紙の本
百合の花が供えられたアメリカ彦蔵の墓。
2010/10/09 04:57
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京の青山霊園の一角には外人墓地がある。そこは日本に渡ってきた宣教師たちの墓で占められているが、数多の十字架や西洋風の墓石群の中で日本風の墓石が一つある。それが、本書の主人公である「アメリカ彦蔵」の墓だが、墓石にはクリスチャンネームを漢字に変えた「浄世夫彦之墓」と彫られている。国籍はアメリカでも心は日本人でありたいと主張しているかのようだが、その墓碑を見るたびに彼の数奇な運命が偲ばれる。
たまたま、乗り込んだ船が嵐に巻き込まれ、アメリカの船に救助され、そこから彦蔵のアメリカ体験が始まるが、この彦蔵の人生と日本の幕末、維新の時代が重なり、読み手を飽きさせない。岸田吟行と始めた「新聞」発行が日本人の間では重宝されるものの、情報にカネを払うという習慣がない日本での彦蔵のとまどいには同情する。
漂流者としてはジョン・万次郎が有名だが、このジョン・万次郎と異なるのは彦蔵が三人のアメリカ大統領と会見していることだろうか。あのリンカーン大統領とも面会していたことに驚く。
さらには、アメリカ人の親切だが、縁もゆかりもない日本人漂流者に学資援助をしたりすることに「アメリカの善意」を感じるが、反面、南北戦争によってアメリカ国民の意識が荒れてしまったことに悲嘆する。大国アメリカは善意の国であったのが、いつから、なぜ、あれほどに荒れたのか、その分岐点が南北戦争であることに争いが人心を狂わせたことに嘆息だった。
初めてこの小説を読んだときと、横文字の墓石群の中の漢字の墓石を見た後では、ストーリーへの没入の度合いは異なる。訪れた時、供えられていた白い百合の花が印象的だった。
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彦蔵になれる1冊
2016/11/17 08:33
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
彦蔵の体験が手に取るように分かる!真に臨場感のある物語。彦蔵だけ追っかけるのも難儀なことだろうに、彦蔵がアメリカ船に救出され、日本へ帰る手だてを求め清国へ行ったりする激動の時期、漂流者がわんさか。彦蔵と関わりのあった漂流者、一人一人をないがしろにせず調べ登場させているのには誠に感服する。幕末になると外海を外国船がうろうろしているので助かる漂流者も多く、日本の地を再び踏める者も多くなる。彦蔵にどっぷり嵌ると攘夷派が悪魔のように思えてしまう。なんて視野のせまい人たち!と。歴史はイキモノ。見方によって変化する。
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アメリカー日本で活躍した隠れた人物
2016/10/08 17:49
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴女で有名な女優杏さんのラジオ番組で紹介されたと知り読んでみた。これまでJoseph Heco アメリカ彦蔵という人物は知らなかったが、著者が丁寧な筆致で彦蔵の人生をえがいてくれた。炊からアメリカに渡り、3人の大統領と面会したというのはすごいと思う。どの時代でも先駆者と呼ばれる人の業績は素晴らしい。どのくらい英語がうまかったのかと感じた。一方で故郷を思いながらついに訪問がかなったとき受け入れられなかった場面は悲しく感じた。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末物でもあまり取り上げられることのない人物。著者独特の分析が光る。有名な人物よりもむしろ草の根的な人に愛情が注がれるのは好ましい。
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ジョン万次郎だけではなかった。幕末、開国日本とアメリカの架け橋となった人物。
波乱の時代に、自分の意思でなくアメリカ人となるということは、こういうことなのか・・・。機会があれば墓参りをしたい。
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「仮釈放」以来吉村昭が好きになりました。
この時代を力強く生きていた人々がいきいきと描かれています。実話。
文明の発達で人は感動のない生ぬるい人生を送るようになったのではないかと気付きました。
主人公はどんな環境におかれても、
苦悩しながらそれを受け入れて世界を広げていった。
歴史の表人物ではないけど、
歴史上の有名人物とも多数接触していて
近代日本を作る重要な鍵を握っていた人。
当時の日本やアメリカ、その他の国の事情もわかり、とにかくお勧めの一冊!
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この時代にアメリカ人になる人生を選んだ彦蔵の心境をいつまでも考えてしまう。
若かったから?
日本でのしがらみが少なかったから?
親切なアメリカ人が多かったから?
…でもそれだけじゃ、選べないんだろうな。
そうしなかった人と彦蔵の一番の違いは何だろう。
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よくこういう人物を見つけ出したものだ。主人公周辺の膨大な漂流民のサイドストーリーがすごい。よく調べたものだな。
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13歳の時に乗っていた船が嵐のため漂流し、アメリカ人に助けられ、その後アメリカ人となって帰国を果たし、日本とアメリカの掛け橋となった彦太郎の一生。
ジョン万次郎よりも若くて、多数のアメリカ高官に会っていた人が居たとは驚きました。帰国を果たした後にも、帰るところがないという寂しい感情が印象に残りました。
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実在の人物に取材した物語であり、幕末の尊王攘夷から明治維新に至る日本とアメリカの状況が克明に描かれており、当時の日本人やアメリカの価値観の違いのようなものが興味深く感じられた。ただ、時代の流れを詳細に描く余り、登場人物の心理描写が少なく、小説としても面白みにはやや欠けると感じた。
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江戸時代、鎖国政策により外洋航海用の船作りを禁止させた日本の商船は、台風等により膨大な漂流民を生み出した。それまでは餓死していた漂流民も幕末頃になると鯨の油を求めて日本近海に来るようになっていた米国捕鯨船に助けられることが増え、そこから日本漂流民と米国人との様々なドラマが生まれたわけだが、このアメリカ彦蔵がそのドラマの最大のもののような気がする。
10代で漂流民として米国に行き、クリスチャンとなり、米国に帰化し、清国に渡り、ついに日本に帰り、日本で初の新聞を創刊しつつも、幕末の動乱の中で長州への砲撃をアメリカ船から見つけ、尊皇攘夷の志士達に命をつけねらわれる日々。。とにかく数奇すぎて、こんな日本人がいたのかーとビックリする。そもそも歴代の大統領と三代にわたりホワイトハウスで会見をしたという日本人は、現代においてもなお彦蔵以外でいるんだろうか?しかもそのうちの一人はリンカーンだし。。
いやあ、たまたま漂流でここまで人生が変ってしまうんだから、本当にすごい。
この作品には彦蔵以外にも多数の日本人漂流民が登場し、あるものは帰国でき、あるものは鎖国政策によって清や米国に永住せざるを得なかった。いずれも故郷忘れがたく望郷の念を抱えたまま人生を過ごしていく切なさを感じる。いまは、24時間あればどこにでもいけてしまう時代だが、気持ちはよくわかり感じ入ってしまう作品でした。
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歴史を裏・表・横から見たのではなく、歴史の証人であり、ガラスの向こう側に映る自画像とともにあった彦蔵。その視線は天賦の知性だったのではないだろうか。こういう切り口の吉村昭に脱帽するとともに歴史を照射する視点が討幕、佐幕、列強ではない漂流民という名の日本人がいたことを知った。世の中は今もまだまだ知らないことだらけ。
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吉村明に「漂流」という作品があるけど、
こちらも漂流もの。
江戸時代末期、廻船が難破し、流され、アメリカの船に救助され、アメリカに上陸し・・・、乗組員の彦蔵が数奇な運面をたどる、という内容。
当時の日本の船は、嵐に弱く、多くの船が遭難したようだ。
遭難して生き残った人々の記録が多くあるということは、助からなかった人々はそれに数倍したんだろうな。
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漂流し、アメリカ船に助けられ、温かさに触れる。日本との交渉に使うというのもあるが、下僕として遇するという選択肢もあった。キリスト教を信心するところから出る行動なのか。彦蔵が年少で可愛かったからか。彦蔵が故郷に戻った際に予想外に貧困で惨めな村の様子を見た時、「村人の存在がわずらわしく、怒声を浴びせて追い払いたかった。」とある。漂流に遭わなければ、彼らの中に交じっているはずなのによくそんな気持ちになれたもんだ。村に寄付ぐらいすれば良かったのに。自分は、多くの人に助けてもらってるのに他人には思いやりに欠ける。2016.7.24
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江戸時代末期の実話を基にした小説。
漂流物けっこう好きかも。漂民宇三郎、おろしや国酔夢譚、ジョン万次郎漂流記などなど。