紙の本
リアル『仁』の世界
2011/01/17 22:16
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちょうど1年前、ドラマ『仁』にはまった。昨年末にも再放送があり、また、はまった。西暦2000年に生きる脳外科医・南方仁が、幕末にタイムスリップしてしまう話である。幕末という限られた条件下で、現代の医学知識でもって医療に挑む。こう書いてしまうと、未来の医者が全能の神のように活躍するのかとも感じられ、物語としては「反則」という気がしなくもない。しかしドラマ版では、原作漫画以上に、そこに主人公の迷いや陰を持ち込んで、より陰影を深めていたようだ。
そんな「未来から来た医者」を、当時の人々はどう見たか。たいていの人にとっては、「神」のように見えたかもしれない。しかし、ドラマとしての面白さのひとつに、彼の実力をそれぞれに認めた同時代の医師たちの存在がある。神がかって、自分たちよりはるかに進んでいるものの、同じ医者として見ている。そのうえでそれぞれが「どうふるまうか」がドラマになっていくわけでもある。
東西の異文化接触であった幕末〜明治の日本では、大なり小なりそんな出来事が実際に繰り広げられていたのではないだろうか。本書「白い航跡」もそんなエピソードからはじまる。薩摩藩軍団付きの医師・高木兼寛は、戊辰戦争の折、転戦してついてに奥州会津まで従軍する。戦闘の激しさは、負傷者も増やす。武器の変化は傷も変える訳で、今までの技術が陳腐化するきっかけともなったという。救えるはずの人命を救えない、そんな自らの医師としての無力さを感じる。そんな時に、外国人医師から直接学んだ医師の活躍を耳にしたり、さらに公使館付きの医師ながら、この時期の戦場で医療にあたったイギリス人医師ウィリスに出会うことになる。そこに彼は自らの進むべき道を見出していくのである。
この高木兼寛とは、その後、海軍軍医となり、脚気予防に大いに功績があった。また、慈恵会医科大学を創設するなど、日本の医学会の黎明を支えた大人物である。同時代の陸軍軍医には、文豪・森鴎外がいる。両者は「脚気論争」におけるライバルである。森は終世自説を曲げなかったとはいえ、高木こそが実質的な勝利者であり、世界的にも高く評価された。
本書はそんな彼の個人史を淡々と追っていく。その輝かしいまでの経歴に比し、次々と子どもを亡くすなど、医師として皮肉な人生をおくらざるを得なかったことが痛ましい。神は乗り越えられる試練しか与えない、とはドラマ『仁』での決まり台詞だが、厳しすぎる試練もまた、たまらない。
紙の本
読みどころが張り巡らされた歴史伝記小説
2019/10/26 22:45
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投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末から明治への激動の時代に西洋医学の習得を志す高木兼寛を描いた歴史伝記小説。周囲を取り巻く登場人物たちとの奇縁に富んだ関係や、歴史の節目節目との関わり合いなど、読みどころが張り巡らされいる。英国留学を果たし校内でも首席の成績を収めるところまでで下巻につづく。
電子書籍
俊秀な人
2016/12/28 08:06
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
高木兼寛について書きながら戊辰戦争、西南戦争も書いている。当時海外留学するとはエリート中のエリートだったのだろう。いっぽうで親しい人を亡くしていく哀しみも味わうことになる。
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中学の先生に勧められた一冊、私が歴史小説を好きのなったきっかけの本(あと司馬遼太郎『竜馬がゆく』)。医者の覚悟というものを時代は違いながらも感じ取ることができた。
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陸海軍を震撼させる脚気の予防法を確立せよ戊辰戦争で見聞した西洋医学に驚いた薩摩藩軍医の高木兼寛は、やがて海軍に入りイギリスに留学、近代医学を学ぶ。東京慈恵会医科大学を創立した男の生涯を描く。
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明治維新の時期の面白さの1つは、身分や家柄とは関係なく、能力や資質のある人間が世に出る機会を得て活躍するケースが多かったことだと思う。本書の高木兼寛しかり、同じ著者の「ポーツマスの旗」の小村寿太郎しかり。九州の豊かとも言えない村の大工で終わる可能性もあった兼寛の活躍の舞台が、本人の才能、実直さに加えて周囲の人間のサポートもあり鹿児島、横浜、そしてイギリスへと広がっていく様はすがすがしい。努力すること、いつ来るかわからない人生の分かれ道の前に準備をしておくことの大切さを教えられる。
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複数巻の長編を平行に読破しよう月間再開。
慈恵医大を作った高木兼寛の生涯のドキュメンタリー。倒幕から明治維新の動乱期に、戦火をくぐり抜けながら、西洋医学の重要性に目覚め、留学するまでの波乱万丈を描いた上巻。
吉村昭らしいパワフルな文体で、グイグイと押し進めるストーリーは、日本の混乱期、特に薩摩藩の動きと相まって、否応なく引き込まれる。
そこに、兼寛の生活や医学授業の詳細は、マクロとミクロの文章のメリハリにつながっている。
歴史小説やドキュメンタリーを読んでいて辛いと思うのが、登場人物がたくさん出てきて、それらがきっと伏線やストーリーの展開に絡むと思い込んでいると、単に歴史の一事件の関係者で、以後出てこないというものがある。この作品もそうであって、最初なかなか読み進められなくて困った。そういう部分は読み流せばよいのだ。
この手の歴史やドキュメンタリー小説で往々にて読み手が困るのは、昔っぽい表現に固執することと、現地の方言などに固執することだ。吉村昭の作においては、ほとんどそれがなく、違和感も少ないのが、やはり魅力なのであろう。
ただ、英語でしゃべっている部分を、カタカナ日本語で書くのはどうかなと思うけど。
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薩摩藩の軍医として戊辰戦役に従軍した高木兼寛の物語。
上司に「この小説は医療を知る上でも勉強になるので」とお昼の時に紹介され、翌日には机の上に置かれていたので読まざるを得ない状況に…笑 借りた本は早めに返すために一気に読みました。イギリス留学あたりまでの話が書かれてます。面白かったので一気に読了。
そして感想込みで上司に返却すると、翌日には下巻が机の上に…
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2019年7月3日読了。
薩摩藩郷士、高木兼寛の話。
郷士でありながら、医師として戊辰戦争に従軍しそこで西洋医学の現場を見て、自分が学んできた漢方医学の限界を知り西洋医学を志しイギリスに留学、帰国するまでが上巻。
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請求記号:913.6-YOS
[上下巻]
https://opac.iuhw.ac.jp/Akasaka/opac/Holding_list?rgtn=2M018733
<飯室聡先生コメント>
「医学の歴史の勉強をしよう!シリーズ1」江戸末期から明治期にかけて、脚気と取り組んだ海軍軍医高木兼寛の生涯を描いた小説です。なんとこの時代に海軍を舞台に大規模介入試験を実施しています。脚気にどのように取り組んだかで、海軍と陸軍には取り返しのつかない差が生じてしまいました。そのときの陸軍軍医はみんなも知っているあの人。
<BOOKデータ>
[上]
薩摩藩の軍医として戊辰戦役に従軍した高木兼寛は、西洋医術を学んだ医師たちが傷病兵たちの肉を切り開き弾丸を取り出す姿を見聞し、自らの無力さを痛感すると同時に、まばゆい別世界にあこがれる。やがて海軍に入った兼寛は海外留学生としてイギリスに派遣され、抜群の成績で最新の医学を修め帰国した。
[下]
海軍軍医総監に登りつめた高木兼寛は、海軍・陸軍軍人の病死原因として最大問題であった脚気予防に取り組む。兼寛の唱える「食物原因説」は、陸軍軍医部の中心である森林太郎(鴎外)の「細菌原因説」と真っ向から対決した。脚気の予防法を確立し、東京慈恵会医科大学を創立した男の生涯を描く歴史ロマン。
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2022.06.04土屋守氏推薦。薩摩藩が舞台ということもあって興味深い。なぜ、日本の医学界がドイツの流れを汲むのかがやっと理解できた。
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登場人物も背景も予備知識なしで入る。薩摩藩の大工の家。主人公は幕末に生まれ西洋医学を志す。努力と実力。人格も手伝い偶然も呼び込む。次から次へ、膨らむ立場。責任も重い。下巻の展開が楽しみになる。…明治の日本。「坂の上の雲」を目指して歩く。その先に何があるかはわからない。ただ、ひたむきに登る。その答えを知るのは後世に生まれた我々。脱亜入欧。3度の戦争の勝利。日本は先進国の一員になる。さらにその先に起きる戦争の結末。この物語の登場人物には知る術もない。…学ぶことは多い。失われた30年。その先は我々も知らない。