紙の本
江戸時代の多様な社会情勢が見えてくる
2009/05/31 21:20
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎の時代小説である。江戸時代の江戸での話である。長編であるが、それほどは長いというわけではない。一頃、テレビでもお上が裁いてくれない悪者どもを、始末してくれる仕事人の活躍を描くドラマが流行った。殺しの請負人である。
本書の主人公も、某藩の藩主筋の落胤であることが、冒頭で伏線として描かれている。伏線らしき描き方をしていても、いつまで待ってもそれが登場しない小説も見かけるのだが、今回は最後に明かしている。これがないと、読後、何となく気掛かりが晴れないのだが、今回は明快であった。
寺に預けられた子供が、そこから逃げ出して世間の冷たい風に触れるが、それにつぶされず、ついには殺しの請負人になるというのがおおまかな筋立てである。読者は子供の頃の生い立ちから描かれると、どうしても主人公の出世、大河ドラマを想像してしまう。しかし、小説が超長編ではないので、この辺りで留めなければならなかったのかも知れない。
池波は、殺しの請負人の日常生活や周囲の人々との関わりあいに重点を置いて描いている。池波の作品の中には盗賊や香具師の元締めなどを中心に描いたものが多いのだが、本編でも主人公と当時のその筋の接点や葛藤が面白く書かれている。
武士と町民との区別が曖昧になってくる平和な時代の話、つまり江戸の町民が力を貯え、武士の時代が終わろうとしている時代である。江戸時代も様々な様相があり、初期と中期以降ではかなり違うことは歴史の教科書でも学んだことだが、こうして小説として武士と町民が一体となった江戸の世界を読んでみると、そのイメージがよく理解できるのである。
最後の解説を読んでみると、池波の『闇の狩人』を読まないわけにはいかないだろうと書かれていた。こちらはさらに長編のようだが、是非読んでみたい。本書で脇を固めた登場人物が再登場しているようだ。
紙の本
終わり方は賛否両論か
2018/05/28 11:55
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投稿者:ガンダム - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波さんの本はよく読みますが、どれもなるほどと思わせるものが多いですが
これも楽しめます。ただ全体のストーリー展開の中からこの終わり方は、以外でもあり
もう少し、ひねりがあってもと思います。でもよかったです。
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女で生きる道を誤った僧が金で殺しを請け負う暗殺者になり、死ぬまでの物語。人生なんて、食って、寝て、女を抱くだけだ、なんていう考えを持っていて、冷徹なのかと思えば、寺から出奔した後、面倒を見てもらった師匠を実の父親のように慕っているところは、まだまだ人間らしいし、そのような人間の2面性を池波正太郎は上手く描いていると思う。しかし、青年僧の人生を誤らせた女性は全くそのことに気が付いていない、というのも凄い。【2006年10月5日読了】
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池正の仕掛人は定番。
冷たい闇の世界と、人情味がからんでいることも定番だが、つい引きつけられて読んでしまうのが池正です。
自分を育ててくれた老尚と父親的な仕掛人。彼らのお陰で、仕掛人でありながら人情を絡める人生を送る。
好きな場面は、老尚との再会場面です。
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17歳の僧が、女に裏切られ寺を出奔する。
その後、金で殺しを請け負う暗殺者となり、
江戸の世界を暗躍する。
ただあらすじのみ読むと、とんでもない小説に思えるが、
池波正太郎は、主人公の殺し屋山崎小五郎の複雑な人間性を
そこに描き込んだ。
平気で残酷な所業をしてのける一方、
自分を親身になって世話をしてくれた故郷の寺の和尚と、
刀の使い方を教えてくれた浪人に対しては、
実の父親に対するような思いを持っている。
一見冷酷な殺人マシンのような小五郎が、
偶然再会した和尚の前で任務を全うできず、
浪人との別れの場面では、仕事に行く父親を見送る
実の子供のような気持ちで浪人を見つめている。
人は誰しも弱さを持っている。
小五郎だけでなく、彼が道を踏み外すきっかけとなった
後家のお吉にも、彼を雇う立場である香具師達や
和尚とつながりのある大名家の人間達も。
皆、ちょっとした心の揺らぎで、
犯罪の世界へ堕ちたり、
自分の命を失うような大失敗をやらかす。
闇の世界に入るきっかけなど、そういつも
世間を騒がせるような大事件や悲劇ばかりではない、
取るに足りないこと、
それは心の「小さなもやもや」だったり、
他人から観たら「どうでもいいようなこと」であったりもする。
複雑な人間関係の中で育まれ、
短い生を駆け抜けた暗殺者の数奇な人生。
ラストも「こんなものだろうな。」と思いながらも
複雑な気持ちになる。
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ちょっとテレビをつけたら、時代劇やっていた、チャンネルかえるタイミングを失って最後まで見てしまった、そんな展開の早い作品。小さいながらも人生の縮図が見えて、とても読みやすかった。
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女は知らず知らずの内に純情な男を傷付けて悪の道に堕としているのか知れないし、反対に男は女を恨むことで生きていくのかも知れないという事が恐ろしい、身に迫る小説です。
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寺に 捨て子が。
小五郎 と言う名前があった。
和尚は 丁寧に育ててくれたが
小五郎は親の愛を知らない。
ある時 寺に来た女が 蛇に噛まれて
それを処理することで 深い付き合いに。
純真さと 女体を知らないことで、
溺れていく。結果として 寺を出奔。
放浪の中で 知り合った浪人は
裏の家業を持っていた。
池波正太郎の お得い芸で 山崎小五郎が
請負の仕事を し始めるのである。
浪人を 父親のように慕う。
そして 『うまくいかないときは にげろ』という
遺書のようなものが託されて。
山崎小五郎の 出生の秘密。
父親のように思う 和尚との出会いと
老剣士の仇を討とうと思うが。
裏家業の元締めと跡目相続。
ふーむ。
山崎小五郎 無念と思って死ぬのだろうか。
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殺し屋のお話。このような作品を経て梅安が誕生したのか。
もっと深い心理描写があるかと思っていたが、そこまでではなかった。池波先生も成長過程だったのかしら。
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面白かったー
一気に読み終わりました。
暗殺の世界に生きる緊迫した世界
でも一番ずぶとく恐ろしかったりするのは、普通の女性かも、、、
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あることがきっかけで僧が殺し屋になる。一瞬の感情が若者の人生を狂わせるのはいつの時代も同じ。殺し屋の末期はたいてい厳しい。闇の世界で長く生き延びる者は、生の執着が強く、それに伴い洞察力旺盛である。金と女に心をひかれなくなった殺し屋も最期は詰めが甘かった。2020.11.29
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<目次>
略
<内容>
剣客商売とかを読んでから、こちらを読むと、主人公を含めて、人の描き方が物足りなかった。
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日本海に面した筒井藩内にある真方寺の若き僧の隆心。隆心は自分を弄んだ後家のお吉を絞殺してしまい、殺し屋として諸国を放浪する。
ちょっとした気の緩みから、誰のうちにも潜む欲望が人生を変えてしまう。いつの世にもある闇の世界と人間の欲望を、軽妙なタッチで、池波ワールドへと誘い込んでしまう。素晴らしい。