日本人は思えば遠くへ来たものだ
2011/07/09 22:16
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は35年間ニッポン放送に勤めたジャーナリスト。
幕末から明治初期に欧米へと向かった日本人使節団や留学生たちが、初めて口にする洋食とどう悪戦苦闘したかを、彼らが残した日記類を丹念に読みこんでまとめた労作です。
なにしろ肉食の習慣がなく、白米に漬物、刺身の類いしか日常的に食していなかった彼らですから、長旅に備えて乗船する外国船に日本の食材を大量に積み込もうとします。ことは食に関わることだけに彼らは大まじめ。コメを炊くための厨房めいた一画をわざわざ船中に設けるなど、その涙ぐましいまでの努力はあまりに珍妙で、微苦笑を誘います。
それでも旅の途中で味噌が腐りだし、あまりの腐臭に彼らを乗せてくれていた外国人船員たちも閉口することしきり、と珍道中が展開します。
仕方なく食事は洋食に切り替わっていきますが、慣れない肉料理や乳製品の食感と臭みに日本人たちは音をあげます。醤油味に慣れた彼らの舌には洋食は塩気がなさすぎて食べにくいという記述が見られ、塩分の多さが和食の特徴のひとつであることを改めて思いました。
これを読んでいて思い出したのは、ここ数年私のもとを訪れた外国の客人や友人が日本食に対して示した拒否反応の数々です。
20代のオランダ人女性は、おかずをのせるだけでは白米を食べることが出来ず、私の目の前でご飯に思い切り醤油をかけたり、味噌汁を注いで猫まんま風にしたりして、炊きたてのご飯の “無味さ”を解消しようと試みを繰り返していました。
一緒に鍋料理をつついた40代のスペイン人の友人は、パンチがなさすぎる白菜などの野菜類をどうしても食べることができませんでした。
彼らは本書に出てくるサムライたちとはまさに180度逆の反応を示したのです。
食というものに対して人間がいかに保守的であるかを思うとともに、日本人が食に対して歩んできた今日までの遠い道のりを改めて思う読書でした。
150年で激変した食文化、サムライはどう思うだろう?
2011/06/25 18:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:辰巳屋カルダモン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「初めて口にした洋食の美味しさが忘れられない!」よき食の思い出として耳にするセリフだ。世代による違いはあるにせよ、21世紀に生きる日本人で、洋食をまるで受けつけない人はいないだろう。
同じ日本人、サムライ洋食事始は案外スムーズだったのではと思ったが……。
開国(1860年)から明治維新までの8年間で、約400名が米国・欧州へ派遣された。維新前なので、全員身分は武士=サムライである。サムライと洋食との「出会い」が、主に書き残された日記からたどられてゆく。
洋食に対し、彼らが想像以上の激しい拒絶と嫌悪感を示したことに驚いた。幸せな出会いをした者は一人もいない。日記には「食する事不能」「味極て口に適わず」と悲痛なことばが並ぶ。
米や野菜、魚をしょう油や味噌、塩で食べてきた「草食系」にとって、肉食とバターや脂の匂いは想像を絶する異文化への入り口だったのだ。空腹なのに目の前のごちそうを食べられない悲劇、が起きる。サムライ、洋食相手にまさかの討死? とハラハラする。
だが、食べないわけにはいかない。だんだん慣れて洋食の味をしめる者と、最後まで馴染めず恨み言を言い続ける者に二分される様子は面白い。
1864年の遣仏使節団の一員、岩松太郎は、当初こそ断固拒否の姿勢を示したが、帰国間際には洋食にすっかり馴染んでいた。料理の良し悪しを詳細に日記に書き残していたという。ミシュランもびっくりだろう。
著者が「お前さん、西洋料理の味の違いが本当に分かっているのかい?」と愛情たっぷりの突っ込みを入れているのが楽しい。
現在の日本には、世界各国の食があふれる。わずか150年で食文化は激変した。
サムライが恋しがった日本の伝統食は、めっきり食卓に上らなくなった。逆に、米国・欧州ではヘルシーな食事として注目されている。
彼らはこの皮肉な現状をどう思うだろうか
投稿元:
レビューを見る
候言葉で書かれた、西洋料理が愉快です。魚と野菜と米飯を割と質素に食べていたご先祖たちは、突然の開国で西洋料理なるものに遭遇し、海を渡った先で、国賓としていかに豪華な晩餐で歓迎されても、それは困惑するしかないわけで……。
徳利の口を開けると大きな音がして(シャンパン)小刀と熊手(フォーク)がテーブルに並び、獣の肉は臭く、香辛料に閉口し、バターまみれの米飯が食べられないといえば砂糖まみれにされ(オートミール感覚だったんでしょうかねえ)、煎じ薬のようなコーヒーを飲む。醤油もなければ味噌もない。飢え死にの危機まで感じてる。意外に口に合う者もいれば、まったく受け付けない者もいて……でも、ハンバーガーだろうが、ピザだろうが、エスニックだろうが、ジャパニーズ風にアレンジしたりして、すっかり馴染んでしまった私たちに繋がっているんですよね。不思議。
支倉常長がフランスに滞在していたとき、持参したMy箸で食事をしていた、という記述が残っているそうです。宇宙ステーションでお箸を使って宇宙食を食べる日本人宇宙飛行士の絵が思い出されて、きっと、遠い将来、見知らぬ星に飛び立つ日本人がいたら、彼らもお箸で御飯を食べてるんだろうな、って、やっぱり愉快でした。
投稿元:
レビューを見る
洋食を初めて食べた日本人たちの反応は非常に面白い。
江戸時代の日本人の食生活がよくわかり、とても面白い本です。
桜田門外の変が実は食べ物の恨みだった?!なんて説もおもしろかった。
おすすめです。
投稿元:
レビューを見る
明治初頭、海を渡った日本人が異国の食べ物にどんな反応をしたのか?・・というのが本題。
咸臨丸で堂々アメリカに乗り込むとき、醤油・味噌はもちろんかなり多くの日本食を積み込み、甲板で煮炊きをしたとのこと。
外国人船員からは、「味噌」の臭いに苦情続出、さもありなん。
「衣服一代、家居二代、飲食三代」といわれるほどに食嗜好を変えるのは難しいとの本書の指摘もあるが、私は18歳までに食べたものの記憶がベースとなり、その人の食嗜好が出来上がると思っている。
彼ら先祖は、洋食を「塩が甘い、肉・ミルク・バター臭い」というが「口にあわない・・」というばかりで、どのようにまずいのか、美味しいのかの表現は少ない。
しかし、オレンジや果物は評価が高く、その説明も「・・のように」といった自分の経験の引き出しを探って似たような味に安心している。
沖縄に最初に出かけた時、私は味付けが「美味しいのか、苦手なのか」しばし考えてしまった経験がある。
欧米に出かけた彼らが一応に「美味」としたのは、「雪菓子(アイスクリーム)」だっだ。甘くて冷たいアイスクリームは、「王様でも食べられない・・」という歌を思い出し、冷凍庫のアイスを口に放り込みました。
投稿元:
レビューを見る
てっきり洋食文化が日本に流入してきた時の話かと思ったら、海外に向かう武士の方たちの逸話だったのですね。最初の洋食への抵抗感・拒絶感から次第に慣れ親しみ、好んでいく変化がすごい。でもやっぱり日本人は米と魚と醤油だよね~と思いつつ、後書き見てあ、違くなってきてる?とも。肉嫌いの自分としては、何となく安心した一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
読了。ちょんまげに腰刀、日本人を代表してメリケン・エゲレスに渡っていった武士(高級官僚)たちが洋行の船中からして 口にしていったものとは・・・。そして、上陸後テブルにつき目の前にサーブされた 始めて見、始めて口に入れた料理の数々・・・・・・・古文書を読み解き明かされた 武士の初物グルメ談義・・・・・・必読です!
投稿元:
レビューを見る
サムライ洋食事始~味の国粋主義者_初期日本人渡航者の洋食体験~鎖国まで_開国前夜の西洋料理~ペリー主催の饗宴_太平洋を渡った170名_ヨーロッパへ_遣仏使節団(池田使節団)_その後の使節団_各国派遣留学生_初期渡初期渡航者たちの味認識~1860年から8年間で欧米へ渡航した日本人は延べ400名超。想像以上に多様な食物を口にしていた。最初は忌避感や抵抗感を訴え,回を重ねる毎に洋食嫌悪の傾向は弱まり,洋食に慣れ親しむ期間が短縮される。初めは新たな食べ物に目を白黒させ,牛乳・バターや脂臭い調理法,塩気の乏しい味付けに閉口し,不満を抱く。中には最後まで異国の料理に違和感を捨てきれずに帰国した者もいたが,味の国粋主義者は一握りで,大半の者は長旅を続けて馴染んだ。国粋主義者の代表が遣米使節団の村瀬範正,変節者が池田使節団の青木梅蔵。岩松太郎などは評論家になっていて,パリよりマルセイユの方が旨いという。シャンパンや果物・氷菓を好んだのは誰もが同じで,エネルギー充足が十分でない時代に甘いものや炭酸入りは好まれたのだろう。福島1948年産で早大商卒,ニッポン放送勤務の著者は,よく文献にあたって分析して書いている
投稿元:
レビューを見る
当時の彼らはとても真剣で、そしてその努力があってこそ今の我々があるのだとわかっていても、読んでいて笑ってしまった。
投稿元:
レビューを見る
味の国粋主義者という表現が、すごくインパクトあって秀逸。
和食のみで、肉が禁止されていた昔の人には、バターたっぷりの肉なんて獣くさくて食べられなかったんだろうな。
特に日本人向けにアレンジされたものでもないから、当時と同じ調理方法だったら私も辟易しちゃうかも?
醤油と味噌の力、そして果物の力は大きいなー。
投稿元:
レビューを見る
開国前夜、初めて洋食を口にしたサムライたちの残した記録などまとめたもの
カテゴリがちょっと違うか、彼らはかなり苦しんでいる。船酔いもあるだろうけど、匂いがきついとか油っこいとか。納豆がよくて肉がだめか!と思ったりもしたけれど、調理の仕方一つとっても全て洋風で、面食らったんだろうな。現在ですら『日本人に合わせてアレンジ』と工夫するくらいだし。
初めて通訳つとめた人にも興味あるな
投稿元:
レビューを見る
目次を見た時に使節団の事ばかり書いてあったので、ちょっと内容が固い本なのかな?と思ったけれど、そんな事は無かった。
当時の海外渡航者の初めて食べる洋食への感想や日本食の恋しさを、ひたすらに綴って解説している本でありました。これは面白い。
当時の使節団がどういうルートで海を渡ったか、どういう事をしたかという本は数あれど、「何を食べていたか」のみを書いた本は今まで無かったんじゃなかろうか。
使節団というと外交云々で何となく堅苦しく感じてしまうけど、食を通してみると身近に感じられて理解しやすい。
この本でちょっぴり使節団に興味を持った。
投稿元:
レビューを見る
まずはおまえら船乗って外国行くんだから、メシのことぐらいちょっとは考えろよ。
あと、洋食というものを全く知らない人間が一番食えないのがバター、ってのがちょっと意外。
それにしてもよく頑張った。サムライ、よく頑張った。バカみたいだけど。
投稿元:
レビューを見る
幕末に海外に渡った使節団の洋食苦節紀行です(笑)
醤油が切れた時の嘆きようが・・^m^
あと使節団と留学組が外国で再会とかのエピソードもあって
会津の横山主税と山川大蔵が再会してるのにテンションUPしました(笑)
投稿元:
レビューを見る
皆さん、洋食は好きですかー??!
私は大好きです。伝統的な西洋料理も日本に馴染んだ洋風料理も大好きです。ハンバーグもピザもチーズフォンデュも美味しいですよね。外食産業が盛んな日本では世界各国の様々な料理を食べる事が出来ます。それだけでこの時代のこの国に生まれて良かったと思います。
今では当たり前のようにバターを使い、肉を食べ、ビールを飲んでいる私達ですが、開国以前の日本人は何を食べていたのでしょうか。当時の一般的な武家の食卓は現代の和食よりずっと質素です。邸内の畑で採れた野菜、自家製の梅干しや沢庵、ご飯は玄米か麦を混ぜたもので、魚は毎日食べられるものではありませんでした。日本人が小柄だったのも頷けますね。明らかに栄養不足です。
そんな慎ましい食生活を送っていた武士達が、幕府や雄藩によって使節団や留学生として諸外国へと放り出されたのが約150年前。慣れぬ異国の食事への戸惑いと嘆きの愚痴が彼らの日記や手紙に残っています。それらを取り纏めたものがこの本です。「拙者は食えん!」と実際に言った者が居たのかどうかは分かりませんが、心中は苦悩に満ちていたようです。
とは言っても洋食がそれほど絶対に食べられないものって訳ではなかったみたいで。開国以前のエピソードですが、ペリー提督が開いた宴では水夫が運ぶ料理を次々と平らげ、ひとつひとつの料理の名を聞いてメモし、家人のためにと懐紙に包んで懐へとしまう有様(んなオミヤゲなんぞ食べたくないわい)だったそうです。しかし一晩の饗宴なら好奇心で楽しめても、連日毎食となるとやはり食べ慣れたものが良いと言うことですね。
航海中に異臭騒ぎで泣く泣く海へ捧げた味噌、異国の地で奇跡的に見つけて買い占めた醤油、はじめて食べたアイスクリームを絶賛し、フランス滞在中に図らずも舌が肥えてイギリスの食事に毒を吐く。慣れぬ西洋料理も長旅の内に徐々に馴染んでいったようです。ロシアでは完璧な日本風おもてなしを指揮する謎の人物も登場します。
他にも日本での肉食事情やカレーライスの歴史など豆知識も満載。食べるのが大好きなアナタにおすすめの一冊です。