紙の本
これはあなたにとって恵みの雨となる作品になるか
2018/09/12 17:05
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
時々、美しい日本語に胸をつかれることがある。
「慈雨」、じう。これもそんな美しい日本語の一つだ。
調べると、「万物を潤し育てる雨。また、日照り続きの時に降る雨」とある。いわゆる、恵みの雨だ。
この長編ミステリー小説の主人公、神場智則にとって、何が「慈雨」であったのだろう。
神場は三月に60歳で42年働いた警察官を定年退職した男だ。
42年の間で経験したさまざまなことを顧み、妻香代子と四国巡礼の旅に出た。神場には妻にも話していない過去があった。
それは16年前の少女殺人事件だ。
事件は犯人逮捕で決着したはずであったが、そのあと神場は犯人の男にアリバイがあったという証言に遭遇する。だとしたら、これは冤罪。上司とともに捜査のやり直しを上層部に願い出るが、却下され、神場は引き下がるしかなかった。
神場はそのあと、しばしば少女が出て来る悪夢に悩まされる。そのこともあっての巡礼行だ。
そんな時、また少女誘拐殺人事件が起こる。
犯人は、もしかすると、あの時の新犯人かもしれない。
巡礼の旅を続けながら、後輩の刑事にアドバイスをする神場。
もしその男が16年前の真犯人だとすれば、神場もまた責任を追及されるかもしれない。
けれど、神場はそんな弱いおのれと決別する。
犯人はつかまるか。
神場の巡礼の旅と、犯人逮捕のその時が重なるように動いていく。
主人公の神場にとっての過酷な運命はこの物語の終焉後始まるのであるが、そこまで作者は描くことはない。
神場の悔いを洗い流してくれた「慈雨」は、逃げなかった自身だったのかもしれない。
電子書籍
慈雨とは
2019/04/17 07:14
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投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
どんな雨なのだろう?と思いながら手にとった。昔の事件とつながっている長編小説だから、いろんなことが絡んでいて、こんがらがりそうと思ったが引きこまれた。
紙の本
刑事物のいろんな要素が入ってる。
2017/02/18 18:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:咲耶子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
迷宮入りしそうな事件と過去の事件とのつながり、冤罪の可能性など、刑事モノの要素盛りだくさん。
定年刑事と現役刑事の矜持とか、夫婦の絆とか、友情や信頼などももちろんあり。
神場元刑事がうだうだ悩みながらお遍路してて、ちょっとイラっとくるけど、それでも長年の経験からなかなか犯人に繋がらない事件の解決の糸口を見出したり見直す所もあります。
柚月さんの刑事物は男臭くて好きだなぁ。
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ミステリーの要素よりも人間の描写がメインでドラマ化されそう。柚月作品としてはちょっと物足りないかも。
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警察官を定年退職した神場は、妻とのお遍路の旅の途上で幼女殺害事件の発生を知る。
事件は16年前、神場の心に深い傷と悔恨を残したものに酷似していた。
かつての部下を通して捜査に関わり始める神場。
お遍路の旅での妻との、また見知らぬ人々との出会い、会話。
一方では事件解決に向け馳せる思い・・・。
消せない過去、正義への信念、警察の威信、平穏な生活を得ている妻と娘への思い……様々な思いの狭間で葛藤する元警察官がすべてを賭けて真実と対峙する。
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柚月裕子、ハズさないなあ。冤罪が大きなテーマになっているのだが、実際は男たちの心の葛藤や人としての生き方に比重が置かれていて、それが実に見事に描かれている。
刑事を退職しても、16年前の事件に縛られながら妻とお遍路を回る男、神場。そんな神場の元に元部下で娘の彼氏である刑事の緒方から電話が入る。今回起きた事件に対するアドバイスがほしいという。今回起きた事件は、神場の呪縛となっている16年前の事件に酷似していた。
16年前の事件とは、神場が担当した事件で、犯人を捕まえたのだが、後に冤罪ではなかったかと疑問に感じている事件であった。
今回起きた事件が解決に向かうにつれ、必然的に過去の事件が浮き彫りにされてしまう。その時神場が下した決断とは。
男たちの生きざまに心打たれる作品です。
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群馬県警を退職した元刑事の主人公神場が妻を伴ってお遍路に出て、その道中、自分の歩んできた刑事生活を振り返る。
現在進行形の幼女殺害事件と自分の過去の事件が類似してる点を感じる。組織の中の警察官として苦渋の選択をし、組織に不信感を持ちつつも刑事を続けてきた自分、お遍路に出たのもそういう心の重荷をどうするべきか迷っているからだ。自分の元部下で娘の恋人である緒方に事件解決のため、自らの過ちを打ち明け、人間として正しいことを為そうとする姿に、さすが、皆の尊敬を集めていた人物だと思った。
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元捜査一課刑事と夫婦が事件被害者の弔いをするためお遍路をする中、16年前の幼女殺害事件と酷似した事件が発生。刑事が人生を振り返りながら、事件解決にもひと役買う。刑事のカタブツな人柄とこれまで経験した困難、悲劇。アッと驚くようなミステリーとはちょっと違うが、人間ドラマは秀逸。ひきこまれた。
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警察を定年退職した主人公が四国を巡礼しながら、自分が犯した過去の罪と向き合うストーリー。いつも感じるが、この人の作品は作者の色が強くなく、読む作品ごとに違う感想を抱く。今回も主人公・神場の責任感が強く、寡黙な感じに四国の巡礼の光景が上手く融和している感じがして、決して劇的な話ではないけれど、心に響くものがあるような気がする。幼い命を大事にする気持ち、冤罪を憎む気持ち、いろんな人の、いろんな気持ちが伝わる作品だった。
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元警官の男
定年退職して 妻と2人で四国八十八ヶ所 お遍路の旅に出る。
そんな時 元職の管轄で少女殺人事件が発生
それは16年前 自分が捜査を担当した少女殺人事件に似ていた。
前半退屈だったが後半はおもしろかった
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遍路を辿りながらこれまでの道のりを見つめ直す退職警官。
暗礁に乗り上げそうな幼女殺害事件を追う現役警官。
二つの軸を交差させながら、罪とは、正義とは、人とは、家族とは、愛とは…物語は読者に突きつける。
人物達の葛藤に移入し、先の読めない物語に没入していく。そして気づけば落涙。
こんなに感動したミステリーは初めてだ。
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良かったです。
四国八十八箇所の話だってことも刑事ものの話だってことも知らずに読んだので、「おぉ」って感じでした。
お遍路の話がもう少しあってもとは思いました!
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神場の駐在時代の夜長瀬でおきた事件がひどすぎる。裁判にまでついて書かれていないけど、節子さんがいったいどんな判決を受けたのか、そっちの方が気になってしまった。
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アンソロジーで柚月裕子さんの短編を読んでから気になり、県内在住ということもあり読んでみた。
刑事の覚悟、刑事の妻としての覚悟みたいなものを感じた。この先もみんなに慈雨が降っていることを期待したい。
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私たちが刑事ものを読んだときに、最後の砦、というか無意識に立っている場というか、それは当然のことながら「警察の正義」である。彼らが正しく悪とたたかってくれている、という安心感、私たちを守ってくれている、という信頼感。
なのに、その根本的なものが揺らいでいるとしたら。そこに正義のためでなく自己保守のために真実に目をつぶる意識があるとしたら、私たちは何を信じていけばいいのだろう。
16年前の幼女誘拐殺害事件の真犯人は誰なのか。組織のためいったんは目をつぶり見逃した証拠を心に抱えた元刑事とその妻、娘、上司と部下。警察とは、その存在意義とは。なんのために警察官になったのか、なにを守るためにそこにいるのか。彼らの葛藤と迷い、そしてそれを支える家族の思いひとつひとつに胸が熱くなる。警察モノを書かせたら天下一品の柚月裕子、そこに家族愛が加わり無敵の一冊に。