アンドロイドは電気羊の夢を見るか? みんなのレビュー
- フィリップ・K・ディック (著), 浅倉久志 (訳)
- 税込価格:990円(9pt)
- 出版社:早川書房
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紙の本
アイデンティティがゆらぐことの「不気味な気持ちよさ」
2007/08/04 20:13
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
設定と物語の進む過程が面白い。舞台は地球。しかし、多くの人は他の惑星に移住し、残っているのは信念を持って移住を拒否する者か、移住に適さないと判定された者。そして地球には、人間そっくりのアンドロイドが生息し、人間のアイデンティティを守る(アンドロイドと人間を区別する)ためにアンドロイドを狩るバウンティ・ハンターが職業として存在する。
主人公はバウンティ・ハンターのリック・デッカード。彼がアンドロイド狩りをしていく様子を描いた場面は、ハードボイルドのような雰囲気を持っている。一方で、「共感ボックス」という装置を握ることで、同じ行為をしている人、そして教祖のウィルバー・マーサーとの一体感を感じるマーサー教や、マーサー教と対立するテレビ・ショウ、更にはホバー・カーやレーザー銃などの道具立てには、SFらしさを感じさせる。
しかしこの小説が一番面白かったのは、登場人物のアイデンティティがゆらぐ様子だった。デッカードは、アンドロイド狩りの中で、アンドロイドと人間との区別がつかなくなっていく。そのきっかけは、彼が狙ったアンドロイドが人間ではないかという疑いが生じる場面。そして、デッカードはアンドロイドに対しても人間と同じような感情を抱いてしまう。一方、そうした葛藤もなく、冷静にアンドロイドを破壊していくバウンティ・ハンター、フィル・レッシュも現われ、デッカードはますます混乱する。
このあたり、読んでいる方としても、誰が本当に人間で、本当にアンドロイドなのか、疑心暗鬼になってくる。レッシュはアンドロイドかもしれないし、アンドロイドに愛情を感じるデッカードこそアンドロイドかもしれない。また、彼らの狩ったアンドロイドは果たして本当にアンドロイドなのかも分からなくなってくる。この、登場人物のアイデンティティのゆらぎが、「不気味なのだが気持ちいい」という気持ちになる。くらくらするような気持ちよさというか。
紙の本
残虐なのは一体だれ?
2007/09/29 22:26
8人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スクラップレビュワー3216 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1968年ディックが描いた1992年では、ソ連は未だ崩壊していない様だ。夜空に星はなく、あるのは核の灰が漂うのみ。流れ星の代わりに、ホバーカーが飛んでいる。三次大戦を生き延びた人間たちの最大の贅沢とは?絶滅寸前のペットを飼う事だった。
ガキの頃のプラモデルを思い出した。苦い思い出た。頭の中に理想のイメージがあって、それに近づけようと組み立てていく。しかし、不器用でなかなか思い通りにいかない。最後には癇癪を起こしぶっ壊してゴミ箱に捨ててしまった。
作中アンドロイドが、蜘蛛の脚を残酷に切り裂くシーンがあった。
やはり僕のガキの頃、友人の間では爆竹の実験台にカエルを使うゲームがあった。僕も醜い毛虫がなんか許せなくて、火炙りにした事がある。幼かったな。近所のオッサンが叱ってくれた。ただ違いが良く分からなかった。家に帰ると母親はゴキブリを必死で叩きのめそうとしてた。
どうやら同情する価値のある生き物とそうでない物が、あるらしい。学校に行くと先生は、頭の良し悪しで決まるんだよ。ってコレもよく分からなかった。ある日、給食メニューからクジラがなくなった。…美醜?超音波?曖昧だな。
「切り裂きジャックや殺人者は、人間じゃない」という表現は
論理的ではない。正しくはこう
「彼ら殺人者は、人間で在って欲しく無い」という願望に過ぎない。
残虐・共感という価値観を作ったのは人間だ。そしてロボットを設計するのも、やはり人間。それらが噛み合わないからといって、削除しようとするのも人間か…。本当に残虐なのは一体だれなんだ?歴史をヒモとけば、残虐な人間の例なんて吐いて捨てる程いる。
いや違うな。「残虐」探しはどうでもいい。そんなのは何処にだって在る。昔から残虐も共感も人間の中に同居してる。問題はその矛盾をどう制御するかだ。昔コロッセオを楽しんだローマ市民も。いま日本で格闘技番組が視聴率を伸ばすのも。「動機は全てスポーツだ」なんて言い切るほど、僕はもうウブじゃない。
紙の本
三十年前の作品と考えればきわめて先駆的な存在だと思う。
2012/07/08 07:44
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画「ブレードランナー」の原作とのうたい文句がなければ手に取らなかったかもしれない。映画は見ていないが、評判ぐらいは知っている。
残念ながらタイトルが分かりにくい。直訳すぎる。この本の唯一の難点と思う。アンドロイドの夢の中に、電気羊がいっぴーき、にひーきとなんで飛んでいるのか意味が分からなかった。
原題は、Do Androids Dream of Electric Sheep? 読後の雰囲気では、素人意見だが「アンドロイドは電気羊を夢に思うか」の方がしっくりくる。
本文は極めて読みやすい。原文がシンプルなのかもしれない。外国小説特有の相手を変に持ち上げたりとか、うわべの友情もどきのしつこい会話とかが少なく、疲れなかった。
少し脱線する。文化的背景の違いから、どうしても翻訳小説の世界に入れずに残念な思いをしたことが多々あるため、私は翻訳後の表現に案外こだわってしまう。インターネットのみんなの相談室なんかで、そんな時は原文を読めばいいなんて回答を見たことがある。その意見には少々疑問がある。英語を読みたい人はそれでいいのかもしれないが、その国の居住経験が長い人は別として、小説として理解するためには英語をすらすら読めればよいのではなく、文化的な違いを踏まえつつ日本人の発想に根ざすような感覚で理解しなければならないと思うのだが。
だから翻訳家の人はすごいなあ、といつも思う。英字新聞で実例を見たことがあるのだが、なぜこの文章がこうなるの、とただの英語屋ではおよびもつかない作業にあふれている。そういった意味では、この本は当たりだ。
第三次世界大戦後、地球が放射能の灰に汚染される。可能な人は火星などに移住し、国連は促進させるためにアンドロイドを一体ずつ移民に無償貸与する。アンドロイドの中に逃亡を図るものがおり、それを逃亡先の地球で、警察の雇われ賞金稼ぎが探し出していく物語だ。アンドロイドとは人造人間のこと。この小説ではメーカーが限りなく人間に近づけた型式を製造したために、探索が困難な状態で賞金稼ぎが苦闘している。アンドロイドがあまりにも精巧すぎるがゆえに、果たして人間なのかアンドロイドなのか、混沌とした意識や感情に飲み込まれる展開をたどる。
テーマは、混沌の中から人間とは何かを浮かび上がらせることのように思う。深くて重い。宗教指導者や、放射線障害者も登場させ、いろんな角度から考えさせられる作品だ。
ラストは、日本人である私にはすぐには理解できなかった。解説の中に外国人の書評が引用されており、ハッピーエンドに泣くとあったが、これぞ文化の壁。何がハッピーなのか、もう一回読んだら分かるのかなあ、と不思議に思った。
紙の本
オリジナルの実力
2003/07/29 12:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すまいる - この投稿者のレビュー一覧を見る
有名SF映画『ブレードランナー』の原作小説。ご覧の通りの魅力的なタイトルの作品で、映画版でのタイトル変更は必要なかったのでは? とすら思えてきます。
放射能に蝕まれた第三次世界大戦後の地球では、生の生物(なまのいきもの)がとても貴重で、動物を飼ったりするのはステータスにすらなってます。たとえばアンドロイドハンターの主人公なども、本物の羊を飼うのを夢見つつ、電気じかけの羊で我慢してたりするわけです。まあ、そこいらじゅうアイボだらけの世の中って感じでしょうか(笑)。
主人公は脱走したアンドロイドを捕まえるというか、狩るのを生業にしているのですが、彼は、アンドロイドたち、そして、それをとりまく人間たちと関わっていく過程で苦悩します。例えば「もしかして、おれっちもアンドロイドなのかも?」なんて、思いはじめたりもするわけですね(笑)。
「アンドロイドである」とはどうゆうことなのか? 「人間である」とはどうゆうことなのか? 映画での疾走感とは一味違う、哲学的な思いにふけることが出来る一作です。映画版をすでに観ているかたでも、充分に楽しめる一冊です。
電子書籍
ブレードランナーの原作
2022/05/30 22:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:2‐3 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間に紛れたアンドロイドを始末するハンターだある主人公を通してディストピアと化した世界を覗いていく。
アンドロイドは共感する能力が無い事が強調されているが、同時にこのせかいの人間も機械を使って同じユメのようなものを体験することで共感を得ていることが示されている。
現代に置きなおすと同じドラマとか映画を見たという事で共感を感じるのを極端にした感じかもしれない。
現実の問題に当てはまる要素もちりばめられており、偶に思い出して読むと自分の受け取り方が変わり何度も楽しめる
紙の本
昔の今風SF
2020/12/07 21:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
精巧なアンドロイドと、それを作る人、それを管理する警察の心の葛藤が興味深い1冊。人を装うアンドロイドを見抜く検査方法などとても興味深かった。昔の作品と思うと尚凄みが増す
電子書籍
神なき世界の愛
2020/07/12 09:53
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
3度の世界大戦を経て、超高性能アンドロイドが誕生した近未来が舞台です。人間の存在意義が問われる中で、迷いながらもひとつの決断を下すデッカードに心を揺さぶられます。
紙の本
一度読むだけでは完全に理解はできないストーリー
2013/02/22 11:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:凡人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
某アニメにて登場人物が勧めていたので購入し読んでみた。
ところどころ注釈なしで訳の分からない単語が出てくる(墓穴世界など)ため、その度に手が止まることが多かったが、全体としておもしろい作品であった。
ヒトとアンドロイドの境界がぼやけていく主人公にはある種の共感も覚えた。
ストーリー自体をなぞっていくことはたやすいが、この本での著者の主張を完全に汲み取るためには、二度三度と読み返さなければならないと感じる。
兎にも角にも、一度手を取って読んでもらいたい作品である。