投稿元:
レビューを見る
「上等だ。梁山泊軍は、伊達じゃねえんだ。どこの軍とやり合ったって、勝てる。そして天下を取れる」
「意味があるのかなあ、それが」
「なんだと?」
「いや、私の任務は、病人を診たり、怪我を治したりすることですから。いつも、相手はひとりだけです。天下を見渡している余裕など、ありませんよ」
「志が、あるだろう」
「自分の場所で、懸命に闘う。志を考えれば、私がやるべきことは、それです」
「安道全や薛永はな、最後まで梁山湖の湖寨に留まった。命を懸けて、志を貫いたのよ」
「医師や薬師の場合、生き延びた方が、その後の役に立つ、と思います」
「おまえ」
「無論、安道全殿も薛永殿も、立派に志を貫かれたと思いますが」
「ぶちのめしてやろうか、小僧」
二十歩の距離で、急所に当てれば、確実に相手を殺すことができる。
修練は、積んできた。こういう飛刀を李英が遣うことを、誰も知らない。
李英は、板から小刀を抜いた。板はもう、穴だらけである。時には、突き通ってしまうこともあるのだ。三日で、一枚は使う。使いものにならなくなったら、焚火に放りこめばいい。
頭を下げた。上げながら、三本打った。狙った通りのところだ。また抜き、距離を取り、頭を下げた。
人が、故郷を思ったり、血を意識したりする年齢が、あるのだろうか、と楊令は思った。自分の故郷をどこと言えばいいのか、楊令にはよくわからない。
「難しいことを吐いて、なんになる。冗談は冗談でいいじゃねえか、冗談に踊らされているのも、また人間さ」
「なんのための、狼藉か訊こう」
「誇りのため。『替天行道』の誇りのため。俺は、誇りを傷つけられた。それは、雪がねばならん。身をもって雪ぐのが、男というものだ」
「笑止な。おまえは、串刺しになって死ぬのだぞ」
「もとより、生きようとは思っておらん。ただ、おまえに合う機会を、待っていただけだ」
「無駄であったな」
「身は、鉄の板で守れよう。鉄の板では守れぬものを、おまえはなにも持っていない」
「串刺しで、すぐ死なせるのは惜しい。命乞いをするほど、苦しみと恥辱を与えてやろうか」
「おまえのような男に、俺の志が穢せると思うのか」
そうだ、志に生きたのだ。不器用で、失敗ばかりした。小心で、周囲の目をいつも気にしていた。それでも、志に生きたのだ。それを見失ったことは、一度もない。
短かった。もっと闘いたい、という思いはある。しかし死は、古い友が訪ねてでも来るように、ある日そばに立っているのだ。
「見ておけ。これが、梁山泊の漢の、死にざまだ」
「俺は、雷光のようだ、としばしば思うことがある」
「へえ。俺は、自分が千里風だとは、まるで思いませんが」
「同志みんなと駆けているはずが、なぜか遥か先行し、一騎だけで駆けている」
四刻の疾駆のあと、のんびり歩くのが、雷光は気持よさそうだった。馬首を並べた秦容が、楊令の顔を見ている。
「たまには、並んで駆けてくれる者がいる。それが、今日わかった」
「はあ」
それが、見定められたわけで��なかった。ただ、感じた。感じることが、戦場では武器になる。鈍れば、斬れなくなった剣を振るっているようなものだ。
「よく、頭領がつとまったもんだな、楊令殿。あの若さで担ぎあげられて」
「ひとりきりだった。いまふり返ると、そう思う。同志がともにいる。いつもそう思おうとしてきたが」
「同志はいたさ。死んでいった、梁山泊の同志がな」
「そうだな」
投稿元:
レビューを見る
金国の先代王の勅命にグッとくるものがあった。兄はいつも国のことを思い、幻王と同盟関係にあったことを語った上での、幻王を討て。王でありながら国のためにできることの少なさが悲しい。岳飛が盡忠報国と替天行道は重なる部分が多いといいながらも、楊令と岳飛は戦う運命にあるというのももどかしい。これが水滸伝なら魯達が岳飛に働きかけ引き込んじゃっていただろうと思うのになあ。なにせ、あと1冊。あとがきの“俺に国を作らせろ”はしびれた。
投稿元:
レビューを見る
梁山泊vs南宋
敵対する頭領が道で出会っても、認めている部分があるので、一緒に飯を食って別れる。良い関係だし、人間の大きさが分かる。
投稿元:
レビューを見る
梁山泊の目指す民(商人)を母体とした国作りと、南宋の旧来の帝を中心とした民政による対立という新たな図式で、梁山泊軍と南宋軍が全面対決に入りました。そこにウジュの金軍がどう絡んでいくのか?ということになるかと思われますが、次はいよいよ楊令伝の最終巻であり、その後は岳飛伝ともなると、梁山泊軍が崩壊するような終わり方になってしまうのでしょうかね?
でも、民が暮らしやすい(潤う)国とはどういうものなのか?ということが今後の重要なテーマのような気がします。
投稿元:
レビューを見る
前巻のレビューで形を変えていろんな戦が始まっているという意味のことを書いたが、本巻では大規模な軍の衝突という本来の意味での戦が起きる。
「替天行道」の志から考えた新たなものを生み出そうとする楊令の思いが、このまま叶ってほしいと強く思う。
投稿元:
レビューを見る
あちこちで激戦が始まり李援・李英の姉弟も・・・。
総力戦になりつつも童貫戦のように「負ける~~」という緊迫感はないような気も。
いよいよ次で最終巻。
果たしてどうなる??
投稿元:
レビューを見る
郝嬌の涙。王清の涙。涙が出ない哀しさしかしか、公孫勝にはなかった。泣いたのは、林冲が死んだ夜だけだ。
それが、史進だからな。宣賛を眼の敵にする。宣賛はそれを、鼻先で嗤う。それも、二人でやっている、芝居みたいなものだ。以前、林冲殿と公孫勝がそうだった。
投稿元:
レビューを見る
漢たちが命を散らしていく。
出奔した李英が見せた意地にも近い漢らしい死に様。
そして呑んだくれで憎まれ役・戴宗の渋く散っていく。
戦場のど真ん中から決して動かず雄々しく果てた郭盛。
さらに張横、童猛、阮小二と梁山泊を陰から支えてきた者たちも。前作からの古参たちがそれぞれの誇りと不器用な生き様を刻み付けるよう死んでいく。
そして史進の愛馬・乱雲も主人を庇い倒れる。死にきれなかった史進、主人の苦しみを理解しながらも身を呈して守った乱雲。この愛馬との絆も「水滸伝」の魅力。胸を締め付けられる。
いよいよ次は最終巻。梁山泊、南宋、そして金。この戦いにどんな終局が待っているか。そして楊令と岳飛の決着は?
投稿元:
レビューを見る
戴宗の最後の活躍。
李英の悲劇。
その部分は印象的で良かったのだが、話が広がりすぎ、登場人物も多くなりすぎて、それぞれの造詣が薄くなってしまった。李英の姉の李媛の扱いがその典型だろう。
投稿元:
レビューを見る
李媛と李英の姉弟は報われないなあ。
彼らに対する聚義庁(しゅうぎちょう・梁山泊の中枢)の態度は、絶対に間違いだと思う。
厳しくするべきところを厳しくしないで、正論を黙らせた。
彼らの父、李応を好きだったんだよね。私。
いいところのお坊ちゃんだったけど、そんなことを鼻にかけずに、地味で目立たない重装備部隊の仕事をやっていたところが。
実直で。
だからそんな李応の子どもたちが、努力を認められることこともなく終わってしまったことが非常に無念だ。
李英は、登場当時は本当に優しい青年だったんだよ。
それが、同輩たちにどんどん先を越され、ついには部下にまで追い越され、焦ったあまりにやるべきことを間違えてしまった。
間違えたことは厳しく断罪し、罰を与えてから元の場所に受け入れればよかったのに、なかったことにしてしまったことから歯車がくるってしまった。
だけど李英は父ちゃんの名に恥じない生き方を貫いたよ。
嬉しくて悔しくて悲しくて、涙が出た。
いよいよ南宋と梁山泊の直接対決。
ともに頭領の首を狙いに行くが、決め手に欠ける。
次が最終巻。
どんな結末が待っているのだろう。
投稿元:
レビューを見る
水滸伝に引き続き、一気読み。
単なる国をかけた闘争を描くだけでなく、『志』という不確かなものに戸惑いつつも、前進する男たちの生きざまが面白い。壮大なストーリー展開の中で、たくさんの登場人物が出てくるが、それぞれが個性的で魅力的。よくもまー、これだけの人間それぞれにキャラを立たせられな。そして、そんな魅力的で思い入れもあるキャラが、次から次へと惜しげもなく死んでいくのが、なんとも切ない。最後の幕切れは、ウワーーっとなったし、物流による国の支配がどうなるのか気になってしょうがない。次の岳飛伝も読まないことには気が済まない。まんまと北方ワールドにどっぷりはまっちまいました。
投稿元:
レビューを見る
本作品で戴宗という登場人物が嫌いでした。
一般的な水滸伝としては神行太保と呼ばれ足の速さを活かして活躍する好漢の一人です。黒旋風の李逵と組で活動していたような気がします。
本作、特に楊令伝になってからは候真に嫌な絡み方をしたり、酒に飲んだくれたりと嫌な先輩No. 1の代表格でした。
しかし、本巻で彼は死んでしまいます。今まで抱いていた嫌悪感は勝手なイメージに過ぎずキッチリ仕事をして若者を育てる昭和の時代の職人のような死様でした。
思わず涙が出てしまいました。
楊令軍には色々な指揮官がいます。
それこそ昔ながらのやり方に拘る頑固親父、新進気鋭の若手営業マン、2代目だけど親を超える才覚を見せるJr.、現場から嫌われる役員、面倒見の良いパワハラ上司、何を考えているか解りませんが何をやっても上手くいくひとなど、登場人物達にはサラリーマンとして見習うべき魅力があると私は思います。
次巻が最終巻!楽しみです!
投稿元:
レビューを見る
4.0
水滸シリーズ史上最大の戦。5人の将軍と遊撃隊史進、そして楊令。短かったけど梁山泊軍の凄まじさを見せつけられて満足感ある。
岳雲の「なんなのですか、やつらは」という台詞を見て、敵として立ち合う怖さを知った。それぞれの軍がカッコ良すぎる。
投稿元:
レビューを見る
「自由市場は国の否定である。あれを許せば、統治というものの意味がなくなる」【呉乞買】
梁山泊は物流(自由市場)で中華を制そうという動きをとる。
金と南宋は自由市場を敵視し、ここに梁山泊に対する二国の利害が一致した。
投稿元:
レビューを見る
まさか李英が、、、最期まで梁山泊の志を持ち続け、自身の命をそう使うのか。
今まで全く好きじゃなかったが、印象的だった。