」、ある宇宙線の働きで人間を幸福にしてしまうというテクノロジーによるユートピアだった。まったく古典的なユートピア像なのだが、そこで科学的に生み出される明朗な「芸術」に、主人公が違和感を感じるというのが、「文学」作品らしきところか。ユートピアの終焉によって、絶望の底にいた主人公が希望を取り戻すなぞはある種のアイロニーかもしれないが、幻の体験によるのだと言えば納得できるというものでもない、いささか穏当でないバランスの上に進行がある。
宙を飛ぶ幻想にすがる「飛ぶ男」も、なにげなく町を歩く日常感との対比が、絶望の深さを暗に語ろうとしているのか。目の出ない画家の遂に挫折する「樹」、妻が幼子とともに去っていく予感「風花」、みんな過去なり現在なりで入院している中で病気との戦いに加え、才能とキャリアの途絶する不安を抱えているのが独特だ。
古い水路の町での見聞きした「廃市」は、歪んで入り組んだ愛情をときほぐす過程だが、語り手の青年はまったく蚊帳の外であるが、あるいは芸術家の才能を秘めたらしい鋭敏な感性で、ことの真相を推理しえたのかもしれない。大林宣彦が映画化し、小林聡美の怪演が印象深い作品だが、原作の沈滞と憂鬱のイメージを忠実に伝えていたように思う。
全体に似たような憂鬱感が漂うところは、ある少年時代を描いた「退屈な少年」も変わらないが、奇妙な習慣とあっけらかんとした結末は明るさもあって、憂鬱自慢ばかりではなく大いに茶目っ気のあるところも感じられる。
人がどちらの顔も持っていることを思って読むなら、いつでも未来を悲観するだけでなくていいと思えるだろう。
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幾つかの作品が収録されているが、表題になっている「廃市」と「飛ぶ男」とでも話としてみると印象がまったく違う。ちなみに私は「廃市」と「退屈な少年」が好きです。描かれる情景などは美しいけれど、そこに色味はなく、ただ灰色の世界。
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初めて『廃市』を読んだとき、多分まだ中学生くらいで、美しい街並みと古き良き日本の古都のイメージは鮮明に浮かぶのに、登場人物達の心情はいまいち理解できなかったし、よくわからなかった。大人になった今、読み返してみて、、
子供には分かりませんよ、こんな本読んで自分はませてたなあ、と思います。
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物語に陶酔する。福永が作るのはストーリーの建築物である。登場人物は影絵のようなものだ。結構がシルエットを際立たせることで、登場人物は普遍性を帯びる。
http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100910/p2
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「廃市」はボクの「人生の最期に読みたい本」候補のひとつです。
映画化もされました。
「死都ブリュージュ」にインスパイアされて書かれたという話も聞いています。
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「ぞっとするような寒さが彼を襲った。」
「最早得るものはなにもない、失うばかりだ。しかし失い続けても人は尚生きて行くのだ。」
なに、その絶望感!悪くはない
人生とは懸命に穴を掘り、その穴を埋め、平らな地面に戻すこと
っていう考えは真っ当だと思う。
できればちゃんと平らにしきってから死にたいなー
女性不在の男のロマン
ひとりで不幸を背負いこんだところで彼女が幸せになるとでも思ってるのか ナンセンス
まぁいっか 結局それが望みなんだろう
『退屈な少年』のパラレルな方法が好き
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表題2作他、全8編収録。
かつて『夢みる少年の昼と夜』と共に
ある人に貸したら、
なぜかこっちだけ返って来なかったってことを、
引っ越し荷造り中にハッと思い出し、
古書店さんから取り寄せました。
で、再々読……くらいでしょうか。
これまた昔と印象違うなぁ。
全然好きじゃなくなったって感じはしませんが。
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モスラの原作者福永武彦さんの短編集。
全部で8作の小説が入っているけど、どれも「狭き門」みたいな感じがある。
売れない芸術家モノとか三角関係とかが多い。
「廃市」は福岡県の柳川市をモデルにしているように思うが、とてもはかない美しい物語だった。
全体的にどれも完成度が高いように思う。
当時の流行なのか、やたらカタカナが出てくるのがちょっと現代っ子には読みにくいと思うけど(笑)
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2008年3月8日(土)の朝日新聞「愛の旅人」コーナーで福永武彦が取り上げられていた。私は読んだことがなかったのだが、その記事を読んで「廃市」という小説をとても読みたくなった。すでに中古でしか手に入らなかったけれど、Amazonでなら送料は取られるもののサクッと手に入る。
福岡県の柳川市が舞台になってるとのこと。私は用水路のある町がやたらと好きで柳川にも是非一度行ってみたいのだ。学生時代に過ごした東京都日野市にも田んぼの脇に綺麗な用水路が流れていてその水音がとっても好きだった。
そんなわけで「廃市」のDVDまで買ってしまった。
books122
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長いこと読み終え無いまま放置していた小説をようやく読み終えた。
感動するくらい日本語が綺麗。久々に有機的な物語を読んだ気がして、昂ぶるものがあります。
福永武彦の小説はこれが初めてだったのですが、もっと読みたいですね!
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「未来都市」を読んで「新世界より」(貴志祐介)を、
「退屈な少年」を読んで「喪失」(福田章二)を連想した。
福永武彦はすごいね、作風に倦怠がない。似たテーマ(死と絵描きと三角関係)はあるけれど、どれを読んでも読後の印象がすごい(ボキャ貧)。
もうちょっと考えてから書き直します。
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のっけから比喩のこねくり回しで始まる短編集。安部公房のフォロワーかと思いきや、同世代に活躍していた「戦後派」の純文学の旗手だった模様。
この本の中で、やはり一番印象に残るのは「未来都市」だろう。異常ノイロンを修復し、犯罪は一切起こらない都市における反乱と離脱。アイデアからメカニズムが明確に打ち立てられ、その中での矛盾を見出す。
他の作品も、物語の外殻は非常に緻密で強力なのであるが、つい癖で些細な人の出入りだの感情の起伏だのを追ってしまい、幹であり殻になっている部分を読み飛ばすと、よくわからないまま終わってしまう。
内容は全て難しいわけではないが、動きが少ないので読むのに非常に時間がかかる。文学というより「文芸」というジャンルなのであろう。
また、スノッブな純文学の特徴かもしれないが、ダメな男によろめく女性が出てきて「ホラあなたはスデに私を好きにナッてしまっているではないですか」的な話が多いので、その辺は「よくあるネタ」と言うかたちで読み飛ばせばよいのかどうなのか。
安部公房ほど追ったり追われたりしないので、どうも焦点のあっている部分をフォローしづらい。文はうまいんだけど、外殻ではなく骨を読みたい人間にはあまり向かない。
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『夜の寂しい顔』
僕に欠けているのは、存在の感情なのだ。
親戚に預けられて心に空白を持つ少年。
夜ごとにある少女の夢を見る。
ある夜少年は、その少女の顔が自分そっくりだと気がつく。
僕の本当の存在が毎晩僕を訪れて来るのだ。
『影の部分』
心休まらない家庭を持つ売れない画家の僕は、ある母娘のもとを訪れていた。
だが娘が嫁に行ったことによりその訪問を取りやめていた。
母は、あなたは娘を愛していたのだと言い、
娘は、あなたは母を愛していたのだと言う。
僕の心はどこにも行けずに漂っている。
『未来都市』
ヨーロッパに滞在する画家の僕は、ふと立ち寄った「自殺酒場」で毒酒を煽る。
だが僕は死なずに「未来都市」に招かれた。
そこは「哲学者」が規則を決め、希望と幸福に向かった世界だった。
しかし負の感情のすべてを排斥したその未来都市は、人間の個性を潰し過去を忘れてゆくものだった…。
『廃市』
かつて僕は卒業論文のために、掘割の巡るある町に滞在していた。
僕がお世話になった家には、明るく爽やかな安子という娘、その姉で気品があり静かな強さを持つ姉の郁代、郁代の夫で貴公子然とした直之がいた。
しかし郁代は、直之が別の女性を愛していると言って、彼らの邪魔にならないようにと家を出て寺に滞在しているという。夫の直之は、自分が愛しているのは郁代一人だと言っても聞いてもらえず、やはり家を出て他の女性と暮らしていた。
一人の男と二人の女の愛のすれ違い。互いを思いやろうとして自分だけの道を突き進んでいて、その思いは空回りしあっている。
「こんな死んだ町は大嫌い。なんの活気もない。だんだんに年を取って死に絶えてゆく町」
「この町の掘割は人工的なものでしょう、従ってまた頽廃的なものです。町の人たちも本質的に頽廃しているのです。私が思うにこの町は次第に滅びつつあるんですよ。正規というものがない。あるのは退屈です、倦怠です、無為です。ただ時間を使い果たしてゆくだけです」
「人間も町も滅びて行くんですね、廃市という言葉があるじゃありませんか、つまりそれです」
『飛ぶ男』
彼は病院のベッドでただ死ぬことを待っている。
彼は病院のエレベーターに乘り病院から出る。
意識が二分される。一つは彼の魂、一つは彼の肉体。
彼は幼い頃から空を飛ぶことを夢に見ていた。
彼は橋の上から病院の窓を見る。
地球の終わりの日に重力がなくなりすべてのものが宙に浮く。彼も浮く。地球が砕けて宇宙の地理となるときに、初めて人間は空を飛ぶことができるのだろう。なんと自由なのだろう。空気のない宇宙空間に彼の死骸が漂い流れる。
彼の見つめる窓から、一人の男が空に飛び立つ。飛んでいる、軽やかに空中を飛んでいる、それを見ている彼の顔に初めて会心の微笑が浮かぶ。なんと気持ち良さそうにその男は空を飛んでいることか。(P199)
===
物語は冷静な第三者により語られる。
死を待つだけの停滞した時間、地球が泯びる悲鳴、しかし最後の瞬間に空を飛��その自由。
最後の場面は…融合したの??
『樹』
売れない芸術家の夫は、貧しいながらも妻と娘を愛して、彼の画く絵には妻の面影があった。
だが個展のために描いた絵は彼だけのものであり妻の影はなかった。
その絵を見た妻はある決意をする。
『風花』
療養所にいる男は窓から風花を眺める。
いつ出られるかわからない自分に疲れて、妻は自由になりたがっている。子供は自分を忘れるだろう。
だが自分の道のあとにはかすかながら足跡がついているに違いない。だからそれでいい。
「風花のようにはかなくても、人は自分の選んだ道を踏んで生きていくほかはないのだろう。」(p247)
『退屈な少年』
母親をなくしたある一家の光景。
再婚を望む父、その父に望まれた若い娘、友人との関係でガールフレンドとの行き先に陰が挿した兄の舜一、そして思春期ただなかの弟謙二。
少しずつ心が動き、そして心の中の微妙な変化は今後も決して消えずに彼らの行く先について行くのだろう。
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短編八編を収録しています。
「未来都市」は、人間の非理性的な性格を消し去ることが可能になった都市にやってきた一人の芸術家を主人公とする、寓話的な作品です。時代背景を考えると、マルクス主義の芸術観に対する抵抗の意味が込められているのかもしれません。
「廃市」は、ひと夏のあいだ田舎の旧家ですごすことになった大学生の男が、その家に暮らす姉夫婦と妹とのあいだの愛憎劇を目撃することになる話です。
「退屈な少年」は、ひとりで心のなかに思いえがいた「賭け」に熱中する中学二年生の謙二を中心に、彼を取り巻く家族たちをえがいた作品です。端正な文体で、少年から青年になろうとする不安定な時代の心をえがいており、古い作品ながら現代にも通じるようなテーマに感じられました。
「影の部分」と「飛ぶ男」は、文体などの点で実験的な試みがなされている作品です。「未来都市」ほど寓話的な内容が明確に語られているわけではありませんが、個人的にはとりわけ「飛ぶ男」が強い印象をのこしています。
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安部公房という名前をチラホラ見るが、彼よりも情緒的で、かなり感情の部分を大切にしている気がする。
著者の描きたい事・目線はどちらかと言うと康成寄りなのかも。
レベルの高い短編集だった。