紙の本
経済政策が奏功するための条件
2015/12/16 18:35
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投稿者:okh - この投稿者のレビュー一覧を見る
農業所得倍増という言葉が政権与党からあがっているようだが、人間の生活に、生き死にに関わる重要な政策なのに中身のない無責任な議論だと思えてしょうがない。「思い邪なし」が刊行時のタイトルのこの書籍を読むと、経済政策の立案には経済理論と現状分析の両輪なくしてはありえないし、そうでない政策は、民主党政権下のデフレ経済のように生活を破壊するものでしかないということがよくわかる。
主人公の下村治は、ケインズに学び実践したという意味でサミュエルソンに匹敵するのではないだろうか。アカデミズムと一線を画したためか、下村の知名度は今の若い人たちにはいまいちのようだが、城山三郎の「官僚たちの夏」の主人公と同じ時代を生きたエコノミストとして見直すと、奇跡の経済成長を演出した下村と、ホンダやソニーをつぶしたかもしれない通産官僚との対比が明確になる。
通産官僚が国民経済を守るという「正義感」を振りかざすと経済は停滞しかねず、対して、下村の実体経済の潜在成長力を正しく見通した上で、経済理論のセオリーにのっとって策定される政策との大きなギャップはなんなんだろう。
経済とは人間の感情とは独立して動くもので、まさに「冷たい頭脳と熱い心」がなければ、経済政策とは国を亡ばしかねないものだ。実際、長いデフレ経済は日本の社会に深い傷跡を残したし、衣食足りぬゆえに、人心荒廃したともいえる。世の中を明るくする経済を実現するにはどうすればいいのか。多少なりとも、国の行く末を憂えるような気概のある若い人には、ぜひこの本は読んでおいてもらいたいものだ。
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現在読んでも興味深い
2024/04/27 14:52
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
池田勇人と池田のブレーンであった田村敏雄と下村治を描いたノンフィクションである。沢木耕太郎も若い頃は提灯記事の仕事をせざるをえなかったのか、というとそうではないだろう。現在読んでも興味深いものとなっており、異に沿わないやっつけ仕事などではなかったことがわかる。
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所得倍増をめぐるスリリングなドラマ
2020/07/05 22:15
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投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『文藝春秋』1977年7月号に掲載された内容に基づき、29年後の2006年に単行本となり、2008年に文庫本として出版された不朽のノンフィクションである。「所得倍増」を掲げ総理大臣として君臨した池田勇人と、田村敏雄・下村治という二人のブレーンを核とする物語である。3人は大蔵省で長く敗者であった。池田と下村は大病を患い、田村はシベリアに5年間抑留された。その3人が、日本の高度成長時代を画策し、「所得倍増」を実現させていくストーリーは、スリリングなドラマである。著者の3人の敗者に対する眼差しは暖かい。一方、現実を批判するだけの学者先生には手厳しい。例えば、次のとおりである。
◆『朝日ジャーナル』誌上では、池田、下村、著名な経済学者である都留重人との間で応酬があった。所得倍増に懐疑的な都留は、池田に「それが実現しなければ大臣を辞職する覚悟があるか」と詰め寄った。政治家に一方的に責任を問い、責任を追及する側は、その弁論による責任を引き受けようとしない。◆東海道新幹線の計画に対して、交通論を専門とする今野源八郎東大教授は、鉄道斜陽化の趨勢の中で、どんなものでも消える前に超デラックス版を作りたがると皮肉った。
読書という観点からみると、池田は全く本を読まなかった。下村もむさぼるように読むタイプではなく、重要な書籍をいくつか読むだけで本質的なものを掴みだす能力のある人であったらしい。
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所得倍増計画という、とてつもない化け物
2019/04/03 21:45
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
はっきり言って佐藤栄作、岸信介といった個性的なというか顔自体が悪役じみた人と比べると印象が薄い。ただ、「貧乏人は麦飯を食え」と暴言を吐いた人かという印象しかない。しかし、この著書のおかげで印象が変わった。ずっと「60年安保」で盛り上がっていた反自民の空気は、いつ霧散したのかと思っていた。そうだったのか、池田首相の「所得倍増計画」というとてつもないスローガンを前にして庶民は「安保」より「収入」だと寝返ったのだ。そりゃそうだろうな。
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1).目次
省略
2).筆者の主張
省略
3).個人的感想
・池田勇人が所得倍増計画に基づき、日本が高度成長を成し遂げた経緯がノンフィクションとして書かれている。
・池田のブレーンとして活躍した田村、下村はいずれも、大蔵省出身で、大蔵省では全く活躍出来ない不遇の時代を過ごしていた。
・首相になった池田は、30前後の数年を大きな皮膚病で休んでいたが、大蔵省に復帰し、太平洋戦争の結果、大蔵省の上司が排除された玉突き的に次官や出世街道を歩んで総理になった。最後は喉頭癌で死んだが、30歳前後では人生どうなるかわからないことの証明であり、いろいろな人に目を向けて、人生頑張っていく必要があると感じた
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池田内閣が、現在の日本の政治構造を構築したのでしょう。本書を読む限り、池田首相の志は高かったと思う。その後に続いた政治家は果たしてどうだったか。同じタイミングで「深夜特急」を読みましたが、沢木耕太郎は、こんな本も著していたのですね。
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☆未読了
・グッドルーザーとしての体験
・理想を語る人間、論理を突き詰める人間、理想と論理をつなぐ人間
・理想と論理を繋ぐ人間にはなれるかも
・政治家の役割とは。ブレーンの必要性と重要性
・人を惹きつける言葉の威力。「月給2倍」ではなく「所得倍増」の必然
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若いころ、沢木耕太郎氏のファンだった。「一瞬の夏」「敗れざるもの」「深夜特急」等々、それこそ貪るように読んだ記憶がある。
しかし、年齢を重ねるに従って、沢木氏の持つ優しさが少し鼻につくような感じがするようになって、いつの間にか氏の作品から遠ざかってしまっていた。
本書は久しぶり(10年ぶりくらいか)に読んだ沢木氏の作品である。
久しぶりに手に取ってみた理由だが、本書の舞台は1960年頃という高度成長期の日本であり、以前からこの時代についてもう少し知りたいと思っていたからである。
本書はその高度成長期の真っ只中のド真ん中にいた、首相の池田勇人(はやと)と、有名なコピー『所得倍増計画』の中心人物、下村治。そしてその二人の仲立ちをした田村敏雄の三人を描いたノンフィクションである。
読んでいて意外だったのは、とにかく『熱い!』のである。登場する3人も書き手である沢木氏も。ただ、その熱さの表現の仕方がそれぞれ異なっており、そのコントラストがまた素晴らしい。
この3人、頂点にたどり着くまでに文字通り、死と向き合わねばならないような苦難を経ており、キャリアのなかでもいわゆる「負け組」と目されていたのである。
その非常な苦難を乗り越えて来た彼らの取ったものが、『所得倍増』という究極の楽観論。ここにある意味での凄みを感じたのは沢木氏だけではないと思う。
久しぶりに「志」という言葉(僕なんかもう殆ど忘却の彼方だ)を思い浮かばせてくれる作品だった。
前編通じて興味深いのだが、最後のある部分で、恥ずかしながら大泣きしてしまった。きっと、いつの間にか失ってしまった大切な「志」というものに触れることで、心動かされたのだと思う。
テーマは非常に地味だが、これを読んで興味を少しでも持って下さった方なら、是非読んでみていただきたい作品である。
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沢木耕太郎らしい叙情的な作品。なんにせよ高度成長期には夢があったが結局それも欧米のキャッチアップという目標が明らかであったためだ。
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所得倍増の夢、3人の敗者が挑む。
ノンフィクション、その時歴史が動いたの素材としてそのまま使えそう。
城山三郎とはまた違うのだろう。
しかし、読ませる内容ではある。
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1963年生まれの私にとって、「所得倍増」と言うキーワードは何となく懐かしいイメージしかありませんでした。このビジョンがどういう過程を経て命を吹き込まれ、70年代に突入したかが、丁寧に、そして説得力のある文章で書かれていて、とても読み応えのあるノンフィクションでした。やはり沢木耕太郎は凄い!
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そう、高校の受験のときに感じた違和感が
わかる本だった。
池田勇人の内閣時代に所得倍増計画という
経済面がキューにくるんだよね。
ここでの設備投資という背景での経済大国化の
実現はすばらしい。これがなければ今の日本は
ないかもね。だって隣の韓国をみれば日本が
世界第2位の経済力なのは、違和感というか
不思議だもん。
最後のブレーンである下村治が言ったらしい
高度成長からゼロ成長へとオイルショックで転換
していく話は示唆がある。
そことは別に今の日本は別の意味でのひずみを
産業構造の変換ととらえ政策転換、実行できる
政治家がいれば更なる経済規模の拡大と
この本で言う「静かなる世界の中心」=
王道をすすめるはず。
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池田勇人、田村敏雄、下村治の3人を中心に所得倍増計画がどのようなプロセスによって実現に至ったのかを綴った本。日本復興のためには経済の成長が不可欠だと考えた池田勇人の慧眼とそれを陰から支えた田村敏雄の辛抱強さ、所得倍増計画の立案者だったエコノミストの下村治の鋭さにはただただ感動。
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「所得倍増」を産み、実行していった三人の男の物語。
しっかりと政治を行うためには、政治家のぶれない意志と、これを方向付け、支えるブレーンが欠かせない。また、そのブレーンが生み出す政策も、大局観に立っており、未来を見据えている必要がある。そんなことを改めて感じさせる。
現代に置き換えて、過去ほど分かりやすい目標が失われてしまっていることを考慮しても、政治家・ブレーンともに、日本を預けるに値する者が見いだせないでいる。それは、偶然世に出ていないだけだという指摘があるかもしれないが、結果が出せていない以上、そのように結論付けるほかない。
現代のリーダー待望論はまさに、そのようなチームを国民が熱望していることの現れなのであろう。そう思えば、やたらタレントなどの目立つ人が期待されることも、ある意味で仕方のないことかもしれない。
ただ、やはり本物のリーダーは、長い年月をかけた積み上げが、最後に花咲く一瞬の時を、国民に捧げるということでしか生まれない様に思う。
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かの有名な「所得倍増計画」が池田勇人内閣の下で喧伝されるに至るプロセスが描かれている。池田自身、そして経済政策における下村治・田村敏雄という彼のブレーンも大蔵省の出世競争からは取り残された非主流派であったことが大変興味深い。また、優れた政策や計画の実施にあたっては立案者と遂行者(および両者を架橋する者)が必要であり、彼らの役割分担について考えてみると現政権がこだわった「政治主導」がなぜあれほどの混乱を招いたのかがよくわかる。うちのボスが折に触れて言う「大学職員プロデューサー論」にも通じる部分がある。