百姓=農民ではない。文字から見ればあたりまえ!。これまでの日本史では無視。
2006/01/01 19:32
27人中、25人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
百姓=農民ではない。文字から見ればこのあたりまえのことが、これまでの日本史のなかでは無視されていた。日本は古代から海で隔離されて孤立した、農耕社会であったという、歴史の常識が、古文書を丁寧に読み解くことで覆されてきた。百姓とは文字どおり、種々の職業に従事する人々のことだったのである。貧しい水呑み百姓に分類されていた人々が、実は大々的な交易や、各種産業・事業を経営する、裕福な事業家だったのである。また日本列島は周囲を海で隔離された孤島だったのではなく、海や河川を交易路として、海外とも緊密な交易を行ってきていた、貿易立国でもあったのである。しかしこのような見解は、未だに中学高校の日本史の教科書には反映されておらす、学会に認められている見解ではないようである。
世間や学会の常識となっている思い込みを修正するためには、多大な努力と信念が必要であろう。著者は地道に事実を掘り起こすことで、この道を歩んできた。著者が発見発掘したこのような真実はいずれ学会の主流となるであろう。そのようなことが予感される著作である。
歴史を検証する試み
2012/04/18 10:02
17人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:moriji - この投稿者のレビュー一覧を見る
1991年発行の正、2005年発行の続、をあわせて全一巻とした網野史学の全体像が実に読みやすくまとまった好著です。コンテンツを見ると、「文字について」「貨幣と商業金融」「畏怖と賤視」を始め、女性、天皇、「日本」の国号、日本は農業社会か、悪党海賊、重農主義と重商主義などなど、いずれの章も、著者が日本の歴史感の定説を崩していった問題が満載されています。
どの章を読んでも非常にスリリングな論考が展開されていて、読み応え十分なのですが、私が特に魅かれたのが「畏怖と賤視」の章です。
特に、死穢、産穢など、かつてそれらを「清める」仕事として、ある意味尊敬の対象であった職能集団が、やがて「ケガレ」を扱う賤民として差別されていく変遷の問題。「清め」が「ケガレ」に変化して行く意識の構造の変化。なぜこのような変化が起こってきたのかを、著者は次のように述べます。「ケガレを恐れる、畏怖する意識がしだいに消えて、これを忌避する、汚穢として嫌悪するような意識が、しだいに強くなってきた」そしてそれに伴って、「ケガレを清める仕事に携わる人々に対する、忌避、差別観、賤視の方向が表にあらわれてくるようになったのだと思います」と極めて明快に述べています。
「畏れ」を失った人々。この言葉は現在の「なんでもあり」の風潮に対する、強い批評ともなっています。
このほか、中世から江戸期にかけての、百姓=農民 という常識をひっくり返す試み。例えば「水呑百姓」という言葉には、「土地を持たなくても生活して行くことのできる」職能人でもあったという指摘。「村」という言葉に含まれるイメージの誤り。女性の活躍、子どもたちの実際、海は文化を隔てるか?という問題などなど、目から鱗の歴史を堪能することが出来ます。
「これまで常識とされて、いまも広く世に流通している日本史像、日本社会のイメージの大きな偏り、あるいは明白な誤りの根はまことに深いものがあり、これを正すことはわれわれが現代を誤りなく生きるためには急務であると考えている」とあります。「歴史を学ばない国は亡びる」とは加藤周一の言葉ですが、常に歴史を検証していく試みもまた、非常に大切なことだと考えます。
”日本”について一歩踏み込んで考えてみる
2017/02/08 16:05
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:馮富久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今,いろいろと日本のことを知りたくて, 成り立ちから見た日本のことが書かれているこの本を読みました。
日本という国名が変わるかもしれない(必然性がない), 元々は農民中心ではなかった, などなど,けっこうセンセーショナルな書き方がしてあり,新しい視点を知ることができました。
今回電子書籍で読みましたが,紙版が観光されたのは1995年。
合本なので書き始めはその前から,となると, 当時としては(今もだけど)けっこうインパクトのある内容だったんじゃないかなー
途中に書かれていた,日本は地域によっては起業家体質を持っている, というのは今どきのヒトにとっては嬉しい見方なのかも。
いずれにしても,
百姓=農民
という思い込みが実は違うかもしれない,という視点が持てたことが良かった。
日本の歴史については,やはり海上交通(川も含む)をもうちょっと調べて, 産業や人口移動について調べてみたいところ。
大文字の日本史でヮ取り上げられてこなかった社会の諸側面
2023/03/30 17:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:719h - この投稿者のレビュー一覧を見る
元々ヮ、ちくまプリマーブックスという
叢書として出版されていた二冊の本が、
文庫版の体裁で一冊にまとめられたものが
本書です。
岡田英弘氏の「世界史の誕生」とともに、
中学や高校の歴史の授業で
是非とも扱ってもらいたい一冊です。
従来の我が国の中世社会を見直せる画期的な日本中世史の一冊です!
2020/04/11 12:01
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、我が国の中世における社会の真実とその多彩な横顔を生き生きと語ってくれる、従来の歴史観を新しくしてくれる貴重な一冊です。中世には、今日私たちにとっては信じられないような不思議な社会情勢が登場してきます。例えば、農耕中心社会、商工業者及び芸能民に対する賤視観などです。著者である網野氏は、中世社会における貨幣経済、階級と差別、権力と信仰、女性の地位などを、新たな視点から論じてくれます。同書は、「文字について」、「貨幣と商業・金融」、「畏怖と賤視」、「女性をめぐって」、「天皇と日本の国号」、「日本の社会は農業社会か」、「海からみた日本列島」、「荘園・公領の世界」、「悪党・海賊と商人・金融業者」、「日本の社会を考えなおす」といったテーマで議論が進行され、非常に興味深い読み物となっています!
投稿元:
レビューを見る
学生時代の大先生が紹介してくれた本。私はこの本がきっかけで中世の「変な格好してる人たち」にすごく興味を持った!
投稿元:
レビューを見る
難しい部分もありますが、非常に面白かったです。
百姓≠農民など、学校で習った日本史が頭の中でガラガラと崩れ落ちてゆきます。
それと、文章から感じられる網野氏の人柄にも非常に好感を抱きました。
投稿元:
レビューを見る
今まで習っていた日本史のイメージが崩れて新たなまったく違う視点の日本史ができました。読みやすい上におもしろく、またバランスも良くて、新たな知識をたくさん貰える、日本史好きにはたまらない本です。
投稿元:
レビューを見る
網野氏の、
根本的なところから歴史を見詰めていこうとする姿勢、
安直でも難解でもない文章に好感が持てる。
分かりやすく、読みやすいところがいい。
現代人が自明と思っている事に皹を入れる知識と感性は
過去を顧み未来を臨む上で、必要そのものだろう。
投稿元:
レビューを見る
百姓の見方が、部落の問題が、中世のイメージが変わった一冊。これだけのボリュームがあって内容も斬新で、お得かも♪
投稿元:
レビューを見る
「日本」っておもしろい、と再認識させてくれた本。
特に、昔の教科書で習ったっきりの古代史に対しては、ほんとに認識がガラリと変わっちゃいました。
文章表現もやわらかく、歴史が苦手な人でもとっつけるかなと。
現代社会につながる「日本」の原点がわかります。
投稿元:
レビューを見る
P.13
今までの歴史は、ふつう原始、古代、中世、近世、近代と時代区分され、その中で時代の流れをとらえるのが、基本的な枠組みであったわけですが、「人間と自然とのかかわり方の大きな変化」という点から考えますと、これまでのような歴史の時代区分の仕方だけでは測りきれない変化があり、そのことを考慮に入れないと歴史を本当に捉える事は出来ないと思います。
社会と自然との大きな転換に即して、日本の社会の歴史を区分してみる必要があることは間違いないのではないかと考えています。
現在の転換期と同じような大きな転換が南北朝動乱期、14世紀に起こったと考えられるので、この転換期の意味を現在の新しい転換期に当たってもう一度考え直してみることは、意味のあることではないでしょうか。
教科書を通して僕らは勉強してきたけど、それが間違っているなんてことはあんまり考えずに勉強してきたと思う。
間違ったことを学校で教えるわけがないと思ってたけど、そんなことは一切なくって、あくまで定説を教えられているってことに後々気付き始めた。色んな人が色んな事を言ってるけど、それは全てその人がそう思ってるだけで、あくまで仮説でしかない。定説っていうのは、最も正しそうな仮説なんだから。
この本だって、ただの仮説でしかないけど、それでもやっぱり信頼できる説や考え方はあるし、そういう人の話を聞くのはおもしろい。そして、そこから得ることはたくさんある。でも大きく言っちゃえば、間違っていると考えられることを言ってる人だって、その人の中ではそれは正しいことなんだし、僕らは間違ったことからだっていくらでも学ぶことはできると思う。
要は、学ぶということは考え出すものでも教えてもらうものでもなくて、探し出す(選び出す)ものなのかもね。
日本の歴史をもうちょっとちゃんと勉強し直してからまたよみなおしたい。
すごくおもしろいので日本史が嫌いな人でも読めると思います。
第一章 文字について
第二章 貨幣と商業・金融
第三章 畏怖と賤視
第四章 女性をめぐって
第五章 天皇と「日本」の国号
第一章 日本の社会は農業社会か
第二章 海から見た日本列島
第三章 荘園・公領の世界
第四章 悪党・海賊と商人・金融業者
第五章 日本の社会を考えなおす
投稿元:
レビューを見る
歴史は過去の事実だから変えようがないが、史観は時代によって変わり、時々の史観により語られる歴史は変わる。マルクス主義は下部構造が歴史の動力であるという史観を述べ、その影響で農民の支配史に光が当たってきた。一方で網野さんは政権トップから農民に至るタテの支配関係では語りつくせない人々に光を当て、その結果最近の日本人の史観を変えうるほどのインパクトを残した。中世の芸農民や商業への注目などは網野さんの功績ではないか。
本書は網野史学の集大成とも言え、古代聖別民、ケガレと差別、宗教観、天皇制、貨幣と商業活動、荘園公領制など論考の範囲は幅広い。一遍聖絵に始まり荘園代官の報告書、フスマの裏張りとして残った商家の帳簿に至るまで、これまで注目されてこなかった様々な史料を読み解きながら、日本=農業社会、男尊女卑、単一民族といった日本史の固定観念に挑戦していく。歴史好きには刺激的な一冊になるのではないか。
日本人はコメを作る民族であるという定義は、元々は7世紀の政権が日本列島を支配するために打ち出したテーゼだが、その後の長い歴史の中で民族の潜在意識のように引き継がれてきた、かのような情緒的な思い込みは自分も含めてかなりあると思う。稲作が主要産業だったことは事実でも、列島に支配者と農民しか存在しなかった訳ではなく、長い商工業活動の歴史があり、商道徳や経済用語などソフトウェアの蓄積があるからこそ、明治以降の急速な近代があり、現在の経済大国があると考えるのが自然ではないか、と考えさせられた。
そして網野さんが最初に言及した、歴史の区切り方について。「ものの考え方」で日本史を区切ると、室町時代と現代に転換点がくるという。古代王朝政治、中世武家政治、近代議会政治という政治体制分類とはまた違った時間の流れがあることは理解できた。一方で、現代もまた転換点であるという。現代人は現代社会を当たり前に思うので、おじいちゃんの愚痴のようにも聞こえるのだが、社会の変化が伝統的な価値観を揺るがせているのは事実。現代を哲学することは本書の主題ではないが、自分にとっては宿題のように残った。
貨幣の成り立ち。呪物として始まった貨幣が、宋銭の輸入期になると貨幣としての流通が始まる。金銀の大量輸入は通常インフレーションをもたらすはすが、むしろこの時期の日本では物価の安定をもたらした。商品の流通ニーズに対し、貨幣の流通量がまだ不足していたためだろう。
寺社の付属民によっていた商業・経済活動。この時代には鎌倉新仏教の庶民への普及の過程で、寺の無縁所による商業・金融がはじまる。経済活動の世俗化の端緒となり、商業民は次第に世俗権力の庇護を求めるようになる。鎌倉仏教は日本の宗教改革のようなもの。そして江戸時代に役所化して骨抜きにされ、宗教意識の低い現代に繋がったのか。
日本における聖とは何か。宗教権力であり、経済部門であり、葬送などケガレた活動を担う社会部門でもある。
歴史の教科書では公地公民制が崩壊して貴族や寺社の私有による荘園制に移行したと教わったが、そんな単純なものではなさそうだ。むしろ上からの統制がきつい公地公民制が形骸化し、地方が自律的な生産活動をやろうとしたとき、中央の有力貴族や有力寺社に庇護・保証を求めた、という流れで読むべきかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
簡単に書かれているのでわかり易く読みやすい本でした。自分は、この本の内容の全てを理解したとは、言えないので時間があるときにでも読み直してみたいと思います。
投稿元:
レビューを見る
日本の歴史を読み直す。
まさにそういう感覚。
眼からうろこが落ちるとはこのこと。
一読の価値あり。
百姓についてのくだりは納得。
日本人は百姓を農民と同義語として捉えるが
実際は違う。
中国語で百姓は「一般市民」や「普通の人々」
を意味する。
もともと日本でもそういう意味で使われてきたのだ。
そのほか女性の立場など
新しい日本史が見えてきて、
今の日本とのつながりを考えながらよんだりすると
とても面白い。
門外漢向けに書いた本の割には少し難しさも感じるが、十分「楽しい」という感覚で読める。
著者の問題提起も興味深い。