勧善懲悪と行きすぎた正義
2015/04/21 10:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉を知らない人はあまりいないと思うけれど。でも「本当の江戸の華」は「解き放ち」だと言われていたというのは、ほとんど知られていないのではないでしょうか。その「解き放ち」が本作品の舞台。
御一新が為されたばかりの明治元年。官軍も旧幕臣も未だ入り乱れて混沌としていた東京で、暮れに大きな火事が起きる。木造建築ばかりの当時、火事が起きれば人々はもう逃げるしかない。その火事の中、伝馬町の牢屋敷では「解き放ち」が行われようとしていた。囚人達をそのまま放っておけば、まず間違いなく焼け死んでしまう。そこで「必ず帰ってこいよ」と約束をし、街に一時囚人を放つのが「解き放ち」であった。戻れば罪一等減刑、戻らねばとことん探しだされて死罪。放たれた罪人達は火の赤を身にまとうようにして背を丸め街を走ったことから、「赤猫」と呼ばれた。その実は「火事」を大義名分にしたお上のお情けが、「解き放ち」だったのだ。だからこそ 、「本当の江戸の華」と呼ばれたのだった。
この折の解き放ちの中に、三人の死罪を申しつけられた者たちがいた。一人は官軍兵士を斬りに斬った旧幕臣の旗本侍、七之丞。もう一人は深川界隈の賭場を取りまとめていた壺振りの繁松。もう一人は夜鷹のまとめ役で、江戸三大美女と呼ばれたお仙。三人はそれぞれの恨みを、ここぞとばかりに果たしに街へと走り出す。この三人の意趣返しが物語の骨となるけれど、本当の主人公は実は別。牢役人の、丸山小兵衛がその人。三人は一度は失った命と、その命を賭して意趣返しに向かうのだったが・・・。三人揃って戻れば無罪放免、しかし一人でも戻らなければ、戻った者は死罪。三人とも戻らなければ・・・何と丸山小兵衛が切腹になるという。
それから・・・八年後。関係者にインタビューをする事で物語は進む。一体三人と丸山小兵衛に、何が起きたのか。生き残ったのか、死んだのか。そして最後に明かされた、衝撃の真実。 全てが、ひっくり返る。
勧善懲悪をそのまま行った感のある、読み応えのある一冊。確かに「信」と「義」があり、ぐっとくる。しかし読後にようよう考えると、一体丸山小兵衛は「善と悪」どちらになるんだろうと悩まされる。行きすぎた正義は、時に悪い結果となる事もあるから。
スクリーンで見たい
2023/09/05 10:37
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投稿者:ダタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
上手いな〜。正に職人技。
無駄や冗長なところは一切なく、
読後には深い余韻が残る。
インタビュー形式で物語が進むため
最初少し戸惑うが、慣れてしまえば
一気に引き込まれます。
読みながら、この登場人物は
あの役者に演じさせたら良さそうなど
あれこれ考えるのも楽しい。
誰か、映画化してください!
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ときは、明治元年暮。火の手の迫る伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった訳ありの重罪人たち-博打打ちの信州無宿繁松、旗本の倅岩瀬七之丞、夜鷹の元締め白魚のお仙。牢屋同心の「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪」との言葉を胸に、自由の身となった三人の向かう先には…。幕末から明治へ、激動の時代をいかに生きるかを描いた、傑作時代長編。
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明治初頭、ですね。
大火のため小伝馬町の牢屋から解き放ちになった、ワケありの男女3名。
を、関係者の回想で物語る、と。
主役は、この3人ではないのだな。ジツは。
維新後のなんでもかんでも新しくなる時代と、それに抗ってみる、矜持ある「江戸」の人々。
浅田センセらしい作品。
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早々と結末は見えてしまったが、語りのすばらしさが面白かった。 士官学校教官となった七之丞が生徒の質問に回答した負け組の兵学がしみた。
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まるで横で語り部が語りかけてるような心地よい感覚.和風走れメロスと言ったところだろうか.浅田さんらしい,人情深く,とても面白かった.
以下あらすじ(巻末より)
時は、明治元年暮。火の手の迫る伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった訳ありの重罪人たち―博奕打ちの信州無宿繁松、旗本の倅岩瀬七之丞、夜鷹の元締め白魚のお仙。牢屋同心の「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪」との言葉を胸に、自由の身となった三人の向う先には…。幕末から明治へ、激動の時代をいかに生きるかを描いた、傑作時代長編。
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ーーー時は、明治元年暮。火の手の迫る伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった訳ありの重罪人たち―博奕打ちの信州無宿繁松、旗本の倅岩瀬七之丞、夜鷹の元締め白魚のお仙。牢屋同心の「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人とも戻れば全員が無罪」との言葉を胸に、自由の身となった三人の向う先には…。
久々の浅田次郎
人倫、特に男としてどうあるべきかを書かせたら比類なき作家
明治の御一新で世の采配がめちゃくちゃな中で、「よく生きる」ことを目指した男と女の姿を、様々な語り口で描く。
解説にもあるように、いろいろと仕掛けが施された物語なので、楽しんで読んでほしい。
「いかがか」
「まだまだ」
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赤猫とほ、放火犯の俗称。総じて、火事を指すとのこと。火事により伝馬町牢屋敷から解き放ちとなった博打打ちの繁松、旗本の七之丞、夜鷹のお仙。三人戻れば、無罪。ひとりでも逃げれば全員死罪。
本の解説を読んだときに、太宰治の走れメロスのお話に似ているかと思いましたが、全く違いました。話は、その後から始まり、その出来事に関わった人から話を聞くと言う流れで進んでいきます。逃げた三人も、すっかりひとが代わり、時代の成功者となっている。時代的には江戸から明治にかけて。250年にわたる徳川の世の中が終わり、全ての常識が変わろうとした時代。だからこそ、ヤクザが大財閥の社長になったりできたんだろうなと思います。
殺したいほど憎い相手がいる三人。理不尽のために、辛い目にあうけれど、お互いを近くに感じることで、救われた部分もあったのだろうなとも思う。牢役人の苦労や悲哀もよくわかりました。
初めての浅田次郎さんでしたが、面白かったです。
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博奕打ちの信州無宿繁松 旗本の倅岩瀬七之丞 夜鷹の元締め白魚のお仙 それぞれの牢屋に入った経緯と その後の話より 私は鍵役の丸山小兵衛と杉浦政名の話の方が よかったです お役とはいえ人を切らねばならない立場… 悲しいですよね
さすが 泣かせの 浅田次郎さんです!
「いかがか」
「まだまだ」 (T0T)
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『プリズンホテル』『天切り松闇語り』シリーズおよび『蒼穹の昴』『壬生義士伝』くらいまでは単行本で読んでいたのだが、以降、すっかりご無沙汰となっていた著者。
というのはほかでもない。『プリズン~』『天切り~』は気に入っているのだけれども、なんというか武田鉄矢氏主演の映画やドラマに似た「泣かせよう」臭がだんだん鼻についてきたからである。
で、今回、ストーリーが面白そうだったので久方ぶりに手に取る。やはりうまい。だけどワンパターンに感じてしまう(水戸黄門ファン的にそこがいいのかもしれないが)。
現代の山本周五郎と目してはいるのだが……
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「赤猫」とは放火犯の俗称、総じて火事を指すそうです。厄介な囚人の3人の解き放ち前後の人間性を浅田流の詳細さで調べ、描く。
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読後、すっきり。3人がその後成功したのは、一度死んで命をもらったと思ったからか。本当の主人公はだれか、最後わかった。
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得意の幕末期モノでした。
筋は読めたもののやはりと言うか
最後の盛り上げ方に熟練の技が。
映画になるとすれば西田敏行さんあたりっすかねー。
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おお、これはアタリでした……! ストーリー云々の前に、牢屋敷のシステムや解き放ちのことなど、大層詳しく解説されていて、まずそこに感心するやら感動するやら。
登場人物各々の視点で語られる解き放ちの顛末が、ゆったりとしていながら深みがあって良かったです。
序盤ではさほど重要視されていない丸山小兵衛が、語りが進むにつれて存在感を増していくので、最後の語り手が彼なのだろうと見当をつけていましたが……ううむ、こう来たか。
誰もの生き様も、それぞれに見事です。
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浅田節全開。
長編が多い浅田さんですが、ほどほどの厚みの一冊できれいにまとまっていて完成度が高いなと思いました。
明治元年、火の手の迫る牢屋敷から解き放ちとなった罪人たち。
中でも重罪人とされている三人は、全員戻れば無罪放免、一人でも戻らなければ戻った者も死罪、一人も戻らなければ役人が代わりに腹を切る。
関係者への取材という形は浅田作品ではお馴染みの手法で、スッと物語に入れます。
ちょっと地味だけど、ラストはエンタメとしての驚きも用意されている。
二時間の映画にちょうど良さそう。
「法は民の父母なり」