紙の本
これからの居場所を探す旅
2011/11/19 21:39
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投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る
電子マネーのスイカが昨日で10周年を迎えた。本書にはイノベーションが失敗しないための条件としてこんなことが書かれている。「『電子マネー』という漠然とした名前で呼ばれているうちは成功せず、スイカのような特定の用途に最適化して利便性が明確になったときに成功するのだ」特定の用途への最適化と利便性の明確化。イノベーションを語るときに欠かせないこの要素は、個人の生活の感覚に深く根ざしていて、だからイノベーションは社会的に最適化されていない個人の思い込みから生まれてくる。
経済成長にはイノベーションが最も重要だ、という経済学的分析は多いものの、ではイノベーションとは何なのかを扱った分析は少ないらしい。本書のストレートなタイトルはその問いへの挑戦であるが、イノベーションには明確な法則はない。それでも「明らかに失敗するものは事前にわかるし、成功したものにも一定のパターンがある。それを分析すれば、少なくとも何をしてはいけないかはわかるだろう」。そう、新しい結合を生むために、「何をしてはいけないか」、が大事なのだ。
スティーブ・ジョブズは新しいものを生み出すために、100のことにノーと言う、と言った。シンプルに用途を最適化するには、やらないことを明確にし、クリエイターに余計なちょっかいを出さず、1勝9敗で元を取るつもりでいること。どれも実に難しい。
任天堂のファミコンにしても、ソフトバンクのYahoo!BBにしても、革新的な流れを生み出したものはどれもシンプルだ。その裏には個人の強烈な決断があり、さらにその背後には、時流の後押しがある。過剰なエネルギーが最適経路を見つけられれば流れは自然と起こるけれど、それを見つけるには絶え間ない試行錯誤が要る。
かつて将棋の羽生名人は自分の棋風を常に「最適手」を探るものと語り、それを「今まで指した手が最も生きる手」と表現した。今まで指した手を最も活かすための試行錯誤が、邪魔されないで発揮される場所はどこにあるのか。イノベーションは、自分の最適な居場所を探す、個人の旅路でもある。
紙の本
イノベーション創出のための経営者への警告
2018/05/21 11:40
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投稿者:病身の孤独な読者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、イノベーションはどいういうものなのかということを問うと同時に、イノベーションを生み出すための実践的な問題点と提案とを行っている。一見軽い書籍に見えるが、イノベーションを起こすのに必要でかつ重要なことが記されている。それが、経営者の自覚や視点への言及である。イノベーションにつながる発見や開発が行われたとしても、経営者が理解できなければイノベーションにならない。この点に、研究開発者と経営者とのギャップが生じる。そのため、経営者側にも高度な知識と理解とが必要になる。イノベーションという言葉は、本来はとても重い言葉だと思われる。それをまず経営者側が自覚しないといけない。イノベーション創出のための著者からの警告である。
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IT業界(ITゼネコンと言われても仕方がない)にいる自分にとっては、とても耳が痛い一冊。
スティーブ・ジョブスやビリー・ゲイツなどの成功者がいかにして成功してきたかを知って損はないと思うが、結局のところ筆者も述べているように『科学の理論が昨日から生まれるのではなく科学者の直感から生まれるように、イノベーションを生むのも統計や分析ではなく才能だから、それを作り出すハウツー的な方法はない。』
ただ、イノベーションを起こそうと考えた場合の戦略や普段からの心がけのヒントは本書につまっている。頭の片隅で常に意識しながら、小さなところからでも行動に活かしていきたい。
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イノベーションについての体型的な視点をできるだけ理論ベースでアプローチした本です。池田氏も冒頭で述べているように今まで経済学でイノベーションというのは不確実な事象というある種サジが投げられたものであり、他方経営学ではケーススタディの分析にとどまっておりなぜイノベーションが起こったかはわかってもどうやってイノベーションを起こすかはやはりベールに包まれていました。それをできるだけモデル化しようとしたのが本書です。大学の教科書にも使えるように意識して書いたというのだが、アカデミズムの教授が書く本との違いはケーススタディの量でしょう。理論ベースの教科書では実際例というのはこちらで勝手に考えるように課された命題でしたが池田氏は自身の経験と広範な知識を惜しみなく披露しまだまだ不透明なイノベーションのハウツーを描くことにある種成功しています。難点としては、専門用語が多いということです。池田氏の肩書きは経済学者であり、引用や思考もそれによることが多いのですが他にゲーム理論やORや進化論などの用語が使われているのでこれらいずれかを少しでも知らないと調べながらの読解になるので厳しいと思います。また企業の例もIT系がなぜか多くそれに付随するハードウェアやスクリプト言語の名前など出てくるので相応の覚悟が必要です。ドットコム、自然独占、FTTH、これらの意味または示唆することを想像できるかできないかがひとつの指標になります。しかし用語が多すぎてケーススタディが果たしてケーススタディたり得ているのかどうかの読み手の議論ができないのは問題があるでしょう。モデルを知ってケースを知ったとしてもあくまで聞いた情報以上の価値はなく、読み手がそれを咀嚼できるやら。広範な知識を先ほど評価しましたがそれがたたったか。
総評としてはアカデミックな性格を持ちながらも常に実践を意識したスタイルと時折アイロニーを含んだような文章の構成のそれらの全ては読み手を飽きさせず社会人、学生だけでなく近年の脳トレ層にも勧めることのできる思考を促す良書である。経済学はこう使うのか、ゲーム理論はこんな使われかたをしているのかを理解する一助にもなり二度三度読んでも新しい発見がある本だと思われる。
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池田さんは、NHK出身の経済学者。
過激な発言、もっともなんだけど、もうちょっと言い方ないのかな、というレベルの発言なので、よく、ツイッターとかブログが炎上するらしい。
自分は、明確な論理展開が気にいっているが、あおきさんのように、マナーが悪いと指摘する人もいる。
評価が分かれている人。
シュムペーターが言っているとおり、イノベーションがないと、新しい段階での経済発展、社会発展が見込めないが、日本人は、均質的な社会体質でイノベーションが不得意と言われている。
この本をよんでも、これが決めてという手法はないが、そもそもイノベーションにそういう常道はないのだろう。
①自閉症的なビル・ゲイツやスティーブ・ジョッブスのような、まったく別のフレーミングを創造できる変人が、最後まで思いこみを実現できる環境をつくることが大事。(p34)
②独創的なイノベーションの価値が高まっている情報産業では、日本企業のようなコンセンサスで意思決定を行うガバナンスが没落し、アップルなグーグルのように創業者が独断で決めて、彼が間違えたらつぶれるという19世紀型のオーナー企業の優位が顕著になっている。(p112)
そういえば、ソフトバンクもユニクロも独裁者的なトップだね。
③進化ゲームを考えると、中途採用のような突然変異の確率が高くなると、雇用が流動化する可能性もある。そのためには集団内の淘汰圧を引き下げたり、集団を細分化したりして、変人が労働市場で生き延びる確率を高める必要がある。(p218)
これは、マネージャーとしても注意したい。自分の言うことを素直にきく部下を集めるのではなく、くってかかってくるような勢いのある変人の部下を集めたい。
というか、毎朝、一冊本を読む自分も十分「変人」か?(苦笑)
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分かりやすいけど、情報通信産業に偏り過ぎ。バイオとか環境とか他の分野でも色々な形のイノベーションはありそうな気がするが。
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「成功には偶然もあるが、失敗には必ず原因がある」という帯に惹かれて買った。理論的な話は詳しくないしつまらない。具体例のエピソードは面白い。大学が職業訓練校になればいいというのは賛成できない。僕はアカデミズムを信じてるし、教養というものに対する憧れと期待がある。
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イノベーションが発生する条件について、情報通信産業の事例を中心に議論を展開。特に、資金調達方法がイノベーションの発生に与える影響は、行動経済学の知見から見ても興味深かった。
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IT関係の事例集、ではないはずですが、どうもそんな印象が。ソニー、アップル、imode、ガラパゴス携帯…ちょっとお腹いっぱい。目からウロコ、みたいな話はありませんでした。行動経済学でイノベーションを解くような前フリでしたが、僕にはわからなかったなあ…。
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衝動買いした。
イノベーションを起こす法則はないが、
起こせないときの共通点は存在する。
経済学のことも書いてある。
ちょっと難しいけれども内容はしっかりしている。
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イノベーションに必要なのは技術ではない、大企業のコンセンサス主義ではイノベーションは起きない、知的財産権の強化はイノベーションを阻害するだけ、などなど思い当たる部分が多数あり。
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実のところ池田さんの主張には首肯することが多い。ブログもずっと読んでいるし、推奨する本も何冊も読んだ。影響を受けている人のひとりと言っていいと思う。賛否が割れる原子力の話も、TPPの話も、電波の話も、電子出版の話も、主張されている内容については、あらかたその通りだと思う。
ただ議論が喧嘩腰になるのは肌に合わないのだけれども。
本書は「イノベーション」に関するかねてからの主張を改めて筋道立てて一冊の本にまとめたものである。成長には生産性の向上が必要で、生産性の向上にはイノベーションが不可欠である。では、どのようにしてイノベーションが実現されるのかが扱わなければならないというのが著者の問題設定である。
これに対して、これまでの伝統的な経済学ではイノベーションを扱えないが、行動経済学とゲーム理論などをツールとして援用し、成功と失敗のパターンを分析することで有益な知見を得られるのではないかというのが出発点である。
その結果としていわく、
1. イノベーションは技術革新ではない ⇔ ビジネスモデル革新である
2. イノベーションは顧客の声から生まれない ⇔ 新しい市場のフレーミングである
3. イノベーションは役員の合意から生まれない
4. イノベーションのプラットフォーム競争では安くてよいものが勝つとは限らない ⇔ 進化的な生存競争である
5. イノベーションは「ものづくり」から生まれない ⇔ ソフトウェアから生まれ、よりアートに近いものである
6. イノベーションは事業部制のような複合的組織からは生まれない ⇔ 決断ができるオーナー企業が有利である
7. イノベーションは知的財産権の保護から生まれない ⇔ かえって阻害される
8. イノベーションは銀行融資からは生まれない ⇔ リスクマネーが必要である
9. イノベーションは政府の政策からは生まれない ⇔ 無駄であり、かえって阻害する
10. イノベーションはコンセンサスから生まれない
日本がこれまで成長し得たのは、人口動態の必然の帰結で、そこには何も秘密のレシピはない。今はその成功体験と既得権益を持つ保守層が重しになっているのが問題だと指摘する。特に雇用慣行と行政機能を改善する必要があると主張している。一応最後はモバイルとSNSなどの新しいコミュニティと世代に期待をしているとしているが、そこはあまり説得力がない。
池田さんは、時々もうあきらめてこれまでに蓄えた財でもって新興国に支えてもらって余生を過ごす高齢者のような国になるしかないというようなことを半ば皮肉をこめて言うことがある。そちらの方が説得力を持ってしまっていることが問題だ。
何もギリシアのようになりたいわけではない。海外に行ってトヨタの車やSONYのウォークマンが使われているのを見て何となく誇りに思ったことは覚えている。今でもそうだ。それほどダメな国ではないはずだ。
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イノベーションとは何か
●凡庸な技術が優秀なビジネスモデルによって成功するケースはあるが、その逆はない
●ITやサービスで競争優位の源泉になるのは、プラットフォーム競争で顧客とフレームを共有する言語ゲームである
●イノベーションが失敗しない条件は、1.要素技術はありサービスもあるがうまく行っていない、2.オーナーの思い込みで開発する、3.すぐに実装できる、など
●既存のものを今までとは違う角度で考える水平思考(フレーム転換)が重要
●プラットフォームはなるべくオープンにする一方、一部をクローズドにして収益化の仕組みを作る必要がある
●IT分野では、コンセンサスで意志決定を行うガバナンスが没落し、創業者の独断で物事を進めるオーナー企業型の優位が顕著である
●在来メディアは、既にボトルネックではなくなったインフラの独占を守ろうとして自縄自縛に陥っている
●うまく行くと思って失敗する擬陽性の企業の影響は、元本保証しない株式を元手とすれば、経済的打撃は小さい
●重要なのは固定的な類型内における競争ではなく、新商品、新技術、新供給源泉、新組織形態から来る競争である
●本質的なイノベーションはプラットフォーム競争によって起こり、規制によってイノベーションを生み出すことはできない
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かつてinnovationという単語は日本で「技術革新」と訳されたため、多くの人が、革新的な変革は新しい技術の発生を伴うと誤解している。しかし、わかりやすい例として、iPodやiPhoneといった製品を見ればわかるように、その製品自体に新しい技術要素がなくても革新的な変革を起こすことができる。
停滞が目立ってきているとはいえ、変革が起こり続けている業界のひとつはIT業界である。ここ数年の日本のIT業界の停滞はひどいものであるが、それを尻目に海外からのinnovationが押し寄せている。クラウド、SaaSの法人企業への導入は確実に進んでいる。IT業界にとっての停滞の原因、これからのinnovationは何かということを考えながら読み進めた。
企業は今現在、得意分野であり、売り上げや利益に貢献する分野にこだわる。目の前にクラウド、SaaSというような、ほぼ100%世に進展するであろう流れが見えているとしても、今まで作り続けてきた製品に固執する。そのほうがわかりやすい結果を出せるからである。
innovationを起こしてきたのは最大規模の企業ではなく、中小企業だったり、新参のベンチャーに近いような企業だったりした。この本の考えによるとクラウド、SaaSを作り、実際に世に送り出すのは世に名の知られていない小さな企業であり、その品質はお世辞にもよいといえないもの、ということになる。この「品質がさほどよくないもの」というところが重要で、最大規模の企業は、(特に日本の場合)はそのようなものを顧客に提供できたものではない、と二の足を踏んでしまう。
このようなことがIT業界だけではなくいろいろなところで確実に展開している。今、提供しているサービスは確かに必要なものではあるけれども、何年後かにはinnovationと呼ばれる流れとともに現れる信じられないほどの低価格のサービスにとってかわられる。
このようなinnovationは不可避なものであるから、労働する側は常に自分が提供できるサービスを柔軟に変えられるようにするしかない。
日本の雇用制度はその点、柔軟性がない。最近はずいぶん怪しくなってきたとはいえ、以前多くの人が前提と考える終身雇用制度が強いからである。
自ら提供する旧来のサービスの必要性を測定し、その一方で新たに起こる流れを見て、提供するサービスを自ら変化させることができること、そういうことが必要なようである。ただその新たなサービスの提供には「必ずしも新技術が必要なわけではない」、そこが重要なようです。
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合理性の仮定を置かない行動経済学と進化ゲーム理論を駆使してイノベーションの必要条件を探るということらしい。もちろんノウハウ本ではないので、こうすればイノベーションができますという簡単な解説にはなっていない。新しい経済理論の参考書という感じ。スパスパと分析解析する多数の身近な実例がわかりやすい。