「民族というものは虚構によって支えられた現象である」という、私たちの常識を覆してくれる一冊です!
2020/04/10 13:12
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、民族の構成のメカニズムを血縁や文化連続性、記憶などの精緻な分析を通して解明し、それが虚構によって支えられた現象であることを説く、まさに私たちの常識を覆してくれる一冊です。同書において著者は、「民族は、虚構に支えられた現象である。時に対立や闘争を引き起こす力を持ちながらも、その虚構性は巧みに隠蔽されている」と説き、続けて、「虚構の意味を否定的に捉えてはならない。社会は虚構があってはじめて機能する」と主張しています。そして、こうした知見をもとに、開かれた共同体概念の構築へと議論を展開していきます。同書の構成は、「第1章 民族の虚構性」、「第2章 民族同一性のからくり」、「第3章 虚構と現実」、「第4章 物語としての記憶」、「第5章 共同体の絆」、「第6章 開かれた共同体概念を求めて」、「補考 虚構論」となっており、興味深いです。
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タイトルからは想像もつかないほどに深い、良い本だった。
イデオロギーに利用されるもろもろの概念は「虚構」であって、「民族」という概念もまたそうである。
この概念はどこから生成してくるかというと、著者は「範疇化」という言葉を使って説明する。
「範疇化によって複数の集団が区別され、民族として把握される。同一性が初めにあるのではなく、その反対に、差異化の運動が同一性を後から構成するのである。」(p.29)
自己の集団への愛着・贔屓や、差別といったものもすべてこの「範疇化」によって生まれてくる。
そして、厳密にはものとものとはあらゆる点にわたって差異を持っているのであって、たとえば「黒人vs.白人」という2極化にしても、よく見れば鼻や眼の形等々の細かな個人差を捨象して、肌の色という一点で「範疇化」が行われているに過ぎない。ここに「虚構」が存在している。
しかしこうした「範疇化」「虚構」は人間の思考には是非とも必要なものなので、それを廃絶することはできない。虚構はうまく機能していないといけないから、常に虚構性は隠蔽される。
さまざまな知識を動員して、じっくりとした論調で著者はこのような「虚構」を分析していく。その過程が実に知的で、おもしろい。
さらに「常に情報交換していなければならない人間という存在」
「『意志』の意識は、行動を無意識に決定した少し後からおくれてあらわれる(これはノーレットランダーシュの『ユーザー・イリュージョン』にも書いてあった実験的な事実だ)」
「多数派ではなく、少数派が集団に対しより深層に及んだ影響を与える。社会の真の変革は少数派によってのみ可能である」
といった、実に興味深い話題も盛り込まれている。
こういう大変おもしろい本が埋もれてしまうのは惜しい。ドゥルーズなんか読むよりもずっと刺激的なのではないだろうか。
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【由来】
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【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】
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民族紛争や平和構築の分野に興味があり、そもそも民族とは何なのか、といったところから手に取った書籍。
民族とは主観的範疇であり、また、民族への同一性は「自らの中心部分を守っている感覚」であるという論旨は興味深く、勉強になった。
一つの都市に二つの民族が同居し生活区域から学校まで別々である地域に訪ねたことがある身としては、民族同一性の維持が異文化受容を促進するという論旨自体は、納得しきれない部分もあったが、全体的にはやはり面白い。
小坂井氏の他の書籍にもあるが、道徳や規範は、共同体内の人々の相互作用の沈殿物であるから正しいと形容されているに過ぎず、虚構である、という論旨は強烈である。
現在世界で叫ばれている正義について、今一度距離を置いて考えるきっかけをくれる。
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全て飲み込めてないが、ひとまず
私の卒論の結論と、重なるところがあって、運命だーと思って、引用するー
私たぶんこの方の本好きそう。面白い!
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個人ー集合を連続させるものとして、人間という生きものの思考や認識の仕方そのものなどから、「虚構」といういわばシステムを洗い出し、ひとつずつ紐解いてゆく論著に感じた。人間存在の目は生まれつき脳によって「事実と異なってもその前後と連続する記憶」と事実をすり替えやすい構造を待ち、さらには育った集合によって、どうしてもバイアスがかかってゆく。しかしその錯視こそ、集合体をそれたらしめるものであるとのこと。個人的には、「前世代の戦争責任を後の世代が負う責任はあるのか」の章がとても興味深かった。共同体に属することによって利を得ている以上、その共同体の連続に(良しにしろ悪しきにしろ)寄与してきた過去の責任は構成員に受け継がれるだろう、というのが私の読んだ所感で、これはわかりやすかった。
ただ、その「虚構」によって構成される集合体そのものが、お互いに補完しあってまとまる様子から、霊的なものを「役割」に還元してある意味排除してしまうのは、ごく個人的な感想ではあるが、わかりやすくてももやもやが残る。
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筆者の本を読むのは10年ぶり,自分の美意識と完全に嵌るまごうことなく最高の本だと思う(というか10年前に筆者に影響されて今の感覚がある気さえする)が,だからこそこれをそろそろ切り崩す必要があると感じる
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2022.3.25市立図書館
ウクライナをめぐる問題に世界が揺れる今あらためて読むべきかと思って借りた。
人種や民族といった概念は恣意的なラベルでしかないこと、古今東西の実例をあげて説明される差別や迫害の生まれる理由はひじょうに腑に落ちる。
ロシアによる暴力的な侵攻はまったく許しがたいものである一方で、「民族(国家)」に価値を置きすぎることにも違和感というか危うさを感じずにはいられない理由がここにあると思った。