面白いと思ったのは、大きな出来事や有名人を中心に展開するのではなく、中堅もしくは下層に位置する“間諜”達を浮き上がらせて、それに一般民衆の目線をも加えた視点で描かれている点である。
2016/11/30 01:14
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
壮大な戊辰戦争の記録と言った作品でした。あくまでも創作小説(フィクション)の範疇に入るのだろうが、登場人物や出来事を辿ると膨大な歴史資料に基づいて、史実に従って構成・展開されていることを伺わせる。更に面白いと思ったのは、大きな出来事や有名人を中心に展開するのではなく、中堅もしくは下層に位置する“間諜”達を浮き上がらせて、それに一般民衆の目線をも加えた視点で描かれている点である。加えて、官軍側にも薩摩・長州・土佐の間に過去の恨みつらみがわだかまっていたが、それ以上に奥羽越列藩同盟が旧幕府体制下の悪弊から抜け出せず、過去のしがらみや自藩の利益などから危機的状況を的確に見つめることが出来ないまま自壊していく様子と合わせて、近代戦で重要な役割を果たす“情報戦”“諜報戦”の醍醐味が作品に躍動感を与えていると感じた。
上巻は幕軍・官軍の間諜動きが主体なので、既成の枠にとらわれないその状況に合わせた臨機応変な動きが求められ、更に取り巻く世界も民衆や中堅武士たちが中心なので、物語に広がりがあり面白い。しかし、中巻以降、戊辰戦争が本格化してくると、その主体はどうしても軍隊という集団になり、そしてそれを動かす首脳陣に移ってしまい、何か話のスケールが狭まってしまった感じがまぬがれない。特に、奥羽越列藩同盟側の既成の枠組みから抜け出せない首脳陣の動きはアリャマーって感じであまりワクワクしない。しかし、東北地方(奥羽越列藩同盟中心)での戦争が収束に向かう終盤では、再び主要人物たちが展開の軸に座って来るので躍動感があり著者の本領発揮と言ったところ。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
船戸与一戊辰戦争小説完結編。悲惨な戦争の結末やいかに。一兵士から見た戦争は歴史では語られることの少ない出来事。小説ではあるが臨場はある。
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3巻におよぶ長編であるが故と、作者特有の相変わらずの乾いた描写で陰惨な戦争がこれでもかと描かれ、少々、辟易としながら、最後までぐいぐいと引っ張られるように読み終えることができた。また、結末は会津藩の降伏という約束された結末ではあるものの、教科書などでは戊辰戦役も五稜郭も十羽ひとからげに扱われているが故に歴史としての知識もなく、ここまで詳細な降伏に至るまでの状況を知らなかっので、戦国時代とは違う日本最大の内戦としての歴史を知るという意味においての読後感は消して悪くない。3人の主人公たちが見る雨月の幻に関する解釈は一切ないまま、また、あっけないほど歴史の片隅に消えていく様は、これも作者特有の執着の無さで相変わらずのハードさである。最後に唯一生き残る長州の間者たるものが語る歴史観は余りにも客観的で現代解釈的ではあるが、正鵠を得ているであろう。今のこのタイミングでの発刊は3.11にささげるという意味かと思ったが、その前であったことであったり、某大河ドラマの主人公となっている女砲術師が鮮烈な活躍をするなど、結果として時代の先をいったものになっているのも興味深い。
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会津戦争も鶴ヶ城の戦いで終了。
全体を通すと商品カタログを見ていたような感じだ。
膨大な資料を読み込んで事実のみを書いていった、ということは巻末の参考資料の多さを見ても解るし、作者自身もそのことを述べている。
それでそんな感想を得たのだろう。
戊辰戦争全体を時系列で読みたい、という欲求は充分満たされた。
全体に陰鬱なムードの中で、最後に川崎八重子が見せる輝きは印象的だ。
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船戸氏の本は48作目。これでゴルゴ13のノベライズ3冊(船戸 与一 (著), さいとう・ たかを (企画・原案)) と豊浦志朗名義のルポルタージュ2冊と原田健司名義の1冊、愛知大学東亜同文書院ブックレットの愛知大学での講義(小説ではない)を除けばすべて読んだことになる。その詳細は→
https://takeshi3017.chu.jp/file0/funado.htmlにまとめた。まぁ、あと読むとしたらゴルゴ13かな。本書は独自の船戸史観から戊辰戦争で闘った歴史の敗者達を描くスケールの大きな物語。会津藩士の直情径行な青年士官・奥垣右近、長州藩の潜入工作者で冷徹な観戦武官でもある物部春介、長岡藩の河合継之助に付き従う元博徒で忠実かつ有能無比の下士官像の布袋の寅蔵という3人の架空の語り手を登場させ物語は3方向から進行する。戦争を描いている事もあるがいつも通りの血なまぐさい展開で、思わず目をそむけたくなるようなショッキングな場面も出てくる。これはのちに書かれる満州国演義シリーズでもいえることだが。戊辰戦争というと江戸無血開城でその趨勢がほぼ決まったようなイメージをこれまでは持っていて、その残党の戦いのように思っていたのだが、本書を読むと奥羽越列藩同盟がいかにかたくなに薩長軍に対し抵抗したのかが朧気ながら伝わってくる。奥羽越列藩同盟に加わりながら裏切った藩や、最初から加わらなかった藩、薩長の手柄の取り合い、東西両軍の戦力差・使用した武器の性能の違いなど様々な要因が絡み合い最終的に『会津戦争』の終了をもって本書は大団円を迎える。詳細→
https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou10148.html