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紙の本
対話的な孤独
2006/10/28 23:10
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:芦原直也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近映画化された「トニー滝谷」という短編小説や、中高生向けの集団読書テキストとして単体で出版されている「沈黙」などの秀作が収録されている短編集。『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』や『ねじ巻き鳥クロニクル』のような壮大な世界観は無いが、短編小説という形式の特性を活かした、「奇妙な余韻」を体験することができる。
私は小学生の頃からの村上ファンであるが、最も好きな作品は何かと訊かれたら本書を推す。中学生の頃に読んで以来、もう何十回再読したか分からない。「奇妙な余韻」に病みつきになってしまうのである。
それほどの魅力がどこにあるのか、各作品を簡単に紹介しながら自分なりに説明したい。
本書には7編の短編小説が収録されている。友人のケイシーに留守番を頼まれた「僕」がその夜に体験した怪談「レキシントンの幽霊」、突然現れた緑色の獣に求婚される女の話である「緑色の獣」、ある事件をきっかけに狡猾な同級生に追い詰められていく高校生の話である「沈黙」、氷男と出会い結婚した女の話「氷男」、画家のトニー滝谷の人生を追う「トニー滝谷」、子供の頃に体験した津波のトラウマを語る「七番目の男」、めくらやなぎという架空のおとぎ話を作る女との思い出を回想する「僕」の話「めくらやなぎと、眠る女」
これらの作品には共通して「不安と孤独」が表現されている。しかし一方で、それぞれが訴える孤独は異なる方向性を持っている。例えば、「レキシントンの幽霊」のケイシーは失ってしまった人や過去に執着しているのに対し、「トニー滝谷」のトニーはそれらへの重圧に耐えきれず最終的には思い出さえも失ってしまう。詳しくは実際に読んでみることをオススメするが、過去に対してどのような感情を抱いているか、彼を孤独にさせているのは何かに着目すると、これらの作品それぞれの性質の違いが分かるだろう。
このように、この短編集は共通のテーマを抱えているのに異なる性質を持つ小説が収録されていることに魅力があるのである。おそらく村上春樹自身もそれを自覚していて、あとがきにも『書いているときは、とくに深く考えもせずに、書きたいことを書きたいように書いていただけなのだが、こうして年代順に並べてまとめて読んでみると、それなりに自分では「なるほど」と思うものはあった。ひとつの気持ちの流れの反映であったのだなと思った。あくまでも自分ではということだが。』と書いている。
私は本書の多様な孤独を表現している点を「対話的な孤独」と名付けたい。孤独を表現するのはおよそモノローグ的な表現になりがちであるが、本書では孤独が表現されていながらも、作品ごとの差異が短編集という編集形式によって強調されている。私にはこの差異の強調が、作品相互のコミュニケーションとして機能しているように感じてしまうのである。
自分は孤独だと思う時は誰にでもある。しかしその孤独さに対して自分がどのように向き合っているかを知る人は少ないのでは無いだろうか。私が何度も本書を読み返してしまうのは、自分は孤独とどのように向き合っているかを理解し、表現したいと思うからなのではないかと思う。
そう、「七番目の男」が百物語のように語り継いでいく体験談の1エピソードであったように、私は本書に8番目の物語を付け加えたいと感じているのだ。それこそが、冒頭に述べた「奇妙な余韻」の正体なのである。
紙の本
村上春樹による怪談集
2002/07/16 22:57
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹の短編集のなかで、本書が一番好きだ。
著者は明らかに長編作家だと思うし、「ねじまき鳥クロニクル」などの華々しい代表作やこれまた人気の高いエッセイの間にあって短編はあまり目立たないが、実は村上春樹は短編作家としても傑出している。
表題作の「レキシントンの幽霊」は怪談だが、ひんやりした雰囲気がいかにもちょっとした「怪」らしくて良い。
幽霊が出てくることと、その後家の持ち主とその友人に起こった不可解な変化が、関係のあるようなないような。終わりのしめかたがうまかった。
ざらざらして不思議な読後感の「七番目の男」も好きな一編だ。
「めくらやなぎと、眠る女」は、「蛍・納屋を焼く」に納められているものの別バーション。
オリジナルでは、バスの中の奇妙に統一感のある老人たちの描写が延々と続いて読者を不安にさせるが、こちらはそこが大幅にカットされ、主人公といとこ、主人公と死んでしまった親友、そのガールフレンドにより焦点がおかれている。
短編としてまとまっている新バージョンも良いが、不条理なオリジナルの方が不気味でこの短編集の雰囲気にはより合っていたかもしれない。
紙の本
タイトルが良いですね
2023/06/27 15:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
孤独がある、和解がたまにある、ちょっと和解が遅いことがあり、過ぎ去った時間の強靭さということで、久しぶりに祖母に会ったときの後悔に似ています。