紀行が苦の最新成果を駆使して、人類の興亡史を鮮やかに描き出した傑作です!
2020/07/01 12:00
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、イギリス生まれで、アメリカ・カリフォルニア大学サンタバーバラ校の人類学名誉教授であるブライアン・フェイガン博士による興味深い一冊です。同書では、「地球は15000年前、氷河時代を終えて温暖化を迎え、人類は<長い夏>に育まれてきた」と述べられています。絶えず変動する気候に翻弄されながら、古代文明はいかにして生まれてきのか?また滅びたのか?同書では、気候学の最新成果を駆使して、その興亡史を鮮やかに描き出した興味深い作品となっています。同書の内容構成は、「もろくて弱い世界に足を踏み入れて」、「第1部 ポンプとベルトコンベヤー」、「第2部 何世紀もつづく夏」、「第3部 幸運と不運の境目」となっています。
気候変動科学で探る、先史時代から歴史時代まで一気の人類史。最高に面白い。
2017/07/06 20:49
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投稿者:たまがわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本はすごい。
氷河期時代のクロマニョン人(現生人類)の暮らしを想像豊かに美しく描き、そして
歴史時代の人びとの暮らしまで、連続して流れるように描いていく。
気候変動と大きな歴史、農耕や牧畜の始まり、文明と都市の誕生と衰退、人びとの生活の様子などを、
中東、ヨーロッパ、南北アメリカなど中心に描いていく。
第2章 氷河期時代末期のオーケストラ 一万八〇〇〇年~一万五五〇〇年前
第3章 処女大陸 一万五〇〇〇年~一万三〇〇〇年前
第4章 大温暖化時代のヨーロッパ 一万五〇〇〇年~一万三〇〇〇年前
第5章 一〇〇〇年におよぶ干ばつ 紀元前一万一〇〇〇年~前一万年
第6章 大洪水 紀元前一万年~前四〇〇〇年
第7章 干ばつと都市 紀元前六二〇〇年~前一九〇〇年
第8章 砂漠の賜物 紀元前六〇〇〇年~前三一〇〇年
第9章 大気と海洋のあいだのダンス 紀元前二二〇〇年~前一二〇〇年
第10章 ケルト人とローマ人 紀元前一二〇〇年~前九〇〇年
第11章 大干ばつ 西暦一年~一二〇〇年
第12章 壮大な遺跡 西暦一年~一二〇〇年
エピローグ 西暦一二〇〇年から現代
この目次を見てもらえれば分かるように、先史時代から歴史時代まで、
連続して記されているのが、本当にすごいと思う。面白かった。
教科書的な大きな歴史というより、人びとの暮らしぶりや都市の盛衰などについて、
気候変動と絡めて描かれている。
そして、過去の気候変動に関する研究が発展した現在でしか書けない本だ。
原書の題名は "The Long Summer:How Climate Changed Civilization"で、
なぜ「長い夏」かというと、過去数十万年間、地球は振り子のように寒暖を繰り返してきた。
氷期は暖かい間氷期よりもずっと長く続いた。
一万五〇〇〇年前に始まった温暖化は、その継続期間や安定性、温暖化の度合い、温室効果ガスの濃度において、
それまでの数十万年間に記録されたあらゆる数値を上回っているという。
文明は驚くほど長い夏のあいだに誕生した。
その夏がいつ、どのように終わるのか、われわれはまだ何も分かっていないという。
本書の問題意識や扱っている題材は、ジャレド・ダイアモンド著の『文明崩壊』と近く(原書の出版は
「文明崩壊」の原書出版より少し早いようだ)、
著者は、人類は長期および短期の気候変動にいっそう脆弱になったのだという。
『頻繁に起こる小規模な気候の脅威から身を守ろうとして、われわれはむしろ稀にしか起こらない
大きな災害にたいして、いっそう無防備になりつづけているのである。』という。
同じ著者による『歴史を変えた気候大変動』は、主に中世ヨーロッパの小氷期について書かれた本でこれも面白かったが、
こちらの『古代文明と気候大変動』の方は、より長い期間、より広い範囲について扱っていて、こちらの方が断然面白かった。
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氷床や海底のコアを用いた昔の気候の再現は定量的であるものの、それに基づく各地の古代文化の盛衰の記述は推測によるところが
多すぎる上に事実や定説との分離がはっきりしていない。しかしそれゆえに著者の想像力による生き生きした人々の営みの再現を容易に
追体験でき、現代文明への警鐘も情緒的な部分での強い説得力を持っている。
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評価の高い本書だが、通して読んでいるとやや事象の羅列的な感じがして、「人類の運命」というほどの大テーマは今一つ伝わらないが、最終氷河期に、ベーリング陸橋から人類がユーラシアから北米大陸に渡った話や、黒海洪水説の辺りは、想像力を刺激された。
ただ、人間の営みは気候変動によって巨大な影響を受ける、という当たり前の事は、よく理解できる。必読とまでは思わないが、読んで損は無いと思う。
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二度目の読了。
人類はかつて、気候が悪化すれば住みやすい場所を求めて移動し、よい時代が戻って人口が増えれば、さらに新たな場所を探し求めて移っていった。
しかし氷河期後の急速な温暖化を契機として狩猟生活から採集生活、そして農耕が始まり、その後は灌漑設備や都市を建設して生産性を高め、短期の干ばつや特別な豪雨など、頻繁に起こる小さな災害への抵抗力をつけながら、その土地の環境収容力ぎりぎりまで人口を増やした。
そして大きな気候変動が起きたときにはもはや対応しきれずに文明が崩壊し、多くの人が死に絶え、生き残った者が各地へ離散していった。
本書ではヨーロッパ、西アジア、北アフリカ、南北アメリカを中心に、様々な古代文明の盛衰が気候変動の状況と共に描写される。
この本の着眼点が素晴らしいのは、世界のいかなる文明も、短期的な気候変動には対応できたが大きなものには対応できなかったというところ。
よく古代文明を紹介する際に「彼らは環境を生かして繁栄しました。現代に生きる我々もお手本としましょう」というような言葉が登場するが、結局かの文明もその環境自体の変動により衰退したのである。
原著が出たのは2004年、訳書が出たのが2005年。著者と訳者はその時関心が高まっていた地球温暖化を念頭にコメントしているが、大震災と原発事故を経験してしまった今の日本に住む自分としては、その辺りも考えながら読まずにはいられなかった。
古代中国、日本、東南アジアについての記載がないのはちょっと残念だが、類書を探す楽しみにする。
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気候の変動が文明の隆盛に与える影響を、実際に旧大陸と新大陸の各地の文明が歩んだ道を追いかけながら考察する本。地球の気候が移ろいやすいこと、そして文明は適切な環境なくしては存在しえないことがよくわかる。気象学的な知識をある程度前提としているので、予備知識のない人には読み通すのは辛いかもしれないが、興味のある人にはぜひおすすめしたい一冊だった。
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全世界で温暖化・寒冷化・旱魃・洪水などが同じように起きるわけでもないし、昔からちゃんと気候を記録してきたわけでもないので、どうしても推測になる所が大きいのはやはり難点。
要約
温暖・湿潤→人口増→文明発展→旱魃→(短期的であれば技術革新で克服)/(長期になると文明崩壊)
例
BC2000年頃のメソポタミア
BC2000年頃のエジプト(旱魃によりナイルの洪水が縮小、洪水を起こして肥沃な大地を作っているとされたファラオの権威失墜)
BC1200年頃エジプト(穀物を蓄えるようになっていて自分たちは大丈夫だったが、外敵が侵入してきて戦争に)
AD800年頃のマヤ(800~1000万人もいたらしい。直前まで湿潤化していて人口増・都市化(人口密度200人/km^2。今のイタリアと同じ)→旱魃→文明崩壊、小規模共同体社会へ。共食いのあとも)
グリーンランドの氷床が解け、メキシコ湾流が止まったら、ヨーロッパは極寒の地に
20世紀は史上稀にみる恵まれた気候だった
気候大変動に対して人類は無力であり、場合によっては人口が半減するくらいの事態になりうる(というか少なくとも文明が崩壊したことは何度もある)
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近年、地球温暖化が叫ばれ、確かに毎年、異常気象が発生し、我々の肌で直接感じられるまでになってしまった。その一方で、実は、温暖化に対する科学的根拠は十分に得られておらず、むしろ長いスパンで考えると実は地球は寒冷化に向かっているとの主張も存在する。
いずれの意見が正しいか、はっきりと結論づけるのは難しいしかし、現在の温暖化の直接の原因を作ったのは、人類であることは明らかである。(現在の温暖化の期間の長さ、程度の著しさ、などから、温暖化は確実に進んでいる説に筆者は支持している)。
そして、問題なのは人類の生活規模が今まで経験したことのないほど肥大化し、身動きできない状況にあることについて、これまでの人類史を地質学から明らかにされた気候変動の歴史と比較し、著者は現在の状況に警鐘を鳴らしている。
さて、私は、実のところ本書をまだ3章しか読んでいない。。(ヨーロッパ→シベリア移動、シベリア→アメリカ大陸移動)
しかし、大事なことはさきほど述べた、人類規模の肥大化になるだろうと思う。
私が読んだはじめの3章は、まだ狩猟のみで生活していた時代について書かれている。この時代は、まだ、生き延びるために、食物を求めて、常に移動していた。それはまさに野性動物と同じである。
そして、彼らの生活に気候変動はもろに影響を与えた。冬が来れば温暖な地域を求めて移動し、夏が来ればまた別の涼しいところを求め動く。(本書では、この様相をポンプに例えている)
しかし、彼らはごく小規模で集団を形成していたため、別の集団に会うこともなく、広大な土地を我が物のように移動することができた。
一方、現在の地球は、既にあらゆる地域に人々が住みついてしまっている。もう移動はできない。パンク状態だ。
そして、各集団はありえないほどに肥大化している。すると、柔軟な対応ができず、気候変動といった災害に対し非常にもろくなる。具体的にどうもろいかは、今より小規模とはいえ、本書に記される歴史が教えてくれるだろう。
(まだ読んでいないが、) 本書は、これから、農耕文化の時代に突入していく。その後、より高度化していく中で翻弄され続けた気候変動を解説していくことになると思う。もう、好き勝手に移動だけすればよかった時代ではなくなる。そういった時代の人々が、気候変動に対して、どのように対処し、または対応できずに滅びていったか。この後の展開が楽しみだ!
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人類と気候の関係を、主に1万年以上前のいわゆる原始時代から紀元後1200年あたりまでの古代文明と呼ばれる文明が栄えた時代を通して考察している。気候という跡の残りにくいものを対象としているため、かすかな形跡から想像力豊かに何が起きたのかをシミュレーションしている。気候の変化に対する防御策として中央集権化と土地の組織化が行われたという指摘はなかなか面白い。また、気候変動に対向するために集団を大きくしたことが却って気候変動に対して弱点をさらけ出す結果になっているという指摘も興味深い。
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近年、地球温暖化が一層の深刻を招き、温室効果ガスについての情報も広まっていったが、この本を読んでいかに地球が気温の変化を受けて現代に至るかがよくわかった。毎日を当たり前のように過ごしているが、20世紀から現在にかけて、地球の歴史から見て比較的気温は安定しているのである。我々の祖先は、過去7〜8万年の間に少なくとも9回の氷期をくぐり抜けてきたことが今日まで判明している。
よって、現在の温暖化は地球の気候変動のはてない自然のサイクルの一部なのだと主張する人もいるそうだが、著者は過去150年間の地球温暖化は、過去1000年におけるどの温暖化の時代よりも長期に渡っており、それは一部には我々人類の活動ゆえに引き起こされたものだと考えている。人間と自然環境および短期の気候変動との関係は、常に流動的であったのだ。
気候の変化が寒暖、乾湿をくり返して大きく変化してきた間も、人類はどこかで生きていた。その間ほぼずっと、気候が悪化すれば、住みやすい場所を求めて移動し、よい時代が戻って人口が増えれば、新たな場所に移っていくという暮らしが続いた。しかし、およそ12000年前に農耕が始まって以来、やがて一つの土地に定住するようになった。こうして文明が始まるのだが、増え続けた人口がその土地の環境収容力を超える日がやってくる。そこで大きく気候が変動すると、もはや対応しきれず、多くの人は死に、生き残った者は各地へ離散していくのであった。
気候の変動は、人類が温室効果ガスを増やそうと増やすまいと、いずれ必ず起こる。人間は自然とともに生きるしかないことを、より多くの人間が理解することがまず大切なのである。
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古代文明に大いに影響を与えた気候変動の様子がとてもわかりやすく書かれている。単なる歴史としても、古代の様子を明らかにした技術解説としても、昔々の物語としても読めて面白い。
ネイティブ・アメリカンの口承史たる「一万年の旅路」にあった、ベーリング海横断のくだりがどうも腑に落ちなかったが、氷河期には海面降下していて陸続きだったとの話は、長年の疑問が氷解した。
年表が便利。
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地球は一万五〇〇〇年前、氷河時代を終えて温暖化を迎え、人類は“長い夏”に育まれてきた。絶えず変動する気候に翻弄されながら、古代文明はいかにして生まれ、滅びたか。気候学の最新成果を駆使し、その興亡史を鮮やかに描き出すとともに、洪水や干魃などの大災害に対する現代文明の脆弱さに警鐘を鳴らす
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2008年(底本05年)刊行。著者はカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校人類学名誉教授。環境考古学の観点から人類史を纏め、現代社会への警鐘をも加味した書を刊行し続ける著者。本書は、旧石器時代を中核に、エジプト、メソポタミア(シュメールからアッカド王朝も)、ローマ帝国とケルト人、中南米のマヤ文明とプレ・インカたるティワナク文明等、広範囲に叙述。エジプト古中新の各王国の大まかな変遷、あるいはアッカド王朝成立過程を環境面で切り取る等、無味乾燥になりがちな古代史もなかなか興味をそそる。が、やはり旧石器時代。
ジャレド・ダイヤモンドが森林保全を高らかに唄う一方、B.フェイガンは、生活圏における人類の増加(人口密度の稠密化)を問題にするように感じた。大きく一般化すれば(多少の地域・時代的差異はあるが)、植物性食物の経年的利用の可能(ドングリ等の堅果類から小麦等の穀物へ)→定住化と人口増→都市の形成→環境変動への脆弱化→乾燥(要因は多々)→都市の巨大化→支えきれない乾燥→崩壊へ、というシナリオが其処彼処で見られたということを指摘していく。「増えすぎた人口を…移民させる」で始まるフィクションが現実に必要とも思えそう。
本書に限らず、欧米の最近のサイエンス・ドキュメンタリーで地球温暖化が起こっていないことを前提とする番組は見ない。本書も人為的な温室効果ガス(CO₂よりもメタン)増大を環境負荷の大きな要因とし、温暖化→各地域における環境変動偏差の増大が、人類に与える影響に警鐘を鳴らす。温暖化が生じていない等の言説が一部あったが、グリーンランド氷床の消滅→大西洋深層海ベルトコンベアーの機能不全の懸念に想いを致せば、安穏な言い方が良くもできたものだ、とも。
ところで、本書にもあるようにメタンの温室効果が絶大であり、この放出が進んでいるとの情報がある(記憶違いかもしれないが、温暖化によるシベリア永久凍土の解凍により)。そもそも、かつて地球で起きた大量絶滅の要因として大気中のメタン濃度の増大があったと聞く一方、メタンを主成分とするメタンハイドレードの採掘を、日本の未来のE源として手放しで礼賛し推奨する動きがあるとも。手放しではなく、かかる環境負荷の懸念を払拭する対応策等、関連情報の開示の必要性を強く思う所以。
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邦題には「古代文明」とありますが、内容は1万5000年前の最終氷期末期から現在までの気候と人類の歴史といった、より壮大な内容です。著者は人類学者なので、気候変動に対する人類の対応(衰退や移動を含む)の方に視点が置かれています。
氷期から後氷期に移行した際に大型動物が消えたために植物性食料に依存するようになったこと、ヤンガー・ドライアス期の厳しい旱魃が穀物の栽培を促したこと、約5800年前以降の乾燥化がメソポタミアに都市が生んだこと、紀元前300年頃に地中海性気候がヨーロッパ北部まで広がったことがローマ帝国拡大の背景にあったことなど、人類の歴史と気候変動が深く関係していることが論じられています。その一方で、干ばつによって飢饉に見舞われたり、民族が移動して混乱したり、文明が崩壊したりも繰り返されました。
現代の人口の増大といった「繁栄」の裏には、長期的な変動に対して脆弱になっていることや、地球の変動にいかに適応するかが重要であることがわかります。ボリュームがありますが、内容が詰まっており、とても読みごたえがある本です。
第1章
・BC6000年頃、ウルの近くで最初の村が出現
・BC3800年頃、インド洋のモンスーンの進路が南方に移動し、降雨のパターンが変わった
・BC2200年頃、北方で大規模な火山の噴火。278年にわたる旱魃が始まる。アナトリア高原の雨量が激減し、メソポタミアが氾濫しなくなった。ユーフラテス川北部のハブール高原が乾燥し、アモリ族の牧畜民が川沿いに南下、ウルへ侵略した。BC2000年、シュメール人の数が半数以下に減少した。
第2章 更新世のヨーロッパ
・ヴォストークの氷床コアは、33万5000年前、24万5000年前、13万5000年前、1万8000年前に氷期から温暖期に移行したことを示す。氷期から温暖期に移行するたびに、大気中のCO2濃度は180ppmから300ppmへ、メタン濃度は320〜350ppbから650〜770ppbに増加(原因は不明)。
・約10万年前、北方で気候が寒冷化して北アフリカが乾燥。現生人類が南西アジアの洞窟に定住。ネアンデルタール人とともに5万年間暮した。
・4万年前、新人が西ヨーロッパの渓谷に定住。以降1万年の間、ネアンデルタール人は徐々に数を減らし、3万年前以降、クロマニョン人がヨーロッパを支配。
・1万5000年前、温暖化が急速に進み、洞窟の壁画の目的と考えられる儀式が廃れた。氷河時代のマンモス、バイソン、ホッキョクギツネ、トナカイなどが北方に移動。カバノキなどの落葉樹の森が広がった。一部は獲物を追って北に移住し、残った集団は植物性食料に依存するようになった。
第3章 更新世末のシベリア・北米
・北大西洋の海山堆積物コアの中に細かい石の交じった層が6層あり、7万年から1万5000年の間、7000〜1万年おきに氷山が大量に流出したことを示す(ハインリッヒ・イベント)。氷河の淡水が大量に注ぎ込まれたことにより、メキシコ湾流の温かい水の循環を停止させ、寒冷化をもたらした。最後のハインリッヒ・イベント(H1)は、1万5000年前。
・ペンシルヴェニアに、BC1万2550〜BC1万1950年頃の集団の痕跡。BC1万2000〜BC1万1800年に、チリ南部の定住地。北方から来たパレオ・インディアンの人口は、1万3500年前以降、氷床の南側で急速に増加した。
・大型動物の過剰殺戮論への疑問:クロービヴィス人によるマンモス狩りの現場は12か所のみで、アリゾナ州に偏る。クローヴィス尖頭器の出土が集中するアメリカ南東部は樹木の多い地域で、魚や軟体動物、種子、小型の動物の骨なども発見されている。大型動物は、水の豊富だった地域が乾燥したために死んでいった。
第4章 更新世末のヨーロッパ
・BC1万4000〜BC9500年の間に、マンモス、ケサイ、オオツノシカなどが姿を消した。狩猟の対象が小型動物に移行した。
第5章 ヤンガー・ドライアス期
・BC1万3000年以降、イラン東部、ヨルダン川流域などにドングリが実るオークの森が広がった。
・BC1万1000年頃、イスラエルのケバラ人は食用植物を常食するようになった。ケバラ人の子孫ナトゥフ人は、ドングリとピスタチオの保存・加工のために定住し、刈り入れ用の鎌や、木の実を砕くための擦り石と擦り台を用いた。マハラ遺跡は1000m2。シリアのユーフラテス川流域のアブ・フレイラでは、BC1万1500年頃から定住。
・BC1万1500〜BC1万600年の間に、北米大陸の中央部にあったアガシー氷河湖の水がラブラドル海に流れ出し、1000年間にわたってメキシコ湾流の流れを止めた。
・BC1万年頃、肥沃な三日月地帯で、ライ麦、ヒトツブコムギ、レンズマメの栽培が始まる。ヤンガー・ドライアス期の厳しい旱魃が引き金となった。
・BC9500年頃、メキシコ湾流が再開。アブ・フレイラで日干しレンガでできた家が建てられ、穀物の栽培にほぼ全面的に依存した。BC9000年頃、ガゼルの狩猟からヤギとヒツジの飼育に変わった。
第6章 完新世初期
・BC6200年頃、ローレンタイド氷床の融解水がメキシコ湾に流れ、海のベルトコンベアーの動きを鈍らせたため、BC5800年までの400年間、ヨーロッパは寒く乾燥した。
・BC5800年以降、ギリシア北部とブルガリア南部の肥沃な土地で農業が始まる。
・BC5600年頃、地中海の水位が上昇してエウクセイノス湖を氾濫させ、黒海が形成された。
・前5000年紀までに優良な耕地は占有され、新たな土地への進出が始まった。
・BC5000年には巨大な氷床はほぼ消滅し、気功と海面水位は安定した。
第7章 中東の初期文明
・BC1万〜BC4000年の間、夏の気温が上がり、降雨量が増えた。
・BC5800年頃、メソポタミア南部にウバイド人が定住。
・BC5200年、人口は2500〜4000人になり、多くは他の人が生産した食料で暮らすようになった。かつてのシャーマンや霊媒師が神官となった。
・BC3800年頃から1000年間、気候は乾燥化し、アナトリア高原の降水量が激減した。水を管理しやすい川から運河が分かれる地点には、人口が密集するようになった。
・旱魃が厳しさを増したBC3500年頃、ウルクは大規模になり、灌漑システムは10km四方に広がる。二期作が始まり、専門職が増え、近隣部族からの防衛が重要となった。指導者によって灌漑工事が監督されるようになり、穀物の収穫高と在庫を記録する官僚が登場した。
・BC3200〜BC3000年、急激な乾燥化と寒冷化。メソポタミア南部に多数の都市国家が成立。世俗の指導者、宗教指導者、ジッグラト。
・BC2334年、アッカドがシュメールの連合軍を破���、バビロンの南にアガテ王朝を設立。
・BC2200年、どこか北方で火山が大爆発し、278年間の旱魃が始まった。BC2184年から150年間、ナイル川の氾濫が小規模になり、エジプトは飢饉に見舞われた。BC1900年以降、降雨が以前の季節パターンに戻った。
第8章 エジプトの初期文明
・砂漠は熱帯収束帯(ITCZ)の動きにあわせて変化する。2万年〜1万5000年前、サハラはきわめて乾燥。BC9000年以降、熱帯収束帯が北に移動し、サハラの中央部と南部で雨季が回復した。BC8000〜BC5500年頃、東アフリカとサヘル一帯で降水量が増加。BC2550年頃まで、砂漠に多数の淡水湖があった。
・8000年前、アルジェリアのタッシリ・ナジェールで、水牛、ゾウ、サイなどの動物が描かれた。BC3500年以降、壁画から水牛などが消え、牛が登場する。
・BC5500年までに牛が家畜化された(BC7500年の可能性あり)。
・前5000年紀の初め、ナイル川流域にバダーリ人の居住地が広がる。
・刻画のファラオが羊飼いを象徴したり、帯状装飾(フリーズ)に雄牛の尾をベルトにつけたファラオが描かれたり、ナルメル王のパレットで王を象徴する雄牛が敵を踏みつける様子は、エジプトの信仰の起源が砂漠にあることを示唆する。
・BC4000年以降、サハラが乾燥化。BC3800年以降、洪水時の水量が激減した。ナイル上流では農業人口が増加した。
・BC4000年には、ナイル川沿いに小さな集落が並んだ。土手が築かれ、排水路が掘られ、氾濫する土地が干拓された。神官や商人が登場。
・BC3600年には、城壁で囲まれた町になり、日干しレンガでできた家が並んだ。
第9章 中期文明(4000〜3200年前)
・BC1200年頃、東地中海は旱魃に見舞われ、ナイル川の氾濫水位が下がった。
第10章 後期文明(3200年前〜)
・BC1159年にアイスランドのヘクラ火山の噴火による層が見られる。
・BC800年頃、ヨーロッパの気候は寒冷・湿潤化した。BC850年に、太陽の活動が弱まり、宇宙線の放射が増えて、大気中の14Cが増加した(1645〜1710年のマウンダー極小期にも起きている)。
・BC9世紀、ステップの気温が下がり、乾燥化した。BC8世紀、モンゴルのステップの旱魃により、遊牧民が中国、ドナウ盆地、ケルト世界の東部に侵入した。
・BC300年、大陸性と地中海性の気候帯の境目(移行帯)が北に移動し、ケルトの領域まで地中海性気候が広がった。BC2世紀半ばに西地中海の支配をローマがギリシアから奪った。
・AD500年、移行帯は北アフリカに南下。西ヨーロッパ一帯は冷涼・湿潤になり、ガリア全域で穀物の栽培が困難になった。
・AD535年、全世界で寒冷・乾燥化した記録が見られ、過去2000年間で最も急激に変動した(火山性の硫酸の層が堆積しており、大規模な爆発があったと推測される)。アヴァールの遊牧民が西方に移動し、ハンガリーに建国した。
第11章 紀元後の北米
・500〜800年、980〜1250年、1650〜1750年は、厳しい旱魃に見舞われた。
第12章 中南米の文明
・600年には、マヤの低地に王国が乱立。
・崩壊直前の800年には、800〜1000万人が低地に暮らす。
・BC125〜AD210年にユカタン半島で旱魃発生。大規模な居住地が各地で放棄された時代と重なる。750〜1025年の厳しい旱魃は、南部低地でマヤ文明が崩壊した時期と��致する。760年、810年、860年、910年頃に4度の大干ばつがあった。
・BC400年頃、ペルー南部のティワナクに農耕民が住みつく。AD650年頃、宮殿、広場、神殿が建てられた。
・p.372
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2万年の昔から数えれば、一番人間を殺してきたのは気候かもしれない。
メソポタミアも、シュメールも、アッカドも、ミュケナイも、ヒッタイトも、ケルトも、ローマも、マヤもインカも。
全ての過去の文明は気候にもてあそばれ、滅ぼされたといっても過言ではない。
干ばつや寒冷化による生活の破壊は一地域の飢餓にとどまらず、民族を移動させ、略奪・侵略・征服を促す。
そしてその波は連鎖的に広がり、世界のかたちを大きく変えていく。
南西アジアを覆った1万1000年前からの1000年にわたる干ばつ。
主にヨーロッパにて前6200年から400年間続いたミニ氷河時代。
前5600年、かつては湖であった黒海が誕生することとなった大洪水。
前3800年、地軸の傾きの変化により1000年以上にわたる乾燥化。
前3200年から前3000年までの急激な乾燥化と寒冷化。
紀元前2200年ごろ、火山の噴火により278年にわたる干ばつ。
紀元前1200年、1年で地中海地方の勢力図を大きく変えることになった大干ばつ。
そして19世紀にも、熱帯地方で2000万人以上の農民が干ばつから派生した事象で死亡した。
斯様な激動の1万5千年間は、過去40万年間の中で見れば最も気候的に安定した時代であり、
中でもこの100~200年間は、稀に見る気候に恵まれた時代であった。
もちろんこんな幸福がこの後も続く保証はない。
気候変動の原因は種々あるが、明日の気温低下が次の氷河期に繋がったとしてもなんの不思議もない。
過去の人類は、養える人数を減らし、危険な移動を繰り返すことでなんとか少数を生き残らせることができた。
現代社会は100年に1度の災害に対応可能なように制度・機構を準備することはできたが、
千年、万年に一度の異常に対しては何もできない。
明日の食料・燃料が人口の10分の1しかないとわかってしまったら、人は、国はどうなるか。
物語の中でしか想像されてこなかった大きな犠牲に直面するときは、いつか必ず来る。