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紙の本
伏線わんさか,刮目の展開,そして衝撃の結末
2005/06/28 10:59
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台は19世紀半ばの英国,ロンドンの貧民街。掏摸として育った17歳の孤児スーザンの元に,白面の詐欺師《紳士》がある計画を携えてやって来る。郊外の城に変人の叔父とともに住む世間知らずの令嬢をたぶらかして結婚し,彼女が受け取るはずの遺産をそっくりいただくという。スウの役目は彼女の侍女として《紳士》の誘惑を手助けすること。育ての親である《お母ちゃん》の勧めもあり,産まれて初めてロンドンを出たスウだったが……。
と,これではハナシのほんのトバ口に過ぎないのだが,これ以上書くともうネタバレの危険を冒す羽目になりそうなのだ。伏線わんさか,刮目の展開,そして衝撃の結末。なんつうか実に「正統派の19世紀風冒険活劇ただし主人公は女性です」という感じなんである。
ディッケンズの「オリバー・ツイスト」さながらの世界で交錯する二人の少女の運命,活動写真の弁士だったら「ああうら若き掏摸の娘スーザンを待っているのはいかな運命でありましょう。はたまた深窓の貴婦人モード嬢は哀れ《紳士》の毒牙にかかってしまうのでしょうか。続きは読んでのお楽しみ」と言うところだ。御用とお急ぎでない方は是非立ち止まってご一読を。
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独創的な歴史ミステリ
2004/06/17 10:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カワイルカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
すでに『半身』を読んでいる人は先入観を捨ててもらったほうがいい。前作と同じ19世紀の英国を舞台にしているが、まったく趣の異なる作品なのだ。魅力的な登場人物に二転三転するプロット、これだけでも十分楽しめるが、この作品の面白さはそれだけではない。
ロンドンの下町の故買屋の一家に育てられた孤児のスウは、詐欺師のリヴァーズからある計画を持ちかけられた。とある令嬢をたぶらかして結婚し、その財産を奪い取ろうというのだ。スウの役割は令嬢の侍女になりすまし、リヴァーズを助けること。令嬢は彼に惹かれており、計画はうまくいくと思われたが……。
読み始めてすぐ気がつくのは、この作品の背景やプロットがディケンズの『オリヴァー・トゥイスト』とウィルキー・コリンズの『白衣の女』をもとにしていることである。スウの育ったロンドンの故買屋の一家は『オリヴァー・トゥイスト』のオリヴァーが捕まる泥棒一家を連想させるし、令嬢と結婚して財産をだまし取るという設定は、『白衣の女』から借用している。そして後半はまた『オリヴァー・トゥイスト』の世界である。しかし、似ているのは背景や設定だけで、もとの作品とはまったく別の物語なのだ。
19世紀のイギリス小説はディケンズに代表されるように、登場人物のキャラクターは明確な輪郭を持っているものだが、この作品の場合はそれがあいまいである。『オリヴァー・トゥイスト』や『白衣の女』のように、騙す人と騙される人、そしてそれを助ける人というように、善人と悪人がはっきり分かれていないのだ。たとえば、スウは意外にも純粋な一面を持っていたりする。
語り手がふたりというのも効果的に機能している。はじめはスウの語りではじまるのだが、もう一人の語り手に変わると、同じ物語がまったく別の様相を呈してくる。
本書はヴィクトリア朝の小説を読んでいなくても十分楽しめるが、この機会に『オリヴァー・トゥイスト』や『白衣の女』を読んでみるのもいいかもしれない。読み比べてみると、二つの作品を基にしながら、本書がいかに独創的な作品に仕上がっているかがわかると思う。
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面白い!
2023/09/25 23:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
パク・チャヌク監督の『お嬢さん』は傑作であり、その原作の本書も当然ながらめちゃくちゃに面白い。映画とは時代も舞台も別物なので映画ファンも小説ならではの魅力に触れてほしい。
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驚愕の第一部
2020/12/31 11:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
この手の海外物は大体が読みにくいと思っていましたが。訳がうまい!掏摸のスーは、リチャードの誘いに応じて、モードを騙して財産を掠め取る手伝いをするために、ブライア城にモードの侍女として生活することに。上巻は2部構成。1部はスーで、2部はモードの視点。1部の最後は驚愕の結末。そしてモードの視点となる2部はモードの葛藤が描かれていて何とも切ない部。これは一気読みです。ウォーターズの作品は初めてでしたが、下巻でどういう結末が待っているのか、楽しみです!
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ポルノ=ポルノグラフィーの定義が「偽善や上品ぶる内面の感情を暴露したものに他ならない。W.アレン」とすれば、この作品、まさしく正統派のポルノである
2004/09/16 13:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作『半身』で披露されたねばねばした隠微な妖しさ、取り繕った表面からは想像できない人間の卑しさが装飾的、技巧的な文体で絡みつくように表現される。
ロンドンの貧民窟、盗品の闇売買を扱うゴロツキの一味、そこで育てられた少女スウ。「紳士」とあざなされる詐欺師リチャードが彼女に頼み込んだのは莫大な遺産を受け継ぐ貴族令嬢・モードをたぶらかす結婚詐欺の助っ人役であった。俗世間とは隔離された辺鄙な城館に住む世間知らずの令嬢モード。陰鬱に閉ざされた城館の主はモードの伯父で常軌を逸した奇矯の持ち主・蔵書家の老伯爵。古色蒼然とした権威だけに支配される使用人たちにおびえながらスウはモードの侍女として入り込み、リチャードが演ずる手練手管を助けてモードの気持ちを結婚へと向けて煽る。さてこの仕掛けがどう展開するかと読者は興味をそそられ、期待通り作者の姦計にはまり二転三転、登場人物には思いがけない運命が待ち受けることになるのだ。ミステリーの常道だがスウとモードの一人称の叙述が交互に織りなされ、心象情景の表面と裏面が対照的に描写される。
舞台はもうひとつ、貴族たちが世間をはばかる身内を隔離しておく気狂い病院が用意されている。貧困の中の猥雑と喧騒(ロンドン貧民窟)、没落の上流階級にある陰湿な狂気とエロス(荊の城)、そして人間性を抹殺する残忍な暴力(気狂い病院)。読み進むと小気味よいストーリー展開があるのだが、難をいえばこの三つの舞台に置かれた女性の心理がひどく微細に描かれ次の展開を期待するものにとってはくど過ぎるぐらいである。
時代はこれも『半身』と同様にビクトリア朝だ。19世紀の第四・四半期は産業革命の成果を収穫する「ビクトリア朝繁栄期」と呼ばれ、イギリスの繁栄が絶頂期に達している。王侯貴族の支配下で新興勢力の台頭、労働者の量産があった。いっぽうで、18世紀からこの時代は「ポルノグラフィーの黄金時代」ともいわれている。ただ、エロティックな芸術作品があふれだすのであるが、人々は性的なものがまったく存在しないように振舞うことを規範にしていた。特に一般の女性は性的なものに無知で子供のように無邪気であるのがいいとされた時代である。著者のモード像にはこの皮肉がたっぷりと反映されている。また表面はまじめな紳士が裏ではポルノグラフィーと娼婦を愛好したものだ。著者は『荊の城』の背景にこの「ビクトリア朝の偽善の道徳」を据えていることに着目しておきたい。
蛇足ながら、もともとポルノグラフィーは一部の王侯貴族や大金持ちのものであった。偽善を偽善とする合理主義の中産階級が勃興し、彼らがおおっぴらに楽しむとはじめて社会問題化するのだが、『荊の城』の時代はちょうどそのころにあたるのだろう。
ミステリーとしてもまずまず楽しめるが、実はエログロにサディスティックが加わる「18世紀の王侯貴族が親しんだ『上品な』ポルノ小説」の風情がある。
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