我々の行く末を暗示するような物語
2017/04/15 02:57
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投稿者:読人不知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
そうさく畑やコミティアで同人誌として発表され、第11回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門奨励賞を受賞した作品。
過去の大戦が風化しつつあり、記憶の継承が形骸化しつつある時代の「負の遺産」を巡る骨太なストーリー。
鳶職の世界に飛び込んだ少女・咲。
彼女が地から逃れるように高所へ向かう理由は、恐ろしい因習の呪縛からの命懸けの避難だった。
現実の災厄と過去の記憶と精神世界が絡み合い、互いに作用する。何が現実で、何が誰かの夢なのか。
人々の息遣いや熱い思いが、流麗な絵柄で描かれ、息つく暇もなくページが進む。
本作の発表は東日本大震災以前ですが、遠い未来に本当にこんなことが、実際に起こるような気がしてくる力強い説得力を持つ物語。
停滞した「時の牢獄」の中で生きるものたち
2008/08/26 11:07
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ホラガイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「天顕祭」ー毎年初夏に無病息災を祈り、厄をはらう祭り。五十年に一度の大祭では、ヤマタノオロチの伝説にちなみ、ヒトミゴクウとよばれる笹の人形が供えられ、祭りの主役であるクシナダ姫がえらばれる。
だが、安寧を祈るはずの祭りの日が近づくにつれ、少女・咲(さき)の体に異変がおこる。背中いちめんに浮かびあがる大蛇の鱗のような痕。身のまわりでおこる数々の怪しい出来事。おそろしさのあまり村を逃げだし、鳶職人のもとに身を隠すものの、土中で光る眼は決して彼女を逃さない。
ある日、にわかに咲の姿が消えた。
「天顕祭」の世界は、わたしたちが日々、生活する下町にそっくりだ。しかし、ここでは過去と現在が交錯する一瞬があり、夢をとおして現世(うつしよ)と異界がつながる。登場人物は時として境界を見失う。
その昔、人は国土の大部分を汚染する爆弾を爆発させ、地の底に眠る「オロチ」を目ざめさせた。だが、回想される戦争は数世紀も前の出来事のはずなのに、戦場で自動機械がうごめくさまは近未来を彷彿とさせ、人々の姿は日本が経験した前の戦争を思わせる。時がゆがみ、ねじれ、破綻したようにも思える世界。話が進むうちに当初の設定がぶれて違うものに変わったのだろうか。でも、あとになって、これはひょっとして停滞した「時の牢獄」の中で生きるものたちの話ではあるまいか、そんな気がしてきた。
地下の結界で幾度となく殺され切り刻まれ、永劫に死と再生をくりかえしてゆくオロチ。おなじように、人間たちもこの物語には登場しない背後から世界を動かすものの手によって罰をうけているのかもしれないー「汚い戦争」で多くの命を奪い、生命を生む大地を穢(けが)した大きな罪によって。よどんだ沼のように停滞した時間と穢れた大地という煉獄の中で、自分たちの未来が封印されていることも知らずに。
そう思ったのは、すべてが終わったあと、鳶職人となった咲が高い足場の上から、大地の穢れを清める天顕菩薩の来臨を願いつつ、空の彼方をじっと眺めている場面からだった。このとき人は汚染された大地を浄化する力をもつ竹を使って、決してたどりつくことのできない天の向こう側めざし、上へ上へと足場を作りつづけているように思え、その姿は贖罪をつづけるこの世界の人間そのものを暗示しているようにも見えた。
読んでいる間、ずっと感じていたのは人の汗の臭いと土の匂いだった。
この物語の主役でもある鳶職人たちの人間関係は濃い。家出娘が安クラブの新人ホステスになったものの、次の日には鳶職人に化けてたり、ヤミの売人が新入りの人夫をヤク漬けにしてカネを巻き上げにかかる話から感じるようにきわめて人間臭い。なにやら業界の裏の生々しささえ感じる。
また一方では、古いしきたりを重んじる彼らのなりわいや人々の生活の中には、過去からうけつがれてきたものが脈々と生きている。祝儀物を扱う店の窓に飾られた、笹でつくられたクシナダ姫の人形。湧き水をつかっているときは、「天顕祭」の「姫」の話をしてはいけない、水を伝って地の底にひそむオロチに聞かれてしまうよ、と炊事場で洗いものをしているおばあさんが、日常の中でふと見せるおそろしい忠告。
ひょっとして、作者は古いものがまだ息づいている場所ーそれは深更、闇を吹きぬける風の中には遠い昔におこった出来事を囁(ささや)く声がかすかに谺(こだま)し、足許の地面では人が経てきた歴史があつい地層となっている土地ーで生まれ、育ったのだろうか。そして、長い時間をかけて降りつもってきたものが、この話を書かせたのだろうか。
読後、ふと、こんなことを思い、そんな土地を歩いてみたい気がした。
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同人誌で発表されたものとしては初めての文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞作ということで、読んでみました。
大作。いろんな意味で、大きな作品。描かれている世界のリアルさもすごい。
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鳶職である木島咲と真中修二。
五十年に一度の秘祭<天顕祭>が行われる。
ヤマタノオロチ伝説と、スサノオ、クシナダ姫。
古代の物語が、現代の二人の物語と交差する。
<天顕祭>の秘密、スサノオと姫を演じる人々。
主軸は現代の二人の絆だが、スケールは壮大。
水墨画のような力強い画筆。
帯紙にある「古事記ロマンファンタジー」の名はさすが。
ここまで壮大な話をきちんとまとめたのはすごい。
でも話は古代じゃなくて未来。おそらく核戦争後?
ところで、天顕菩薩って実際にいるのかしら。
天顕だから点検・・・日本って昔から駄洒落好きだよね。
音を大事にしているからだろうけど。
Book1stにていつだったか衝動買い。
作者は守り人シリーズの作者の公認と言われている人、らしい。
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本屋でなんとなく買ったんですけど、同人誌らしい。設定に日本書紀とかが混じってて傾向としては「精霊の守り人」とかに近いですかね。あれより現代日本っぽいですが。という訳で文化庁のお墨付き。同人初っていうか映像などは個人応募も多いけど、メディア文化祭に同人誌を自薦で出す人っているんだなと驚きました。作風が自由なのは同人のいいとこですが、同時になかなかコマや絵がわかりにくいのも編集はさまない同人らしいという気がします。でもそういうのを別にしても話は面白い。
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こういう熱い和風ファンタジーは大好きです。台詞配置の問題で一瞬誰の台詞かわかりにくいところがいくつかあった点と、主人公二人が恋仲であるという設定が唐突に入ってきた(ように個人的には感じた)点が惜しかった。二回以上読んで、ストーリーの良さを噛み締め絵の雰囲気を味わうことをお勧めします。
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絵柄が誰かに似ているな?と思い、ネットで調べたら安彦良和だったことに納得。
で、ストーリーは宮崎駿の『天空の城 ラピュタ』に似ている。設定も中々詰められていたので、読み応えはあった。
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賞を取った漫画だとか何とか。一度読んだだけではつかみ切れないところがいい。二度三度読めば読むほど深さが増す気がします。とりあえず真中さんがかっこいいよ!
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日本神話モチーフだけど遠未来もの。神話好きとしてはツボだった。
舞台は「汚い戦争」後の日本。目に見えない毒物で土壌が汚染されて、人の住める場所が少ない。
汚染レベルによって厳しく立ち入りが制限される…
という、この環境。いま読むと、どうしても福島の原発事故を連想してしまいます。
徴兵制が無い代わり、30才以上の男子に年1回汚染エリアでの奉仕作業が義務づけられてたりとか、汚染エリアに育つ特殊な竹で土壌浄化をしてたりとか、なんか今の日本・これからの日本と重ねて色々考えさせられた。
とはいえ、メインは主人公とヒロインのラブストーリー。
しかし二人とも鳶職で、主人公は30才越えのオッサン、ヒロインは17才体育会系女子、となかなか異色。
何度か読み返す程にはおもしろかったので、オススメです。
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今更私が薦めるまでもないと思うから、あえて感想は書かない。
マンガ好きを自認するなら探してでも買うべき、そして読むべき。
値段分+αくらいの価値はありまっせ。
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良質な漫画を読んだ!とほれぼれさせてくれる一冊。
日本の神々をうまく創作に取り込んで物語を作っていた。
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勧められて読みました。
久しぶりのマンガでしたが、読み応え十分。絵も素晴らしくすぐに引き込まれてしまいました。
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2009/02/09読了。
萩原規子の「勾玉三部作」みたいな、古代ファンタジーwithボーイミーツガールだと思い、少女のようなルンルン気分で読み始めたら、不意をつかれて恐怖にたたき落とされた。
この以前にも味わったことのある本能的な恐怖感…。
こうの史代の「夕凪の街、桜の国」である。
この本は、従来の少女漫画と同じく、古代へのロマンとか神話ファンタジーとか運命の恋人とかで粉飾されているが、一皮むけば、「夕凪の街、桜の国」の東海村原発事故バージョンともいっていいい。
高放射性物質の恐怖、人間が「溶ける」と表現されるその毒性が、ヤマタノオロチという日本古代の怪物、まさにに日本人の根源的恐怖感によって象徴されているのである。
「ケガレ」とかそういった感覚まで含んで、圧倒的に描写される、その毒性。
最後が含みを持った終わり方になっているのも、うなずけることだろう。
放射能や核兵器という問題は決して解決されていないのだから。
ところで。
私は、「夕凪の街〜」でもこの作品でも、放射能をイマジネーションによって、隠喩的に描いた作品を読むと、本当に背筋が凍るような本能的恐怖といったものを呼び起こされるのだが、
これって、世界中の人にはもちろんめずらしいだろう(核兵器を普通の爆弾のすごいやつと認識している人が大部分だろう)、というのはわかるのだが、果たして日本人ではどの程度共有しているのだろうか?
私は、所謂平和授業で、義務教育9年間+高校の三年間、夏が来るたびに、原爆の恐怖をとにかくすり込まれてきたわけだが、平和授業を受けていない人とか、はだしのゲンをよんで無いとかいう人では、この本能的恐怖感覚はどの程度まで共有されているものなのだろう?と純粋に気になる。
「夕凪の街〜」があれだけヒットして、この話も同人誌でありながら、文化庁メディア賞をもらっていることを考えると、かなりの人が幾分かは持っているモノだとは思うのだが。
この感覚は、「ケガレ」とかと同じく、日本人の共有感覚となっていくものなのか。それとも忘れ去れていくものだろうか。
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『本に呼ばれる』ってこと、ありませんか?
連休中に、遊べる本屋『VILLAGE VANGUARD 』に行ってきました。
そこで呼ばれちゃったんです。
この本に。
なんか、分厚いし、黒っぽい表紙だし、あんまり好きな感じの絵というほどでもないし、お値段も高かったのですが。
本から出てるオーラに迫力負けしたというか、「買え!読め!」って言ってる気がして。
ストーリーはナウシカの世界を想像していただければ、かなり近いものがあるかと。
【あらすじ】
ヤマタノオロチ伝説の息づく未来。
50年に一度の秘祭〈天顕祭〉の日が近づいていた。
咲は身を隠し、声を潜めてオロチの魔手から必死に逃れようとしていた。
鳶の若頭・真中はそうとは知らず咲を雇っていた。
身の回りで起こる異変・・・
そしてある日、忽然と消える咲。
運命に引きずられるように真中は、やがて天顕祭のおぞましい秘密を知る・・・。
古事記の「ヤマタノオロチ伝説」が根に這った物語です。
読後感は・・・なんというか・・・
スゲエ
夢を見るのは誰でもできると思います。
想像するのもそう難しいことでもないと思います。
ただ、この本がすごいのは、「夢を見続け、ひとつの世界を完成させていること」。
なんか、読んだ後もその世界が捕まえられるような迫力がありました。
夢を見る力が強くなければ、架空の物語に重厚感は生まれないと思います。
作者はきっと、執念深い方なのでは。
いやいや、尊敬を込めて!
一筋縄じゃ描けないよ。
絵は、スクリーントーンを使用していないようで、絵の具で塗ったような、筆ペンで描いたような絵でした。
なので、見にくいっちゃみにくいのですが、力強かった!
構図もすごいんでしょうが。。。ちょっとわかりにくかったなぁ。
なんか、ヘビとか竹とか人が絡み合ったり激しい動きのところとか、「え?どんなんなってんだ?」って感じるところもありました。
いやいや、絵はすごく上手いんですよ!
えーと、はじめは自主制作?同人誌で発表されてたそうです。
その後、2007年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門で同人作品として初めて奨励賞を受賞したそうです。
うん。プロの漫画家さんと遜色なしです。
むしろ、なぜプロではないのか?と思ってしまいます。
この1作品だけを見れば、ですが。
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漫画や同人誌。ファンタジーといった世界にめっぽう疎いのですが。
世界観としては、「いつとはいいきれない未来」・「過去に「汚い戦争」があり汚染された土壌」・「それでも復興を果たし続いてゆく人間の営み」というあたり、なんとなく「風の谷のナウシカ」も彷彿とさせるようなさせないような。
土台は日本神話あり伝統あり、そしていわくありげな鳶職の少女とそのボス、芽生えてゆく恋心…という設定は、いかにも乙女ファンタジーな雰囲気で正直苦手です。が、結構読み応えある骨太さもありました。こういう世界が好きなひとにはたまらないのかも。
最後のほう、何人も入り混じっての戦いが繰り広げられる場面はもう誰がどのセリフを言っているのか非常にわかりにくい。結局、いまでも地下に潜んでいるであろう危険なものはなんなのか??
…何度読んでもわからんかった。
絵もね、上手なんだろうけど、なにせこういうの詳しくないし。好きか嫌いかって聞かれても、どうも思わんです。暗いトーンが多いな…っていう、ただそれだけ。
同人誌に投稿している方は皆、それを生業とはしていないアマチュアさんなんですか?
だったら、すごいな!とは思う。
いずれにせよ、知らなかった世界をのぞくことができてよかったです。