紙の本
理知が暴力に打ち勝つ物語
2009/06/02 22:20
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
時は12世紀のイングランド。大聖堂建立を目指す建築職人、より善き神の道を歩まんと教会改革に邁進する修道院長、豊かな生活が一変した伯爵家の娘、そして彼らの仇敵である残虐きわまりない豪族の息子。こうした登場人物たちが切り結ぶ、およそ半世紀にわたる壮大な波乱のドラマを描いた小説です。
日本語翻訳版は上中下3巻合計で、約1800頁。これほどの大作でありながら、「巻を措く能わず」と形容するのがふさわしい見事な作品です。
この物語が展開する中世という時空は、「常に野蛮が支配する」世界。自分たちが暮らす土地の領主の恣意に翻弄され、民衆は吹けば飛ぶような軽い存在です。「つねに貪欲が叡智にまさり」「懼れが憐憫に打ち勝つ」というこの社会にあって、建築職人のトムやジャック、修道院長フィリップ、そして元伯爵令嬢のアリエナたちは、度重なる暴力に打ちひしがれ、完膚なきまでに打ちのめされ続けます。これほど苛烈な人生にあって人は折れてしまうことたやすく、むしろ諦念に身をゆだねるほうがどれほど楽に生きられるであろうことか、そのことに気づかない彼らの姿に読者として茫然とすることたびたびです。
しかし彼らは常に歯を食いしばり、歩き続けることをやめようとはしません。理知が最後には必ず暴力を凌駕すること、それをあきらめることなく信じる。その姿に読者は必ずや強く鼓舞されるはずです。そう、これは遠い中世のお話ではなく、暴力に満ちた現代に生きる私たちの物語なのです。
1800頁の物語が終わりに近づく頃、その先のないことに読者として心さびしい思いにかられたほどです。
しかし幸いかな、1989年に書かれたこの小説に2007年、続編となる新たな物語が紡がれました。ジャックやフィリップたちの時代からさらに250年を経た時代の人々を見つめる「大聖堂―果てしなき世界」。
その世界へと私も歩みを続けることにしようと思います。
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秀逸の群衆劇
2011/03/08 21:33
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鈴子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中世イングランド。舞台や建築、修道院に関する説明が綿密で、興味深く物語を支えています。その上で繰り広げられる愛憎劇の、何と生々しく艶やかで魅力的なことか!
大聖堂が建つまでを追った一大叙事詩は、上中下で微妙に主人公を換えていきます。スポットが当たると誰もが主人公になり、そして誰からも目が放せません。
随所に仕掛けられた伏線が、ラストに向けて収束していくさまも見事でした。読後感もとても良かったです。
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勧善懲悪 大団円
2022/05/10 19:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
大長編の物語も、ある意味お約束どおりの「勧善懲悪 大団円」を迎える。しかし、複数の筋書き 伏線 多数の登場人物を、綺麗にまとめ上げた作者の筆力には、大変に感銘を受けた。この作品を読み終えた後、「大聖堂 はてなき世界」...などの続編も読んでみたが、やはり本作が一番優れている気がする。
紙の本
大ベストセラーに納得
2021/11/03 07:01
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投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
最後はきれいにまとまりました!大聖堂という名がタイトルになっていますが、この時代の人はとにかく信心深い。神を恐ること尋常じゃぁない。だから大聖堂の建設が非常に重要になるのでしょう。最終巻では、アリエナが変われば変わるもので、謙虚で強く、冒頭からまずそこに惹かれました!一方、ウィリアムは相変わらずもはや夜盗、こんなん領主か?などいろいろ思いながら楽しく読め、最終章で、トムの妻が死んだ場所に戻った場面ではなんだかこの長い物語の終着を感じました。世界的大ベストセラーと言われるのも納得の作品でした。
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新建築方式の大聖堂ついに献堂。そして、あっちもこっちも一件落着。カンタベリー寺院の事件も見事にリンク。
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やめられないとまらない。
大河ドラマみたいだ。
アタマの中でキャスティングしながら読めばさらに良し。
この本の悪影響としては、続いて読む本が限りなくツマラナイものに感じられてしまうってコトです。
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上・中・下の三部作で、合計1800ページにも及び壮大な物語。
物語自体も40年以上の年月を書き上げている。
ひたすら大聖堂を立てたい側とそれを阻止しようとする側のヒューマンドラマ。
登場人物が魅力的な人物で、グイグイ物語に引き込まれてノンストップ。
1週間で読みきりました。
典型的な勧善懲悪の物語ですが、俗人的な修道僧などが出てきてくどくない。
さらに、ロマネスクからゴシックへ建築スタイルが移り行く時代の流れも知ることができる。
ヨーロッパに行く前に読んでおけばよかった・・、と思わされた一冊でした。
ホント、お薦めの一冊。
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超大作!いつもはこれくらいの大作で名前が外人だと忘れてしまうのだけど、分かりやすくてスイスイ読める。しかも魅力ある人物ばかりで楽しく読めた。お勧め!!
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人の強さ。キリスト教の説教臭い感じがしなくもないが、それ以上に泥臭く全力を尽くす登場人物たちに真摯な姿勢を思い出させてもらう感じがした。神がすべてを見ていてくれる。この前提で最高に元気をもらえる小説だと思う。私がイメージするキリスト世界の美そのものなエンディング。(070202)
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ついに大聖堂が完成する
しかし問題はまだまだ残っていた・・
激動の51年間に幕が下ります
傑作です、こんな綿密な話は滅多に無い
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2009年5月23日読了。
長かった。
色々な人生が錯綜してて面白かったです。
中世キリスト教徒の世界観というかものの考え方が面白い。
どんなに悪逆非道な事をおこなっても、教会から赦免がもらえればオッケー、天国に行けます・・・みたいな。
最後はハッピーエンドではあるのだけど、ちょっとご都合主義的だったかな。
でも、あの時代の歴史にちょっと興味わきました。
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少し前に続編が出たらしく本屋で平積みにされておりました。興味はあったんですがなんせ分厚い上・中・下巻だしなあ〜と購入までにいたらなかったのですが少し前に古本屋で発見。これはと思い買おうとしたら上・中巻のみ。…まあ下巻は面白かったら買いましょう、ととりあえず2冊だけ買って帰りました。
この間旅行に行った際、読み始めようかな〜と上巻を持って出かけたら… なんと!カバーは上巻。中身は中巻。
…あの時家に帰って中が2冊だったらどうしようと本当に思いましたよ…
本に全然関係のないことばかり書きましたが感想は本当に面白かったです。
読みだすまでに少し時間がかかったのですが読み始めたら早かったですね〜 一日一冊ペースでぐんぐんと。なんせ登場人物が個性豊かで面白い。そんな登場人物達に襲いかかる災難と策略の数々。…悪い人は最後まで悪い人で…ある意味安心出来るんですよね。あ、またこの人出てきたから何か悪いことが起きるな、みたいな。
でもきっと最後はハッピーエンドだろうと信じて読んでおりました。
登場人物は作者のつくったキャラクターでしょうが実際大聖堂が建てられるまでに色々な物語があったのだろうなあ、と思います。
自分もイギリスに行った時にカテドラルを拝見させていただきそのあまりの荘厳さと優美さに圧倒された思い出があります。DCのキャシードラルも素晴らしかったですがイギリス旅行の際は合唱団と一緒に行ったこともあり、聖堂で合唱させていただいたことはものすごく良い体験をさせていただいたな、と思います。はい。
外観も圧倒されますが中に入るとステンドグラスの美しさに日頃信仰心なぞほとんどない自分も何か恐れ多いものを感じる気がしました。こんな大きな、雄大なものを作らせる信仰心ってすごいものだな、と素直に関心した覚えがあります。この話を読んでそんな感覚をつらつらと思いだしました。
お話の軸は宗教や信仰よりもいかに大聖堂の建立が困難だったか、ということとその時代に生きた人々の物語なのでキリスト教やイギリスの歴史に興味のない方でも楽しめると思います。(かくいう私もあまり…興味はなかったです、ハイ)
次のシリーズも買おうかなあ…と考えております。
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ジャックの父親が殺された理由が、いよいよ明らかになる。そこには英国史もちょっぴり絡んでくる。上・中・下とも厚めの本だけれど、ぐいぐいと引き込まれて読み進んでしまう力のある作品だった。外国で何気なく見ていた大聖堂だけれど、今後はじっくりとアーチや彫刻、柱がどこへつながってるかなどを観察して楽しめそう。ロマネスク建築からゴシック建築への変化の過程も、少し知ることができた気がする。
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「大聖堂」完結です。
すべてが、おさまるところにおさまっていく様の気持ちいいこと。
そして、それでも、これでもかこれでもかと続けていく力強さ。
まさに、小説。
物語の魔法が味わえます。
養老 孟司の解説以外、すべてが素晴らしいです。
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読了~・・・バタリ。
堅牢な小説の最後はとても軽やかに締めくくられていました。
「オヤ?」と思いつつ、あとがきで作者が残したかったのはハコモノではなく消えてく側のものだと納得することができました。
形のないものを納める場所だからこそ、堅牢なつくりが必要なのだな~と。
しかしカタカナの名前は覚えにくい・・・そこがネックだな