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投稿者:こずえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
言葉遣いが美しく、砂に染み込む水のような文章だと感じました。フランス語がわからないので翻訳については何とも言えませんが、日本語としてかなり綺麗に纏まっていると思います。
難点をあげるとすれば、主人公のなよなよした思考回路・女性に対する過度な幻想に少々フラストレーションが溜まるということですが、そのあたりも計算済みと言わんばかりのラストも良かったです。スカッとします。
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投稿者:ケロン - この投稿者のレビュー一覧を見る
モルソフ夫人の主人公への手紙の内容が、現代の人間関係や世間とのかかわり方にも通じるものがあるなぁと、とても考えさせられました。
自分の敬愛する人から語られたらきちんと耳を傾けられたのかしらと思ったり。
それにしても、ラストのナタリー嬢の辛辣なことよ。
メランコリックなラブロマンスなのかと思ったら、フランス人のユーモアなのでしょうか。
ニヤリとさせられました。
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投稿者:RUI - この投稿者のレビュー一覧を見る
バルザックの作品はまだ数冊しか読んだことがないのですが、この長編小説も読者をひきつける非常に高度な文章構成をしている作品でした。フェリックスの身の上話をだらだら、その周りの人物をだらだら、といったように非常にじれったい描写を幾度となく繰り返すがその反面、要所においての物語の盛り上がり方は半端なものではなかった。この作品のなかで特に私が好きな場面は、ルイ18世に見初められていままさにパリに上らんとするフェリックス青年にモロソフ伯爵夫人がフェリックスに手紙で助言を与えている場面です。この手紙には社交界での振舞い方、友達、交際関係、貴族として、そして人間としてのあり方、などモロソフ伯爵夫人の考察、考えを非常に広範囲にわたって記してあり、例を挙げれば、信頼を安売りすれば尊敬をうしないますし、あいそよくしすぎれば軽蔑され、熱意を見せすぎると人からいいくいものにされてしまいます。(p246),お若いかたがたは、ただ若いというだけで、好感をよび・・・でもこうした人生の春も、またたくまにすぎてしまうのです。ですからよく心して、この時期を充分活用するようになさいませ。(p258),といったように現代に生きる私たちの心にも響き、とても深く、ためになるような内容です。この十数ページにもわたるモロソフ伯爵夫人の助言が、今まさに出世の道を見出している青年フェリックスの心にどれほど響いたのかは想像に難くないでしょう。この一節はただそれだけにはとどまらず、当時の貴族社会、社交界がどのようなものであったのかといった時代考証の観点から言っても非常に価値のある一節であるとわたしは思いました。わたしがこの時代考証の点でもう一つ興味深く思ったところは、イギリス女とフランス女、ひいてはイギリス文化とフランス文化の比較です。フェリックスがイギリス出身であるダドレー婦人とフランス出身であるモロソフ伯爵夫人を天秤にかける場面で、“フランスでは贅沢も個性の表現です。・・・イギリス流の贅沢は、これもまた単に機械的なものにすぎず(p463)”といったようにさりげない比較を挿入しています。これが現代にも通ずるのかはわかりませんが、こういった何気ない考察にバルザックの観察能力が垣間見ることができるのではないでしょうか。
バルザックの作品を何冊か読んでいて気付いたのですが、バルザックの小説はどれもただの小説ではありませんでした。バルザックの非常に高い観察能力、現代に生きる私たちを納得させる先見性や洞察力が注ぎ込まれた小説が単なる小説で終わるはずがないのです。時代考証や人間観察ももちろんそうなのですが、それをもっとも痛感したのがこの小説の形態にありました。最初はまったくわからなかったのですが、最後まで読むとだれもがこの400ページにも及ぶ小説が何であったのかということに気が付くことでしょう。最後の最後で生じるこの大どんでん返しが読み終わってもなお、わたしたち読者の興味をかきたてることに一役買うのです。こういったいくつものからくりが仕掛けてあるこの「谷間の百合」も、ただたんに「フェリックス青年が谷間の白百合のようなモロソフ伯爵夫人に恋する恋愛小説」で片づけることはできないでしょう。おすすめです!
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投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
あらすじなどから想像するに、恋愛における肉体と精神の相克、その戦いの中で見出される霊的な愛の貴さ、といった古典的なテーマがリアリズム的な手法で展開される、古臭い退屈な話だと思っていた。
確かに前半は予想どおり、世間知らずのナイーブな男女が、プラトニックで神の道徳に忠実な愛を全うしようと、馬鹿馬鹿しくも健気に苦闘する。しかし、最後まで読んで驚いたことに、物語は想像したのとはまったく逆に、肉欲を否定した精神的な愛の悲惨な敗北に終わるのだ。
決して作者はセックスを礼賛しているわけではないのだが、あまりにも真摯で美しくも哀しい壮絶なまでの前半の描写があるだけに、その大どんでん返しの悲劇的とも喜劇的ともいえる効果は鮮烈である。
したい放題、放任されて育った若者が、自己の性欲をなんの葛藤もなしに充足させる、その言い訳としての道徳の否定や破壊を、なにか新しい価値観であるかのように描いた現代の作家の作品などより、よっぽど新鮮で衝撃的である。
それに、登場人物の造型の彫りの深さもみごとである。たとえば、主人公が恋する婦人の夫であるモルソフ伯爵。そのヒステリックな異常ぶりにもかかわらず、決して狂言回し的な役に終わらずに、しっかりと「呼吸」し、「生きて」いるのは特筆に価する。
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充たされない結婚生活を送るモルソフ伯爵夫人の心に忍びこむ純真な青年フェリックスの存在。彼女は凄じい内心の葛藤に悩むが……。
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高校の頃、一度読みました。
最近は外国文学はあまり読まないのですが、急に思い立って購入。
折り重なる言葉のひだの多さに圧倒される。
最近読んでいた本とのあまりの違いに、同じ文章でこんなにも違うものかと。
登場人物の手紙の長いことと言ったら・・・作者はフランス革命時代の人ですが、その時代には、教養ある人々は、こんな長い手紙を書いていたんでしょうか?
人物の、揺れる心理描写もすごい。
でも、これ、覚えある。
日本文学にもある。
それは源氏物語。
特に、宇治十帖と・・・
自分でも認めたくない嫉妬で弱って死んでいく紫の上、かな。
男女の機微に洋の東西はないのかもしれない。
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ゴリオ爺さんのような滑稽な人間描写が主かと思ったバルザック作品だったが、本作は実に情緒的な恋愛の姿が描かれている。文描写の圧倒的な実力も流石だなという印象。
古典的でベタな物語でもこれだけの質感に導きく実力は物凄い。本作が傑作と云われる所以とバルザックの本質的な実力がよくわかる。
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図書館で借りてきた(2011/6/13)。まだ読んでる途中です。
しかし、素晴らしく書いてある箇所があったので引用。
「丸い身体つきは力の証拠です。しかしそうした女性は、勝気で、我が強く、情があるというよりもむしろ官能的です。それに反して、平たい身体つきの持主は、献身的で、こまやかな心づかいにあふれ、ともすれば優秀にとらわれがちです。前者よりも後者の方がより女であると言えましょう。平たい身体つきは、しなやかで柔軟さに満ち、丸い身体つきは柔軟さに欠け、嫉妬深いのです。(Pp.49-50)」
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高校三年生の夏の読書感想文で読ませられました。
私にはまったく理解不可能な世界でした。
主人公たちは恋に恋している模様。
結局あんたら何したいわけ?とツッコミながら読んでおりました。
500ページも読ませた揚句、あの結末はないよな、と思いました。
痛快と言えば痛快なのですが、そこまでのくだりが長い……。
比喩表現の勉強になるのかな……?と、苦痛を伴う抒情的文章(笑)
読むの、疲れました。
むしろ消化不良の感。
「こんな図書推薦しやがってふざけんな」という思いを胸に秘めつつ、6000字の小論文を書きました。
屁理屈でもこねないと、この物語は楽しめない。
この作品自体では楽しめない。
でも妙に惹かれる作品でもある。
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モルソフ夫人が死んだ後、マドレーヌに対して話すときの自己憐憫がしつこくてちょっと苛々しました。
文章は全体的に綺麗な比喩が多くてとても綺麗な文章で、描写のこういう濃さとても好みです。
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やはり物語というものは悲劇であるべき。ハッピーエンドには美しさがない。個人的にはゴリオ爺さんの方が好み。
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第一部は主人公とヒロイン(モルソフ夫人)の淡い恋愛関係が続く。しかし、一変して第二部では主人公が彼女の傍を離れ、第三部ではヒロインが死に至り、登場人物たちがこぞって主人公を冷笑する。
訳者あとがきによると「谷間の百合」はバルザックの自伝的要素を含む小説らしい。そして、比較的早い時期に完成していたと思われるが、出版まで時間の間隔があったとか。
思うに、第一部は若い時に書かれていて、それを年数経ってバルザックが読み返し、自分の分身である主人公に辟易して第二部以降を付け加えたのでは。(夜中に書いたラブレターに後悔するみたいに。)
個人的に最後のナタリーの手記は不要と思う。終盤の主人公はたしかに女性に理想像を押し付け、そのわりに自分からは行動しないというつまらない人間に成り下がっているし、それを一刀両断する手記にスッキリしたのも事実。でも、第一部の主人公とヒロインの淡い真綿につつまれたような関係や、一貫して守り通されたヒロインの悲しい一途さにまで、良くない後味を残してしまう。
裏表紙のあらすじでは宗教的永遠を描くと書かれていたけれど、話の展開や主人公らの心変わりと言い、むしろ不変なものはないと思えてしまった。
作品を一貫して、モルソフ夫人の主人公への言付けは素敵だった。でも一番好きなのは、主人公の心変わりに冷たく変貌するシーン。それまで完璧だった夫人にはじめて人間らしい弱さが見える。
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「人生の門出」が読み進めるのに苦労したので
どうかと思ったけど「谷間の百合」はとても読みやすかった。
文体が(とてもとてもとても長い)手紙だったからだろう。
話の筋は単純だけど(ごめんねバルザック…自伝的要素もあるのに)
流麗華麗綺麗な文章がこれでもかと畳みかける。
でも「ああなんて重い愛情…」と思いつつ最後に
「…ですよねー。」とうなずいてしまった。
女性からするとナタリー嬢による主人公への手紙のお返事は至極当然。
こんな手紙を書いてあげるなんてナタリーはとても優しい。
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アンリエットからフェリックスに宛てた最後の手紙、これを読むまでは、なぜアンリエットが悲しみのために死ななければならないのか、理解できなかった。自らプラトニックで肉親的な愛を求めておきながら、フェリックスの恋愛にショックを受けるいわれがないように思えたから。
しかし死後に読んでくれと手渡した手紙により、アンリエットの心理も理解できた。
原文を読めないのでなんとも言えないが、非常に緻密で練られた文章であることが、優れた翻訳からも伝わってくる。
(2016.3)
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550ページ。長かった。
最後はナタリー夫人によるフェリックスに対する批判で終わった。びっくりした。
この話をひどく簡単にまとめてみると次ような流れである。
青年が恋した人妻はキリスト教徒で操を立てて深く愛しあおうとしない。そのことに欲求不満が高まり続け、妖艶で活動的なイギリス女性に恋をして肉欲に溺れた。それを知った人妻は嫉妬の炎で命まで燃やしてしまい死んでしまった。死の間際に渡された手紙にはどれほど青年を愛していたかが綴られていた。青年はその後女性と関わることをやめようと決意したが、ナタリー夫人に出会い恋をした。これが私の過去です。知って欲しかったので手紙に書きました。
という体裁で540ページ近くの手紙をナタリー夫人に送る。ナタリー夫人の回答は「昔の女の話はやめてくれ。あなたはもう愛せない。亡霊と愛しあっていてくれ」というようなもの。
ここで終わる。
最後の最後にモルソフ夫人の手紙、ナタリー夫人の手紙と2度の転換が訪れる。後半ダドレー夫人と出会ってからモルソフ夫人との仲の雲行きが怪しくなるにつれてどんどんおもしろくなっていくが、それまでは退屈極まりない話だった。
官能と自然描写が非常に長く描写されているが、最も記憶に残ったのはモルソフ伯爵の人間描写である。この自己中心的で自分が一番誰よりも傷ついていると思い込んで周囲を傷つけていく人の実在するかのようなリアリティはすさまじく、モルソフ夫人に同情せざるをえない気持ちなる。同時に胸糞悪いモルソフ伯爵がいなくなる気配が全くない序盤はページを捲る手が進まなかった。
恋だの愛だのに興味がない私にはゴリオ爺さんの方が大傑作でおもろかったがバルザックの人間観察と心理観察の鋭さがよく分かった1冊。