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紙の本
人は実際に体験しないと知り得ないことが多いかもしれない。自分の身に火の粉が降りかかってから気づくことも多いのだ。
2010/07/31 17:25
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みす・れもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
原沙知絵さんが出演されていた2時間サスペンスドラマ「火の粉」を、再放送も含め数回観ていた。そこで、原作が気になり、本書を手にするに至ったわけだ。
というわけで、既にあらすじは知っている。結末も知っているはずだった。
しかし・・・。
やはり2時間ではおさまりきれないほどの内容の濃さに、ドラマとは違った印象を受ける。
特に義母の介護を続ける尋恵の気持ちは、身に迫るほどのリアリティがあった。
その義母を突然失った尋恵の喪失感も・・・。
裁判官であった梶間勲。法廷では第三者として、事件を客観的に眺め、情に流されることなく粛々と判決を下してきた。武内の事件もそうだ。子供を含め3人を殺害したとして被告席に座らされている武内を死刑にするのか否か。被害者の遺族が何と言おうと、検察がどんな証拠を出してこようと、そこにわずかでも矛盾点がある限り、無罪と断じた。
死刑宣告への恐れも確かにあったのだろう。というより、その気持ちの方が強かったのだろうと思う。
ただ、裁判官としては幾つも扱ってきた中の1つの事件に過ぎないのである。
そのはずだったのに、その被告人だった武内が隣家へ引っ越してくる。
そう。火の粉が自分にも降りかかってきたのだ。もう第三者ではない。当事者だ。
人は実際に経験してみないと知り得ないことが多くあるのだろう。火の粉が降りかかってから、気づくことがあるのだ。
隣は何をする人ぞ・・・。
一人の人間を信用するためには、何が必要なのだろうか。
本人の言葉? 態度?
それだけでいいのだろうか・・・。
ドラマにはなかった最後の展開には驚かされた。
やはり、ミステリは原作を読むに限る。
紙の本
じわりと滲むような恐怖が真に迫る
2011/09/17 20:43
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koo± - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日読んだ「クローズド・ノート」が好印象だったので購読。
怪しげな隣人サスペンス。元裁判官の梶間家の隣に、かつて無罪判決を下した男・武内が引っ越してきた。偶然か、それとも・・・。ミステリアスな設定が興味心をそそる。どこぞの海外サスペンス映画で見たような気もするけど。
じわりと滲むような恐怖が真に迫る。結構なページ数だったが、先が気になってしょうがなく一日でイッキ読みしてしまった。最近、口当たりのよい秀作が続いたので、この毒っぽさは良い転換になった。
女性の人物描写が巧み。女流作家と見紛うぐらい。「クローズド・ノート」は若い女子一人称で少々面食らったが、今回はとてもナチュラルで感嘆。嫁姑問題に揺れる女性たちのやり場のない閉塞感や微妙な立ち位置。それが隣人武内の出現によって堰を切ったように憤怒する様がとてもリアルに描かれている。おまけに梶間家の男たちの情けないことといったら。俊郎の間抜けっぷりが特にツボ。その辺もまたリアル。
クライマックスから結末に掛けてがこじんまりとしてしまったのが惜しまれる。如何にもな2時間サスペンス調。これはこれでベタに分かりやすくていいんだけど、私的にはもう一捻りほしかったな。真犯人は武内か? それとも被害者遺族の池本夫妻か? あるいはグルか? 真相解明はもっとギリギリまで引っ張ったほうがよかったかも。金属バットのトリックも切れ味悪かったし。まあ本格ミステリじゃないからいいんだけど。しかし武内を冤罪被害に悩む善人として描写しながら、巧みに布石を落として行く前半のスピード感と絶妙なバランス感覚は実に見事な出来栄えだった。「黒い家」や「ミザリー」などが好きな人ならきっとハマる筈。
冤罪も怖いが誤審無罪も怖い。ともあれ、すっかり気に入ってしまった雫井さん。次はやっぱり「犯人に告ぐ」かな?
紙の本
隣人のその笑顔は信用できるのだろうか?ふと気付くと家の中に入り込んでいる他人はいませんか?そしてその人の見せてない顔はもしかすると…。
2004/11/27 13:15
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エルフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
無罪判決をした男が今度は「隣人」として再び目の前に現れる。
自分にとって犯罪者との関わりなど対岸の火事だと思っていた梶間にとって突如目の前に現れた笑顔の隣人・武内は「火の粉」なのだろうか。
偶然? それとも我が家を狙ってきたのか? 戸惑う梶間だが自分が無罪と判決した人物を怪しむわけにもいかず、また隣人となった武内は梶間の家族にいつの間にか入り込んでいく。
祖母の介護に疲れ果てていた妻の心の隙間に入り込み、息子とも友達のようになっていく。
だが彼の出現により梶間家では続けて事件が起きる、そして唯一彼を疎んでいた嫁の雪見は迫害されるかのように家を出されていくのだが、この流れが実に巧みなのだ。
明かに「黒」に近い武内なのだが、彼を犯人だと信じて雪見に近づく被害者の親族と対決する場面などは思わず自分の方が色目で武内を見てしまっていたかのように反省させられてしまう。
彼は本当は殺人者なのか? それとも本当にただの親切な隣人なのか? この判断がなかなかつかずに読む手が止まらないのだ。
この物語の殆どが主人公の梶間勲の視点からではなく嫁の「雪見」の視点で語られるため彼女が感じる怖さ、心の動きが読む側と共鳴してしまうのだ。
その雪見の焦りや苛立ちが事件の真相や全体像が見えてくるにつれ、ページを捲るのがもどかしくなってしまう、そしてある人物に対して「何でわからないのだ?」と思わず声に出してしまうのである。
「冤罪」は恐ろしい、これだけはしてはいけないことなのだがまたその逆もありうる。
人が人を裁くことへの限界を感じ、そしてもし「隣人」が「火の粉」となり知らず知らずに我が家の中へとけ込んでいっていたとしたら? その恐怖を感じる1冊。
紙の本
最後まで、一気に読んでしまう
2014/01/31 12:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:飛騨牛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずっと不気味な、不穏な空気が漂っていて、それが気になって落ち着かないので読んでしまう…。読後は、安堵というよりも緊張から解放された疲労感が強かったです。火の粉というタイトルにも、うぅーんと唸ってしまうかもです。これを、自分にとってあり得ない話と思うか、あり得ると思うかは、また意見の別れ
ところでもあり、考えずにはいられないと思いました。
紙の本
怖いが読んでしまう
2022/07/09 18:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
サスペンス小説の中でも、人格破綻した人が登場するものは苦手だ。単純に恐ろしいからだ。でも本書が示すとおり、その本当の恐ろしさは、自分に火の粉が降りかかってみないと分からないかもしれない。嫌な気持ちになりながら、でも読み進んでしまう。何度もテレビドラマ化されたのも納得のストーリー。
電子書籍
梶間家、頑張れ
2017/11/04 15:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ケイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公である梶間勲は元裁判官。裁判官としてどうあるべきかを学生に教授しているようだが、社会人として家庭人して夫としてどうあるべきかには関心がない。
主人公の妻は姑や小姑に苦労して神経をすり減らしているものの、社交的で家庭内をうまく切り盛りしている良妻賢母。特に息子の嫁に対しては理想的な義母てある。しかしその社交性がアダとなった。
主人公の息子の妻である雪見は逞しい。家族を守るため戦う。
それに比べて主人公の息子は幼い印象。いい年をして社会的な責任を果たしていないと頭でっかちのお子様になるのかもしれない。
裁判官も人間であるから真実が見えるわけじゃない。出された証拠から導き出される結論がどうであるか、それによってどう認定するかであって、間違えることもあれば、疑念が残るため推定無罪とせざるを得ないこともあるだろう。
自らが下した全ての判決に自信を持てる裁判官がどれほどいるのか。悔いたり恥じたりすることもあろう。
勲の動きは確かに遅かった。でも最後の最後に踏ん張ったと思う。元裁判官としては批判もあるかもしれないが、それこそ人間としてなすべきことをしようとした。結果として行き過ぎだったにしろ。
紙の本
ファンになったきっかけでした。
2017/02/17 18:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:rena - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品を読んで、
雫井脩介さんの他の作品も読んでみたい
と強く思いました。
残忍さもありますが
最後まで読み切ってしまう
引き込まれる内容でした。
電子書籍
それなりに読んでいて緊張してくる
2016/09/09 06:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:プロビデンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
あまり凝ったミステリーではないけども、コワイ人が生活に侵入してくる様に緊張してしまう。それで途中でやめられなくなる。
電子書籍
歪んだものに振り回される恐怖を味わいました
2016/07/06 17:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:類似 - この投稿者のレビュー一覧を見る
話の流れは至ってシンプルですが、故に邪念を抱かず素直に世界観に入り込めます。
犯人の過去に至っては、警察がなぜそれを裁判で提出出来なかったか、何故過去が明かされなかったか、そこまで行き着くだろうという突っ込みをせざるを得ない部分もありましたが、実際の捜査可能範囲もこんなものかもしれないと納得できるレベルで、特別、読み進めるに足枷になることもありませんでした。
何事もないゆったりとした日常に、徐々に蔭が落ちはじめ、最後、疑いが確信に至ってからの描写は大変スピーディーで、飲み込まれるように、畳み込まれるように読み進めました。
ラストも清々しいもので、心地好い後味を持って、読み終えました。